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10 さゆみんが娘。に入った理由

1 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時10分29秒
10番 さゆみんが娘。に入った理由
2 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時12分04秒
すっかり日が短くなった秋の夕暮れのある日のことだった。私がクラブ活動を終えて学校から帰り玄関の引き戸を開けると、お手伝いの重さんが待ちかねたかの様に
「さゆみお嬢様。お兄さまがお待ちでございます。帰り次第、自分の部屋に来るように申し上げて欲しいとの事でした。」
と一気に私に告げた。

用件を終えた重さんの表情には一仕事終えた安堵の表情が浮かんでいる。
だが、今度は私の表情が曇る番だ。
「お兄さまが・・・」
わたしの心臓の鼓動が早くなってくるのが自分でも分かった。

我が道重家は古くは長州藩の御典医(お殿様の主治医です)も勤めた程の名家で、ここ宇部市にお殿様からの領地も拝領し、長く現在の宇部市一帯を治めていた、本来ならば宇部市ではなく道重市となってもおかしくない程の家柄なのだ。

曾祖父の代に開業した道重醫院も、いまや道重総合医療センター病院として県内でも有数の規模を持つ病院となったし、一族ほとんどが医者となり国立大学の教授や、政界に打って出て政治家になった親類もいる。
まあ、一言で言えば道重の名前を知らない人間は山口県にはいないということである。
3 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時17分32秒
そして、道重家本家の総領たる私の兄は生まれた時から医者になることを運命付けられ、それ以外の選択肢は生まれた瞬間から無いのだが、普通はその重圧に負けてみたいな方向に話は進む。
しかし、兄は県内でも有数の進学校に在籍し予備校主催の模試を受けても東大医学部合格率80%を常にキープしている。(実際は合格100%間違い無しなのだろう。なにしろ一度は全国総合一位をとったことがあるのだ。)今は、学校にもほとんど行かず、部屋に閉じこもって好き勝手なことをしている。親も学校も兄が結果は出しているので何も言えないし、何か意見しようとしても知識も弁論も兄に敵う人間がいるとは思えない。

兄は家の庭に離れの一軒家を与えられて住んでいた。
元々は今は亡くなった曾祖父の隠居所として建てられたのだが、兄が高校入学と共に占拠してしまった。
そこは一種の治外法権地帯で、お父様と言えども立ち入ることは許されない。

何しろ見た目はボロイ古い家屋だが、窓という窓には兄自製の接触を感知するセンサーが付いており、少しでも振動を感じると兄の知るところになる。
4 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時22分12秒
万が一内部に侵入できたとしても、廊下や部屋には赤外線式の探知センサーが至る所に張り巡らされており、あっという間に兄の飼っているドーベルマン(部屋の中でドーベルマンなんか飼うなよという突っ込みはともかく)の餌食となってしまうのだ。
この家に入る唯一の手段は正面玄関から入るしかない。

わたしは制服だけ脱いで着替えると、兄の元へ向かった。
私達一家が住んでいる本邸の建物から、雑木林を抜けて5分ほど歩いた敷地内に兄の家はある。曾祖父が生きていた明治時代の流行で、兄の家は和洋折衷の鹿鳴館様式とでも言うのだろうか洋館と和風が融合した独特の建物だった。わたしは兄の所に行く時、いつもヘンゼルとグレーテルの童話を思い出してしまう。林の中に埋もれるように存在しているお菓子の家。でも、そこに住んでいるのは魔女だ。

兄とは幼い頃はとても仲が良かったと思う。いつも一緒にいた。
「さゆみちゃんはお兄ちゃんに双子みたいにそっくりだね。」と何度も親類や知り合いに言われ、とても誇らしく思った記憶がある。
今でも仲は悪くはないと思う。
5 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時23分23秒
父母や親戚は、兄は頭はいいが一種の変人だと思っている。だから兄には近付かない。
あからさまには言わないが、精神が不自由な人だとも思っている節がある。東大の医学部に入りさえすれば何も言わない。犯罪さえ犯さなければ何をしてもよい。そんな感じで放任している。
でも、兄は頭の回転が他の人より速すぎるだけで、あちこち飛ぶ話をじっくり聞けば、さほど変な人ではない。
少しブラコンが入ってるのかも知れないけど、兄の話すことは色々と興味深い。星の話。昆虫の話。植物の話。神話の話。遠い国の話・・・。
兄は森羅万象知らないことは無いのでは無いかと思う位に何でも知っている。

すっかり、葉が落ちて裸木になった林の中の石畳の散歩道を抜けると兄の家の芝垣が見えた。木戸を手で押して入り、ガラス戸の玄関に立つ。
ブザーを押した。
そして、玄関の上にある監視カメラのレンズに向かって
「さゆみです。」
と告げた。

「入れ。鍵は開いている。」
どこからかは分からないが、はっきりと兄の声がした。
玄関の引き戸に手を掛けると、思いがけなく抵抗もなく、すっと開いた。まるで自動ドアの様だ。
6 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時29分33秒
兄の家に来るのは一週間ぶりほどだろうか。玄関から一直線に伸びた廊下はひんやりとした空気に満たされていた。いつも感心するのだが、ほこり一つ落ちていない。兄は自分以外の人間を、この家に入れることを極力嫌うから、お手伝いさんが掃除しているのではなく、自分でやっているのだろう。
そっと靴を脱いで家に上がった。足の裏に木の床の涼しさが伝わる。
自分の足音すら聞こえそうな静寂の中をしずしずという感じで兄の部屋を目指す。兄は曾祖父が趣味で作った(むしろ悪趣味の部類だと思うが)ゴテゴテのバロック調の洋室に陣取っていた。

廊下の突き当たりにある兄の部屋の扉をノックする。待つ程もなく、内側から扉が開いて兄が顔を出した。
「待っていたぞ。」
兄は短く私に告げ、入れと促す。

部屋の中は曾祖父がもし未だ生きていたら、卒倒するであろう事が確実な程に兄の好みで改造されていた。それは、また後で語る機会もあると思うので今は語らない。

兄は椅子に座ったままで、しばし黙って言葉を選んでいるようだった。単に、もったいぶっているだけかも知れない。
7 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時30分58秒
そして、恐るべき事を突然言いだした。

「さゆみ。おまえモーニング娘。に入れ。」

(ハァ?この親爺、何を血迷ったことをいきなり言い出すのかな?)
しばらく反応出来ずにいた。
それでも何か言わなくてはいけないという本能的な危機感みたいな物で言葉を出した。
「お兄さま。突然に何を仰るのですか?さゆみは、お兄さまのお言葉がよく理解できません。」

「モーニング娘。に入れと言っているのだ。6期メンバーオーディションが行われることが決定した。さゆみなら入れる。」
有無も言わさぬ口調だ。
目がいっちゃてる。マジだよ。このおっさん。

(ウヒャ〜。この馬鹿長男はここまで馬鹿だったのか。)
兄のことは尊敬しているが、たった一つだけ尊敬できない事がある。
それは兄が洒落にならないほどキモいモーヲタなのだ。
わたしだってモーニング娘。のことは嫌いではない。でも、兄のように2chとやらに朝昼問わず一日中入り浸って、キターとかハァハァとか言っているのは人間としてどうであろうか?
8 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時32分05秒
あまつさえ、兄は飼育とかいう所にまで行って、モー娘。のメンバーをモデルとした二次創作?とかいう妄想を書き綴った小説まで書いているらしい。もう、これは太宰治の小説の題名を思い浮かべざる得ないと思う。

兄の部屋は元々は明治期に建てられた、和洋折衷の建築様式を今に伝える県の文化財に指定されてもおかしくない程の物件であるが、こともあろうに、その部屋の全面に娘。のポスターを張り巡らし(95%は紺野あさ美ちゃん)、団扇やフィギィアーやその他の得体の知れない娘。アイテムを所狭しと並べている。どこから手に入れたのか、ホンダのお店の店頭に飾ってある等身大の娘。のpop人形まである。

「兄の立場から言えば、さゆみはルックスもかわいいし、つんく好みだ。それに自分のプロファイリングデータを付け加えれば、100%合格確実と言える。」
兄は得々として話し続けた。

(わたしが、モー娘。に合格するより。あんたが東大に合格する方が道重家にとって重要な問題だろ。この時期、何を寝ぼけた事を言ってるんじゃ。)
と思ったが面と向かって兄に意見する勇気は私には無かった。
9 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時34分04秒
兄はわたしの無言の様子を了承の意思表示と受け取ったのか
「明日からでも傾向と対策を伝授したいが、さゆみの都合はいいか?」
とすっかり、その気になっている。

「嫌です。」
ここではっきりと言わなければ、兄のペースにはまるだけだ。そう思ったので強く出た。
「いきなり、そんな訳の分からない事を言われても、さゆみは了承出来ません。」

この後、わたしと兄との長い口論があったのだが、それは省略する。
とにかく「嫌だ。」の一点張りで押し通した。
兄のキモーヲタ趣味に付き合っている暇はない。喧嘩別れに終わった感もあったが、わたしはこの事は兄のほんの一時の気の迷いで、一週間もすれば忘れて諦めるであろうと高をくくっていたのが、兄は正真正銘の本気だったのだ。

次の日の夕食の席で、お父様に
「さゆみ。おまえモーニング娘。のオーディションを受けなさい。受けていいんだぞ。」
といきなり言われた。

「えっ・・・」
私は絶句したまま言葉が出なかった。
この場に兄はいない。兄は一人で自分の家で食事を摂るのだ。しかし兄以外の家族は皆、この場に同席していた。家族の視線がわたしに集中する。
10 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時36分21秒
「さゆみ。私からもお願いするわ。遠慮することは無いのよ、モーニング娘のオーディションを受けてちょうだいね。」
お母様まで・・・。

よくよく話を聞いてみれば、兄は両親にわたしがモー娘。のオーディションを受けたいけど迷っているみたいだ、自分も兄としてさゆみの決意を応援したい。というような事を言葉巧みに訴えたらしい。
家族は兄が娘。ファンだということは知っている。実際はファンという限度を超して明らかにキモーヲタの部類に入っているのだが、それを知るのはわたしだけだ。
「もし、さゆみがモーニング娘のオーディションに合格すれば自分としてはとても嬉しく誇りに思える。万が一失敗したとしても、娘。に少しでも自分の妹が近づいたと言うことで、勉強にも励みになるし受験も上手くいきそうな気がする。」
という言葉が決め手になったみたいだった。
まったく、両親は兄に甘いな。そんなに子供を甘やかすとろくな大人にならないぞ。
11 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時37分41秒
しかし、次に両親の口から出てきた言葉は実に魅力的だった。娘。のオーディションを受けるだけで、結果の如何を問わずグッチでもプラダでも好きなブランドのバックを買ってくれるし、来年の春休みにはヨーロッパに連れてってくれると言うのだ。
本場のパリやローマのお店でショッピングが出来る。それはわたしに娘。のオーディションを受けてみようと決心させるに十分な条件だった。
わたしだって、まんざらモー娘。が嫌いじゃないし、女の子だったら一度ぐらいは、娘。入りに限らず自分が芸能界に入ったらと夢見るものだ。それは、わたしだって例外じゃない。もちろん、自分が現実に娘。に合格するとは本気では思っていない。
でも、わたしは自分で言うのも何だけど、ルックスはいいし、ファッションセンスも悪くないとおもうし、歌だって上手だし、ダンスもちょっとは習っているし・・・・。まじ合格しちゃったらどうしようなんて妄想してみたり。
てな訳で、早速カラオケボックスに行き、DINをDVで収録した。お兄さまに、ビデオ編集ソフトを駆使して貰って修正に次ぐ修正をして3日目には無事に書類審査に発送できた。言うまでもなく全身写真もバッチリだ。
12 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時39分12秒
「さゆみ。今日からおまえに絶対合格の秘訣を伝授する。」
兄が妙に自信満々にわたしに向かって断言した。そんな絶対合格の秘訣なんぞというものがあれば、誰も苦労しないよ。と思ったが、兄には面と向かっては言わない。これからも兄の技術力に頼る場面は多いだろうから、とりあえずはご機嫌を損なわないように黙って拝聴することにした。

「おまえが目指すのは『つんく枠』だ。」
(つんく枠?なにそれ。)
「歴代の娘。オーディションには事務所のスタッフが選ぶメンバーとは明らかに異質な、つんく枠と呼ばれる枠が存在する。おまえは、そこにジャストミートするように自己改造するのだ。分かったな。」
あまり良くは分からなかったが、兄の目がマジ怖かったので、取り敢えず「うん」とうなずいた。
「つんくはB級アイドル好きだ。だから、まずこういう顔としゃべり方をしろ。」
兄は自分でやって見せた。
「みちぃしぃげぇ さぁゆみぃれす。」

(はぁ?)
呆れて物も言えない。何でわたしが、そんな「のの語」みたいなしゃべり方をしなければいけないの?まるで阿呆の子みたいじゃん。これでも、わたしは学校の成績がトップで秀才ということで名が通ってるんだけど。
13 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時41分25秒
それから、その顔は何?
口をちょっと半開きにして、寄り目気味で視線が定まらない顔。
それじゃあ、まるで×××××(不適切な言葉のため5文字伏せ字)だよ。冗談じゃないよ。少し切れかかってきた。

わたしのそんな反抗的な視線に気付いたのか、兄は作戦を少し変更してきた。
「さゆみ。オーディションを受けるだけでバックや海外旅行が手に入るらしいな。もう、受けるのは止めるか?」
くそぉ。痛い所を突いてきやがるな。もうオーディションなんて受けないと言えれば楽なんだが、バックや海外旅行の魅力の引力は強いな。
もう少し我慢するか。

「やる。」
くやしいから、兄の顔を見ないように言ってやった。

「分かればいいんだよ。」
(氏ね。馬鹿兄貴。)
兄には見えないように中指を立てる。
「じゃあ。さっき僕がやってみたようにやってみろ。」

(バック。海外。バック。海外。)
と呪文のように唱えて、この屈辱的な兄の演技指導に従った。

しかし、また兄の演技指導が細かくて粘着で嫌になってくるんだ。
やれ、目の寄り方が甘いとか。
やれ、もっとゆっくりと間延びしてしゃべれとか。
14 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時43分50秒
ここまで来たら、わたしも覚悟を決めて「はいはい」と言って従っているが、これじゃあ、彼女の一人もいないわけだよ。彼女にこんなキモーヲタ趣味を押しつけたら1秒で即outだよ。

永遠に続くかと思われた、地獄のキモ指導も終わり、これでやっと解放されるかとおもったら、兄が「ちょっと待て。」と言う。渡したい物があるそうだ。

「つんく枠に入る為には、ひとつ重要な条件がある。」
おい。もったいぶらずに早く言えよ。こっちは、すんげえ疲れているんだよ。
「ズバリ言おう。それは『音痴』ということだ!!!」
はいはい。音痴ね。
鼻の穴を膨らませて、そんなアフォなことを言うなよ。
あっ。でもアフォなことじゃ無いか。確かに娘。メンバーには有り得ないほど、歌が不自由な人がいるもんな。××ー×ー××さんとか。

「まず。これを聴いてみろ。」
兄は1枚のMDをステレオに差し込んだ。
   
   お買い物 行こう 原宿に
   お買い物 楽しすぎるわぁ
   なんなの なによ あくびして
   これもデートと同じ

ふっ。と意識が遠くなった。これはジャイアンの歌ですか?
まさか本当に、この歌が売られてはいないですよね。
15 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時47分01秒
「さゆみ。この歌を完璧に歌えるように毎日毎日聴くのだ。完璧な音痴になる日まで。」
もう、何を言われても驚かないよ。
やります。やればいいんでしょ。

それから、毎日兄の演技指導を受けて、「理解して!>女の子」を聴いてオーディションに備えた。何というか、ここまで来たら意地になっていたのかも知れない。

今回はテレ東のmuSix内で国民投票をやって候補を決めるというアナウンスがなされた。
兄はそこでも怪しいコンピューターソフトを駆使して、さりげなく組織的な投票をわたしに向かってやった。もちろん、出所がばれるようなへまはしない。
投票総数、実に100万票。
が、何故かまったく実際の投票数に反映していなくて、2436という番号の子が得票数一番だった。やっぱりこういう投票は事務所で操作されているのかな。
まあ、いいや。その頃までは書類選考は合格して東京に来てくれという連絡が入っていた。国民投票の話も何か尻つぼみに終わって、あれは一体何だったのだろうって感じだし。
16 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時48分10秒
久しぶりに東京に行って買い物でもしようかという軽い気持ちで、二次審査に臨んだ。駄目もとのつもりで、兄の指導通りの挙動不審な音痴のキャラを自分で言うのも何だが完璧に演じきった。兄のキショ・・いや、もとい熱心な指導のお陰であろう。
驚くべき事に二次審査は合格。三次のつんくさんとの個人面接も通過。
ついに最終審査の合宿オーディションの三人のうちの一人まで残ってしまった。

「ほら、言っただろ。つんく♂は音痴なB級っぽいキャラが好きなんだよ。僕の分析によると、もうさゆみは最終的に合格することは確実だな。今までの10人程度残していた最終合宿を3人まで絞ったのは、たぶん少数の新メンバーのキャラや性格を、この合宿で多少は印象づけようということと、形式的にせよ、合宿はやったということをヲタ向けにアリバイ作りするためと見た。」

そうなのかな。兄が例によって得意気に自説を披露するのを聞き流しながら、わたしは呆然としていた。にわかにモー娘。入りが現実味を帯びてきたからだ。
(マジ?わたしがモーニング娘。に入るの?なっちとか、辻加護ちゃんとか、愛ちゃんと一緒に歌ったり踊ったりするの?信じられない。)
17 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時50分07秒
その頃になると、テレビ画面にも『道重さゆみ』の名前が放映されるようになり、学校でも友達や上級生や見知らぬ人からも「テレビを見たけん。」とか「さゆみが、あんなに音痴だとは思わんかった。」とか「学校とキャラが違うからびっくりしたよ。あれは演技しちょうか?」とか色々言われた。
自分の人生が180度変わりつつある予感がしてきていた。

冬休みの合宿オーディションの二泊三日も夢の中のように過ぎて、兄が予言したように一月十八日に都内のスタジオに呼び出されて合格が告げられた。
次の日には、もう娘。メンバーと対面していた。
高橋愛ちゃんの顔がとても小さかった事と何故か保田さんの顔ばっかり見ていたことしか覚えていない。
取り敢えずは三月までは月木は地元の学校に通い、週末土日をレッスンやお仕事に当てる為に東京に出てくるということに決まった。四月からは本格的に東京に住んでお仕事だ。

月日は早いもので、わたしが娘。に入ってから、もう3ヶ月が過ぎた。
四月からはこちらの中学に転校した。
今はお父様お母様が東京に出てきた時の滞在場所として確保してあった都内のマンションに兄と二人で住んでいる。
18 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時52分10秒
週に4日くらいはお母様も来てくれるので、さほど不自由な生活ではない。

兄は受験の直前にあれだけデタラメな生活をしていたくせに、あっさりと東大の理3に受かった。全く底知れぬ人物だ。
まあ、兄のアドバイスのお陰で娘。に入れた訳だし、キショいとかキモーヲタとか散々言って済まなかったというのが現在の正直な気持ちだよ。

レッスンはきついけど、充実している。れいなとも絵里とも上手くやっていけそうだ。先輩もやさしくしてくれている。芸能界は思っていたよりも、いい所みたいだ。

「ただいま。今日もしごかれたぁ〜。」
家の扉を開けて、荷物を居間のソファーに投げ出すと同時に自分の身もソファーに沈めた。
「お疲れ。ココアでも飲むか?」
へえ。兄がココアを作ってくれるなんて今まで一度も無かったのに珍しいなぁ。
何か下心でもあるのかな。

「今日は何をやった?」
兄は湯気がほんわりと立つココアをテーブルの上に置きながら訊いてきた。甘い匂いが鼻をくすぐる。う〜ん、美味しそう。
19 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時53分29秒
兄は娘。にわたしが入ってから、よく「何やった。」という質問をする。時には「ダンスを踊ってみてよ。」や「みんなのフォーメーションを教えてよ。」という風の突っ込んだ事も言う。
わたしとしても兄の助力で娘。に入れたことは感謝しているし、ディープなモーヲタの妹がモー娘。入りすれば、やっぱり多少は舞い上がって根掘り葉掘り訊くのはしょうがないことだろう。わたしも出来るだけ相手してあげることにしている。
「今日は埼玉のコンサートのダンスレッスン・・・」
兄は私の前のソファーに座って、身を乗り出すようにして興味深く聞いていた。
いろいろとメンバーとのエピソードとか話していると、段々と眠くなってきた。今日は結構ハードだったからなぁ。そのうちに、もう我慢できないほど眠気が襲ってくる。目の前が暗くなり、わたしは夢の闇の中に沈んでいった。
20 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時55分14秒
「よし。首尾は上々だな。」
さゆみが眠ってしまったので、今から僕、道重しげみちが話を進める。
ついに計画も最終段階に入った。
その計画とはズバリさゆみに変装してモーニング娘。の楽屋に潜入して、ああいう事やこういう事をしてしまおうという素晴らしい計画なのだ。
さゆみは僕がココアに中に入れた特殊な睡眠薬の働きで少なくとも明日一日は寝ているだろう。

次の朝、さゆみが昨晩に僕が運んでおいたベットの中で寝ているのを確認してから、支度を始めた。昔からさゆみと僕はよく似ていると言われたんだ。今でも背格好や体格はそっくりだし、さゆみは胸が無いからパッド入りのブラをすれば大丈夫だろう。この日のために買っておいたカツラと衣装と化粧道具でメイクする。
鏡の前に立ってみた。完璧だ。
絶対にバレない。
一回転してみる。ふぁっとスカートが風を巻き込んで膨らむ。どこから見ても完璧な女の子だ。いざ出陣。

「おはようございます。」
レッスンスタジオの扉を開けた。
僕の声は元々、男にしては甲高いし、裏声を使えばさゆみとさほど変わらないしゃべり方が出来る。
21 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時56分31秒
「さゆ。おはよ。」
れいなが笑顔であいさつを返してくれた。
「おはよう。」
絵里も声を返してくれる。よし、一番長いこと一緒にいるはずのこの二人にバレてないということは、この計画は九分九厘上手く行きそうな悪寒。

スタッフさんから、色紙をたっぷり渡されてサインをするように言われた。握手会でヲタの皆さんに配るための物らしい。今日はハロモニの取材用のカメラが入っていた。さゆみのサインも練習済みだから、さほど苦労せずにノルマをこなしていけた。途中で「さえみ」って書いてしまって、まさか自分の名前を間違える奴はいないから、これは絶対に怪しまれると思ったが、さゆみのボケキャラが幸いして笑い話ぽく片付けられた。

午後、ついに待ちに待った娘。の上のメンバーとの合同練習の時間がやってきた。控え室に指定された部屋に六期の他のメンバーと先に入っていると、今までブラウン管や数十メートル先でしか見られなかった娘。メンバーが次々に入ってきた。
(うあぁ。なっちはかわいいなぁ。石川はやっぱり色が黒い。辻加護ちゃんは私服は案外と大人なんだな。)
もう、興奮で鼻血が出そうです。
22 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月20日(日)23時59分01秒
最後にこんこんが登場。
(うひぃぃ。こんこんは激カワイイ。ボンキュボンのエッチな体と清純なルックス。もう愚息も昇天しそうです。)
いかん。いかん。興奮しすぎてはいけない。すこしでも怪しまれたら全ては水の泡だ。

「おはようございます。」
天使のような、ちょっぴり上ずったこんこんの声。
天上にも昇りそうな至福感です。
しかも、こんこんは僕たちにも
「あっ。今日は六期メンと一緒のお仕事なんだ。みんな、もうお仕事には慣れた?」
と、お声を掛けてくださった。
「はい。」
自分でも声が震えているのが分かる。

「道重ちゃん。そんなに緊張しなくても大丈夫だから。肩の力をぬいて。」
もったいない。こんこんから、そんなお言葉を頂戴するとは。
それをきっかけに、こんこんと六期の3人で少しおしゃべりが始まった。れいなや絵里は積極的に話しているが、僕はやはり本人を目の前にすると上手に話せない。こんこんはペットボトルのお茶とお菓子をつまみながら、楽しそうに自分が娘。に入った時の話をしてくれた。

23 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月21日(月)00時00分26秒
「道重ちゃん。」
いきなりこんこんに僕の名前を呼ばれてビクッとする。
「手を出してみて。わたし、最近ちょっと手相見に凝っているのね。道重ちゃんのも見てあげるね。」
「はい・・」
うひぃ。こんこんと僕の手が直接に触れちゃったよ。もう愚息も完璧に昇天です。
こんこんが僕の手相について何か言っていた気もするけど、そんなことは全く耳に入ってません。雲の上にいるような気分です。
生きていて良かった。さゆみを娘。に加入させて良かった。

スタッフが呼びに来て、スタジオに移動することになった。ゾロゾロと娘。メンバーが部屋を出てスタジオに向かう。夢見心地で忘れそうになったが、僕にはしなければいけない事がまだ残っているのだ。
「あのぅ。控え室に忘れ物をしたので取ってきます。」
と言い残して、一人で控え室に戻った。
まず、コンセントの蓋を素早く外して内部に盗聴器を仕掛けた。この控え室は娘。がよく利用するから、きっと面白い秘密の話が聞けることだろう。
24 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月21日(月)00時02分20秒
ふとテーブルの上を見ると、さっきこんこんが飲んでいたお茶がボトルが1/4ほど飲み残したままで乗っているではないか。
思わずキャップを開けて、一口飲み干す。

こんこんと間接キスをしてしまいました。
ああ、一生忘れない。

次に最終目的であるこんこんの汗がしみこんだ(今は洗濯済みだと思うけど)Tシャツゲットだ。こんこんのバックを開ける。思った通りに、替えのシャツが入れてあった。こんこんの持っているTシャツは既に調査してあり、新品の同じ柄の物も用意してある。後はこっそり交換するだけだ。
震える手でこんこんのTシャツを取り出して匂いを嗅ごうとした。

25 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月21日(月)00時08分08秒
「おい、そこまでだ。」
忘れようのない妹の声がした。
「キモヲタだと思っていたけど、ここまでやるとはね。」

反射的に後ろを見ると控え室の扉の所で妹がいかにも蔑んだような目が僕を見ていた。
妹よ。睡眠薬で眠っていたのではないのか?

「あんたが、わたしのココアを入れるなんて絶対怪しいと思って、隙を見ては隣の観葉植物の鉢に捨ててたんだよ。疲れて居眠りしちゃったけど、あんたのキショい独り言はみんな聞かせてもらったよ。で、飯田さんに相談したわけ。」
いつの間にか娘。メンバーが全員集合して、僕を睨んでいた。

「この事は、事務所には言わないよ。」
妹の陰から出てきた、ミキティーが爬虫類を思わせるような冷たく残酷な目で言う。
「あんた、東大の医者の卵で、実家が途轍もなくお金持ちらしいじゃん。その代わりと言っては何だけど、あんたはこれからずっとモー娘。の使いっ走りというか、奴隷だよ。何でもうちらの言うと事を聞くんだ。」
娘。のみなさんが、うんうんうなずいている。

26 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月21日(月)00時09分17秒
・・・奴隷?
この僕が娘。の奴隷ですか?
ということは、いつも皆さんのお側にいられるわけですね。
夢のようです。
ぜひ、やらせて頂きます。

こんこんの刺すよな視線が心地よい。
ワタシハアナタノイヌデス。
そう、こんこんに告げたかった。

こうして、ぼくの天国のようなモーヲタ人生の新しい第一章が開いたのです。





27 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月21日(月)00時09分55秒
28 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月21日(月)00時10分54秒
29 名前:10 さゆみんが娘。に入った理由 投稿日:2003年07月21日(月)00時11分38秒

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