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09 ポートレート

1 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時30分06秒
09 ポートレート
2 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時30分45秒
今日も楽屋では笑い声が響く。
石川や加護ちゃんと楽しそうに話しているよっすぃー。
かと思えば、冷蔵庫に入っているプリンをのんちゃんと取り合うよっすぃー。

ずっとよっすぃーのことを見てるけど、私はそこには入っていけないの。
よっすぃーとは正反対の位置でなっちや圭ちゃん、矢口と一緒に話をしてる。

「ちょっと、圭織、聞いてるの?」
急に視界に矢口の顔が入る。
驚いて目をパチパチさせる私。
そんな私を見て、なっちが「また交信?」と笑いながら言う。
「う、うん。ごめんね。何話してたっけ?」
目はまだよっすぃーを追いかけたまま、話を続ける。

「だから、今日の帰りさ、4人でご飯食べに行かない?
圭ちゃんがおいしい店見つけたんだって」
圭ちゃんが?
そこに怪しい雰囲気が醸し出される。
確かこないだ行った時は、チヂミだったっけ?
思いっきり飲み屋みたいな場所だった。
私としてはパスタとか、もうちょっとレストランみたいなところがいいんだけど…
3 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時31分28秒
「ごめん。今日はちょっと絵、描きたいんだ」
別に圭ちゃんだからってわけじゃないよ。
ただ、今日は朝から決めてたんだ。
1ヶ月前からちょこちょこと描いていた絵、それを完成させるって。
そんなのいつでも描けるじゃんって矢口は文句言うけど、これだけは譲れない。
私の意志は鉄より硬いんだ。

「あ、そう。じゃあ代わりによっすぃーでも誘おうかな」
矢口の呟きが聞こえた。
「ちょっと待って…」
思わず声を上げてしまった私。
なっちも圭ちゃんも不思議そうな顔をしている。
「ん?どうしたの?」
「いや、よっすぃーも行くんだったら、私も行こうかななんちゃって…」
「……」
私と3人の間に沈黙が流れた。

「あのね、別に変な意味じゃないんだよ。
ただ、あんた達がよっすぃーにお酒飲ませたりしないように、見張っとかないとね。
一応リーダーなんだし…」
苦しい言い訳が続く。
私の意志は既にどろどろに溶けてしまっていた。

「ふーん」
矢口が目を細める。
矢口がこういう顔する時はろくなこと考えてないんだよね…
わかったと言って、矢口は立ち上がり
「よっすぃー、圭織が一緒にご飯食べたいって〜」
楽屋中に響き渡る大声でそう言った。
4 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時32分08秒
「え〜何でよっすぃーだけ?私たちも連れってってくださいよ〜」
「そうだ、そうだ〜」
すかさず辻加護が反応する。
石川は、今日はこの後、カントリー娘。の仕事があるため、何も言わなかったが、明かに不機嫌そうな顔をしていた。
で、当のよっすぃーはというと
「え、ベーグルあります?」
とかわけのわからないことを言っていた。

「ちょっと、矢口!」
矢口の背中を引っ張る。
だが、矢口は振り返るとにっこり笑って
「でも、行くでしょ?」
と言った。
ここまで言われて行くのは、正直嫌だった。
でも、よっすぃーが行くんだからと自分に言い聞かせて、頷いた。
5 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時32分54秒
ところが、よっすぃーは急に大声でこう言った。
「あ、今日はスーパーで卵が安いんですよ!
なんと1パックが78円なんですよ。78円。買いに行かないと」

私はそんなに広告をチェックしないし、する時間もないから、卵がいつもよりどれだけ安いかなんてわからない。
でもね、でも、一つだけ言っておきたい。
私は卵以下なの?
そりゃ、よっすぃーはゆで卵星人だから、卵を買うのは仕方ない。
でもさ、それはないんでないの?

色々な思いが頭をよぎる。
矢口もいろいろ説得している。

卵の1パックや2パックくらい買ってやるとまで言い出していた。
でも、よっすぃーは卵を買いに行きますといって、結局帰ってしまった。

残された私たちは、ご飯を食べに行くことなく、とぼとぼと家路に着いた。
6 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時33分58秒
家に帰ると、簡単に食事を済ませ、久しぶりにお酒を飲んだ。
お酒を飲むのも久しぶりだけど、一人で飲むなんて更に久しぶりだ。
「よっすぃーのバカ!」
なんてぐちぐち言いながら、ヤケ酒を煽っていた。

いつの間に眠ってしまったんだろう。
起きたのは夜中の2時だった。
ふと、思い出したかのように、隣の部屋の扉を開ける。
ふっと鼻にかかる絵の具の臭い。
私はそっと描きかけの絵の前に立った。

私が1ヶ月まえから描き始めた絵。
それは笑ったよっすぃーの絵だった。
なぜ描こうと思ったのかわからない。
ただ、ずっとよっすぃーを見ているとなぜか描きたくなった。

「ねえ、よっすぃーは私のことどう思っているの?」
絵に話し掛ける。
描きかけのよっすぃーは、笑ったままだった。
「私は卵以下なの?ねえ、よっすぃー、答えてよ
ベーグルよりは上?ねえ、どうなのよ」
自分で何を言っているのかわからない。
なぜこんなことをしているのかもわからない。
ただ、言いたかった。
今までためていたいろんな思いを、今ぶちまけたかった。
絵の前で声にならないほど泣いた。
泣いた。
泣いた。
7 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時34分36秒
そうして次の朝を迎えた。
ひどい顔だった。
寝不足はいつのもことだが、泣き腫らした目はちょっとやばかった。
「いってきます」
誰もいないのに私はそう言って家を出る。
もちろん帰ってくるときも同じ。
誰もいないからこそ、私はそう言って家を出る。


「おはよう」
今日は朝から歌番組の収録を2本、その後ハロモニの収録。
さらに合間に雑誌の取材も受けて…あ、夜には交信中の収録もあるんだ。
気の遠くなるほどのスケジュール。
まあ、いつものことだから慣れてるんだけど、これじゃ今日は絵を完成できないな…

メンバーはもうほとんど揃ってきている。
いないのは遅刻王なっちと…あれ?よっすぃーがいない。
いつもはこれでもかと言わんばかりに早く来てるのに。
もしかして事故?いや、まさかね、それならすぐに連絡があるよ。
きっと珍しく寝坊でもしたんだろうね。
なんて考えてるけど、胸中穏やかじゃなかった。
まさか、でも、いや、そんなことは…

ソワソワしている私に気付いた加護ちゃん。
私の傍にくると、
「トイレは我慢しないほうがいいですよ」
とそっと言った。
ありがと、加護ちゃん、心配してくれてるのはうれしいよ。
でもね、違うんだ…
8 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時35分08秒
その時、扉が開き、よっすぃーが登場した。
「どうしたの?よっすぃー、ギリギリにくるなんて珍しいよ」
すかさず石川が話し掛ける。
「うっせえよ。別に遅かろうが早かろうがいいでしょ」
「何よ、その言い方!心配してたんだから!」
いきなりのよっすぃーの乱暴な言葉に、石川はちょっと泣きそうになりながら、言い返した。
「誰も心配してくれって頼んでないでしょ」
よっすぃーはそう言ってさっさと荷物を置き、着替え始める。
石川はそれ以上何も言わず、寂しそうに座った。
さすがに見かねた私は、よっすぃーの元へ行く。
9 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時35分41秒
「ちょっと、吉澤!石川に謝んなさい!」
メンバーを叱るなんて久しぶりだった。
ましてやよっすぃーを叱るなんて気が引けた。
でも、これはきちんと言っておかないといけない。
リーダーとしての自覚が私を後押しした。
「昨日ちゃんと寝てました?クマができてますよ?」
立ち上がり、私の目元を指で押さえ、顔を近づけながら言った。
もう少しで唇が触れそうになった。
「ちょっと、からかってるの!」
顔を真っ赤しながら、私は必死にその言葉を口にした。
「怒った顔もかわいいですね、圭織さん」
満面の笑みを浮かべ、私を見る。
私は顔の血液が沸騰しそうになった。
でも、いつものよっすぃーの笑みとは何かが違った。
うん、上手くいえないんだけど…違うんだ。

「ちょっと、吉澤!圭織も、何やってるの!もうすぐ時間だよ」
声の主は戸口に立っていた。
言ってることは正しい。もう収録開始の時間だった。
でも、ただ一つ言っておきたい。
これはここにいるみんなが思っていることだ。

そう、ついさっき来たあんたにだけは言われたくないよ、なっち。
10 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時36分19秒
で、収録が始まったんだ。
特番シーズンなだけに、後藤がいた時の曲を歌ったり、メドレーだったりで、いろいろ変更点はあるんだけど、5期メンバーももう2年目で慣れたみたいで
パッパとこなしていた。
石川の機嫌もすぐに直り、収録はスムーズに進んだ。

で、問題は雑誌の取材で起こった。
グラビア撮影の合間にいつものようにアンケート用紙をもらい、書くんだけど、いつも通り今回の曲についてだとか、今年の目標とか、新メンバーにどーだこーだとか、何度答えたかわからないような事に答えていく。
ただ、今回は久しぶりに珍しい質問があった。
「メンバーの中で恋人にするなら誰?」
恋人ってことは彼氏でも彼女でも可なんだよね?
普段は迷わずよっすぃーと書くところ。
でも、昨日のこともあり、無難に石川を彼女にって書こうかなと思っていた。
11 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時37分19秒
私のペンが「石」という字の口の部分に差し掛かったとき、後ろから声がした。
「あれ〜圭織さん、私じゃないんですか?残念だな…私は圭織さんって書いたのにな」
振り返るとペンと用紙を持ったよっすぃーがいた。
私は耳を疑った。
いつもは加護ちゃんや後藤の名前を書くよっすぃー。
まさか私の名前なんて…
じっと見る私に、よっすぃーはホラホラと言って用紙を見せた。
そこには
『圭織さんを彼女にしたい。綺麗だし、可愛いから。本気で惚れてます』
って書いてあった。それはまぎれもなくよっすぃーの字。
私は思わずにっこりしてしまった。
そんな私を見てすかさず、よっすぃーは
「圭織さんも書いてくださいよ。ね、ほら、そ〜し〜そ〜あいが〜いい〜って歌あるでしょ?」
めちゃくちゃな理由をつけてよっすぃーは私の用紙を奪い取って書き始めた。
私も口ではやめてよーとか言っていたけど、本気で静止する気が無かったので、よっすぃーはあっという間に書いてしまった。
12 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時37分54秒
『よっすぃーを彼氏に。かっこよすぎる。これって想思想愛?』
自分でかっこよすぎるって書くか?
それ以上によっすぃー、漢字間違ってるよ。
想じゃなくて相だよ…
さすがに漢字の間違いだけは直したが、それ以外は直さなかった。
なんかうれしかった。
それに、用紙を二つ並べてニコニコしながら、「そ〜し〜そ〜あいが〜いい〜」って口ずさんでるよっすぃーがとても可愛かったから。
でもよっすぃー、さっきから「相思相愛がいい」ってとこしか歌わないんだけど、他の部分知ってるの?
13 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時38分44秒
そんなこんなで撮影も終わり、移動のバスの後ろのほうでは石川と加護がよっすぃに
「どうして私の名前書いてくれなかったの?」
って問いただしてる。
もちろん二人ともよっすぃーの名前を書いてたりする。
「いいだろー圭織さんが好きなんだから」
ぶっきらぼうにそう答えるよっすぃー。
だが、二人が納得するわけもなく
「どこがいいの、あんなオバサン」
「よっすぃーは私が1番てゆーたやんか〜」
好き勝手言ってくれてる。
私は怒りを抑えながら寝ている振りをしていた。

その後もこんな調子でハロモニの収録が続く。
なぜかよっすぃーは私にべったりだし、辻加護石川はそんな私をじっと見ている。
何度かよっすぃーに「今日のよっすぃーは変だよ。私にべったりして…」
と言ったが、「嫌なの?」って顔を覗き込まれると、必死に首を振ることしかできなかった。
でも、絶対今日のよっすぃーはそれとは別に変だった。
あの笑い顔。
何か違うんだ。
いつもと、何かが違うんだ。何かわからないんだけど。
14 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時39分21秒
そんなこんなでハロモニの収録も終わり、ラジオ収録に向かう。
時刻は既に22時を回っていた。
ざっと書類に目を通し、収録スタート。
いつもながらラジオの仕事は結構好きだ。
たった30分足らずだけど、自分が表現できる。
モーニング娘。は歌やダンスを通して表現している。
そして、私はこうやってトークでも表現できる。
それがうれしかった。
いろんな形で自分が表現できるってステキだ。
そう言えば、私のもう一つの表現方法でもある絵。
しんどいけど、今日帰ったら描こうかな…
15 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時40分12秒
ところが、そんな私の思いは家の前でついえる。
戸口にはなにやらもそっとしたものが丸まっていた。
思わず悲鳴を上げそうになったが、よくみるとそれはよっすぃーだった。
「どうしたの?なんでこんなところにいるの?
もう1時前よ。それに、どうやって入ってきたの?」
私のマンションは入り口にロックがあり、中から開けてもらうか、鍵がないと入れないはずだ。
「それは愛の力ですよ」
立ち上がって胸を張って言う。
相変わらずの変なテンションのよっすぃー。
だが、その唇は真っ青だった。
私はとりあえず鍵を開け、家に入れる。
詳しい話はそれからだ。
「コーヒーでいいよね?」
返事を聞かないまま、私はそう言うとコーヒーを入れる。

「で、何でこんな時間にこんなところにいるの?」
コーヒーをすすりながら私は尋ねる。
「えっと、会いたかったから。圭織さんに会いたかったから」

ポツリとそう言う。
「よっすぃー、何かあったの?変だよ。今日になっていきなり…」
「迷惑ですか?」
また、その表情だ。
そんな顔されてそんなこと言われると、何も言い返せない。
「じゃあいいじゃないですか」
そう言ってコーヒーをすするよっすぃー。
16 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時40分44秒
「でもね、でも…」
いいたいことがいろいろあり過ぎて、言葉にならない。
でも、よっすぃーは私に気も留めず、こう言った。
「今日、泊まっていってもいいですか?」
「は?」
私は思わず耳を疑った。
そりゃ、何度もメンバーが泊まることはあったさ。
でもさ、今日のよっすぃーからすると、あんなことやこんなことしそうな雰囲気だよ。
嫌ってわけじゃないよ、でもね、でも…
真っ赤になって黙り込む私。

「大丈夫。このソファにでも寝てるから」
そんな私によっすぃーはそう言ったので、ホッとした反面ちょっとがっかりした。
「それとも、一緒に寝ていいの?」
小声で耳元で囁かれる。
「ちょっ…そんな…」
「嘘です。嘘」
笑いながらよっすぃーは立ち上がった。
「どこいくの?」
「トイレ」
そう言い残して部屋を出て行った。
17 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時41分33秒
私は、そのときふと隣の部屋の絵のことを思い出した。
あれを見られたらまた何を言われるかわからない。
隠しとこう。
そっと隣の部屋に行く。
今朝、ここで寝ていたから、部屋はぐちゃぐちゃだった。
でも、昨日と大きく違うところが一つあった。
それは、絵が完成していた。
いつのまにか。
昨日酔っ払って描いちゃったの覚えてないのかな?
必死で朝のことを思い出すが、朝は忙しくて絵を見た覚えが無かった。
でも、今はそんなことを考えている場合じゃない。
部屋にかけてあるシーツをそっと絵にかける。
その時だった。
ふと、絵の中のよっすぃーが寂しそうに見え、手を止めた。
表情は笑っている。
でも、瞳が寂しそうだった。
じっと絵を覗き込む。
その瞳の奥によっすぃーの姿が見えた気がした。
「よっすぃー」
私の口から自然とその言葉が出た。
絵の中のよっすぃーは変わらず、寂しそうな瞳をしていた。

その時だった。
「あれ?圭織さんどこ?」
隣の部屋から声が聞こえてくる。
慌ててシーツをかけると、部屋を出て行った。
18 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時42分08秒
「ごめん、ちょっと隣の部屋片付けてた」
部屋の中を見られないように急いでドアを閉める。
「へー、圭織さんってその部屋で絵を描いてるんだよね?
大きな窓があって、壁には絵がいくつか飾ってあるんだよね?」
まるで中を見ていたかのようによっすぃーは話す。
この部屋は決してメンバーにも見せていない。
なのに、なぜ?
「どうして知ってるの?」
無意識にその言葉が口から出た。
「え…あの、安倍…さんに聞いて…」
今日初めて見るかもしれない、よっすぃーの動揺した表情。
「なっちはこの部屋には入ってないよ」
「じゃあ、圭ちゃんだったかな…」
「圭ちゃんも入ってない」
きっぱり私はそう言った。
「じゃあ…」
よっすぃーが次の言葉を言うのを私の言葉が遮った。
「よっすぃー、こないだ来た時、入っちゃダメっていったのに入ったでしょ」
私はそう言った。
もうだいたいわかってきたさ。
よっすぃーの秘密が。
でも、いや、だからこそ私はそう言ったんだ。
「ごめんなさい。つい見たくなっちゃって…」
よっすぃーは苦笑いを浮かべて言った。
「もう、そうならそうとちゃんと言ってよね。嘘つきは泥棒の始まりだよ」
私は無理して怒っていた。
19 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時42分57秒
「もう寝よっか。よっすぃーも私のベットに来ていいよ」
「え、ホント?」
「でも、変なことしちゃ、怒るよ」
そう言った私の瞳は潤んでいた。
そのことによっすぃーも気付かないわけが無い。
何も言わずに、ハンカチをそっと渡してくれた。
「ありがとう」
それだけ。
たったそれだけ言って涙を拭く。

そのまま、そう、そのまま私たちはベットにもぐりこむ。
よっすぃーはそっとこう言った。
「手、つないでいいですか?」
返事の代わりに私はそっとよっすぃーの手をとる。
あったかい手。
そのぬくもりを忘れないように私はきつく握った。


なぜ?
なぜそんなことを?

わかっていた。
全てわかっていたから。
このよっすぃーは本当のよっすぃーじゃないって言うことを。
私の描いた絵。それがこのよっすぃーだってことを。
だから、だから、もうすぐ消えてしまうことも気付いていた。

わからない。
難しいことはよくわからない。
どうして絵のよっすぃーが現実のよっすぃーなのか。
そんなことはわからない。

ただ、私の想いが、絵に魂を吹き込んだのかもしれない。
そう自分で納得していた。
20 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時43分28秒
「ありがとう、よっすぃー」
目を閉じてそう言う。
「え?何のことですか?」
「もうしらばっくれなくていいんだよ。全部わかってるから」
よっすぃーは少し間をおいてから
「そうですか」
とだけ言った。

「最後に、お願いがあるんだ…」
私は言った。
「なんですか?」

そっと私はよっすぃーの耳元で囁いた。
そして、お互い手を握ったまま、そっと唇を重ね合わせた。
暗闇の中、その一瞬が永遠のように感じた。


そして、私は耳元で声を聞いた。
「圭織さんありがとう」と言う声を。

21 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時43分58秒
次に目が開いたとき、朝だった。
顔を上げると、あの絵が目の前にあった。
完成されていないその絵が。

「夢か…」
働かない頭でそう結論を出す。
日付をみると、やっぱり時間は進んでいなかった。
ただ、私の右手にはハンカチが握られていた。
よっすぃーが渡してくれたハンカチが。
あれが本当にただの夢だったのかわからない。
でも、少なくとも私はただの夢じゃないと思うんだ。
きっと、私が描いた絵がくれたもの。
22 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時44分40秒
で、何時までも考えてる暇無いから、いつも通りパッパと用意してでていくわけ。
でもね、いつもと違うのは「いってきます」と言える相手が出来たこと。
ねえ、よっすぃー。今日こそはきちんと完成させてあげるからね。

「いってきます!」

そう言って私は家を出る。

でも、いつかホントのよっすぃーとキスなんか出来たりしたらいいな…
そんなことを思いながらいつも通り楽屋へ入る。

ちゃんとよっすぃーは来てたよ。集合時間30分前だというのにね。
昨日買ったと思われるゆで卵をほおばってた。
でね、そのとき気付いたんだ。
私がずっと抱いていたよっすぃーの笑顔の違和感。
あれってね、私がホクロを1個描いてなかったんだ。
よっすぃーの目元のやつ。
さっそく帰ったら描いとかないとね。
23 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時45分17秒
それで、相変わらずなっちは遅刻寸前にきて、収録は始まる。
夢でやったことと全く同じことだった。
違うのは、よっすぃーが加護ちゃんや石川、そしてのんちゃんとべったりなこと。
そして、もちろん雑誌のアンケートも同じだったよ。
私はこう書いたんだ。

『よっすぃーを彼氏に。かっこよすぎる。これって相思相愛?』

もちろん漢字は間違えずにね。
よっすぃーはどう描いたのかな?
よっすぃーの方を見てみると、相変わらず加護ちゃんと石川に囲まれてた。
「なんで私じゃ無いの?」
「ええやんか。よっすぃーは私が一番やねん」
どうやら加護ちゃんと書いたらしいね。
「もう、どっちかけばいいんだよ」
「私、私」
二人同時に声が聞こえる。
「わかったよ。もう二人とも書かない。圭織さんにするよ」
その言葉に私の耳が反応する。
24 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時45分52秒

「どこがいいの、あんなオバサン」
「よっすぃーは私が一番てゆーたやんか〜」
続いて二人の口から出た文句も聞こえてきた。

いいよ、今日は聞かなかったことにしてあげる。
機嫌がいいんだ。今は。


ありがとうね、よっすぃー
25 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時46分22秒



           FIN


26 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時47分01秒
 
27 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時47分34秒
 
28 名前:09 ポートレート 投稿日:2003年03月10日(月)03時48分09秒
 

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