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12 ハローベイビー
- 1 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時04分40秒
- 12 ハローベイビー
- 2 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時05分20秒
- ハロー、ベイビー、はじめまして。
あたしが……
「よっすぃぃー!」
誰かが呼んでいる。
聞き覚えのあるしっかりした声。
それは、あたしを揺り動かし始める。
- 3 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時05分53秒
- 圭ちゃんの夢を見た。
縋りついてくる彼女の腕は、普段と違って弱々しく、
緩やかな曲線を描くはずの眉は、ハの字に急降下している。
「よっすぃー。あたし、どうしたらいいのかなぁ…。どうしたらいい?」
どうしたらいい?なんて、言われても…。
夢だとわかっていても、あたしは彼女の質問に戸惑う。
「そんな……。だってさ、おかしいよ、圭ちゃん。ぜってー誤解だって」
「そんなの、ひどい…ひどいよ、やっぱりあたしとは遊びだったの?」
「いや、あの、そーゆー事じゃなくてさ、何ていうか……その……」
口篭るあたしを、彼女はキっと睨む。
「おろせって言うの?」
「いや、大根じゃあるまいし、そんなこたぁ言わないけど…」
「じゃあ、何?」
「あの、あのさ、あの、ホントにあたしの?違うんじゃ…ないかなぁ、って」
遠慮しつつも問う。
と、彼女は顔を覆って泣き出してしまった。
「そんなの、ひどい。身に覚えがあるくせにぃ」
いや、ないよ。ないない。
「よっすぃーの子供だよ」
いや、あのね、マジでありえないから。
「産みたいの!」
えぇ!?あたしに言われても…。
- 4 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時06分28秒
- おかしい。あのね、おかしいよ。
あたしはさ、『産む』一応できるけど、『作る』はできないしさ。
っていうか、何で圭ちゃん…。
どうなっているのやら。そして、どうしてたらいいのやら。
困り果てるあたしに、彼女は冷たく言葉を吐く。
「もういい。よっすぃーがそんな人だとは思わなかった」
「ちょ、ちょっと待ってよ圭ちゃん」
「もういいよ。あたし一人でも、この子を育ててく」
そして、自分の腹部を撫でながら、こう言った。
「でも、養育費はちゃんと払ってね」
- 5 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時07分04秒
- そこで、夢から覚めた。唐突な目覚めだった。
太陽はまだ昇りきっていない。部屋の中は薄暗く青白かった。
時計の長針は5の位置を少し過ぎたところ。
普段なら、絶対に起きられない時間である。
おかしな夢を見はしたが、別にうなされていたわけではない。
あたしが目を覚ました原因は、他にあったのだ。
「吉澤ぁ!!吉澤ぁ!!おい、起きろ、おい、開けてくれぇ」
勢いよくベルが鳴る。
突然の訪問者。
誰だ?
「吉澤ぁ!!俺や、寺田や、開けてくれぇ!」
……へ?
つ、つんくさん!?
何でこんな時間に?
というか、なぜここに?
あたしは、慌てて玄関へと走った。
- 6 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時07分53秒
- 「とりあえず、入って下さいよ」
「寝てたんか?悪いな、こんな朝早くに起こしてもーて」
謝るくらいなら来んなよ。
咽元まで出かけたが、思い直して飲み込んだ。
「じつはな…、お前に言わなあかんことがあってん」
つんくさんの声は、妙に暗い。
そして、神妙な面持ちで、じっとあたしを見つめてくる。
「俺…、もう、どうしたらええんか、わからへんわ」
「はあ。何が、ですか?」
「どうしたら…。吉澤、吉澤は、どうしたらええと思う?」
「はあ?だから、何を?」
「どうして欲しい?吉澤、なぁ、どうして欲しい?」
- 7 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時08分25秒
- どうして欲しい、どうしたらいい。
彼は、先ほどからずっと、同じ言葉を繰り返していた。
あたしは、あくびを噛み殺しながらも、少々呆れていた。
「だから、何を、ですか?全然わからないんすけど」
「実は…」
言い掛けて、つんくさんは頭を抱える。
「ああぁーー、やっぱ、よう言われへん」
さっさと言えよ…。オマエ、何しに来たんだよ。
なかなか進まない話に苛立ったあたしは、気持ちを落ち着かせようと紅茶を淹れた。
二つ持ってリビングに戻り、一つをつんくさんに、一つは、抱えあげ自分の口に運ぶ。
- 8 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時09分07秒
- 柔らかな渋みと香りが、口内に満ちた頃、
「実はな…」
ようやく決心がついたらしいつんくさんが、とうとう重い口を開き始めた。
「実は…、なんですか?」
聞きながら、あたしはぬるくなった紅茶を飲み込む。
「子供ができてん」
「ブーッ!」
紅茶は見事に噴出され、思いきりむせた。
「ゲホッ、ゴホッ、だ、誰の?」
「俺の」
「ゴホッ、誰に?」
「俺に」
「はあ?じゃなくて、相手は?」
「お前や、吉澤」
「はあぁ!?」
つんくさんは、愛おしそうに自らの腹部を撫でた。
その頬は、赤く染まっている。
寒気がした。
- 9 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時09分43秒
- 「ちょっと待って下さいよ、おかしいですって」
「ひどいわ、やっぱり俺とは遊びやってんな?そうやな、お前にはちゃんとした彼氏おるんやもんな」
「いや、あの、そーゆー事じゃなくてですね、何ていうか……その……」
口篭るあたしを、彼はキっと睨む。
「おろせ言うんか?」
「いや、魚じゃあるまいし、そんなこたぁ言いませんけど…」
「じゃあ、何や?」
「あの、ホントにあたしのなんですか?違うでしょ、どう考えても。勘違いです」
遠慮せずにきっぱり言う。
と、彼は顔を覆って泣き出してしまった。
「そんなん、ひどいわ。身に覚えがあるくせにぃ」
ねーよ!あるわけねーだろバカ!
「お前の子供やで。かわいくないんか?」
当たり前だろ、あんたが微妙なんだから。
「俺、産みたいんやぁぁぁ!」
帰れ!マジで。
- 10 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時10分24秒
- おかしい。あのね、おかしいよ。
あたしはさ、『産む』一応できるけど、『作る』はできないしさ。
しかも男にって、一体…。
どうなっているのやら。そして、どうしてたらいいのやら。
困り果てるあたしに、彼は冷たく言葉を吐く。
「もうええ。お前がそんなヤツやとは思わへんかった」
「あの、ちょっと待って下さいよ、つんくさん」
「もうええんや。俺一人でも、この子を育ててくし」
そして、自分の腹部を撫でながら、気色悪く…いや、
かわいらしく、こう言った。
「でもな、養育費はきっちり払ってもらうで」
- 11 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時10分57秒
- 「がぁっ!」
跳ね起きた。ひどく汗をかいていた。Tシャツが湿っている。
「夢…」
額の汗を拭う。
それから、ゆっくりと息を吐いた。
立て続けに、とんでもない夢を見てしまった。
部屋の中には、すでに朝が訪れていた。
時計を見ると、7時10分。
慣れない時間に目を覚ましたせいだろう。
どうやら、二度寝していたようだ。
- 12 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時11分34秒
- 疲れてるな。
そう思った。
そう、疲れてるんだよ。モーニング娘。も楽じゃない。
忙しいんだよね。
まあ、いつものことだけどさ。
でも、最近さ、だるいっつーか、熱っぽいっつーか、なんか体調よくなくて。
これでせーり重なったらホント最悪。
あたし重いしな……って、ちょっと待て。
今月、来たっけ?
先月は?
…。
頭の中のカレンダーをめくってみて、愕然とした。
遅れてる…、しかも、かなり…。
- 13 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時12分20秒
- 三十分後、あたしが立っていたのは、彼氏んちのドアの前。
「友介!友介!お願い、起きて!開けて!」
勢いよくベルを鳴らす。
と、かなりの間があって、
「…っせーよバカ。んだよ、こんな時間に」
しかめっ面の彼が顔を出す。
寝癖のついたミディアムヘア。
ワックスのついていない洗いざらしの毛先が、まるで長毛猫のそれのようにふわりと揺れた。
「どうしよう、ねぇ、どうしよう。とりあえず薬局…薬局だ、薬局行って、そんで…」
「あ?」
彼は怪訝そうに顔をしかめる。
「わけわかんねぇよ、おまえ」
- 14 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時12分50秒
- あたしだって、訳がわからない。
こんなの、どこにでも転がってそうな話。
いつだって、こうなる危険性がゼロではないと知っていた。
それがわかるほどには、大人になった。
でも、それに蓋ができるほどにも、大人になっていた。
訪れてみて初めてわかる。
漠然とした不安と恐怖に叩きのめされた気分だ。
- 15 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時13分33秒
- 「どっか、具合でもわりぃのか?」
あたしの泣き出しそうな表情に気付いたのか、
友介が、優しく髪を撫でてくれた。
「どうしよ、あたし…、病院行った方がいいかな」
「病院?マジで具合わりぃのかよ」
「具合、悪いっていうか…、別に悪くないっていうか…」
口篭るあたしを、彼は少し睨む。
「んだよ、言わなきゃわかんねぇだろうが」
そうなんだけど、言い出しにくい…。
でも、言わなきゃ。言わなきゃ。
えーい、言ってしまえ。
「実はね…」
「なんだよ」
「来ない」
「なにが?」
「せ……」
硬直して青ざめていく彼の顔を見ながら、あたしは願っていた。
夢であれ。
どうか、夢でありますように…。
- 16 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時14分07秒
- ハロー、ベイビー、あなたの笑顔。
ハロー、ベイビー、あなたの泣き声。
はじめまして。
あたしが……
ママ?
マジで?
- 17 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時14分37秒
- fin.
- 18 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時15分09秒
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- 19 名前:12 ハローベイビー 投稿日:2003年07月21日(月)01時15分42秒
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