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14 秘密基地

1 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時06分36秒
               『秘密基地』
2 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時07分36秒

黄昏の町の中を歩いていた私はある場所にたどり着いた。
そこは、団地の裏山に作られた秘密基地。



今日は高校の卒業式だった。
でも、部活に入ってなかった私は送別会があるわけでもなく、
友達にカラオケに誘われたけど、乗り気じゃなくて・・・・・・・・・。

何故か寂しくなかった。
卒業式なのに涙一つ流すことはなかった。
3 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時08分14秒

鞄の中に重い卒業アルバムと筒に入った卒業証書が。
左手には、色とりどりの花束が。
団地に直接帰ることもなく、何故か私は裏山へ。

ここに来たのは何年振りだろう。
中学生になってからは一度も来なかったから六年振りか。
制服で来たなんて初めてだ。


そう、この秘密基地には、いつもあの人がいた。




 
4 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時08分47秒


「りかちゃ〜ん!」
「な〜に?よっすぃ〜!」
「ちょっと来てよ!すごいところ発見したんだ!」
ひとみちゃんは私の手を取って、いつも遊んでる公園から団地の裏山へ走り出した。
「よっすぃ〜、ダメだよ!お母さんがウラヤマには行っちゃダメって言ってたよ!」
「大丈夫だよ!秘密基地を作るんだ!」
「ヒミツキチ?」

「りかちゃん遅いよ!」
裏山に着くと真希ちゃんもいた。
真希ちゃんの足元にはダンボールと、ハサミとかノリとかがいっぱいあった。
ひとみちゃんも真希ちゃんも、同じ団地に住む幼馴染みだった。
 
5 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時09分18秒
「これどうするの?」
「これで秘密基地を作るんだ!」
ひとみちゃんが自信満々に言った。
「ヒミツキチって何するの?」
「え・・・・・・・?う〜〜〜ん?」
秘密基地と言ってるわりには、ひとみちゃんは考え込んでしまった。
「秘密基地っていうのはね、お父さんとかお母さんとか友達とかに見つからないで遊ぶところなんだよ。ね!よっすぃ〜!」
「そう!それ!」
真希ちゃんの説明に、ひとみちゃんは都合良く反応する。

「友達もいけないの?でも、わたしはいいの?」
「りかちゃんはシンユウだもん!友達じゃない!」
「そうそうシンユウ!」
「そっか!」
二人に親友と言ってもらえたことが嬉しくなって私は喜んで参加した。
 
6 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時09分48秒
それから一ヶ月ぐらい私達は秘密基地作りに夢中になった。
途中で雨が降ってグチャグチャになったり、野良猫に荒らされたり大変だった。
それでも、学校が終わると家にも帰らずに秘密基地に直行した。

完成したのは春だった。
そして、秘密基地は三人の遊び場、そして約束の場所になった。

そこでは、将来の夢を話したり、悪かったテストを隠したりした。
「悪い奴が来たら、ブン殴ってやる!」
と言って、ひとみちゃんがどっかから持ってきたバットまであった。
料理の得意な真希ちゃんは、手作りのクッキーを持ってきてくれたこともあった。
 
7 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時10分36秒

もうすぐ小学校も卒業するというある日、いつものように秘密基地に行くとひとみちゃんが一人で泣いていた。
「どうしたの?」
って聞いても、答えてくれなかった。
その後に、真希ちゃんが来ても何も言ってくれなかった。
ひとみちゃんは、ただ泣いているだけだった。

そして、ひとみちゃんは秘密基地に現れなくなった。


 
8 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時11分16秒

秘密基地は二人だけになってしまった。
「ヨシコ来ないね・・・・・・。」
「うん・・・・・・。」
二人でダンボールに囲まれていても、することが無かった。
私達は一人でも抜けると、もうダメなんだ・・・・・・。

やがて、ポツポツと雨が降ってきた。
「あ!ヤバイ!」
私達は急いで秘密基地を青いビニールシートの下に隠した。
「梨華ちゃん、またね!」
「うん、また今度!」
そして、私達も二度と秘密基地には戻らなかった。

後から、お母さんに聞いた話によると、ひとみちゃんは遠くに引っ越してしまったらしい。
中学生になったのを期に、広い家に引っ越したそうだ。
真希ちゃんとも、中学生になってからはあまり話さなくなった。
私もテニス部の子と仲良くするようになった。
高校からは別の学校になり、顔を合わせることも無くなってしまった。



 
9 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時12分03秒


もう二度と、あの日々は戻らないのだろうか?



秘密基地は青いビニールシートが被さったままだった。
泥で汚れてはいたが、あの日のままだった。
シートをどけると、そこには秘密基地があった。
結局、一度もうまく吹けなかったハーモニカや、失くしてしまったと思っていたクマのぬいぐるみがあった。
奥に入ってみると、『吉澤ひとみ』と書かれた30点の答案用紙、真希ちゃんが持ってきたクッキーの空き缶まであった。
ここは時間が止まっているようだった。

私はダンボールの上に腰を降ろした。
制服が汚れても構わない。
だって、着るのは今日で最後なのだから。
 
10 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時12分34秒
私は卒業アルバムを取り出した。
アルバムの私は、どれも友達と一緒に笑っていた。
でも、ふと思った。

これが私の本当の笑顔だろうか?

昔はもっと気持ちよく笑っていた気がする。
おかしくも無いのに、カメラを向けられると作る笑顔じゃない。
自然だった。
三人でいれば、楽しかった。
もう、あの頃のようには笑えない。

 
11 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時13分06秒


「梨華ちゃん?」
ふいに後ろから私の名前を呼ばれた?
忘れるはずのない声。
「ごっちん!」
そこには真希ちゃんがいた。
「どうして・・・・・・ここに?」
「・・・・・・ごっちんこそ・・・・・・・・・?」
真希ちゃんは私の隣に腰掛けた。

「今日・・・卒業式だったんだ・・・。」
「うん、私も・・・。」
「なんか、家に帰ろうと思ってたのに・・・つい来ちゃって・・・。」
「うん、私も・・・。」
 
12 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時13分42秒
三年振りに見る真希ちゃんは、大人っぽくなっていた。
私は真希ちゃんの笑顔が好きだった。
フニャっとくだけた笑顔は見ているだけで心が和んだ。

真希ちゃんは、今も昔のように笑えるのだろうか?
それとも、私と同じように昔の笑顔を失くしてしまったのだろうか?

「・・・それ・・・卒業アルバム・・・?」
「あ・・・うん。見る?」
「うん・・・あ!私のも見る?」
「うん!」
私と真希ちゃんはお互いのアルバムを交換した。
それぞれが知ることの無かったお互いの姿を、見てみたかった。

 
13 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時14分33秒


「・・・・・・・・・なんで・・・・・・?」

「「え?」」
急に後ろから声を掛けられた私達はビックリして振り返った。
背が高くて、ちょっとボーイッシュな感じの女の子。
姿は変わってしまったけれど、間違い無い。
六年前まで一緒に過ごしていた親友だ。

「よっすぃー!」
「お・・・おう!・・・・・・久し振り・・・。」
「どうしたの?帰ってきたの?」
「いや・・・・・・実は今日、卒業式だったんだけど・・・・・・何か来たくなっちゃって・・・・秘密基地に。」

運命を感じた。
今日まで秘密基地の存在を忘れかけてたのに。
三人とも約束をしないでも集まるなんて・・・。
昔のようだ・・・。

 
14 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時15分11秒

「二人は・・・何で来たの?」
「いや、何となく。」
「私も。」
「・・・・・・そっか。」
そして、ひとみちゃんもダンボールの上に座った。

「いやあ、懐かしいね。びっくりしたよ。全然変わってないじゃん!」
「でしょ!ほらこれ、よっすぃーのテストとかもあるし。あとアレ!バットも残ってる!」
「ホントに変わってないね。ここの三人は変わったけどね。」
「うん。変わった。」
「大人・・・・・・になったのかな?」
「かもね。」


日がもうすぐで落ちそうだった。
遠くに見える夕日。

この風景も変わらない。
変わったのは私達。


 
15 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時15分50秒

「私ね。・・・・・・秘密基地を壊そうと思うんだ。」

突然ひとみちゃんが言った。
「ずっと心に残ってたんだよね。ここは少女時代の象徴みたいな場所だったからさ・・・。」
「・・・・・・そうだね。」
「だからさ、秘密基地がいつまでもあると大人になりきれないんだ。・・・・・・ここは帰る場所だから。」

帰る場所。
そう、私達にとって秘密基地は帰る場所だったんだ。
帰れば親友がいる。
それが当たり前だった。
 
16 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時16分43秒

「私も、壊していいと思う。」
今度は真希ちゃんが言った。
「だってさ・・・もう終わったじゃん。帰っちゃいけないんだよ、もう。新しい道に踏み出さなきゃ!」
新しい道。
三人とも同じ未来に進むわけじゃない。
だから、三人だけの秘密の場所は、もういらないんだ。


「うん!壊そう!私は、もうここには来ない!」
私も決心した。
「よし、今日で秘密基地とも卒業!」

  
17 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時17分34秒

一緒だ。
三人とも。
今日は卒業。
子供時代との決別。
それをするために、みんな秘密基地に来たんだ。



私達は全て土に埋めた。
間違いだらけの答案も、クッキーの空き缶も、拾ったバットも、吹けなかったハーモニカも。
思い出を土に埋め込んだ。
そして、私は最後に卒業アルバムを埋めた。
 
18 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時18分13秒
「それ・・・いいの?」
「うん!いいんだ!」
「・・・・・・・じゃあ、私も!」
そして、卒業アルバムは三冊埋められた。
埋めたところに、花束を置いた。

さあ、これからが本当の卒業。



そして、私達は別れた。
もう二度と出会うこと無いかもしれない。

 
19 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時19分13秒



だけど、最後に私達は笑った。


あの頃のように。


秘密基地で過ごした頃のように。



 
20 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時19分52秒

     ‐Fin‐
 
21 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時20分36秒
22 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時21分07秒
23 名前:14 秘密基地 投稿日:2003年03月10日(月)23時21分38秒

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