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16 初めての不良

1 名前:16 初めての不良 投稿日:2003年07月22日(火)02時13分52秒
16 初めての不良
2 名前:16 初めての不良 投稿日:2003年07月22日(火)02時15分11秒
空にぶつけたくて投げたビニールボールは色も形も変わらずに僕の胸元に返って来た。
ムカツクぐらい青い空に黄色いボールが映えるかと思ったけどそうでもなかった。
無断で借りたボールだったので、持ち主に気付かれる前に元の場所に転がしておいた。
学校の屋上はタバコの吸殻と鳩かなんかの糞で美しく飾られている。
ここの雰囲気が僕に似合っている気がして、昼休みはいつもここに来ている。
特に何をするわけでもない。シンナーをやる勇気もないし、タバコのおいしさもわからない。ただ5時間目の予鈴が鳴るまでの間、ここでMDのボリュームを9にして過ごしていた。
屋上は幸せなぐらい退屈で、毎日、飽きもせずに変わらない風景を見せてくれる。
教室は幸せそうな笑顔で満ちていたし、僕って人間は十分過ぎるほど退屈な人間なもんで、すぐに屋上とは仲良くなれた。
3 名前:16 初めての不良 投稿日:2003年07月22日(火)02時17分19秒
屋上の鍵は壊れていたので、たぶん今までは誰でも入る事が出来た。
だから屋上の地面は不良と呼ばれる人達が吸ったであろうタバコで彩られていた。吸いカスが散らばってたり黒い焦げ後やらで、そりゃぁ風情があった。
でもそれは昔々のお話。
今は、僕が近くの100円ショップで買ってきた新品の鍵が立ち塞がっているので誰も入る事なんて出来やしないはず。

はずだ。はずだったんだ。

僕の視力が絶望的にやばい状態だったり、僕が麻薬やお酒の常習犯でなければ二つの目に映っている物は幻なんかじゃないんだろう。信じたくは無いけど。
屋上の丁度ド真ん中、かさばったダンボールの中央でスカートの中身全開で堂々と寝ている人がいた。
色は黒だった。
いやパンツのね。
とりあえず今すぐにでもここから脱出しなければならない気がした。
4 名前:16 初めての不良 投稿日:2003年07月22日(火)02時19分42秒
この屋上は、もしかしたら僕が毎日来ていた屋上とは違うのかも。だって今までこんな刺激的で衝撃的な風景はここには無かった。と言っても屋上に通い始めて3日目だけど。
ここに入る前にちゃんと部屋番号を確かめなかったから間違えてしまったのかもしれない。僕は一度男子の着替えるクラスと女子の着替えるクラスを間違えて入ってしまった前科があるので、あながち無い話ではないとは思わなかった。
うん。思うわけが無い。
だってここに入る前に、僕が100円ショップで買ってきたダイアル式の鍵はキチンと素直に外されて地面に転がっていたからだ。
やっぱり9通りしかない鍵じゃダメだったか。
5 名前:16 初めての不良 投稿日:2003年07月22日(火)02時21分03秒
とりあえず真っ黒パンツから右に180度回転して、出入り口に向かって早足で歩き出す。だけど、
「んぁ?」
不意の声に立ち止まってしまった。
ふんわりした声だった。ふんわりって表現がよくわからないなら、ぽわぁーっとした声。わからないか。じゃあ掴み所の無い声。これだ。
「君、誰?」
僕は出入り口からまた右に180度回転して、胸の鼓動を押さえ込んで訊ねた。
「き、君こそ誰?」
真っ黒パンツは相変わらずダンボールに寝そべったままだった。
袖を捲くった腕は、細くて柔らかそうでちょっとドキッとした。
良かった、泥棒とか犯罪者系の人じゃないみたい。
「君、何年?」
うーん、まいった。
顔は真っ黒パンツのくせに可愛い。
いや、そういうことじゃない。僕が質問に答えなきゃ永遠に質問されてしまうかも知れない。
男ってのは時には妥協が必要だって近所のスナックのママが言っていた。
「1年」
「不良。私は2年」
今度は質問していないのに答えてくれた。優しい人だ。
そして今日初めて気付いた事があった。

僕は不良だったんだ。
6 名前:16 初めての不良 投稿日:2003年07月22日(火)02時21分59秒
不良の条件とはなんだろう?
タバコを吸うこと?だったら僕は吸えないから不良なんかじゃないな。
髪を染めている事?それも違う。僕は一度お兄ちゃんの彼女、キャサリンに黒髪が綺麗だって言われたのが嬉しくて一度も色を変えたことは無い。
喧嘩が好きなこと?これも違うよ。だって見知らぬ人といきなり殴り合い出来るほど僕の心は荒んじゃいないし勇気もない。
それに高校生になってからは知り合いとでさえ殴り合いの喧嘩はしていない。
そんな僕が不良のわけが無い。そう思い直し黒パンツに向かって言った。
「僕は…不良じゃないよ」
黒パンツはそれを聞いて小さく笑った。
「あは、自分で自分のこと僕って言うんだ?なんかー、面白い」
7 名前:16 初めての不良 投稿日:2003年07月22日(火)02時22分45秒
僕は僕に訊いた。
『なんで君は僕って言うんだい?』僕は答えた。『僕は僕だからさ』。
そう言えば、みんなは俺って自分の事を呼んでいる気がする。
僕は僕にもう一度訊いた。
『なんで僕は俺って言わないの?』僕は答えた。『君が俺ではないからさ』。
8 名前:16 初めての不良 投稿日:2003年07月22日(火)02時26分00秒
黒パンツが言った言葉に顔が赤くなって、もう一人の自分を創って逃げようとしたけれど、どうも思った様に巧くはいかなかった。
俺って言葉が僕にはなぜか似合わない気がした。そしてそれを口にするのは恥ずかしかった。
「僕は不良なんかじゃない!」
顔の赤さや心のもどかしさを一気に吹き飛ばすために僕は大声で言った。
黒パンツがダンボールから立ち上がった。
身長は僕と同じ位だった。
「屋上は危ないから誰も使っちゃいけないの。わかる?」
黒パンツがニヤケながら言った。
「じゃ、じゃあなんで黒───君は使ってるのさ!」
黒パンツのでっかい眼を見ながら言った。
黒パンツの目はとても大きくて、それを縁取る長い睫毛もメチャ綺麗でなんだか恥ずかしかったけど、目線を外したら負けな気がして堪えた。
9 名前:16 初めての不良 投稿日:2003年07月22日(火)02時26分33秒
不思議な威圧感を纏って黒パンツが近付いてきた。
僕の足と手は少し震えていた。
黒パンツが僕の肩を掴んで顔を近づけた。
体中から一気に汗が吹き出た。息を止めた。

「それはね、不良だからだよ」

僕の耳元でそう言うと、黒パンツは僕を通り越して出入り口に向かって歩き出した。
タバコの苦い匂いがした。
すぐにでも地面に腰をつけたい気持ちでいっぱいだった。でも黒パンツが消えるまではそれはしちゃいけないと思った。
男だから。
10 名前:16 初めての不良 投稿日:2003年07月22日(火)02時27分19秒
ガタン、と言う音が鳴った。僕はすぐさま地面に崩れ落ちた。ポッケからハンカチを探して顔の汗を拭いた。
「それと真希先輩と呼びなさい。僕くん」
僕の背中越しにもう一度ガタンとドアが鳴った。



初めて出会った不良は、先輩で、とても可愛くて、やっぱりとても怖かった。

11 名前:16 初めての不良 投稿日:2003年07月22日(火)02時28分16秒
12 名前:16 初めての不良 投稿日:2003年07月22日(火)02時28分48秒
13 名前:16 初めての不良 投稿日:2003年07月22日(火)02時29分19秒

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