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12 花 道
- 1 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時33分12秒
- 花 道
- 2 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時34分10秒
- それは、3月の終わりの事だった。
2日間行われるコンサートの1日目が終了し
ホテルに戻った後、私の部屋に梨華ちゃんが来て、
2人で圭ちゃんのパソコンの音楽を聴いていた。
紅白でも歌われた曲が終わり、
この間まで放送されていたドラマの主題歌が流れ始めた。
「ねぇ矢口さん、もしこのドラマみたいに
残り1年の命って言われたらどうしますか?」
「そんなのありえないし。まぁ梨華ちゃんをおもいっきり
いじめ抜くね。」
「あたしだって死ぬまでからかい抜きますよーだ」
軽く笑って曲に耳を傾ける。
- 3 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時34分45秒
- 「そうさ僕らは」
サビに入ると梨華ちゃんが腕を動かしはじめ、
その腕がパソコンのボタンにぶつかってしまい、
曲が止まってしまった。
「あっ」
「梨華ちゃん何やってんのさー」
「だってスマスマで踊ってたから、私もマネして…」
カーソルが変な所にあったためか、見覚えのない画面が現れていた。
「あー、ダメだ、圭ちゃんに聞きに行った方が早いわ」
「保田さんどこにいるんでしたっけ?」
「よっすぃーの部屋じゃないかなぁ、多分」
私と一緒に今日この部屋に泊まる圭ちゃんは
到着して荷物を置くなりすぐにどこかへ行ってしまっていた。
- 4 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時36分06秒
- 「よっすぃー、圭ちゃん部屋に来てないかな?」
「来ましたけど、ジュース買いに自販機の方行きましたよ」
このやりとりの間に梨華ちゃんは部屋の中から聞こえてくる
ゲーム音楽に気がついた。
「あの、矢口さん…ゲームやっててもいいですか?」
「あー、わかった。オイラは一応圭ちゃんにパソコンの事言いに行くよ。
後で混ぜてね」
そういって自動販売機の方に向かった。
廊下はぐるりと一周できるつくりになっていて、
よっすぃーの部屋から自動販売機コーナーに行くなら
逆回りの方が早かったなぁと思いつつ、目的地に着く。
- 5 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時37分00秒
- 自動販売機の前のふかふかとした椅子で
辻と加護が他愛もない会話で
笑い合っていた。しかし、圭ちゃんの姿は見えない。
「あれ、圭ちゃん知らない?」
「お腹痛いって言って部屋行きましたよ」
「肉良く焼けてないのに食べたからだよ」
「そうだよケメコ急いで食べすぎるからだよ」
「あれ、オイラ今まで部屋に居たんだけどなぁ…
丁度入れ違っちゃったか。」
そう言って辻、加護の元を後にして
圭ちゃんと私の部屋に向かう。
- 6 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時37分43秒
- 鍵を開けて中に入るとトイレではなく風呂の方の
ドアから光が漏れている。
きっと薬でも飲んでいるんだろう。
粉薬なんか飲んでいる時に
私がバッとドアを開けて
その拍子に粉をぶっと吐き出したら
また圭ちゃんネタが出来ておもしろいなぁ。
そんな事を思いついたので圭ちゃんをびっくりさせようと思った。
音を立てないようにそっと歩き、ノブに手を掛ける。
一瞬の沈黙。そして一気に
「圭ちゃんお腹壊したんだってぇ?」
洗面台に向かう彼女の姿は私が想像していたものと異なった。
- 7 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時38分29秒
- 「…圭ちゃん?」
圭ちゃんは口を右手で押さえ、
左手でぐいっと私の右腕を掴み、体を引き寄せる。
その右手と口からは赤いものが溢れていた。
もう一度手を伸ばしドアを閉めると
洗面台に赤いものを吐き出してはぁと息を整え、かすれた声を出す。
「だからノックして入れってずっと言ってんじゃん」
「あ、あの、それって…」
「誰にも言わないで」
大きな目に力を入れて話すその話し方はまるで
年末のサスペンスドラマの演技の様だった。
- 8 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時40分57秒
- 「病気、なの?」
「こないだまで、やってたじゃん。ドラマ。
あと1年の命です、っての。
…まさか実際そんな言葉聞くことになるなんてね」
「じゃあモーニング娘。卒業のきっかけって」
「活動していけるのは、春が限界だろうって。
ごっつぁんの卒業と一緒に発表すればさ、
深い詮索されないだろうって秋に発表してもらったの。
出来れば死ぬまでやっていたいんだけど、
みんなに迷惑かけちゃいけないしね」
「スタッフはみんな知ってるの?」
「ううん、知ってるのはつんくさんと社長と和田さんくらい。
今のマネージャーさん達にも言ってないの。
やっぱり動揺させちゃ、いろいろ支障が出るだろうからさ」
「何で冷静にそんな事言えるの?」
「私も最初は泣いたよ。自分の運命を呪ったりもした。
でも…私後悔してないもん。こうやって、モーニング娘。になって、
嫌な事とか一杯あったけど、メンバーと一緒、
矢口とずっと一緒にさ、乗り越えてきて
…ほんとに、最高の22年だったと思う。」
- 9 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時41分25秒
- 私は思いっきり後悔していた。
今までの圭ちゃんとの関係についてなのか、
今こんな重大な秘密を知ってしまった事についてなのか、
わからないけれども
体が引き裂かれるのではないかという勢いで
後悔という感情と焦りという感情がわき出してきた。
「オ、オイラは、どう、していけばいい?」
「こうなった以上、なんとか卒業の日まで、
この事は秘密にして。隠し通して。
大変だと思うけど、みんなが知ったらもっと大変な事になる。
矢口なら、大丈夫だよ…ね?」
その優しい問いかけが逆効果で、
流れることを忘れていた涙が
溢れてきた。
「嫌だ…嫌だよ!!何で?あと1年だなんてわけわかんないよ…
どうしよう?ねぇ、どうしよぉ」
- 10 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時42分14秒
- 「あんまり泣かない方が良いと思うよ」
「何でそんな事言うのさ、そんなの、無理に決まってんじゃんか」
段々と話すこともままならなくなり、
酸素を欲しがる脳と呼吸器がかみ合わずにしゃくりながら、
溢れてくる涙をどうする事も出来ず、ただただ涙を流していた。
「ほら、涙拭きなよ」
ぼやけた視界の中に現れた白いタオルを受け取り、
ひくつく口を押さえ、呼吸を整える。
深呼吸を繰り返すうちに冷静な思考が戻ってきた。
とりあえず、目を曇らせる涙を拭いて
へたりと座り込んだ状態から立ち上がろうと思った。
しかし、涙を拭いてくっきりとした視界に入ってきたのは
圭ちゃんではなくなっちの笑顔だった。
- 11 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時42分59秒
- 「へへへぇー、大成功っ!」
状況をつかむまでに時間がかかった。
いつの間にかドアは開いていて、そこから
梨華ちゃんと辻、加護の姿が見える。
3人とも満面の意地悪そうな笑みを浮かべている。
「もしかして…今の嘘?」
「まりっぺ今日エイプリルフールだって忘れたのぉ〜?」
「えっ?、今日ってまだ3月じゃ…」
「全然4月1日ですよぉ〜!」
迂闊だった。
- 12 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時43分53秒
- 「矢口さぁ、覚えてる?
1999年、ノストラダムスから身を守るためには
青汁が効くってなっちに教えたよね」
「信じるなっちの方がバカだよあれは〜。
鼻つまんで一生懸命に飲んでんだもん」
「2000年の時は紗耶香と一緒に
つんくさんが裕ちゃんと結婚しちゃうよ!!って嘘ついたよね?」
「圭ちゃんあわてちゃって
足もつれてころんでんだもん。超おもしろかったぁ」
「2001年は中澤さんが卒業するのは
お酒の飲み過ぎで、悪い病気になっちゃったからだって、
ののに言ったよね」
「それで辻裕ちゃんの部屋に行って裕ちゃんが飲もうとした
ビールこぼして怒られてたねー」
「去年は私が楽屋に帰ってきたら」
「あー、よっすぃーと柴ちゃんにキスしているフリをしてもらったんだ。
あの時の石川の驚きは凄かったぁ。
驚かすための嘘だってわかったら半ベソかいてたもんね」
- 13 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時44分36秒
- 「そんなこんなで矢口にやられっぱなしだからね、
今年こそはって私が計画立てたわけよ。
矢口には秘密にしてみんなに協力してもらって、一週間綿密にね。」
「っくしょー、来年」
らいねん?
私は目線を計画の主謀者の方に向けた。
圭ちゃんは、とっても優しい顔をしていた。
私は思わず圭ちゃんに抱きついた。
- 14 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時47分21秒
- 「来年も絶対みんなで圭ちゃんの事だますんだから。
絶対、圭ちゃんはだまされるんだから」
「矢口とは5回、エイプリルフール一緒に過ごしたんだねぇ。
長いようで、短いようで…」
圭ちゃんのその大きな目は潤み、顔もゆがみ始めていた。
「これからの1ヶ月は保田圭スペシャルだからね。
Mステで花束もらって、うたばんでは、保田大明神プレゼントして、
もう、めいっぱいカメラに映って、
はなばなしく活躍するんだから、覚悟しなさいよー」
「保田さんのためにも、みんな、頑張っていこうね!!」
いつもならセリフっぽいと茶化される梨華ちゃんの言葉が涙を誘う。
「そおだよ、あと1ヶ月ちょっと、ホントに、完全燃焼していこ」
最後まで言い切る前にまた涙が溢れてきてしまった。
「矢口、何泣いてんだよ〜」
「け、圭ちゃんこそすっごい顔になってんだから!!」
気がつけばなっちも梨華ちゃんも辻も加護も泣いていた。
圭ちゃんと同じ道を歩く
嘘偽りの無い残り34日、
圭ちゃんの為に、自分の為に、
後悔無きよう私なりに
思いっきり生きたいと思った。
了
- 15 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時47分58秒
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- 16 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時48分37秒
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- 17 名前:12 花 道 投稿日:2003年03月10日(月)22時49分11秒
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