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40 失踪

1 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時12分01秒
失踪
2 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時12分56秒
 加護が姿を消してしまった。
今日は大切な記者会見があるというのに、
あの程度の事で失踪するとは。

「後藤、連絡とれたの?」

私が首を振ると、圭ちゃんは心配そうに眉間に皺を寄せた。
早速、騒ぎを嗅ぎ付けたマスコミ連中が、ホテルに殺到している。
圭ちゃんとカオリでマスコミを抑えているが、
それも長くはもたないだろう。

「悪夢だべさァァァァァァァァー!」

なっちはパニックになり、紺野に押さえられている。
無理もない。こんな事は、私にとってもパニックだ。
私はこの秋でモー娘を卒業・・・・・・クビになる。
弟の問題やスキャンダルも絡んではいたが、
事務所ではミリオンの夢が捨てられない。
私と松浦、美貴ちゃんの三人で新ユニットを結成させたいそうだ。
しかし、よりによってこんな時に加護は・・・・・・
3 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時13分44秒
「加護にしたら、ショックだっただろうね」

圭ちゃんは来春、モー娘をクビになる。
オリメンとの確執を乗り越え、モー娘を支えて来た圭ちゃん。
『進化し続けるモーニング娘。』なんて聞こえはいいが、
実情は低年齢化を促進するための逃げ口上だった。

「どうしようか」

マネージャー連中は責任問題に発展するため、
事務所への言い訳に忙しく、本気で加護を心配する事は無かった。
ここは待つべきなのだろうが、居ても立ってもいられない。
もう、くだらないスキャンダルなんて、どうでもいい。
スキャンダルのひとつも無いアイドルなんて三流だ。

「待とう。加護から連絡があったら頼んだよ」

そう言うと、圭ちゃんはマスコミを抑えに行った。
待つのは辛い。なぜなら、私は休まずに突っ走って来たから。
私はケイタイを握り締め、ホテルが用意した部屋に入った。
4 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時14分23秒
「真希」

私が部屋に入ると、やぐっつぁんが駆け寄って来た。
実際、私よりも彼女の方が加護の面倒をみてくれている。
世間知らずで子供だった加護を、やぐっつぁんは根気良く教育してくれた。
互いに気が強く、やぐっつぁんと私は、殴り合い寸前まで行った事がある。
それでも、私とやぐっつぁんは、本当の姉妹にように接していた。

「圭ちゃんが待とうって」
「う・・・・・・うん、そうだよね」

そう言うと、やぐっつぁんはチョコチョコと戻って行き、
心配そうな顔をしているよっCの腕に抱き付いた。
こういった時、よっCには存在感があり、頼り甲斐がある。
そのせいか、梨華ちゃんと辻が彼女に抱き付いていた。
誰もが不安で、今にも泣きそうな顔をしている。
特に、仲良しの辻は加護が心配でならないようだ。
5 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時15分04秒
 私は椅子に座り、何度もケイタイを開いては閉じていた。
その度に溜息をつく私を、よっCは悲しそうに見ている。
よっCとは、本当に阿吽の呼吸というものがあった。
コンサートで私のマイクが調子悪い時などは、
交差する瞬間に素早く取り替えてしまったものである。

「あいぼんだ!」

辻のケイタイが鳴り、彼女は素早く出る。
これだけ速い動きは、普段、決して見る事が出来ない。

「もしもし!あいぼん!どこにいるの?」

加護は東京駅にいた。
恐らく、故郷の奈良へ帰るつもりなのだろう。
なっちが壊れた時も、故郷の室蘭へ帰ろうとした。
故郷って、そんなにいいものなのだろうか。
東京出身の私には理解出来なかった。
6 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時15分51秒
私は無意識の内に、辻からケイタイを取り上げていた。
この電話には加護が出ている。あの加護が。

「この馬鹿!今から行くから待ってなよ!」

私は辻のケイタイを放り投げると、東京駅へ向かった。
このホテルから東京駅までは五キロくらいである。
走って行けば二十分くらいで着くだろう。
私がホテルの裏口から飛び出して行くと、
気がついたマスコミ記者が数人ついて来る。
そんな体格じゃ私の足について来れるわけがない。
ところが、私を追い抜いて行くのがいた。

「人騒がせな子ねぇ」

誰かと思えば梨華ちゃんだった。
彼女は足が速い。特に逃げ足が。
振り返ると、よっCと辻も走って来る。
やぐっつぁんもホテルから出て来たが、
厚底靴で躓いて転んでしまう。
やぐっつぁんには無理だ。
7 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時17分31秒
 東京駅周辺は渋滞しているので、走った方が早い。
ノーメークのモー娘が東京駅に現れるなんて誰も思わないだろう。
東京駅構内に入ると、梨華ちゃんは新幹線の方へ向かった。
加護は新幹線で帰るつもりなのだ。

「あの子がお金払いますぅ」

梨華ちゃんは最後尾の辻を指差した。
そう言って改札を抜けて行く。
私は仕方なく千円札を置いて梨華ちゃんに続いた。

「急いでるのれす!入場券、買っておいてくらさい!」

辻の見幕に、駅員が思わず返事をしてしまったようだ。
暑いし息が苦しい。それでも私は加護がいる新幹線のホームへ向かう。
エスカレーターを駆け上がりながら、私はふと、ある事に気付いた。
加護は、何で私に相談しなかったんだろう。
モー娘をクビになったとしても、私は加護の教育係だ。
8 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時18分13秒
そんな事を考えていると、自然に足が止まってしまう。
後から走って来たよっCがぶつかり「わっ!」と悲鳴を上げた。
もしかしたら、加護は私を避けているんじゃないか。
それなら、私はこの場にいない方がいいんじゃないか。
そんな事を考えていても、エスカレーターは自然に登って行く。

「加護ちゃん!」
「あいぼん!」

よっCと辻が私を押し退けて走って行く。
見ると、息を切らした梨華ちゃんが加護の腕を掴んでいた。
加護は私に気付いたようで、悲しそうな視線を向ける。
凄まじい汗が私のティーシャツを濡らして行った。

「あいぼんの馬鹿!」

辻が加護に抱き付いて泣き出した。
9 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時19分05秒
加護は辻に抱き付かれても、私から眼を離そうとしない。
この子のこんな顔を見るのは、本当に久し振りだった。
私は意を決して加護に近付いて行く。

「うちは・・・・・・モー娘におったら・・・・・・あかんのや」

加護は黒目がちの眼に涙を溜め、唇を震わせながら私を見ていた。
私が両手を伸ばして頷くと、加護が泣きながら飛び込んで来る。
逃げ出すような問題ではないだろう。年頃の女の子にはよくある事だ。
まして、こんな芸能界などにいたら、余計にそうである。

「加護!」

振り返ると、加護を心配したみんなが来ていた。
紺野がいないところをみると、入場券を買わされているのだろう。
五人から始まったモー娘は、今や十三人になっている。
気が付くと、みんなが私と加護を囲んでいた。
10 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時20分27秒
「加護、つまらない事で逃げ出すんじゃないよ」

圭ちゃんは無事な加護を見て安心したようだ。
カオリややぐっつぁんも、大きく頷きながら息を切らせている。
影が薄いと言われる五期メン達も、何度も頷いていた。

「モー娘はなっち、圭ちゃん、矢口、真希、石川、吉澤、辻、
高橋、紺野、小川、新垣そして加護の十二人だべさ!」
「・・・・・・なっち、圭織、忘れてない?」

加護は私に抱きついたまま、ボロボロと大粒の涙を零した。
私は彼女の背中を優しく叩きながら、何とか思い留まらせようと、
今回の騒動を考え直してみる。
事の発端は昨夜、加護が写真に撮られた事であった。
11 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時21分07秒
「加護ちゃん、あたしだって小さくて悩んでるんだよ」

加護はノーブラのティーシャツ姿を写真に撮られてしまった。
あれが公表されれば、ぺっちゃんこな胸が暴露されてしまう。
そんなくだらない事で、加護は故郷に帰ろうとしていた。
いつも辻と一緒にされてしまい、それが加護の悩みでもある。
少しでも特徴を出そうとして、わざと大きなブラをするようになった。

「よっC・・・・・・違うんや」

何が違うのだろう。
加護は、それが原因で逃げ出したのではないのか。
私は加護に、何かあったのだと思った。
これほどまでに加護が動揺しているところをみると、
かなりの事が起こったに違いない。
12 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時22分30秒
「何が違うんだべか?矢口なんか凄まじい写真が出ても平気だべよ」
「(カチン!)そうだよ加護。なっちなんかファミコンしてたんだから」
「なっちはキスしてないべさ!」
「何だゴルァ!」

やぐっつぁんとなっちは、とっても仲がいいんだけど、
たまにこうやって足の引っ張り合いをした。
それはまるで加護と辻を見てるみたいで笑える。
私がモー娘に入った頃は、裕ちゃんとあやっぺが仲裁してた。

「ちゃうんや・・・・・・うち・・・・・・とんでもない事を・・・・・・」

そう言うと、加護は私の腕の中で震え出した。
これは尋常な事ではない。私は直感した。
加護はとんでもない事をやらかしたのだろう。
だが、それが何なのか、私には予想もつかなかった。
13 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時23分03秒
「何があったの?言いなさい!加護!」

万引きが見つかった?
そんな事はUFAが解決してくれる。
男関係をスクープされた?
それもUFAが解決してくれる。
問題は妊娠した場合だったが、
それは私が何とかしようと思った。

「つ・・・・・・つんく♂さんを・・・・・・殺してまった」

これには全員が息を飲んだまま、
全く動けなくなってしまう。
とりあえず、全員で加護を連れて東京駅を出て、
駅前まで迎えに来ていた専用バスに乗り込んだ。
14 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時23分53秒
 バスの中で加護はポツリポツリと話し始めた。
加護の話によると、昨晩つんく♂さんの部屋に呼び出され、
ベッドに寝るように強要されたらしい。
つんく♂さんが無理に寝かせようとしたので、
身の危険を感じた加護は重い灰皿を掴んで・・・・・・

「血が出とったし、うちはつんく♂さんを殺してまったんや」

加護は私に抱き付き、声を上げて泣き出した。
確かにつんく♂さんはいやらしい顔をしているし、
最近はロリコンの気があるから危険だとは思っていた。
加護は何度も電車に飛び込んで自殺しようとしたが、
やはり怖くなって出来なかったそうである。
間に合って本当に良かった。

「それって正当防衛じゃないかな」

圭ちゃんは加護に落ち度が無いと思っている。
でも、正当防衛が認められるのは、相手に殺意があった場合。
こちらが無傷で正当防衛など、まず認められないのだ。
殺されてから文句を言え。というのが日本の法律である。
ともあれ、加護がつんく♂さんの部屋から出て来たのを、
いきなり写真に撮られたのだろう。
15 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時24分34秒
しかし、加護もノーブラでつんく♂の部屋に行くとは。
もう少し大人に育てたつもりだったのだが。

「・・・・・・つんく♂さんが発見されるのも、時間の問題だべさ」

このままでは加護が警察に捕まってしまう。
加護だけは守らなくては。守らなくては!
私は混乱する頭を整理しながら、何をすべきか考えた。
その間にも、バスはホテルへ向かっている。
私は加護を抱き締めて言った。

「加護は何も言うな。つんく♂は・・・・・・あたしが殺した」

私にはモー娘をクビになったという動機がある。
問題はつんく♂の部屋の灰皿についた加護の指紋だった。
それさえ何とかなれば、警察は私以外が犯人だとは思わないだろう。
これでいい。どうしようもない姉弟でいいじゃないか。
もう、アイドルなんて嫌気がさしていたところだし。
私は素顔の後藤真希に戻れる時が来たのだ。
16 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時25分08秒
「それじゃ後藤が捕まっちゃうじゃん!」

カオリは私を心配してくれるが、加護さえ守れればいいのだ。
私に憧れてモー娘に入って来たのに、加護には何もしてやれなかった。
せめて、こういった時にだけでも、教育係らしい事をしてやりたい。

「け・・・・・・警察だよ!どうしよう・・・・・・」

やぐっつぁんがホテルの前にパトカーが停まっているのを発見した。
遅かったか?とりあえず、先に自首してしまった方がいいだろう。
案の定、バスが停車すると、数人の警察官が走って来た。

「加護亜依って子はいるかな?」
「ホテルの中で話を聞くからね」

警官は私達をホテルへと誘導した。
17 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時25分52秒
 私達はホテルが用意した部屋に集められ、
警官から幾つか質問を受けた。
私は立ち上がり、警官に両手を差し出して頭を下げる。
話なんかしなくていい。私が逮捕されればいいのだ。

「私がやりました」

警官が私の手を掴む。
手錠を待ちながら俯いていると、
何を思ったか警官は私の手を握った。

「そう、君が説得してくれたの?マネージャーさんから通報されたんだ。
加護さんが自殺するかもしれないってね。いや、良かった良かった」
「へっ?」

全員がキツネに抓まれたような顔をしていると、
警官達は加護から二、三話を聞いて帰って行った。
18 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時26分28秒
その警官と入れ違いに入って来たのは、
何と、殺されたはずのつんく♂だった。
私達は仰天して声も出なかった。

「加護、何を勘違いしとんのや。このアホが!二針も縫ったで」

つんく♂さんは、加護を見下ろして怒っていた。
私には何が何だか判らない。
つんく♂さんが生きてるって事は、
警察は殺人事件の捜査じゃなかったみたいだし。

「発声の指導しよ思っただけや。だいたい、俺はロリコンちゃうで。
一緒に辻も呼んどったんや。なあ、辻」

全員が凄まじい顔で辻を見た。
辻は何でこんな大切な事を言わなかったのか。
でも、考えてみれば加護がちょっと殴ったくらいでは、
大の男が死んでしまうわけがない。
19 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時27分00秒
「てへてへてへ・・・・・・部屋に行くの忘れてたのれす」

辻に期待するのは無理だった。
何しろ、食べる事しか頭に無いのだから。
真っ先に辻の頭を殴ったのが圭ちゃん。
なっち、やぐっつぁん、よっCも殴った。

「ののちゃん、忘れたらあかんの」
「信じられないですよね」
「情けなくて涙出て来た」
「辻さんサイテー」

五期メンにも愛想を尽かされた辻は、
今にも泣きそうになっていた。
梨華ちゃんも辻の頭を小突きながら怒ってる。
加護にも問題はあったが、今回は辻のヴォケだ。
それと・・・・・・つんく♂P。
20 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時28分26秒
「ところで加護、何であんな大きなブラしてるの?」

私には不自然に大きい加護の胸が気になっていた。
最初は関西人特有の見栄かと思っていたが、
どうやら他に理由があるみたいである。
私が訊くと、加護は頬を赤くして恥ずかしそうに言った。

「後藤さんから貰ったもんやろ。あれと同じもんを使うてるんや」

そういえば、加護が家に泊まった時、下着をあげた記憶がある。
まだ加護には大きいと思っていたが、あれを使っていたなんて。
私は何だか嬉しくなって、加護を抱き締めていた。
後藤真希に憧れて入って来た加護に、そんな秘密があったとは。

「この馬鹿。一緒にシャワー浴びるから来い!」

私が部屋に戻ろうとすると、加護が腕に抱き付いて来た。

(ごめんね。甘えさせてやれなくて)



<終>
21 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時28分57秒
22 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時29分29秒
23 名前:40 失踪 投稿日:2003年03月16日(日)21時30分05秒

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