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19 OTIS

1 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時52分42秒
19 OTIS
2 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時53分12秒
その男の顔は紡錘状に膨れ上がり、細かい鱗が覆った表皮は、白い光の波長を細かく
選り分けながらその微妙なテクスチュアを変化させる。非対称に並んだ眼球は黒い殻が
渦巻き様に保護し、その半球は強い表面張力で盛り上がった水滴を思わせる。顔面上に
ボアソン分布をなす眼球は見開かれて全ての方角を走査する時、こっそりと瞳が瞬く。彼は
振り返ってくれない。横方向に平行に何本も並んだ裂け目を、口は自在に
移動する。実際、彼には口が一つしかない。位置は無数にある。微妙に歪み
ながら周辺に並んだ歯は全てが相似形で、白く輝きながら喉の奥へ緩やかに落ち込んで
いく。口腔を開けば、頭部は二つに分断される。脊髄を支点として石臼のように彼の餌食を
擦り潰す。上と下をあわせて四十七本。三本が欠落し咀嚼を繰り返し液状化した有機物を
窓のように覗かせる。美しく伸びた金髪を、丁寧に撫でつけて、襟足と鬢の部分は静かに
波打っている。柔らかく光を投げかけるそれは金属的な硬度を感じさせない。
3 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時53分43秒
その男の両腕は細い。肌理細やかで透き通った皮膚の下には、青い静脈が枝分かれしながら走って
いる。赤くて美しい爪。丹念に鑢がかけられたような滑らかな手の甲は、握られたときに
完成される。吟遊詩人が魅せられたとしても不思議ではないヘレの美しさを持つ腕。外套の
ような皮膜が覆っている胴体は、常に一定の湿気を保っている。強い弾力を持ち驚くほどの
柔軟性。あちこちに出来た裂け目からは、静かに脈打つ内臓が顔を覗かせる。そして、悪臭。強い
刺激が六腑の逆流を齎す。皮膜を持ち上げれば、その裏に走るリンパ管と薄い保護膜が分離し、
黄色い滴が撒き散らされるだろう。胸郭は横臥した状態では彎曲し、大きく張り出しているが、
その中には未消化の腐敗物質が発したメタンガスが十二分に充溢している。
4 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時54分15秒
その男の両脚はエホバの視点から眺めた大都市の複雑な構造、交叉し、絡み合う繊維群と、鈍い光沢の
シャフト、パイプ、フレーム、通気孔、その隙から覗く明滅、深遠なる叡知を秘めた黒い
深淵。手術室を斜め方向に占拠する肉体の中枢指令塔。迷走神経の間隙に装着された
増幅装置が、重い音圧で全身を締め付ける。体内を通る血流が反響し活発に動く内臓が漏らす
吐息。しかし、こうして描き出そうとしても、その男の全貌は到底表現出来たとはいえない。

……
5 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時54分47秒
収録を終えて楽屋へ戻ると、テーブルの上にその男が立っていた。はじめに気付いたのは安倍で、
ポテトチップスやプリッツの包装や残骸が散らかっている真ん中に突っ立っているその男を
指さして、けらけらと笑った。
「ねえなにあれー? 誰が持ってきたの?」
「どうせまたなんかの番組がつまんないドッキリでも狙ってんだろ」
矢口は一ミクロンの関心も見せずに呟くと、怠そうに畳の上に大の字になった。
「あーもう疲れた」
「ひっ、アレ、なんですか?」
上擦った声をあげたのは紺野だった。続いてぞろぞろとメダカの群のように戻ってきた五期メンたちも、
口々にその男を指さして憶測を喋りあった。

6 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時55分18秒
「ジュマペールだ」新垣が言った。
「え? あんたが持ち込んだの?」
後ろから声をかけたのは吉澤だった。石川はその男を一目見ると、きゃっと
わざとらしい悲鳴を上げて吉澤に縋り付いた。
「うざい」
「里沙ちゃんがいつも言ってたのってこれのこと?」紺野が言う。新垣は小首を傾げると、
「分かんない。でもなんとなくそう思ったから」
「なにそれー」
小川は相変わらずマイペースで、テーブルの上にいるその男をまじまじと観察した。高さは500mlの
ペットボトルくらいだったが、非常に複雑な構造をしており、普通の男ではないことは分かった。
「なんか腐ったサカナみたいな匂いがする」
「新垣が持ってきたならちゃんと始末してってよ」
床に寝そべったまま矢口が言う。新垣は狼狽したように両手を降ると、
「いや、別に私が持ってきたわけじゃないですよ」
「じゃほっとくか」
「いいの?」
軽い調子で言う矢口に、鏡に向かってメイク直しをしていた安倍が言った。
「いいって。どうせ誰か捨ててくれるよ」

7 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時55分54秒
次の日。別のスタジオで収録を終えた後、再びその男が現れた。どこから入り込んだのかは分からないが、
昨日は500mlのペットボトルくらいだったのが、1.5lのペットボトル程度の大きさになっていた。

「わ、またこいつかよ!」
矢口が大袈裟に声をあげる。遠巻きにしているメンバーを後目に、紺野は鼻をつまみ
ながら近付いて注意深く観察した。
「生きてますよね」
「うわっ、気持ちワル」
加護が隙間から顔を出し、すぐさま楽屋を飛び出していってしまう。
「新垣説明してよ」
飯田が言うのに、新垣は眉を八の字にして肩を竦めた。
「私にだって分からないですよ」
「だって昨日さ」
「あれはだからただなんとなく……」
「楽屋には誰も出入りしてないってさ」
マネージャーのところへ行っていた藤本が戻ってきた。
8 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時56分26秒
「お前がやったんじゃないのかー?」
矢口に小突かれて、辻は困ったようにへらへらと笑った。
「違いますよぉ」
「ほら、昔水につけておくと何倍にもなるおもちゃってあったじゃん。縁日とかでさ。こっそり
持ち込んでうちらが収録してる間に膨らむようにしてたんじゃないの?」
「そんな大昔のおもちゃしりませーん」
いつの間にか戻ってきていた加護とハモる。矢口はムッとした表情で黙り込んだ。

「いやだからこれ生き物ですって」
紺野はその男の周囲を回りながら言った。矢口はごろごろと床を転がりながら、
面倒臭そうに大声で言った。
「ていうかもうほっとこうよ。うちらの責任じゃないだろ?」
そのセリフに、メンバーは全員が無言で同意した。


9 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時56分57秒

翌日。楽屋に戻ると掃除機ほどの大きさになっているその男が待ちかまえていた。もうさすがに
誰も驚かず、またか、と言った様子でその男を取り囲んだ。
「日ごとに成長してますね」
紺野がはじめに口を開いた。矢口は甲高い声で笑うと、
「見りゃ分かるだろー」
「ねえこれやっぱりなにかの嫌がらせだよ、うちらに対する」
飯田が真剣な表情で呟いたが、誰も真面目には聞いていなかった。
「こう言うのはね、うちらからビシッとした態度とらないといけないと思うんだ」
「めんどくせー」
矢口はそう言いながら楽屋の畳に寝そべった。

10 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時57分29秒
高橋は誰かが食べかけで放ってある弁当箱から割り箸を取り上げると、その男をつついた。
「これえホンマに生きてるん?」
「動いてるよ。ほら、ここ」
紺野も割り箸の片割れを取ると、胴体のあちこちにある亀裂を指し示した。
「ほらこれなんかビクビクしてる」
「どれどれ」
高橋が割り箸を突っ込もうとするのに、石川が大袈裟に悲鳴を上げた。
「やーもう怖いことしないでよぉ」
「キショ」
吉澤は石川の腕を振りほどくと、高橋と紺野の間に入ってその男を見つめた。
「歯とかすごいなー。ピラニアみたい」
「髪? 結構キレイですよ。ブロンドで」
紺野が言うのに、加護はなぜかむくれると楽屋を出ていった。

「おいらもう帰るわ」
いつの間にか荷物を纏めて、矢口も楽屋を出ていこうとする。
「あ、ちょっと待ってよ。これどうするかって今話してたとこだよ」
飯田が言うのに、矢口は大儀そうに振り返ると、
「ほっといたらいいんだって。掃除のおばさんだってうちらの楽屋汚いのなんて承知してるだろ?」


11 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時57分59秒
四日目。その男はついに新垣と肩を並べるくらいの大きさにまでなっていた。
「おいら抜かれちったよ」
冗談めかして言うと、矢口は座布団を丸めて楽屋に横になった。
「ねえあんまりひどすぎると思わない?」
飯田が芝居がかった調子で言う。が、誰も同意しなかった。
「この調子だとそのうち天井つきやぶっちゃうね」
脳天気な口調で安倍は言うと、バッグから可愛らしいノートを取りだしてなにかを書き始めた。

藤本が大きなビニール袋をぶら下げて、楽屋へ戻ってきた。
「ほら」
ビニール袋を開いて差し出すのに、メンバーはお互いの顔を見合わせた。
「よっすぃー捨ててきてよ」
指名を受けた吉澤は、わざとらしく天井を見上げると、
「いやー、あのー私あいにくたまたま偶然肩を脱臼しちゃってて……」
「梨華ちゃーん」
「やーんあんなの近づくのも嫌ぁ」
「キショ」
「キショ」

12 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時58分39秒
声を揃えて呟いた辻加護に、矢口が横になったまま声を投げかけた。
「おい、お前らこういう時くらい役に立てよ」
「ゴミ掃除はおばちゃんの仕事でしょー」
「そうでしょそうでしょー」
示し合わせたようにステレオで捲し立てると、けらけらと笑いながら楽屋を走り去っていってしまった。

「行っちゃった」
小川がへらへらと笑いながら言う。
「まいいや。ほっとくか」
疲れが溜まっているのか、床で身をくねらせながら矢口が言う。
「いいんですか?」
ビニール袋を持ったまま藤本はむくれている。
「なんかまたテレビのあれなんだよ。うちらのリアクション見て楽しんでるだけだって」


13 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時59分09秒
五日目。その男は二メートル近くまで伸びて、頭頂部は天井すれすれまで近付いていた。
「よ、圭織おつかれー」
ふざけて男に呼びかけると、大あくびをしながら矢口は床に寝そべった。
「ちょっと圭織こんなんじゃないよ。圭織はね」
飯田が真面目に反論しようとするのを遮って、紺野はいつの間に用意してきたのか、バッグから巨大な
虫眼鏡を取りだして夢中で観察を始めた。
「これ宇宙生物じゃないでしょうか? ひょっとしたらすごい発見かもしれませんよ!」
「だーかーらー、そういうドッキリだって言ってるだろ」
矢口が呆れたように言う。紺野は不服そうに頬を膨らませると、
「でもほら、ここから見える内臓とかちゃんと動いてるし、血とか通ってるみたいですよ」
「知らねーよ。大道具さんに訊けよ。どうやって組み立てたかってさ」

14 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)21時59分41秒
気のない矢口に失望すると、紺野は吉澤へ話しかける。
「吉澤さんはどう思います?」
「超かっけー」
紺野は溜息をつくと、新垣を振り返った。
「ねえ、これの名前はジュマペールでいいよね? 第一発見者は名前を付ける権利があるんだよね?」
「私間違えてた。ジュマペールはフランスの首都だった」
新垣はつまらなそうに言うと、矢口の腰をマッサージし始めた。

少し涙目で、紺野は小川を振り返る。
「まこっちゃん」
「あ、今日実家に電話しようと思ってたんだ」
小川はいそいそと荷物を纏めると、お疲れさまーと言いながら楽屋を出ていった。

「これじゃちょっとどうしようもないね」
ファンタを飲みながら安倍が言う。新垣に腰を揉まれて、矢口は吐息混じりで返した。
「そうそうそういうこと。ほっとこ」

15 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)22時00分20秒
六日目。その男は遂に天井を突き破って、二フロア分の楽屋を占拠していた。
「おい、これじゃおいらが寝る場所がねーじゃんか」
矢口はぶつくさと愚痴りながら男にジョージアの空き缶を投げつけた。
「だから圭織はずっと前からみんなでちゃんと考えようって……」
「やっぱりNASAに連絡しましょう! あ、日本だったら科学技術庁ですかね。それとも矢追純一さんか……」
飯田と紺野が口々に言うのを無視して、矢口は携帯電話を取り出すと手慣れた様子で番号を探し出した。
「とにかく他の人の楽屋にまで迷惑かけてんだから、ほっとくわけにもいかねーだろ」

矢口が電話を入れてから三十分ほどして、作業着に身を包んだ連中がぞろぞろと姿を現した。
ニュース特番などでよく見かける、便利屋集団だった。
「これはまた大物ですね」
その男を見て、便利屋の親方は口笛を吹いた。
「なんとかなりそうですか?」
「ええ。これならまあ一時間もあれば」

16 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)22時01分09秒
それから一時間の間の作業は実に見事だった。便利屋集団は肉切り包丁やノコギリなどを駆使して
その男を解体し、手際よく都推奨のゴミ袋に詰め込むと流れ作業でトラックへと搬入
していった。たまにその男の身体から変な体液が飛び出してくることもあったが、最後は
ちゃんと楽屋の洗浄まで行い、生臭い匂いを漂わせながら便利屋たちは全ての仕事を終えた。

「お疲れさまでした」
料金を払いながら矢口がねぎらいの言葉をかけるのに、
「いや、こんなの我々からしたら全然大したことはありませんよ」
仕事人の誇りを滲ませたセリフを残して、便利屋たちはその場を後にした。

楽屋へ戻ると、天井にぽっかりとまん丸い穴だけが残されていた。
「これじゃ安心してくつろげないじゃん」
藤本は不満げに口を歪ませながら愚痴った。
「ほら、料金、一人頭二五〇〇円ね」
矢口が手を差し出しながら言う。メンバーから一斉に不満の声が挙がった。

「もったいないなー」
天井の穴を見上げながら紺野が呟いた。
「この天井はほっといてもいいよな?」
矢口が言うのに、新垣だけが頷いた。誰かの鞄から、イアホンから漏れる音楽が漏れてきていた。
17 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)22時01分40秒
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18 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)22時02分12秒
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19 名前:19 OTIS 投稿日:2003年07月23日(水)22時02分44秒
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