インデックス / 過去ログ倉庫
07 音楽
- 1 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時33分03秒
07 音楽
- 2 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時36分49秒
- 男は震えているように見えた。顔色が悪く視線が泳いでいる。銃把を握り締めた指は泥と汗と血と油で元の色が判らないほど汚れている。
松浦亜弥は壁に背中を預けて男を見つめていた。
男は亜弥に構わず、窓の外を窺っている。割れた窓からはぬるく湿った風が吹き込んでくる。ひび割れたガラスの向こうの空は鈍い鉛色にくすんでいる。すぐに雨になる。松浦はまっすぐに伸びるコンクリートの壁で火照った肌を冷やし、耳を澄ます。
窓の外には沢山の人間が動いている気配がした。
車の音、足音、足音、足音、サイレン、車の扉が開き、閉まる音、足音、衣擦れ、足音、足音、足音。静かな騒音だった。話し声のないノイズ。
指で軽く壁を叩く。トン、トン、トトン、トン。リズムがノイズに混ざる。トン、トトン、♪、トントトン、…えー…、トントントン、…に告ぐ…、♪♪♪、トン、…大人しく…、トトン、…を捨てて…、♪、トントトン。
…♪…♪♪♪…♪…
指を止める。ノイズに、男の口笛が混ざる。壁に頬をあてる。冷たい。再び指で壁を叩く。音が耳と壁の間で反響する。
- 3 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時37分53秒
- …このうた、聴いたことある…、…なんのうただったっけ…
記憶が音楽に、音楽が記憶に還元されていく。
- 4 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時38分35秒
- 「迎えに来たよ」
特徴の無い男だった。卵型の頭蓋骨、痩身、無地のTシャツ、立てられた短い前髪、後ろ向きにかぶった野球帽、くたびれたジーンズ。松浦のコンサートには彼に似た男な何百人となくやってくる。
全国ツアー中の地方都市。深夜のコンビニエンスストア。芸能人なんて職業をやっていなかったら、足を踏み入れることがなかったであろう場所だ。
松浦はかすかに首を傾げた。五歳ほど年上だろうか。社会人にしては幼く、学校の先輩にしては年齢がいっており、同業者にしては華がない。見覚えのない男だった。
口を開きかけた松浦を、男は人差し指を唇の前に立てて、止めた。
それから、かすかに唇を歪め、笑顔に似た表情を作った。レジの後ろにある掛け時計は零時ちょうどを指そうとしていた。
外は暗く、通り過ぎる車のヘッドライトが鮮やかだった。背中に固いものが当たった。突き当たりの鏡には黒い棒のようなものが映っていた。細長くて真ん中にくびれのある棒状のもの。ピストルだった。玩具なのか実物なのか、彼女には判別できなかった。
男は抑揚の無い声で、他人ごとのようにつまらなさそうに言った。
「約束だったろ」
- 5 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時39分20秒
- 靴紐はほどけていた。
長い道を歩いていた。長い時間歩いていた。夜だった。背が高い電燈がぽつん、ぽつんと浮かび上がっていた。後方に影が長く伸びていた。短くなった。前に回り込んだ。前方にまた長く伸びた。闇に飲まれて消えた。後方からまた影が回り込んだ。
少し前を歩く少年の手は冷たく、かすかに汗ばんでいた。
森を切り裂いて開かれた道路の両側で、緑がざわめいていた。
台風が通り過ぎたばかりの道路は、清掃済のシールが貼れそうなぐらい清潔だった。
電燈にまとわりついていた蛾が突然落ち、再びぱたぱたと羽音を立てて上昇する。
なにかが足元をくすぐった。
少年は口笛を吹いた。
――口笛吹いて、遠い国のおとぎ話、グリーンスリーブス、主は冷たい土の下に、草競馬、ペルシア交響曲、マーチングマーチ、春、家路、大地賛歌、風になりたい――
学校で習った曲ばかりだった。
彼女は言い出せずにただ、黙り込んで歩いていた。
靴紐がほどけていた。
- 6 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時40分07秒
- ガラスが割れる。
煙が部屋に充満する。
- 7 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時40分40秒
- 少年は一度も振り向くことはなかった。
覚えているのは潔く青々と借り上げられたさっぱりしたうなじ。細い首。薄い肩。身長よりもやや長目の腕。汗ばんだてのひら。だぶっとした半ズボン。膝のところだけ不恰好に突き出た細く長い脚。ほどけた靴紐。
「どこまで行くん?」
「どこまでも」
頭上には月。
「いつ終わるん?」
「いつかは」
頭上には葉。
「絶対?」
「絶対」
頭上には闇。
覚えているのはうなじ。
少年は一度も振り向くことはなかった。
- 8 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時41分27秒
- トン、♪、トトン、トン、♪♪♪、トトン、…パン…、トン、♪、トトン、…パパン…、トン、…パパパパパ…、トン、…ダァン…、トトン、…ガガッ…、トン、トトン……
- 9 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時42分16秒
- 「亜弥ちゃんさあ、もう身体大丈夫なの?」
「身体?」
「体調崩して病院いったって。みんな心配していたよ」
「ああ……そういうことになってるんだ?」
「……あ、はーん。さてはサボったっしょ?」
「んー、まぁね。そんなとこかな」
「ひっど。美貴には仕事サボるのなんか最低だとか散々言ってるくせにさあ」
「あっはは。最低だよ。最悪に決まってんじゃん」
嬌声。
「ねぇ、たんはさあ」
「ん?」
「死にたいって思ったことある?」
- 10 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時43分05秒
- end or die?
- 11 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時43分49秒
- 「迎えに来たんだ」
「終わらせるのが、約束だったから」
- 12 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時44分21秒
- nothing
- 13 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時45分01秒
- is
- 14 名前:07 音楽 投稿日:2003年07月20日(日)01時45分37秒
- everything?
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