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しるし

1 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時21分06秒
しるし
2 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時22分41秒
オリジナルには赤のしるし
コピーには黄のしるし
木偶には青のしるし

自分では見ることの出来いない耳の裏に彫られたMの国章
そのしるしの色の意味を知っているのはオリジナルだけ

だけどオリジナルもコピーも木偶も、しるしの色を口にすることは禁じられている
3 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時23分16秒
小さい時、隣に引っ越してきた女の子に恋をした。
とても小さくて丸くて明るくて、こんなに可愛い子が居るんだって惚れ惚れした。
初めて会った時に交わした言葉は今でも覚えている。

「可愛いね」

お互いにそう交わした。
それからは毎日のように会って遊んで、どこに行くのも一緒で仲良く一緒に成長した。
同い年か1個くらい下だと思ってた彼女が先に小学校に行くのを泣きながら見てたっけ。
私の知らない友達と遊ぶようになって、私のうちにもあまり来なくなった。
だけど私は遊びに行ったし、会えばいつも変わらず遊んでくれた。
私は彼女が大好きだった。
4 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時23分55秒
「真里ちゃんのそれ何?」

真里ちゃんちに泊まってひとつの布団でじゃれてた時に、不意に彼女の耳の裏に目が行って、
何かしるしがあるのを初めてみた。
Mに見える文字が真っ赤な色で書かれてた。

「何ってなぁに?」

彼女も自分の耳に何かがあるなんてことは知らないみたいだった。
もしかしたら自分にもあるんじゃないかって思って見てもらったら自分にもあって、
彼女とは違う色、黄色で同じような文字が書かれてた。

「ママたちにもあるのかな?」
「かもしれないね」

彼女と違う色だってことが悲しくて、彼女と一緒が良いと思って私は泣いちゃったけど
彼女はそのくらいで泣くなよ!って私のおでこをコツンと小突いた。
好きな人と一緒が良いって思うのは普通でしょ?
5 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時24分29秒
私はこのしるしがなんなのか知りたかったから帰ってからすぐお母さんに聞いた。

「ママは赤い色なんだね?あ、パパも?」
お父さんもお母さんも私とは違って、彼女と同じで真っ赤な色をしていた。
それがまた悲しくて、自分ひとりのけ者にされたようなそんな感じで、また泣いてしまった。

「真里ちゃんは何色なの?」
「ぅぇっ…、あか…ママたちと一緒の…っく…」
私がそういったらお母さんたちは顔を見合わせてすごく申し訳なさそうな顔をした。
それがどういう意味の顔だったのか、何を意味しているのかは分からなかったし、
意味なんてあるとは思ってなかった。

「真里ちゃんとお友達で居ることは出来るからね」
返ってきたのはそんなわけの分からない言葉で、ほしかった答えじゃなかった。
6 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時25分11秒
「ねー真里ちゃん学校に好きな人居る?」
彼女はとても明るくて元気で楽しい子だったから学校で有名だったし、人気もあった。
学年が違うし校舎も違うのに私のクラスにまで彼女の噂が入ってきてた。

「そんなの居ないよー真希は居るの?」
あの時は嬉しくて素直にその言葉を受け取って自分にもチャンスがあるってことを喜んだ。

「真里ちゃんが好きだよ」
だからすぐにそう答えた。
そしたら彼女はにこっと笑顔をくれて、「矢口も好きだよ」ってくれたんだ。
すごく幸せだった。
先に中学校にあがった彼女と生活スタイルが変わってなかなか会えなくなっても
その言葉を信じて、その言葉があったからしるしのことなんて忘れていられたんだ。
7 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時25分52秒
中学校にあがったら彼女は高校生で、なかなか同じ時間を過ごすことは出来なかったけど
毎日先に出る彼女を部屋から見送ってた。
彼女の周りには男の子も女の子もいっぱいいて、なかなか一人で居る時がなかった。

一度部屋に遊びに行って居た時、インターホンが鳴って私の知らない人が彼女の部屋に入って来たことがあった。
今日は私と遊ぶ約束をしているのに、ずっと一緒に居る約束なのにどうしてなの?って思って泣きそうになったっけ。

入って来たのは彼女と同じクラスの人らしい男の子で、私の顔をにやにやと見ながら厭らしそうに笑った。
彼女の友達にあんなに厭らしい顔をする友達が居たことが少しショックで、少し悔しかった。
自分の知らないところで自分の好まない友達を作って遊んでる。
私がそのことを咎めることもできないしすることもなかったけど。
8 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時26分30秒
「なんだ、この子のこと?いつも言ってるのって」
「ちょっ、何言ってるのよ」
悔しくて顔を背けてたら聞こえて来た男の子の声
いつも言ってるってどういうことだろう?

「へぇ…趣味悪いんじゃねぇの?」
「帰ってくれる?大体いきなり来ないでよ」
何を話してるのか分からなかったけど、彼女が迷惑そうにしているのはすぐに見て取れた。
だから私は立ち上がって男の子の胸倉を掴んで部屋の外に放り出した。

力はあったから…。
同じくらいの体格なら男の子にだって負けなかった。
だけど男の子は「何すんだてめぇ」とか叫びながら私の胸倉を掴み返して殴りかかろうとした。
9 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時28分31秒
「痛っ」
だけどその拳は彼女の小さな顔に当たって、彼女はその場に蹲るようにして倒れこんだ。
それを見てカッとなった私はやり返そうとしたけど、男の子が驚いて逃げ帰っていったからもう何もしなかった。

「真里ちゃん大丈夫??真希なんかかばわなくて良かったのに」
彼女のことが心配でそう声を掛けたのに、彼女は相変わらずの笑顔を見せて、
「真希が痛い思いするのみたくないしね」って言った。

それから冷えたタオルで冷やしながら先ほど気になった言葉の意味を聞いた。

「いつも言ってるって何?」
いつも遊んで遊んで言ってるめんどくさい子が居るとかかな?
何を言ってるんだろうってすごく心配で、ドキドキしながら言葉を待った。
だけど出てきた言葉は私の心を嬉しくさせた。
10 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時29分02秒
「慕ってくれてる可愛い子が居るって言ってるんだよね」
ほんの少し恥ずかしそうにしながら言う彼女がまた嬉しくて、
「それだけ?他に何か言ってないの?」
って、欲張ったことを聞いた。

「矢口ね、好きな子が居て、それは年下の女の子なのって友達に言ってるの」
「…真希のこと?」
コクンと深く頷く彼女の目に偽りなんかはなくて、一方通行かもしれないって思い始めてた気持ちが
救われて思わず涙がボロボロと出た。
「馬鹿だなぁ泣くなよぉ」
零れてきた涙を手で拭ってくれて、優しく小さな手で頭を撫でてくれた。
11 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時30分10秒
それから彼女は高校を卒業して、短大に入って、また別々の生活になりそうだったけど、
毎日会いに来てくれたし、休みの日には遊びに行ったし、すごく幸せな日々が続いてた。

彼女が成人するまでは。

「お誕生日おめでとうやぐっつぁん」
高校を出てから、真里ちゃんって呼ばれるのが恥ずかしいと言い出した彼女の希望で呼び方も変わって、
「ありがと、ごっつぁん」
呼ばれ方も変わって、少しずつ大人になっていくのが分かった。
彼女が20歳の誕生日を迎えたその日、何年も掛けて積み重ねてきたものが音を立てて崩れていった。
12 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時30分46秒
耳の後ろにしるされた色の意味を知るときが来たんだ。
お祝いをふたりでやって、遅いのかもしれないけど初めてのキスもして、すごく幸せ一杯で別れた後だった。
彼女が泣き声で電話をしてきた。

「泣いてちゃわかんないよ」
掛けてきてからずっと泣いたままで何も言葉を出さない彼女がいつもとは違ってて、
さっき別れたときは笑ってた彼女に何があったのか分からなくて不安に駆られた。

「今から会いに行ってもいい?ううん、行くから待ってて」
部屋着のまま互い違いのくつを履いて大急ぎで彼女の住む隣のうちへと走った。
だけど彼女に会うことは出来なかった。
13 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時31分16秒
「どうして会わせてくれないんですか?」
玄関には彼女のおばさんが居て、彼女が泣いていることを訴えても何を言っても中に入れてくれることは無かった。
すぐ上に漏れる灯りを下から見上げても彼女が顔を見せることもなくてその場でしばらく待っても何も変わらないって分かった。
だからうちに帰ってすぐに電話を掛けた。

「やぐっつぁん、何があったの?おばさんたちに怒られたの?」
何を聞いても、何て訴えても返事は返ってこなかった。
聞こえてくるのは声を殺して泣く彼女の細い声だけだった。
14 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時31分49秒
「真希じゃ力になれない?」
「やぐっつぁんが泣いてたら真希も悲しいよ」
「落ち着いたらでいいから」

色んな言葉を掛けた。
優しい言葉ばかり何個も何個も掛けた。

ねばってねばって、最後に彼女はこう言った。

「もう一緒には居られない」  と。

低く、しゃくりあげるのを抑えながら静かにそう言った。

「な…に言ってるの?さっきまで一緒に笑ってたよね?急にどうしたの?」
だけど彼女は答えをくれず、
「色が…」
とだけ言って電話を切った。
15 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時32分37秒
耳に聞こえて来たツーツーという無機質な音。
それが耳の中を通って頭の中をかき回しているような感覚になって、気が狂いそうだった。
掛けなおしても電話には出てくれず、会いに行っても追い返されて…
訳がわからなかった。

最後に彼女が言った「色」
ずっと忘れてたけど思いだした。
ずっと昔に、耳の後ろにしるされた文字の色が違うって泣いたことを。
同じ模様なのに色が違う、そのことが悲しくて親に聞いたことを思いだした。

あの時お母さんは言った。

「真里ちゃんとお友達で居ることは出来るからね」

あれはどういう意味なんだろう。
そういえばお母さんたちも真里ちゃんと同じ色をしている。
私ひとりだけが黄色で、私一人だけがのけものだったのを覚えている。
16 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時33分17秒
「色の意味を教えて」
お母さんに聞くしかないと思った私は、寝ていたお母さんたちを叩き起こして問いただした。
その質問にお母さんはすぐに答えをくれなかったけど、私が泣いていることに気付くと、
お父さんと何かをぼそぼそと話したあと、リビングに移動をして口を開いた。

「真里ちゃんは今日で成人だったかな?」
「うん」
「真里ちゃんは赤だったかな?」
「うん」
ふたつの答えを聞いてお父さんとお母さんはハァ…と深く溜め息をついた。
そして顔をあげてこう言った。

「この世界にはみっつの人種が居る。人種というべきなのかは分からないがみっつの種類がある。
赤、黄、青のみっつがあって、それぞれに意味がある」
17 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時33分53秒
「もったいぶってないで教えて」
「本来、色の意味を知らないで過ごすものがほとんどなんだ、知るのは赤をしるした者だけ」
お父さんは言ってもいいものなのかというような顔をしながらお母さんの顔をうかがいながら言葉を続けていた。
「赤はオリジナル、生まれながらに人間なんだ。黄はコピー、誰かの種をもとにして作られた人工人間、そして青は―」
「待って!」
言っている意味が分からなかった。
人工人間ってなに?
みんな人間じゃないの?
同じに親から生まれて同じに機能する人間じゃないの??
「…どうした」
「…続けて」

「青は木偶、人間の言うことを聞くためだけに生まれたロボット」
18 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時34分25秒
「オリジナルとコピーは一緒になることは出来ない」
「オリジナルはオリジナルと、コピーはコピーとしか一緒になれない」
「成人したらオリジナルは色の意味を知らされる」

「誰がっ、そんなこと!!」
「法律で決まっている。数百年前の流行り病で人工を急激に減らしたこの国は、
オリジナルだけでは機能しない国になっていた」
「お父さんとお母さんはオリジナルなのに真希はどうしてコピーなの??」
「お父さんには…子種がなかった…」

それから後の言葉はもう何も聞こえなかった。
お父さんもお母さんも何かを言い続けていたけど何も耳に入らなかった。
19 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時35分00秒
彼女は赤。
彼女はオリジナル。
私は黄。
私はコピー。

一緒になれないならどうして最初から離してくれなかった。
こうなるって分かっててどうして傍に居させた。
決まりを打ち破ることは出来ないの?
彼女が応えてくれるなら一緒にいるために何だってする。
オリジナル、コピー、木偶、そんなことは知らない。
好きなら好きで一緒にいたい。
そう思うのはおかしいの?
いけないことなの?
20 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時35分35秒
「一緒になれなくても傍に居てもいい?」
気持ちの整理もつかないままに彼女に電話を掛けてそう尋ねてみた。
だけど返ってきた言葉は
「傍に居ると取り返しがつかなくなる」だった。
取り返しがつかなくなるということは、掟を破ったものは罰せられるからだろう。
その罰の種類はムチ打ちであったり死刑であったり様々だと聞いた。

「じゃあ…最後にするから聞いてもいい?」
「うん…」
好きな人が拒んでいる以上無理強いは出来ない。
最後にこれだけ聞いて終わりにしよう、そう思った。
21 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時36分07秒
「私のこと好き?」

数秒だったのだろうけど数分にも数十分にも感じられた沈黙のあと聞こえてきたのは

「好き」

私がオリジナルだったら。
彼女がコピーだったら。

考えても仕方ないけど考えずにはいられない。

次に生まれてきたときはどっちでも良いから彼女と一緒が良い。
22 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時36分47秒
「何してるの?」
「あ…なっち…」

部屋に篭って大きなモニターを見つめながら座っていたらなっちに声を掛けられた。
なっちは小さい時から一緒にいる幼馴染でここで一緒に監視をする同僚。

「カオは何度も何度もここに来過ぎっしょ、悲しくなっちゃわない?」
「うん…悲しいよね…だけど見ずにはいられないの」

「この国の人たちは…知らないんだよね…」
「うん…」

なっちにも私にも体のどこを探したってしるしなんかは無い。
私達だけじゃない、人間にしるしなんか無いんだ。

それなのにしるしに翻弄されている人達がいる。
そのことを伝える術はないけれど。

オリジナルには赤
コピーには黄
木偶には青

そんなものは存在しない
23 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時37分09秒
−FIN−
24 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時37分39秒
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25 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時38分04秒
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26 名前:44 しるし 投稿日:2003年03月16日(日)23時38分30秒
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