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22 夜行
- 1 名前:22 夜行 投稿日:2003年03月12日(水)22時17分03秒
- 「夜行」
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月12日(水)22時17分35秒
- 夏の終わり。
夜のハイウェイを突っ切る小型バスの中。
静かな寝息と微かなエンジンの音に支配された車内。
流れる街灯の連続をぼんやり眺める。
次第に心地よい睡魔が私の体を溶かし始めた。
隣でだらしなく口をあけているまこっちゃんの毛布の半分を私の膝に乗せ、
沈み込む感覚に身を任せた。
ふと気配を感じ、目を覚ます。
相変わらず隣のまこっちゃんは白川夜船。
ただ車内に一人だけ動いている影が見えた。
後藤さん。
今度の秋のコンサートを持って娘。を卒業してしまうその人だった。
席を立ち後ろの座席の方に歩いている。
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月12日(水)22時18分41秒
- 何をしているのだろう、と興味本位で
音を立てないように身を乗り出して見た。
後藤さんは一番後ろに座っていた
安倍さんと矢口さんの寝顔を見つめた後
ずれ落ちた毛布を引き上げ、彼女達の膝に乗せた。
それから、石川さんと飯田さん。
愛ちゃんと理沙ちゃん。
同じようにして毛布をかけ直す。
次はここだ。
私はなんだか判らないけど慌てて、
元の位置に身体を戻して狸寝入り。
後藤さんが私達の隣にきた。
正確には私の隣のまこっちゃんの隣の通路。
薄く目を開けて横目で様子を見る。
- 4 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月12日(水)22時19分29秒
- 後藤さんはまこっちゃんのそのあどけない顔を見て小さく噴出す。
それから愛しそうにまこっちゃんの顔を見つめその頭を撫でた。
後藤さんとて疲れているはずなのに。
その目はどこまでも優しくて、残り少ない時間を噛み締めているかのように見えた。
後藤さんの表情。
ただ離れるのが辛くて、この一月、私達は闇雲に仕事をしていた。
きっと、一番不安なのは後藤さん本人なのに。
目じりに湿っぽさを感じて、慌ててきつく目を閉じた。
考えないように考えないようにと努めていた
その日はもう一月の猶予を切っていた。
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月12日(水)22時20分48秒
- 「あっ」
しまった。
膝の辺りに感触を感じて思わず声が出てしまった。
目を開けた先には後藤さんの、少し驚いた顔。
私の方でも、何もいえなくて、
口をぱくぱくと動かすしかない。
後藤さんは少しばつが悪そうな、照れ臭そうな顔をした後、すぐに優しい表情に戻った。
私とまこっちゃんの膝から殆どずり落ちていた毛布を優しく乗せてくれた。
「あ、あり……」
私がお礼の言葉を発しようと口を動かすと、
後藤さんはとても優雅な動作で人差し指を口に当てた。
いたずらっ子のような上目使いで。
私は開きかけた口をそのままにかくかくと首を縦に振る。
後藤さんは満足そうに顔を綻ばすと
口元に当てていた手をそのまま私の頭に伸ばし、わしゃっとなでた。
くすぐったくて、すごく嬉しかった。
- 6 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月12日(水)22時21分33秒
- 後藤さんすいと私達の席を離れると、
吉澤さんと辻さん、それから一人で座っている保田さんに同じように毛布をかけなおしてあげ
最後に後藤さんの隣に座っている加護さんの足と彼女自身の足に毛布をかけると目を閉じた。
同じ光の景色が続くハイウェイを
バスは目的地に向かって進んでいた。
- 7 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月12日(水)22時22分57秒
- お終い
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月12日(水)22時23分33秒
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- 9 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月12日(水)22時24分28秒
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- 10 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月12日(水)22時25分04秒
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