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08 待ちわびて、待ちわびて

1 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時16分15秒
08 待ちわびて、待ちわびて
2 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時16分58秒
 この日が来るのを唯一の楽しみに生きてきた。
3 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時17分34秒
 ことの起こりは、二人が生まれてきた時だと言って良い。二人は出会って、すぐに恋に落ちた。普通、紆余曲折があるものだろうと思っていたが、何事にも例外というものはある。
 ただ、問題は二人とも女性にカテゴライズされる人間であり、そして女性同士が結婚することを認められない国に生まれたことだった。結婚しなくたっていいじゃないか、と思われる人もいるだろう。今はそれでいいのかもしれないが、人生は今や八十年以上もあるのだ。これからのことを考えると、世間からこそこそ隠れるように生きることは得策ではなかった。
4 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時18分35秒
 そこで、二人は決断を下した。結婚は異性が行うものであるという社会通念に従い、片方が男になることを決断したのだ。いわゆる性転換手術である。
 その手術は、日本より海外のほうが実績から考えて安全だと判断した。男になると決めた女性を乗せた飛行機を、女のままでいることになった女性は涙を流して見送った。
5 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時19分08秒
 そして、今日が帰国の日だった。トランクをひきずりながら歩くサングラスの男がいた。そこに女性が駆けよる。
「よしざ……よっすぃ〜?」
「……ごっちん、帰ってきたよ」
 二人はひしと抱き合い、数ヶ月ぶりの再会を喜び合った。そして、二人は愛をさらに確かめ合うために、早速ホテルに向かった。
 部屋に入るやいなや、男は乱暴に女をベッドに押し倒した。女は多少とまどいながらも、すべてを受け入れると心に決めた。
6 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時19分46秒
「やっと……」
「やっとだね……」
 男は女にまたがったまま、シャツを脱ぎ捨てた。そして女の上半身も同じようにむいた。再び抱き合ったとき、女は違和感を覚えた。
「ちょっと、よ、よっすぃ〜。なんか体、中年みたい……」
「……そう? そんなことあらへん」
 女はハッと息をのんだ。なんとか逃れようと体をばたばたさせるが、男の力にかなうはずもない。
「やっとや、やっと後藤を抱けるんや」
7 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時20分22秒
  × × × × × × × × ×
8 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時21分08秒
 男がタバコをふかす横には、枕を涙でぬらす女の姿があった。
「すまんな、後藤」
「……よ、よっすぃ〜はどこにいるの?」
「吉澤が帰国するんは三日後や」
「あなたは……」
「オレか? オマエがよーく知ってる人間や。つんく♂や」
 女はそこで目を見開き、そしてうなだれた。
 つんく♂は吉澤が男になるために渡航したと聞いたとき、これをチャンスと受け取った。吉澤ひとみに似た感じになるように、急いで整形し、声帯をいじくった。それから偽の手紙を送りつけ、何食わぬ顔をして空港に現れたのだった。
9 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時21分50秒
「そんな……」
「こう考えたらどうや? 中味はつんく♂やけど、外見は吉澤や。後藤、オマエは吉澤に抱かれたんや。誰が見てもそう思うやろ」
「……それじゃ全然意味がないよ……吉澤さんじゃないと……」
 つんく♂は女の体を起こし、肩をつかんでゆさぶった。逆ギレしようとするそのとき、女のか細い声がした。
「せっかく吉澤さんに……姉ちゃんを抜け駆けしたのに……」
「は?」
10 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時22分25秒
 つんく♂は手を離した。女はゆっくりと顔をあげた。
「オレ、男になった吉澤さんに抱かれたくて、女に性転換したんだよ」
「オマエ、もしかして、ユウキか?」
 女はうなずき、男は肩を落とす。ユウキは吉澤に恋焦がれていた。そして吉澤の性転換の話を聞いて、一度は絶望の淵に立たされた。いくらなんでも男が男に抱かれる世界に興味はなかった。
 しかしユウキは考え直した。吉澤が男になるのだったら、自分が女になればよい。ユウキは早速実行にうつした。そして今日、吉澤が帰国するという手紙を真希より先に盗み見て、手紙を処分すると空港に向かったのだった。
「なんやそれ。せっかく後藤抱いた思うたら、弟のほうやったんかいな」
 ベッドの上で、二人はそろって声をあげて泣いた。
11 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時23分09秒
 空港で、二人はお互いを抱きしめた。
「……ずっと、待ってたよ」 
「……あたしも、ずっと待ってた」
12 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時23分43秒
終わり
13 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時24分19秒
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14 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時24分55秒
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15 名前:08 待ちわびて、待ちわびて 投稿日:2003年07月20日(日)21時25分32秒
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