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27 ─ A ─
- 1 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)16時48分15秒
- ─ A ─
- 2 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)16時50分01秒
どうやら不思議の国に迷い込んだらしい。
大好きなイルカのぬいぐるみに魔法をかけられて、気がつくとママの姿はそこになかった。
まるで世界にたった独り取り残されたように、おもちゃ売り場の隅で途方に暮れながら泣いていた。
周りには知らない大人がたくさんいるけれど、みんな表情がなくてオバケみたいだ。
まぶたに溜まった涙のスクリーンを通すと、映るもの全てが泣いているよう。
イルカのぬいぐるみをぎゅって抱き締めると、涙の匂いがした。
それがよけいに悲しくて、また涙が溢れ出した。
- 3 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)16時52分02秒
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ALICE in WONDERLAND
─ A ─
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- 4 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)16時53分23秒
- ─◇
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不思議の国のアリスという絵本を読んだことがある。
アリスは恥ずかしがり屋さんで、せっかくのティーパーティなのに歌を披露することを嫌がった。
何処かへ逃げてしまおうと、アリスは大きなガーデンを駆け出す。
そこで偶然見かけたのは、時計を持って急いでいる白いうさぎさんだった。
そのうさぎさんを追かけて穴に落ちるというお話。
穴の中は不思議の国で、アリスは───
- 5 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)16時54分39秒
- 「どうしたの?」
泣きじゃくる私に、知らないお姉さんが声を掛けてくれた。
お姉さんといっても大人のお姉さんではなかったけれど、
私にはとても大きなお姉さんのように思えた。
「ママ」と言って抱きついたのは、絞めつけられた私の心が行き先を見つけたから。
その時の私にとって、小さなお姉さんはママだった。
「ママがね、いないの」
「そっか、迷子になっちゃたんだね。じゃあ、お姉さんが一緒に探してあげようね」
- 6 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)16時55分24秒
- お姉さんは捨てられた子猫のように、ひたすら温もりを求めて泣く私の手を握って
ママを一緒に探してくれると言う。
大人からしてみればこのお姉さんも子供なのだろうけど、
私には大きくて、優しくて、温かくて…ママと同じ匂いがした。
不安にさせまいと、精一杯胸を張って私を引っ張ってくれる姿を見て、いつしか涙は止まる。
少しむくんだ顔でお姉さんを見上げると、「大丈夫だからね。ママはきっと見つかるよ」
と笑顔をくれた。瞳に映るオバケの中で、お姉さんだけが柔らかく笑っていた。
抱きついた時に胸で聞こえたトクトクという音。
私と同じ音。
この不思議の国では二人だけなんだ。
- 7 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)16時56分08秒
- ───◇
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─◇
「あさ美ちゃーん、お菓子あるよー。一緒に…あさ美ちゃん?」
「里沙ちゃん、だめだって。きっと疲れてるんだよ。そっと寝かしといてあげようよ」
「なーんだ、せっかくチョコレート持ってきたのに。じゃ、まこっちゃん一緒に食べよ?」
「そういうことなら、って、あさ美ちゃんの分はちゃんと取っといてあげないとねー」
「あー!そんなに取ったら私たちの分がなくなっちゃうよー」
「はははっ、そっかそっか。だってあさ美ちゃん食いしん坊なんだもん」
─◇
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───◇
- 8 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)16時57分24秒
- 上の階へと繋がるエスカレーター。
下の階へと繋がるエスカレーター。
大袈裟な二者択一は天国と地獄に似ている。そんな感じがした。
けれどお姉さんはしゃんと胸を張っていて、ぎゅって手を繋いでくれていて、
なんかそんな姿を見たら例えこの先が真っ黒な地獄に繋がっていようとも、
平気でいられるような気がした。
不思議の国の階段を…下る。
「えーと…ここはお洋服が売っているところだね。ママはここにいるよ、きっと」
「うん」
それも束の間の安心感だった。
地獄か暗闇か、私達を迎えてくれたのは冷たい顔でこっちを睨むお人形さん。
マネキンさんこんにちは。
私は今迷子です。
そんな恐い顔、しないでください。
また泣いちゃ───
- 9 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)16時58分13秒
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─◇
不思議な感覚だ。
私を通して私が見える。
羽根も生えていないのに宙に浮いていて。
ヒト、モノ、全てが交わることなくすり抜けて。
手を伸ばしても触れなくて。
『これは遠く幼い頃の記憶』
独りぼっちの私。
絶対的な孤独感は体に重く圧し掛かり、声を枯らせ、心を黒く塗り潰そうとする。
今もまだ同じ、よく似た不安がつきまとう。
ママは私の名前を呼んでくれない。
─◇
──◇
───◇
- 10 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)17時00分00秒
- 「そんな顔してたらみんな怒って見えちゃうっしょ?
笑わなきゃダメだよ。ほら、こうやって…笑ってみ?」
これで何度目だろうか。
お姉さんはまた泣きそうで涙を溜める私に、一生懸命笑って見せた。
知らない人ばかりが渦巻くこの不思議の国では、全てが自分次第だと言う。
ゴォーっと唸る空調も、頬を緩めれば暖かい風。
私を睨む冷たいマネキンも、瞳を大きく開ければ可愛いお人形さん。
すれ違う表情のない大人も、笑い声をこぼせばトランプの兵隊さん。
ん?これは…
- 11 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)17時00分55秒
- ───◇
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─◇
息を吸い込んでも、全身から抜けていくような感覚。
交わらない手と肌、伝わる感覚には温かさも冷たさもない。
また下から足を引っ張られる。
『これは遠く幼い頃の記憶』
けれど少女は泣くことを止めた。
ただ唯一、握る手から伝わる温度があったから。
『これは遠く幼い頃の記憶』
それは怖く、寂しいのだけど、あたたかい記憶。
二人が初めて出会った、あたたかい記憶。
─◇
──◇
───◇
- 12 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)17時02分17秒
- もう一つ、階段を下りた。
更にもう一つ。
「きっとここだ。うん、絶対にいるからね」
「うん」
笑顔で元気をくれるお姉さんに、いつしか私も笑顔を返せるようになっていた。
悲しい素振りを見せると、お姉さんを困らせてしまう。
全てが自分次第というならば…
私はお姉さんの笑顔をもっと見たかったから笑ったのかもしれない。
大きなお庭の小さな冒険。
恥かしがり屋で泣き虫で、寂しんぼだった主人公はやがて…
ゴールはすぐそこにあるような気がした。
チェシャ猫のようににやにやと笑うおばさん。
ハンプティ・ダンプティのようにケンカしているカップル。
あそこでよく喋っている商売上手な店員は、紅茶が大好きな帽子屋さんかな。
- 13 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)17時06分42秒
- いつしか私の瞳に映る人間はオバケではなく、みんな顔には表情があった。
お姉さんが言ってたことは本当だ。
また少し頬を緩めてみた。
するとチェシャ猫は歯を見せ笑い、ハンプティ・ダンプティは疲れ果ててケンカを止め、
帽子屋さんは私に帽子を脱いで挨拶をしてくれたように思えた。
不思議の国だ。
でも怖い暗闇じゃない。オバケもいない。
アリスが迷い込んだ不思議の国と同じ。
みんな私のお友達なんだ。
ならばこの物語の結末は───
「ママっ!!!」
- 14 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)17時08分36秒
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─◇
「ほら紺野、こーんの。今日のハロモニは二本撮りなんだから、そろそろ起きないとダメっしょ?」
「…ふぁ…あ…まま…違っ、あれ…あべ…さん?」
体が大きく揺さ振られ目を覚ますと、そこは不思議の国ではなく普段と変わらない楽屋だった。
いつもならば狭く感じるこの空間も、二人きりだと大きく感じる。
誰もいなくなった楽屋で眠っていた私を夢から目覚めさせてくれたのは、
にっこりとママのような温かい笑みを浮かべる安倍さんだった。
『ママ──』
- 15 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)17時10分02秒
- 「あーもう。また前髪ぐしゃぐしゃになってるよ。直してあげるからこっちおいで」
「あっ、すいません…」
きゅんと胸が温かくなる度に、あの時の感覚を思い出すんだ。
遠い昔に逢ったことがあるのは、私だけの───
「なっちも実は隣の楽屋で眠ってたんだよねぇ」
「そうなんですか…じゃ、安倍さんも私と同じお寝坊ですね」
「はははっ、そうだね」
「それでさっき不思議な夢を見たんだ。なっちがね、小さい頃の夢なんだけど、
なっちよりもっともっと小さい迷子の女の子の手を取って
一緒にお母さんを探してあげてるの。自分も不安なのに精一杯強がって」
『あっ』
「でね、その舞台が不思議の国なのよ。笑っちゃうよね。
こんな年にもなって絵本の世界の夢を見るんだもん。
なっち究極の童顔だから、やっぱ小さい頃から大人のお姉さんに憧れてたのかな。。。
あ、これ他のメンバーには秘密。言っちゃダメだよぉ。恥ずかしいからね、ははは」
- 16 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)17時12分14秒
- これは遠く幼い頃の記憶。
悲しくない、寂しくない、あたたかい記憶。
「はいっ!」
元気よく返事をする。
最高の笑顔で。
そしてアリスは不思議の国から目を覚ました。
不思議の国の出来事はやっぱり不思議な出来事で、
私と安倍さんの間に出来た秘密も、不思議の国の不思議な秘密なんだ。
私もちょっと恥かしいので、メンバーには言えません。
記憶の中のアリスは私で、アリスを迎えに来てくれたのは
きっと、安倍さん。
─ A ─
- 17 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)17時12分48秒
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- 18 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)17時13分24秒
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- 19 名前:─ A ─ 投稿日:2003年03月14日(金)17時14分02秒
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