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10 ジョーカー
- 1 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時01分42秒
ジョーカー
- 2 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時02分17秒
- 私の中に、私がいる。
それは私であって私でない。
私はそれを、「ジョーカー」さんと名づけることにした。
トランプのジョーカーと一緒だ。
良い時は最強、悪い時は負けを宣告する紙一重の状態。
今の私は、それだった。
- 3 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時02分58秒
- ───…───
「お疲れ様〜」
「また明日〜」
今日も一日、仕事が終わる。
バカみたいに叫んだり、はしゃいだりして疲れた体を一刻でも早く休めたい。
肩の力を軽く抜いて、私はタクシーを拾った。
家まで、あと数十分───。
あと数十分で私は私になる。
私が私になる、という表現は如何な物か。
けれど、その意味は決して間違いではなく、
むしろそれ以外に例えようがないのだから仕方ない。
- 4 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時03分40秒
- タクシーの後部席にドスンと腰をかける。
自動ドアがバタンと閉まるのを横目で見た後、私は目を閉じた。
フカフカなクッションが、疲れた体をそっと癒すように柔らかい。
それに、寒い外の空気に少しの時間当たったせいか、
車の中で効く暖房がジャストフィットに心地よかった。
「お嬢ちゃん、芸能人だろう?よくテレビで見るよ。
あの、なんだっけ…そう!アレだよ。ミニ…なんとかの…」
ふぅ…。
運転手のオヤジが、愛想を振り撒いて話かけてきた。
すでにリラックスの体勢に入っていた私がそんな猥談に付き合う気になれるはずもない。
「ごめんなさい、疲れてるんですぅ」
と、こちらもお得意の愛想を振り撒いて、目を閉じた。
- 5 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時04分12秒
- 目を閉じながら、いつも持ち歩いている、キャラクターもののダサいリュックサックを開く。
その中からMDプレイヤーとヘッドホンを取り出し、耳に当てた。
曲は、今流行りのアブリルラヴィーン。
テンポのいい爽快な曲が、今日溜まったストレスを吹き飛ばしていく。
間違っても、自分の仕事で歌うような子供向けの曲なんかは聴かない。
「私は、大人になりたい。」
世間からは、子供であることに有意義を見出されるコトが
多くなってしまったけれど、私の本心は違うところにある。
だから、自分を「創る」ことにした。ううん、決して意識はしてない。
その思いのせいで、こんな二つの自分が「出来あがって」しまった。
世間に踊らされたままの、子供である、「嘘」の自分。
すでに大人の道を歩み始めている、「本当」の自分。
出来あがったもう一人の私───「ジョーカー」は、
私が普段とっている逆の生き方をするようになった。
- 6 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時04分43秒
- ───…───
「ジョーカー」さんになった私は、黒のパンツスーツを纏って夜の街を徘徊する。
真紅のルージュを引き、メイクもできるだけ大人っぽく。
それから、身長が低いのはハイヒールでカバーした。
夜の街は今日も謳い、私はその魅力に惹きつけられるかのように、
ぶらりと一軒のバーに入り込んだ。
まだ15歳の私には、本来なら決して縁のない場所。
かなり暗めの照明に包まれ、もの静かな店内の隅で、一人カクテルを煽った。
どのくらいそうしていただろう。
もう夜も深けようというころ、突然肩を叩かれた。
「ご一緒してもよろしい?」
一人の女だった。
- 7 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時05分16秒
- 私と同じような、赤いパンツスーツを身に纏い、
紫色の趣味の悪い口紅を引いた、金髪のロングヘアーの女。
「よろしい?」と言ったその口調が、関西弁なのか、少しイントネーションの違いを感じる。
何の因果でこんな女と酒を飲まなくてはならないのか。
そうは思ったけれど、今日だけはどこか誰かと話をしたい気分だった。
「いいわよ」
「そう。おおきに」
女はやはり、関西弁だった。
「あんた、今いくつや?」
「……25」
嘘だけど。
「そう。ウチも25や」
私は嘘だけどね。
「何か、奇遇やな」
「そうね」
- 8 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時05分54秒
- 女との他愛もない談笑は続いた。
聞けば聞くほど、この女に自分との共通点を多く見つけた。
夜の街を歩くのが好きとか、昼間の仕事のせいでこんな風にしているとか。
今まで自分と同じような人間にあったのは、一度だけしかない。
「なんかウチ、本当はこんな自分じゃないねん」
「…そうなの?」
「ん。何て言うか…。こんな自分を無理して作ってるっていうんかな?」
「ふぅん…?」
気のないフリして、女を盗み見た。
女は苦笑いを浮かべ、私を見ていた。
途端に気まずくなって、パッとお互いにそっぽを向く。
無理して…作ってるか。
「私もそういうもんかな」
「そっか」
- 9 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時06分27秒
- 「ウチら…どっかで会ってるかもな」
「そうかもね…」
そうね。自分と同じような人間に、二度も出会うなんて思わなかったわ。
そして、それが最初で最後だという事も私は知っていた。
私と女はそこで話をやめ、バーの前で別れた。
「ほな。また会おうな」
「ええ。また…」
その女と出会う事は、二度となかった───。
私の中の、「ジョーカー」が出てくることも───。
- 10 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時07分58秒
- ───…───
「おはよう」
「あ、おはよ〜」
「ん?何か今日は機嫌ええなあ。なんかあったんか?」
「ううん、何でもないよ」
初めて出会った“自分と同じような人”と私は、
翌日も普通に話をしたのであった。
───…───
- 11 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時08分30秒
- 数ヶ月後から、私は町を歩くたびにこんな声を聞くようになる。
「あのコら、綺麗になったよねー」
「あー!あのミニモニ。のコたちでしょ?」
「ねぇ。なんか、無理してない感じに大人びたよね」
「そうそう。ナチュラルに変身したって感じ?」
「芸能人って羨ましいよね〜」
ふふっ。みんなは知らない。
「ジョーカー」のことも、あの夜のことも、あの女のことも。
それは、私とあの夜とあの女だけの秘密なのだから───。
- 12 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時09分01秒
- 13 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時09分34秒
え、私が誰かって??
えへへ…。
それも…秘密───!
- 14 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時10分07秒
- お
- 15 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時10分38秒
- わ
- 16 名前:10 ジョーカー 投稿日:2003年03月10日(月)19時11分14秒
- り
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