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24 姉妹シナリオ
- 1 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時09分16秒
- 『姉妹シナリオ』
- 2 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時12分28秒
- リビングでプチクッキーをぽりぽり食べていたら、隣で勉強していた
兄貴が、ひとみ、とやけに重い声で言った。兄貴はなにかの教科書を
開いてはいたけど、集中してない様子なのが、横顔を見れば分かる。
- 3 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時13分47秒
- 「今日、なつみと会うんだろ」
と兄貴は教科書に目を落としたまま言った。あたしが、そうだけどな
んだよ、と乱暴に返したら、兄貴はなにも言ってこなかった。なつみ、
とこの兄貴が呼び捨てにした女性は、安倍なつみさんといって、兄貴
の昔の彼女だ。背がちっちゃくて笑顔のかわいらしい人で、とても兄
貴には釣り合わない、とあたしは思ってた。二人でいるところを見ても、
カップルには見えなかった。誰もが、カワイイ、って思うなつみさんに
対して、うちの兄貴は十人並だ。背も高くないしイケメンって訳じゃな
いし。話は面白いけど芸人ってほどじゃないし。兄貴にはもったいな
いって。
- 4 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時15分03秒
- 兄貴が安倍なつみさんを振ったらしいと母親から聞いたのは、一週
間前のことで、あたしは兄貴にくってかかった。兄貴はあたしの目を見
ずに、他に好きな人ができた、とぼそっと言った。あんたふざけんなっ
てあんないい人振るなんてなに考えてんだよ身の程を知れこの映画
ヲタク! とあたしは関係ないことまで持ち出してキレた。
- 5 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時16分20秒
- あたしがあそこまでキレた理由は、自分でもよく分からなかった。兄
貴が許せなかったというよりも、なつみさんとあたしの関係、彼氏の妹
兄貴の彼女、というのが終わってしまうのが嫌だったのかもしれない。
- 6 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時17分35秒
- なつみさんとは一度だけ偶然に、二人で会ったことがあった。あたし
が高校から帰る途中のコンビニでだ。雑誌を立ち読みしてたあたしは、
横に誰かの気配と、視界の端に茜色の髪した頭が見えたので、目線
をそっちに移した。いたずらっぽく笑っているなつみさんだった。
- 7 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時18分28秒
- 「やっぱりひとみちゃんだ」
そう気さくに話しかけてくれたなつみさんは、兄貴と一緒にいるときよ
り可愛く見えた。コンビニの広いガラスから射し込む春の陽光が、なつ
みさんの顔を照らしていたからかもしれない。あたしはなつみさんに数
秒見惚れて、言葉を失ってしまった。不思議そうな顔をするなつみさん
に気づいて、あ、こんちは、とやっと返事ができた。その遅い反応が面
白かったらしく、コンビニの店内だというのに、なつみさんは大きな声で
笑った。
- 8 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時19分53秒
- コンビニで偶然会ったあの日に、お互いのケイタイを教えあって、メ
アドも交換した。兄貴には内緒で、あたしたちは少しずつ交流を深め
ていった。聞くに、なつみさんは末っ子らしく、『ずっと妹がほしかった
んだよね(^^)』というメールが届いて、あたしは嬉しくて小躍りして、す
ぐにそのメールを保護設定した。
- 9 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時20分45秒
-
『なつみさんとメールしてること、兄貴には言わないでください』
『どうして?』
『そのほうが面白いかなって』
『わかった(笑)』
- 10 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時21分25秒
- 二人の関係を秘密めいたものにしておきたかった。けど、なつみさん
は兄貴と二人で飲みに行った時にバラしちゃったらしく、あっさりと二人
だけの秘密はなくなった。お前なつみとメールしてんだって? って兄
貴から聞かされたその日の晩に、『ごめん、メールしてるって言っちゃっ
た・・』と、なつみさんからメールが届いた。あたしはでも、それもなつみ
さんらしいなって思って、全然嫌な気はしなくて、むしろそんななつみさ
んを可愛いなと思った。
- 11 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時22分16秒
- 兄貴と別れたらしい話を聞いた次の日、なつみさんから『日曜日、暇
?あそぼっか』とメールが届いて、あたしはすぐに『暇です。遊びましょ
う』と返した。ほんとは友達との約束があったけど、緊急事態だと無理
言って、丁寧に謝ってキャンセルした。
- 12 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時23分47秒
- 土曜の天気が雨模様だったから心配したけど、日曜日はしっかりと
晴れてくれて、あたしは普段祈りもしない神様に感謝した。なつみさん
とは、なつみさんのマンションの近くの公園で1時に待ち合わせした。
あたしは少し遅刻をしてしまって、公園に着いたのは1時ちょっと過ぎ
だったけど、公園には誰もいなくて、自転車にまたがったまま、なつみ
さんに電話しようとケイタイ取り出したら、パタパタと駆けてくるなつみ
さんが遠くに見えて、あたしは笑顔でケイタイをしまった。
- 13 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時24分32秒
- なつみさんの部屋は三階にあって、日当たりがよかった。淡色のカ
ーテンがなつみさんらしいなと思った。台所は1年住んだと思えないぐ
らいピカピカで、リビングが少しだけ散らかっていた。いや、あたしの部
屋のほうが汚いけど。
- 14 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時25分34秒
- 昨日から煮込んだらしい、なつみさんの手作りのカレーを食べた。お
世辞じゃなくてほんとに美味しかった。何種類かのスパイスを混ぜてい
るらしい。辛さも兆度良くて、おいしいおいしいと、連呼してたら、そんな
にいわなくても、となつみさんは嬉しそうだった。なつみさんの笑顔を見
て、あたしはさらにカレーが美味しく感じた。
- 15 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時26分21秒
- 話の種になればと持ってきた、いやほんとは一人でやる気になれな
かった英語の宿題を、食事の後に教えてもらうことにした。あたしは数
学とかは得意なんだけど、英語は苦手だ。きっと、海外に興味がない
からだろう。並んで座るなつみさんとあたしの間に、おっさん臭くて嫌わ
れている英語の教師が作った宿題プリントを、鞄から出して広げた。
- 16 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時27分04秒
- 「あんまり英語得意じゃないよ」
となつみさんは申し訳なさそうに言って、プリントを真剣にのぞきこん
だ。髪の香りが漂う。あたしはプリントじゃなくて、真剣な面持ちのなつ
みさんの横顔を見つめていた。わかんないのどこ? となつみさんに
聞かれて、プリントを見ていなかったあたしは焦った。長文の単語を適
当に指さして、これとか意味分からないです、と早口で言った。
- 17 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時28分01秒
- 「sympathy、ね」
「シンパシー? どんな意味ですか」
「同情、共鳴かな」
「聞いたことないです」
「ちょっと難しいね」
そう言って、なつみさんは笑った。ですよねーこんなの出すほうがお
かしいんだ、うん。とおどけてみせた。おかしいおかしいー、となつみさ
んも合わせてくれた。
- 18 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時28分38秒
- プリントを二人で見つめてるうちに話題を失って、ふと無言の空間が
部屋をつつんだ。あたしは静寂を払おうと、言葉を探したけど、いいの
が見つからなかった。なつみさんが口を開いた。
- 19 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時29分36秒
- 「話、聞いたでしょ?」
「え?」
あたしは間の抜けた返事をしたけど、なつみさんの声の感じと、表情
と、雰囲気から、分かってた。兄貴とのことだって。
- 20 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時30分19秒
- 「別れちゃったんだよね」
別の国の言葉みたいに、あたしの耳に響いた。聞きました、と短く答
えると、なつみさんは笑っているような泣いているような、微妙な表情に
なった。それを見て、いや、見てというより、なつみさんの心を感じてか、
あたしは胸が酸っぱくなった。なつみさんの心の震えがあたしの心を震
わせた。
- 21 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時31分05秒
- 「兄貴はバカです。なつみさんをフるなんて」
強い口調で言った。
「ねー」
なつみさんは、笑顔を見せてくれた。
- 22 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時32分06秒
- 「なにか飲む?」
と言ってなつみさんは立ちあがり、台所へ行って冷蔵庫を開いた。あ、
いいです、とあたしは遠慮した。なつみさんは牛乳を出してマグカップに
注いで、そこにインスタントのコーヒーを少し入れると、レンジにかけた。
- 23 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時32分40秒
- 「これからも、妹って、思ってていいかな?」
なつみさんは、レンジの中で回るマグカップを見つめながら、静かに
聞いた。あたしはすぐさま、もちろんですよ!あたしからお願いしたいぐ
らいで! と叫び気味に答えて、あたしの大きな声に少し驚いた様子の
なつみさんだったけど、ほんとに嬉しそうに、微笑んでくれた。
- 24 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時33分18秒
- レンジから電子音が鳴った。なつみさんはマグカップを取り出すと、こ
ぼさないように気をつけながらゆっくりと、あたしのそばに戻ってきた。横
になつみさんが座る。なつみさんは両手で、ホットカフェオレをすすりつ
つ、優しくあたしの方を見た。
- 25 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時33分57秒
- 「いまから、服見にいこっか」
「服ぜんぜん知らないですよ」
「格好ラフだよね」
なつみさんは、あたしをまじまじと見ている。それに少し照れた。
- 26 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時34分43秒
- 「いいんですこれで。楽だし」
「いやいや、妹なんだからね。綺麗にしちゃうよ」
「マジですか」
「目おっきいよねー。メイクしていい?」
「勘弁してください」
のぞきこんでくるなつみさんに困って、あたしは顔を逃がしたけど、す
ごく嬉しかった。仲のいい姉妹が出てくる、古いヨーロッパ映画のワンシ
ーンみたいだと、自分で思った。
-fin-
- 27 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時36分25秒
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- 28 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時37分32秒
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- 29 名前:24 姉妹シナリオ 投稿日:2003年03月13日(木)20時38分21秒
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