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36 あこがれて
- 1 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時26分22秒
- あこがれて
- 2 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時27分40秒
- 「あぁ、素敵よね……ミステリアスな女って。憧れちゃうな……」
ある日の午後、壁際の席で小説を読んでいた石川梨華は、合掌しながら、夢見る口調で呟いた。
そしてそのまま立ちあがると、くるりと後ろを向いて宣言した。
「決めた! 私、今日からミステリアスな女になる!」
彼女が向き直った先には、大きな円形のテーブルが二つ用意されており、
一方に五人、もう一方に四人と、ロケでグルメツアーに行っている辻希美、
加護亜衣を除いた合わせて九人の少女達が卓を囲んでいた。
- 3 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時29分07秒
- 「おーい、石川がなんか言ってんぞー」
肘をついた姿勢でマニキュアを塗りながら、矢口真里が鬱陶しそうな声で誰にともなく言った。
「またいつもの病気? よくやるわ」
吉澤ひとみ、安倍なつみ等とババ抜きに興じていた保田圭が、安倍の手札から一枚取りながら返す。
「ホント、影響され易いよね、梨華ちゃんて。本読む度、ドラマ観る度に影響されてさ。
こんどは何? ミステリアスな女? ボンドガールにでもなるつもりですか?
前は『お嬢様になる!』とか言ってたよね?
なんにでも『お』をつけて喋ればいいってもんじゃないってーの。シロガネーゼかよ」
保田の手札から選びつつ捲し立てる吉澤の顔には、呆れと嘲りの色が浮かんでいる。
- 4 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時30分00秒
- 「よっすぃー、そんな風に言ったら可哀相だって」
自分の番になり、吉澤の手札の上で右手を迷わせていた安倍は、真顔で吉澤を諌めた。
気まずい沈黙が場を支配し、たっぷり見詰め合った後、カードを引き、再び安倍が口を開いた。
「仕方ないよ、春なんだから。あ、裕ちゃん引いちゃった」
そして二人はまた見詰め合い、吉澤も同じく真剣な面持ちで言う。
「ごめんなさい、全然フォローになってないんで」
「あ、やっぱり?」
途端に互いの頬が緩み、二人は腹を抱えて笑い出した。
一旦笑いが収まりかけても相手につられまたこみ上げ、笑いが笑いを呼ぶ。
椅子から落ちてなお笑い続ける二人の周囲には、それぞれのトランプが散らばる。
- 5 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時30分42秒
- 「二人とも笑いすぎだから。はい、あがりね」
保田は、数が丸見えのカードの中から一枚拾うと、それを最後の手札と合わせてテーブルに置いた。
「ず、ずるいよ圭ちゃハハハハハハハ」
「納得いかクックククク」
「……アホらしい。トイレ行ってくるわ」
保田は席を立ち、一向に笑い止まない安倍と吉澤を残して部屋の扉へと向かった。
扉は部屋の隅、先程から立ったままの石川の正面に向かって左にあり、
保田が部屋を出るには、石川の前を横切ることになる。
すれ違いざま、散々に言われて涙目の石川の肩を叩き、保田が言った。
「もっと現実を見なさい」
保田は部屋を出ていった。
- 6 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時31分28秒
- 「こんなの……こんなの、悲しすぎる……クスン」
石川はその場に弱々しく座りこみ、べそをかき始めた。
「聞きましたか、紺野さん。石川さんがまた訳の分からない事を言っているようですよ。はい、王手と」
吉澤達と同じテーブルで、紺野あさ美と新垣理沙は将棋を打っていた。
「まったく、あの人にも困ったものですな、新垣先生。ほほぅ、そうきましたか。ではこれでどうです」
勝利を確信した新垣だったが、紺野の思わぬ反撃に形勢は逆転した。
- 7 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時32分28秒
- 「うっ……紺野さん、ちょっと待ってもらえませんか」
「いえいえ。いけませんよ、先生。待ったは一日三回までです」
「そ、そこをなんとか……むうぅ」
四度目の待ったは認められず、新垣は頭を抱えた。
「ふむ、長考になりそうですな。……しかし、なんで今更『ミステリアスな女』なんでしょうね。
石川さんなんてもう十分……」
紺野が顎を撫でながら疑問を口にすると、新垣は頭を抱えたまま顔を上げ言った。
「えぇ、十分、ミステリアスですよね。頭の中が。まぁ、今日も放置の方向で」
へたっている石川にちらりと目をやり、新垣が微笑んだ。紺野は少し吹き出した。
- 8 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時33分11秒
- 「お豆ちゃんもなかなか言うねー。おいら凄い感動したよ」
マニキュアを塗り終えた隣のテーブルの矢口が、今度は高橋愛の爪を赤く染めつつ、ニコニコしていた。
「でも、石川さん結構いいとこもあるんですよ。ね、まこっちゃん?」
四面楚歌の石川を不憫に思った高橋は、隣に座る小川麻琴に同意を求めた。小川は寝ていた。
「へー、いいとこねぇ……。ねぇ高橋、石川のいいとこってどんなとこ?ちょっと言ってみ。最低五つ以上ね」
矢口の笑顔はニコニコからニヤニヤに変わっていた。
「あー……えっと、いや、あの、その……えへへ」
高橋は曖昧な笑みを浮かべて俯いてしまった。
- 9 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時33分45秒
- 「矢口。駄目だよ、高橋を困らせちゃ」
それまでずっとファッション雑誌を読んでいた飯田圭織が初めて口を挟んだ。
「カオリね、思うんだけど、石川はさ、秘密が欲しいんじゃないかな。
私も昔、秘密めいて陰のある人に『かっこいいなー』なんて憧れた時期があったから、
今の石川の気持ち、凄く良く解るのね。でも、そういうのは意識してなるものじゃないと思うの。
石川は自然な石川でいるのが一番だし、違う自分を創るなんて心の健康にも良くないよ。
本当はさ、秘密なんて無い方がいいんだよ。秘密っていうのは、誰かに嘘をつき続けることなんだよ。
だから、石川にはいつもの石川でいて欲しいな」
飯田は話しながら石川の傍まで移動していた。そして消沈する石川の背中に優しく手を添えた。
「石川、元気出しなよ」
- 10 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時36分11秒
- 飯田が声を掛けても石川は何も言わなかったが、やがてボソボソと呟きだした。
「そうですよね……。いつも通りの私が一番なんですよね。私が一番……私が最高……。ハッピー!!」
両手を広げて矢のような勢いで石川は立ち上がり、驚いた飯田は尻餅をついた。
「あいたたた」
「おー、バカが復活したぞ」
見事なまでの石川の切り替えの早さに驚嘆し、矢口達は拍手をした。
- 11 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時37分53秒
- その時、ロケに出ていた加護が、ドアから顔を覗かせた。
「あれー? 皆なにしてるんですかー?」
続けて辻が保田と一緒に戻ってきた。
「もう食えねぇ」
「あら、綺麗に収まったみたいね。……つーかあんたら、いつまで笑ってんの!」
安倍と吉澤はまだ笑い続けていた。
「た、助けハハハ、笑いが、フヒ、止まらアッハハハハハな」
「クヒヒヒヒヒし、死ぬぅ」
- 12 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時38分29秒
- 状況が飲み込めない辻は保田に尋ねた。
「おばちゃん、なんかあったの?」
「秘密よ」
保田はウインクしてみせ、辻はトイレへと走った。
- 13 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時39分37秒
- おしまい
- 14 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時40分07秒
- T
- 15 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時40分44秒
- W
- 16 名前:36 あこがれて 投稿日:2003年03月16日(日)03時41分16秒
- O
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