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20 夢見る少女

1 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月12日(水)20時49分54秒
「夢見る少女」
2 名前:20 夢見る少女 投稿日:2003年03月12日(水)20時51分24秒
 わたしとアヤカさんと小川──つまりプッチモニの三人が、プロデューサーであるつんく♂さんに呼ばれて事務所の一室に入った。飾りも何もない殺風景な部屋には、つんく♂さんと保田さんが座っていた。
「おう、来たな。ま、座れや」
 腰を下ろすと早々に、つんく♂さんは話を切り出した。

「小川、お前寝てるとき、夢見たことあるか?」
「あ、ありますけど」
 少しどもりながら小川は答えた。
「それはよかった。夢ん中で体験したことって、まるで本物みたいやったろ」
「そ、そうですね」
「朝目が覚めて、そこでやっと、ああ夢やったんやなとわかるんやな。夢ん中にいたままでは、それが本物かまがい物かわからんわけや。わかるな?」
 わたしたちは小さくうなずいた。
3 名前:20 夢見る少女 投稿日:2003年03月12日(水)20時52分27秒
「……それがどうかしたんですか?」
 保田さんの怒ったような声が聞こえてきた。
「すまんすまん。ちょっと回りくどかったかもしれん。でな、そろそろお目覚めの時間や、って教えてやろう思てな」
 へ? とわたしは間の抜けた声を出した。
「お前ら、ここを事務所やって思ってるやろ。ここは病院や」

 つんく♂さんは上着のポケットから、小指くらいの小さな板を取り出した。
「このチップな。脳みそにくっつけると中のプログラムを頭ん中に送り込むんや。するとチップをつけた人間にはありもしない世界を体験できる。おもろいやろ」
「まさか、それを……」
「オーディションに受かろうとして、一生懸命がんばってるお前らを見てなあ。不覚にも涙したわ。せめて脳内の世界だけでも、いい思いさせてやろう思た。手術はえらい簡単やったしな。感謝せいや」
4 名前:20 夢見る少女 投稿日:2003年03月12日(水)20時53分24秒
 あっけにとられたわたしたちは、誰も口がきけなくなった。これまでの芸能活動は現実のものではなく、脳にくっつけられたチップが見せた幻想だったというのだ。そんなこと、にわかには信じられなかった。
「でもな、残念やけど、未来永劫ってわけにはいかんのや。チップにも耐用年数ちゅうのがあってな、そろそろ止まってしまうんや」
「と、止まるとどうなるんですか」
「夢から覚めた思えばええ。今までの芸能生活がすべて夢やったんだ、って気づくだけや。たいしたことあらへん」
「ちょっと、ふざけないでくだ……」
5 名前:20 夢見る少女 投稿日:2003年03月12日(水)20時55分18秒
 ぷつん、という音が、保田さんが立ち上がったときに聞こえた。保田さんは立ったまま、しばらく動かないでいた。やがて左右に顔を振り、涙をぼろぼろと流し始めた。そして「いやぁー」と叫びながら部屋を出て行ってしまった。
「お、保田はあんなふうに夢から覚めるんか。おもろいやっちゃ」
「な、なんでこんなことするんですか」

 つんく♂さんはにこ、っと頬をゆるめた。
「さっき言ったやろ。おもろいからや。目覚めたら、どんな夢見たんか話してくれるやろな?」
 わたしの膝は震えていた。このことを認めたくなかった。これは夢だ、夢に違いない。いや、それじゃまずい。ああ。
「お前ら三人のチップは保田と同じ型番やから、そろそろやな」

 わたしは目を閉じた。それしかできることがなかった。そして、あのいやな音の響くときがやってきた。

 ぷつん。
6 名前:20 夢見る少女 投稿日:2003年03月12日(水)20時56分25秒
 ……おそるおそる目を開くと、よだれをたらしながら頭をふらふらさせているつんく♂さんがいた。いったい何が起こったのだろうとわたしたちがおろおろしているところに、事務所の社長が入ってきた。
「やっとこいつのチップが切れたか」

 社長は、実はつんく♂の頭の中にこそ例のチップが埋め込んであったのであり、わたしたちには無関係だから安心しなさいと、なだめるように言った。アヤカさんと小川は手を取り合って喜んだ。わたしは首をかしげた。
「でも、さっきの保田さんは……」
「きっと勘違いしたんだろう。だから安心しな……」

 ぷつん。
7 名前:20 夢見る少女 投稿日:2003年03月12日(水)20時57分01秒
 社長はうーんとうめき、頭をかかえたまま倒れてしまった。すぐに医者と看護婦が飛び込んできて、チップが、チップが、と叫びながらどこかへ運んでいってしまった。
 残されたわたしたちは顔を見合わせ、首を振った。
「いけない、収録の時間ですよ、吉澤さん」
「遅刻しちゃう」

 荷物を持つと、わたしたちは駆け足で事務所を出た。あまり深く考えないようにしよう。夢なのか、そうでないのか、どうせわたしが決めることじゃないのだ。おせっかいな誰かがわたしを揺り起こすまで、せいぜいこの世界を楽しむことにしよう。
8 名前:20 夢見る少女 投稿日:2003年03月12日(水)20時57分56秒
 ……ぷつん。
9 名前:20 夢見る少女 投稿日:2003年03月12日(水)20時58分29秒
10 名前:20 夢見る少女 投稿日:2003年03月12日(水)20時59分25秒
11 名前:20 夢見る少女 投稿日:2003年03月12日(水)20時59分58秒

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