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42 半分の月。半分の太陽。
- 1 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時30分46秒
- 42 半分の月。半分の太陽。
- 2 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時34分12秒
- 《警告》
以下の話は若干の性的表現を含みます。
そういう話が嫌な方は避けてください。
- 3 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時37分13秒
- 初めて会った時に一目で恋をした。
高校に入学しての最初の夏休みもそろそろ終わりかけていた8月のある日に、別の高校に通っている中学時代の友達から電話がかかってきたのが、この恋のはじまりだった。
「ねえ、あさ美。合コンしない?」
「合コン?」
「ん。うちの学校の男子がね、あさ美の中学の時の卒業写真見たら会いたいって言ってるんだ。」
「え・・・。」
ちょっと戸惑ってしまった。
「いや、無理にとは言わないよ。でも結構いい人だと思うけど。あさ美もさ、そろそろ彼氏の一人もいたほうがいいと思うよ。勉強ばかりしてないでさ。愛ちゃんや、のんちゃんも来るってさ。」
そうかもね。この夏休みは少しだけバイトをしたけど、何もいいこと無かったし、久しぶりに中学時代の友達と会うのもいいかもね。
「うん。里沙ちゃん。行くよ。場所と時間教えて。」
約束の日になり、わたしは合コンの場所に向かうために、自宅から海岸通りを走る路面電車に乗った。家の軒先を縫うようにして電車はゆっくりと走って行く。やがて家並みがとぎれて国道と平行して走り始めた。
国道の脇に連なる堤防を越えると海だ。
- 4 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時40分19秒
- もう夕方と言ってもよい時間ではあるけど夏の日差しがまだ残っている。
暗い紺色をした海に点々とサーファーの人や泳いでる人の影が見えていた。
駅に停まるたびにヒグラシゼミの声が外の熱気と一緒に扉から侵入してくる。
(この時間帯、わたし好きだな。)
窓の外を見ながらそう思った。
真昼の皮膚を突き刺す暑さが緩み、全身をまるで綿のように包む気怠い夜の空気が忍び寄ってくる、この時間。
昼と夜の間のつかの間の逢魔ヶ刻。
約束の場所は路面電車終点のJR駅前の雑居ビルにあるカラオケボックスだった。男の子を紹介されるなんて初めてだから、何を着ていっていいものか家で迷ったために開始時間からもう10分くらい過ぎていた。結局、今日の衣装はノースリーブの薄い水色のワンピースと素足にローヒールのサンダル。
急いでカラオケボックスの入り口の階段を駆け上り、さっきメールで教えて貰った部屋番号を探した。夏休みということもあってかどの部屋も人が入っていて、ロビーとかにも順番待ちの人がいる。
(15番。15番。)
15というプレートがついた部屋を見つけ、その部屋のガラス扉ごしに中をのぞいてみた。
- 5 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時41分55秒
- その時、一人の男の子と目が合った。
その部屋の他のお客はモニター画面の方を見ていて、こちらからは顔が確認できない。
(この部屋だよね・・・)
でも確信が持てないでいると、さっき目があった男の子が軽く笑って手を「やあ。」という感じに小さく上げた。笑うと目尻が下がって愛嬌のある顔立ちになる。彼は人差し指を立てて、ここだよという素振りをした。
初めて会った時に一目で恋をした。
思い切って扉を開けて中に入ると、その気配に気付いてみんなが振り返る。
「あさ美ちゃん。待ってたよ。遅かったの。」
愛ちゃんが中学の時と変わらない、オランウータンのように目を真ん丸くした笑顔で言う。知っている顔を見てちょっとホッとした。
「あっ。あさ美ちゃんやっと来たんだ。もう、先に始めていたよ。」
幹事役の里沙ちゃんが立ち上がった。テーブルの上には飲み物やら大皿に盛られたピザやスパゲッティーの類が既に来ていた。
- 6 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時43分49秒
- 「えっと、あさ美ちゃんはまこっちゃんの隣に座って。」
里沙ちゃんが指さした先には、さっき笑いかけてくれた男の子がいた。
里沙ちゃんが電話で言っていた私に会いたいと言っていた男の子は、きっとこの子の事だろう。
「みんな、揃ったみたいだから自己紹介しようよ。」
ということになった。今日の面子は女の子側が里沙ちゃんの友達関係4人。男の子側が里沙ちゃんの彼氏(中学時代の同級生で私も面識がある)の友達関係4人という内訳だ。
まこっちゃんと呼ばれた男の子は
「オガワマコトです。」
と名乗った。男の子にしては甲高い、まだ声変わりしていない感じの声だったけども、妙に耳触りが良くていつまでも声が耳の中に残っている様に思えた。
「何を飲んでいるんですか?」
それが私とまこっちゃんの初めての会話だった。
「んふふ。水だよ。飲んでみる?」
語尾が溶けるような独特のしゃべり方だ。
手に持っていたレモンを縁に挿して、氷が一杯つまって表面に汗をかいているグラスを私の方に差し出した。
- 7 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時44分56秒
- 「嘘つけよ。ジントニックだろ。」
脇の男の子からつっこみが入ったけど、もう一口飲んでしまった後だった。私の口の中にトニックウォーターの酸味とジンの舌を刺激するようなアルコール分が広がった。
「うわぁ。お酒ですね。」
びっくりして素っ頓狂な声を上げてしまった。
まこっちゃんが楽しそうに笑う。
「ごめんごめん。悪気があったわけじゃないからさ。気付くと思ったんだけど。」
(何か爽やか好青年って感じだなぁ。)
ジュースを貰って飲みながら、まこっちゃんをさりげなく観察してみた。
色が抜けるように白い。まつげが長い。髪の毛は少しくせっ毛っぽい。今日の髪型はムースで髪を上げて額を出している。よく笑う。笑うと目尻が下がって細くなる。真剣な顔をしている時は少し怖い顔をする。結構、歌は上手い。
たった一口だけなのに、酔いが回ってきたのか頭がポーっとしてきた。
いい気持ち。
「あのう。」
まこっちゃんが「ん?」というように私の方に顔を向けた。
「小川さんって、色が白いんですね。」
一斉に笑い声が起きる。私はなんか恥ずかしくなってしまった。
- 8 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時47分17秒
- まこちゃんは微笑みながら、私の方を見て
「まあね。俺はもっと黒い方がいいけど何故か日焼けしないんだよね。声もなぁ、なんか甲高いし。声変わりしたのか、しなかったのか分からないよ。身長もあと10センチは欲しいけど、まだまだ子供っぽいんだよな。俺。まあ、こまだまだ成長期だから将来に期待かな。」
と少し外した私の質問にも気にしてないように答えてくれた。
好きという気持ちが心の内側に高まってくる。
合コンもそろそろお開きかなという頃に、まこっちゃんは紙ナプキンに携帯番とメール番を書いて渡してくれた。
「よかったら、連絡してよ。」
息がかかるくらいの距離に顔を寄せて耳元で囁く。
私の心臓の鼓動が速くなった。
私も紙ナプキンに走り書きしてまこっちゃんの手の中に押しつけた。
(心臓のドキドキという音を聞かれちゃたかな。)
(慌ててメモを押しつけたけど、しょうがなく書いたって思われないかな。)
なんて、別れた後になってから色々な感情が沸き上がってきた。
恋愛初心者は試行錯誤だなって思った。
- 9 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時48分40秒
- 次の日、連絡しようかどうか携帯とにらめっこしながら迷っていると、まこっちゃんの方から連絡を入れてくれた。花火大会を見に海へ行かないかというお誘いだった。花火大会といっても自宅の目の前の海岸でやるんですけど、という事はどうでもよくって、とまこっちゃんとの初デートが嬉しくて、犬みたいにしっぽを振って
「行きます。」
と答えた。
当日は気合いを入れて浴衣を着た。紺色の地に赤と白の金魚の泳いでいる柄だ。それに黄色の帯を合わせる。
待ち合わせの場所に小走りになって向かった。
なれない浴衣の裾が足にまとわりついて、思うように走れない。
でも心だけは前に前に進んでいく感じ。
まこっちゃんは待ち合わせの場所に既に来ていた。
「まこっちゃん。待った?」
私の声に気付いて笑う。
良かった。自然に『まこっちゃん』て呼べた。
手をつないだ。
花火は海の上に組まれた浮島から打ち上げられる。海岸に近づくに連れて、人通りが段々多くなり、ともすると離ればなれになりそうになってきた。今、二人を結んでいるのは、つないだ手のこの小さな温もりだけだ。
- 10 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時49分48秒
- 「大丈夫?」
「何が。」
「俺、歩くの速くない?辛かった言ってよ。」
「ん・・・大丈夫。」
なんか恋人同士の会話って感じだな。ちょっと幸せ。
つないだ手をもう一度握り直す。
夕暮れの海岸で一緒に打ち上げ花火を見た。
屋台のかき氷を一緒に食べた。まこっちゃんはブルーハワイ、私は練乳をかけた。
まこっちゃんの舌が青く染まって、お腹が痛くなるほど笑った。
一緒に金魚すくいもした。
まこっちゃんは何と小さな銭亀をすくった。
わたしは一匹もすくえなかったけど、おまけで黒い金魚をもらった。
家に送ってもらう帰り道のコンビニの駐車場の暗がりで初めてキスをした。
くちびるとくちびるが軽く触れただけの、たった一秒足らずのキスだった。
でも、いつまでもいつまでも、まこっちゃんのくちびるの感触がわたしのくちびるに残っていた。
たぶん、一生忘れないと思う。
- 11 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時50分41秒
- いつからだろう。二人だけの「秘密の遊戯」を始めたのは。
たぶん、両親が親戚の法事かなんかでいなくなった9月の日曜日のことだと思う。妹も友達と遊びに出かけて、家には私以外には誰もいない。そんな日曜日だ。
「今日は家に誰もいないの。」
そんな陳腐な誘い文句でまこっちゃんを家に呼んだ。
何回かキスもして、そろそろ次のステップに。なんていう下心も無かった訳じゃなかった。
つきあってみて分かったのだが、まこっちゃんは私の今まで見たことのある男の子と少しタイプが違っていた。どんな男の子でもどこかしらは性の匂いがするものだ。ひげが濃くなる。声が変わる。汗の中に男の子らしい臭いが混じる。
まこっちゃんは植物みたいな男の子だった。
もちろん、男の子らしく友達の中ではちょっとエッチなジョークを言ったり、私と歩いていても、可愛い女の子が通るとちらっと見たりした。
でも、まこっちゃんには性の匂いを感じられなかった。まこっちゃんからは、まるで山奥にひっそりと咲いている隠花植物の様な雰囲気をいつも感じていた。
- 12 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時53分55秒
- 「秘密の遊戯」の話だ。
その日、
「あさ美、シナモンチョコの奴好きだったろ。」
って笑いながら、まこっちゃんはミスドのドーナッツをおみやげに持ってきてくれた。
「いま、飲み物持ってくるよ。」
まこっちゃんを自分の部屋に案内してから、私はキッチンに向かう。まこっちゃん用にはコーヒー、自分用にココアを用意して、自分の部屋の扉を開けた。
まこっちゃんは出窓に置いてあった、金魚鉢を立って見ていた。金魚鉢といっても、100円ショップで買ってきたプラスチックの水色の透明なボウルに水を張り、まこっちゃんとの初デートでもらった黒い金魚と水草を入れただけの物だ。
「これ、この前にすくったものだろ。一人じゃ寂しそうだよね。」
まこっちゃんがこちらの入ってきた気配を感じて言う。
「友達を入れてあげたら、きっと喜ぶよ。」
「ん。そうする。今度いっしょにペットショップ行こう。」
ドーナッツを食べながらたわいも無い会話をする。卒業アルバムを見せたり、昔の写真を見せたりした。
- 13 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時55分22秒
- ふいに会話が途切れた。
急に、まこっちゃんの存在が感じられた。いつの間にか、片腕と片腕が密着するくらいに近くに寄っていた。
まこっちゃんの顔が髪の毛に近寄る。
こんな時どうしていいか私には分からなかった。
でも、自然にまこっちゃんのほうに顔が向いていた。
キスをする。長い長いキス。ドーナッツのパウダーシュガーとコーヒーのアロマの混じった味がした。
まこっちゃんの手が胸に伸びてくる。
「いい?」
まこっちゃんがかすれた声で囁く。
わたしはうなずいた。
不器用な愛撫。服の上から乳房を力まかせに強く揉まれる。
まこっちゃんの手がわたしのスカートの中に忍び寄る。
スカートがめくれ上がり、下着が露わになった。
ゆっくりと下着が下ろされる。
まこっちゃんの指がわたしの大事な場所に触れてきた。
「ぐにゃぐにゃしてる。」
まこっちゃんが小さな声で耳元で言う。
「いやっ。」
しかし、体は動かない。まこっちゃんのなすがままだ。
まこっちゃんの指がわたしの中に入ってくる。
- 14 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時58分02秒
- 「動かさないで・・・。」
まこっちゃんの指が根本まで入り、ゆっくりと中で円を描くように運動し始めた。
「あさ美ちゃん。濡れてるよ。」
確かに最初は抵抗のあった指の動きがスムーズになっているのを自分でも感じていた。顔がカッと熱くなるのが分かる。
「いやぁ。止めてぇ・・・」
「止めないよぉ。」
意地悪くまこっちゃんは指の動きを早くした。
わたしの下半身の力が抜けてくる。
もう、どうでもいいという気持ちになってきた。
まこっちゃんならいいよ。
まこっちゃんとならいい。
そう、ぼうっとなった頭の片隅で考えていた。
でも、この日はここまでで最後まで行かなかった。
そして、ついに最後まで行く日は来なかった。
それからも度々、まこっちゃんとは、この「秘密の遊戯」をした。段々、慣れてきていわゆる「いく」という感覚も、おぼろげながら分かってきたし、気持ちもそれなりに良かったけれど、いつも最後まで行かないのは不思議な気分だった。
わたしだって、男の子と女の子がどういう事をするのかという知識がない訳じゃないし、その時の男の子の体の変化も分かっている。
- 15 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)22時59分12秒
- ある時に、「秘密の遊戯」の時に、まこっちゃんの男の子の部分にさりげなく触れてみたことがある。
まったく変化していなかった。
小さなふくらみだけを手の中に感じただけだった。
まこっちゃんはわたしの事を愛してくれていると思う。
優しいし包み込んでくれる。
でも、最後まで行くことはなかった。
里沙ちゃんに何気なく聞いてみたこともある。
彼氏は求めてこないって。
里沙ちゃんの答えは
「もー。断るの大変だよぉ。」
ということだった。
そうか。普通はそうだよね。
季節は秋から冬へと変わっていった。
恋人達の最大イベントのクリスマスの季節。
12月になってから期末試験やらバイトやら色々あって、メールとか電話だけの連絡で直接はなかなか逢えない日が続いていた。
「12月24日は絶対逢おうね。」
何度も何度も確認した。
まこっちゃんは相変わらず優しい。
わたしがしつこく確認する度に律儀に「Yes」の返事をくれた。
流石にクリスマスは、最後まで行けるよね。
バイトで貯めたお金でまこっちゃんにプレゼントを買おう。
それから・・・。
- 16 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)23時02分01秒
- でも12月23日の晩にまこっちゃんから電話がかかってきた。
「ごめん。もう会えない。何も聞かずにさよならしよう。」
って言われた。
そして、それから全くまこっちゃんと連絡が取れなくなった。
酷いよ。そんな話ある?
まこっちゃんの友達から、まこっちゃんの住所を聞き出して、まこっちゃんの家に直接行った。
わたしの家の最寄りのJRの駅から2駅ばかり行った街の駅前から少し歩いた住宅街の一軒家がまこっちゃんの家だった。
(ここか。)
手にしたメモの住所と何度も見比べてみる。
でも、その家の前に立った瞬間に嫌な予感が拭えなかった。
その家はどう見ても生活感というものが感じられなかった。
窓にはカーテンが無く、庭にも洗濯物も車も、人が住んでいるなら必ずあるだろう雑多な物が全く無かった。
表札には小川と書いてある。
しかし無人の家。
絶望感に押しつぶされそうになりながら、インターフォンのボタンを押す。
一度だけではなく、二度三度と押す。
何の反応も無かった。
庭に周り、素通しのガラス窓からリビングの使われていたと思われる部屋を覗いた。
がらんとした室内。家具など何もない。
誰が見ても、主のいない家だ。
- 17 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)23時03分10秒
- たまたま、隣の家のおばさんが庭に出て草むしりみたいな事をしていたので、思い切って訊いてみた。
「小川さんはどこに引っ越されたのですか?」と。
答えは「存じておりません。」との事だった。
まるで逃げるように慌ただしく引っ越していったらしい。
(夜逃げ?)
そうなの?でも、そんな素振り全然見せなかったじゃん。
わたしは、まこっちゃんの友達の中で、より詳しい情報収集してみた。
驚いた事に、まこっちゃんは2学期で学校を辞めていた。でも、まこっちゃんの友達の誰もが、何処に引っ越したのかは知らされていなかったのだ。
まこっちゃんは、まるで煙のように誰にも知らせずに、私たちの前から消えてしまった。
一月。二月。と日は流れていく。
わたしはその時期、結構凹んでいた。
まこっちゃんがわたしの事を嫌いになったから、姿を消した訳じゃないと分かっている。家庭の事情だ。そう、頭では理解できても、しばらくは恋愛できそうな気分になれなかった。
里沙ちゃんとか愛ちゃんは「忘れなよ。」って慰めてくれるけれど、自分の中でびっくりする位に、まこっちゃんの存在が高まっていたのを知って、我ながらびっくりする。そんな、毎日を過ごしていた。
- 18 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)23時05分42秒
- 「この指があの人のことを覚えている」と書いたのは川端康成だったけ。
わたしも、まこっちゃんの指の感覚を体の中に覚えていた。
そして、ときどき反芻したりしていた。
まこっちゃんが最後までいかなかったのは、こんな日がくることを見越した、まこっちゃんらしい優しさだったのかな。
3月になり、ゆっくりと春が私たちの街にもやってきた。
わたしがまこっちゃんを再びみかけたのはテレビのニュースの中だった。
桜便りがやってきましたというローカルニュースだ。
私たちの街は、海岸沿いにあるから暖流の影響もあって、おなじ緯度にある他の地域よりも、いち早く桜が咲く。
テレビのニュースでは桜が咲き始めて花見客が来ていますと、とある桜の名所と言われる公園からアナウンサーが実況中継していた。その脇を、まこっちゃんが一瞬だけ映った。ほんの数秒の画像だけれども、カメラ目線になりしっかりとこちらの正面を向き、顔が確認できた。
(まこっちゃん?)
見間違えるはずはない。
でも、まこっちゃん何故そんなかっこうしているの?
混乱した。
- 19 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)23時07分22秒
- でも、まこっちゃんが着ていた制服のデザインを頭にたたき込んだ。忘れないうちに本屋に走り、県内高校制服一覧という受験生ようの案内書を立ち読みして、まこっちゃんの制服の高校を確認した。
次の日、気持ちを抑えきれずに、まこっちゃんが通っていると思われる高校に向かった。JRに乗ってもかなり遠い、県の外れにある都市の高校だ。
今は、たぶん春休みだろう。でも、昨日のニュースでも制服を着ていたから、クラブか補習かは分からないけれども、学校に来ている可能性は高い。
そんな、確信めいた物があった。
校門の脇で2、3時間待っただろうか。
(なんか、ストーカーみたいだな)
でも、一度きちんとまこっちゃんと話しておきたかった。
このまま、もやもやと終わるのは嫌だ。
まこっちゃんだ。
一人で下を向いてこちらに向かってくる。
「まこっちゃん。」
わたしは思い切って声をかけた。
まこっちゃんはびっくりするように、顔を上げる。
「やあ、あさ美ちゃん。」
セーラー服を着たまこっちゃんは、相変わらずの笑顔で笑ってくれた。
「ごめん。何も言わずにあさ美ちゃんから逃げちゃって。やっぱり、きちんと話して方がいいよね。」
- 20 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)23時08分32秒
- 二人で花見山公園に向かった。昨日、ニュースでやっていた場所だ。
桜は五分咲きといったところか。それでも、辺りは桜色にぼんやりと薄雲っていた。
「俺さ。女になっちゃたよ。」
まこっちゃんが口を切る。
「もともとさ、俺のあそこって男と女の特徴を持っていたんだ。半陰陽って言うんだって。でも、男の特徴が強かったから男として育てられてきたんだ。女でも男でも通用する麻琴って名前を付けれられたけど、戸籍上は男なんだぜ。」
わたしは何も言えなかった。
「生理が始まっちゃんだよね。去年の秋ぐらいから。俺って本当は女だったみたいだ。ということで本格的に女の子に体を改造することになったんだ。女性ホルモンとか打ってね。結構、胸が大きくなったんだよ。」
まこっちゃんは一寸だけ、こちらを見て笑った。
「あさ美ちゃんのことは本当に好きだったんけどな。男の部分がどうしても反応しないんだよな。女の子とつきあえば大丈夫と思ったけどなぁ。やっぱ、俺って女なんだな。」
言葉通りにまこっちゃんの腰の周りや、胸の膨らみなどが丸みを帯びていて、まこっちゃんが女の子になっているのが私にも分かった。
それは、悲しい納得だった。
- 21 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)23時12分02秒
- 「親が気を使ってさ。学校も転校。家も引っ越しということになって、あさ美ちゃんとは、突然別れる事になってゴメン。」
「うん。いいよ。全然気にしていない。」
辛うじて、わたしはそれだけ答えた。
でも、その気持ちは嘘じゃない。
しばらくの沈黙の後でまこっちゃんは
「無いんだよね。手術で取っちゃったんだ。」
サバサバとしたように言い切った。
「触ってみる?」
今度はわたしが、まこっちゃんに「秘密の遊戯」をする番だった。
不思議と辺りに人影がない。
私たちはひときわ高い桜の樹の根本の陰で「秘密の遊戯」をした。
わたしの手がまこっちゃんのスカートの中に入る。
ふれた瞬間にまこっちゃんが身を固くしたのが分かった。
まこっちゃんの部分は、わたしのものと全く同じ手触りがした。
くぼみに指を入れて動かしてみる。
暖かい物が指先に触れる。
その時、まこっちゃんの悲しみに触れた気がした。
- 22 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)23時13分00秒
初めて会った時に一目で恋をした。
- 23 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)23時13分49秒
- 桜
- 24 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)23時14分13秒
- 咲
- 25 名前:42 半分の月。半分の太陽。 投稿日:2003年03月16日(日)23時15分54秒
- く
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