インデックス / 過去ログ倉庫
02ののママのお話
- 1 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時43分42秒
- ののママのお話
- 2 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時44分26秒
- 二〇二五年。ののちゃんは三十八歳になっていました。
十二年前に結婚して、今は十歳になる娘がいます。
明日は楽しみにしていた運動会だというのに、
ののちゃんの娘は風邪をひいたらしくて熱がありました。
「ママ、お薬飲んだら、運動会に行けるかなー」
風邪をひいた娘には、午後五時に軽い食事を摂らせて、
ベンザエースを飲ませて休ませていました。
もうじき、夜の十時になろうとしているので、
そろそろ、ののちゃんの旦那さまが帰宅します。
ののちゃんは、その前に娘を就寝させた方がいいだろうと思いました。
「うん、きっと大丈夫だよ」
希美はベッドに臥せる愛娘に、確証の無い希望的な話をしました。
頭が悪く、モー娘を卒業してからは、ソロになる事も無かったののちゃん。
アイドルだった頃の事は、青春時代の想い出となっています。
そんなののちゃんも、いつしか母親になって、幸せな家庭を築いていました。
「寝る前に、もう一回、お薬飲むね」
「それは駄目。お薬は何度も飲んじゃいけないの」
「何で?」
ののちゃんに似て、この娘も決して頭がいい方ではありません。
そのかわり、若い頃のののちゃんに似て、無垢な可愛らしさがありました。
そんな娘を、希美は眼の中に入れても痛くないほど可愛がっていました。
「お薬をいっぱい飲んじゃうと、大変な事になるのよ」
「大変な事?」
「そうよ」
希美は小学四年生の娘にも、判りやすいような話を始めました。
- 3 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時45分23秒
- 今日は水曜日。
授業が終わると、お掃除の時間です。
あいぼんは教室の床を箒で掃きながら、
マスクをしているののちゃんに訊きました。
「ののちゃん、今度の日曜日は大丈夫だよね」
「ゲホゲホゲホ・・・・・・遊園地には行きたいのれす」
今度の日曜日、あいぼんとののちゃんは、
電車に乗って遊園地に行く約束をしていました。
ところが、ののちゃんは、昨日から風邪をひいています。
今日も微熱があって、とてもだるそうにしていました。
それでも、今日の給食は大好物の焼ソバなので、
無理をして学校に来てしまったのです。
「風邪、治るといいね」
「うん」
ののちゃんは早く風邪を治して、遊園地に行きたいのです。
でも、学校に出て来れば、風邪が良くなるわけがありません。
少しづつ熱が上がってしまい、ののちゃんはフラフラしていたのでした。
- 4 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時45分57秒
- お掃除が終わると、ののちゃんはあいぼんと一緒に帰ります。
生まれた時から同じ団地で育った二人は、大の仲良しでした。
いつも一緒に遊んでいて、双子だと思われることもあります。
一緒にいると、どうしても似て来るものなのでしょうか。
「次の日曜日にしようか?」
「へ・・・・・・平気なのれす」
ののちゃんは、歩くのが辛いくらい具合が悪いのですが、
充血した眼で無理に笑顔を作りました。
仲良しのあいぼんに心配をかけたくなかったのと、
どうしても遊園地に行きたかったからです。
「ゆ・・・・・・遊園地に行ったら、プ・・・・・・プリクラ撮ろうね」
ののちゃんは、遊園地のプリクラが目当てだったのです。
遊園地では今度の日曜日まで、プリクラを撮ると、
隣に『ごまっとう』が映るようになっていました。
『ごまっとう』の大ファンであるののちゃんは、
何が何でもプリクラを撮りたかったのです。
「それじゃあね。早く風邪、治すんだよ」
「バイバーイ」
ののちゃんはあいぼんと別れると、苦しそうに息をしながら、
団地の階段を登って行きました。
- 5 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時46分26秒
- ののちゃんの家では、おとうさんとおかあさんが働いています。
だからののちゃんは、夕方になるまで、いつも一人でいました。
鍵を開けて家に入ると、急に身体が重くなってしまいます。
きっと、家に帰って来て、気分的にリラックスしたからでしょう。
「・・・・・・だるいのれす」
ののちゃんは自分の部屋に入ると、カバンを机の上に置いて、
とうとうベッドに倒れ込んでしまいました。
それでもののちゃんは、マクラの下から体温計を取って、
脇の下に挟んで熱を測ってみます。
一分もすると『ピピッ』と電子音がしました。
「ふう・・・・・・三十七度八分。朝は三十七度だったのに・・・・・・」
昨夜は三十七度二分でした。
良くなるどころか、ののちゃんの風邪は悪化しています。
このままでは、遊園地に行く事が出来なくなってしまうでしょう。
どうしても日曜日までに遊園地へ行かないと、
プリクラのキャンペーンは終わってしまいます。
「お薬・・・・・・飲むのれす」
ののちゃんは、這うようにキッチンへ行くと、
戸棚の引き出しから、総合感冒薬を取り出しました。
ののちゃんの年齢では、二錠を服用するようになっています。
マグカップに水を入れ、ののちゃんは二錠のお薬を口に入れました。
- 6 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時46分51秒
- それが夢なのかどうかは、ののちゃんにも判りません。
ただ、知らないとこへ来てしまったのですから、
迷子になってしまったのは間違い無いようです。
「あちゃー、迷子になったのれす」
ののちゃんは迷子になったことを知りましたが、
不思議と怖かったり寂しかったりすることはありません。
それどころか、あたりにはきれいなお花が咲いていて、
ののちゃんは、とてもいい気分なのでした。
「お魚さんいるかなー」
ののちゃんは小川を覗いてみました。
そのとき、小川の向こうから、誰かがやって来ます。
ののちゃんが顔を上げると、それは白い服を着た女の人でした。
「ののちゃん、待ってたんだよぉ」
その女の人は、ののちゃんより少しおねえさんみたいです。
ちょっと色が黒いのですが、とてもきれいな顔をしていました。
ののちゃんは、そのおねえさんが誰なのか、思い出そうとします。
どこかで逢ったような気はするのですが、どうしても思い出せません。
「誰れすか?」
「忘れちゃったのぉ?梨華よぉ」
おねえさんは『梨華』といいました。
ののちゃんは、梨華ちゃんを思い出しましたが、
どういうわけか、どこで逢ったのかまでは思い出せません。
- 7 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時47分24秒
- 「待たせちゃったのれすか?」
「いいのぉ。こうして逢えたんだからぁ」
梨華ちゃんは嬉しそうに言いました。
そんな笑顔の梨華ちゃんを見ていると、
ののちゃんも嬉しくなってしまいます。
つられてののちゃんが微笑むと、
梨華ちゃんは両手を差し出しました。
「さあ、行こうよぉ」
「どこへ行くのれすか?ののは今度の日曜日に遊園地へ行くのれす」
ののちゃんは梨華ちゃんに訊きながら、両手を出して行きました。
ところが、どこからか『行くな』という声が聞こえて来ます。
ののちゃんが後ろを振り返ろうとすると、梨華ちゃんは声を荒げました。
「駄目よ!戻っては駄目!」
「あれは何?」
「怖い世界に連れて行かれるわよぉ」
怖い世界と聞いて、ののちゃんは恐ろしくなりました。
グズグズしていて、そんな世界に連れて行かれないうちに、
ここは梨華ちゃんと一緒に行った方が賢明です。
ののちゃんはそう思って、片手を梨華ちゃんの手の上に置きました。
「駄目だよう!ののちゃん!」
その声は、確かに聞いた事のある声でした。
そう、仲良しのあいぼんに間違いありません。
ののちゃんは、恐る恐る振り返ってみました。
- 8 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時47分55秒
- 救命救急センターでは、搬送されたののちゃんを必死に蘇生していました。
おかあさんが帰って来て、キッチンで痙攣するののちゃんを発見したのです。
ののちゃんは総合感冒薬を十三錠も飲んで、急性薬物中毒になっていました。
「気道確保!心マ(心臓マッサージ)続けて!」
「覚醒剤にカンフル二単位!」
「酸素の圧力を上げろ!」
救命救急のスタッフ達は、ののちゃんを助けようと、必死で処置を行います。
おかあさんが救急車を呼んだ時には、すでに呼吸も心臓も停止していました。
たくさんのお薬を飲んで、時間が経っていたのが災いしたようです。
「おばちゃん!ののちゃんは?」
ののちゃんのおかあさんから話を聞いたあいぼんは、
取るものもとりあえず、泣きながら駆けつけたのでした。
そんなあいぼんを、看護師の前田さんが優しく宥めてくれます。
「今、一生懸命処置してるの。希美ちゃんが助かるように祈ろうね」
前田さんは、涙をポロポロ流すあいぼんの頭を撫でました。
時計の秒針が、大きな音をたてて時を刻んで行きます。
そうこうしているうち、救命救急のお医者さんがやって来ました。
「手は尽くしました。後は本人の体力次第でしょうね」
「ののちゃんに逢える?」
「うん、呼びかけてあげてね」
あいぼんは集中治療室に移ったののちゃんのところへ行きました。
ののちゃんは心臓こそ動くようになりましたが、昏睡状態が続いています。
あいぼんはののちゃんの手を握りました。
- 9 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時48分25秒
- 後ろを振り返ったののちゃんでしたが、どうも事態がよく判りません。
あいぼんの声だったのですが、その本人はどこにもいなかったからです。
ののちゃんは首を傾げながら、梨華ちゃんを見ました。
「さあ、行こうよぉ」
「ちょっと待ってくらさい。あいぼんの声が・・・・・・」
ののちゃんが梨華ちゃんの手を離そうとした時、
いきなり強い力で握られてしまいました。
驚いたののちゃんが梨華ちゃんを見ると、
そのきれいな顔が、見る見る恐ろしい顔に変って行きます。
「ひゃぁー!こ・・・・・・怖いよう!」
「こっちへ来い!」
梨華ちゃんは、恐ろしい怪物に変身してしまいました。
そして、強い力でグイグイと引っ張ります。
ののちゃんは怖くて泣きながら暴れました。
その時です。反対側の手を誰かが握っていました。
「この手は・・・・・・あいぼん!」
その手の感触は、間違いなくあいぼんでした。
ののちゃんはあいぼんの手につかまって、
渾身の力で手を引っ張ったのです。
すると、とうとう怪物は手を離してしまいました。
「くそっ!もうちょっとだったのに!」
怪物は地団駄踏んで口惜しがりましたが、もうののちゃんは無事です。
あとは、あいぼんの手に導かれるまま、歩いて行けばよかったのでした。
- 10 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時49分02秒
- 集中治療室では、あいぼんが必死に呼びかけていました。
やがて、ののちゃんは、その声に反応するようになったのです。
看護師の前田さんがやって来ると、ののちゃんは眼を開けました。
「ののちゃん!」
「先生を呼んで来ます!」
ののちゃんは頭がボーッとして、ここがどこだか判りません。
眼の前にいるマスクをしたあいぼんを見て、
『あいぼんも風邪ひいたのかな?』なんて思っていました。
「いくら・・・・・・遊園地に行きたいからって、ののちゃん馬鹿だよ」
ののちゃんは、お薬をたくさん飲めば、
それだけ早く風邪が治ると思ったのです。
それで、三十七度八分の熱を三十六度五分にするため、
十三錠も総合感冒薬を飲んだのでした。
「良かった。ののちゃん」
あいぼんは自分が『早く風邪を治せ』と言ったので、
ののちゃんが無理してお薬をたくさん飲んだのではないかと思っていました。
これで、もしののちゃんが死んでしまったら、一生後悔してしまうでしょう。
とにかく、あいぼんがののちゃんが助かったので、嬉しくて仕方ありませんでした。
- 11 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時49分30秒
- ののちゃんが話に熱中していると、十歳になる娘は溜息を漏らしました。
比喩をしたつもりだったのですが、長い話になって娘が退屈しているかと思った時、
ののちゃんは、どういうわけか冷たい視線を感じて我に返りました。
「判った?だからお薬は・・・・・・」
「使用上の注意くらい読めっての!単なるアフォじゃねーか!」
「ほえっ?」
ののちゃんは驚いて娘の顔を覗き込みました。
娘はののちゃんを見あげて、あきれた顔をしています。
言われてみればそうですが、ののちゃんには意味が判りません。
「この感冒薬は一度に大量に飲む事と、四時間以内の服用を禁止してあるだけじゃん!」
「ええっ?」
ののちゃんは慌てて、娘に飲ませた感冒薬の能書を読みました。
しかし、頭の悪いののちゃんには、書いてある意味が判りません。
というより、漢字が読めないのでした。
「っていう事は四時間経ったら、服用してもいいって事だろーが!」
「そ・・・・・・そうかもしれない」
「ママ、それでよく今まで生きてたね」
痛いところを突かれたののちゃんは、暫く立ち直れないでしょう。
せめて『使用上の注意』くらいは読めるようになりたいののちゃんでした。
―――――――――― 終 ――――――――――
- 12 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時50分01秒
-
- 13 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時50分17秒
-
- 14 名前:02ののママのお話 投稿日:2003年11月01日(土)00時50分34秒
-
Converted by dat2html.pl 1.0