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06 あぶりだし

1 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月10日(月)01時10分50秒
06 あぶりだし
2 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月10日(月)01時11分25秒
 
3 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月10日(月)01時12分00秒
 
4 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月10日(月)01時12分43秒
 
5 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月10日(月)01時14分29秒
6 名前:06 あぶりだし 投稿日:2003年03月15日(土)17時02分02秒
 カモメの切手が印刷された書中見舞いに混ざって、1枚だけ、折り鶴のような
暗い雰囲気の切手が貼られたハガキが届いた。
 なぜか一枚だけ分厚くて、重い。
 やな予感がした。
 ウラにすると隅のほうが灰色に縁取られていた。黒一色で印刷された文字は、
ところどころが薄くかすれている。
 ハガキには、とても簡単な言葉で、絵里ちゃんが死んだとだけ書かれていた。
享年14歳。享年って何て読むんだろ。読み方がわからないと辞書も引けない。
 いつどこでどうして死んだのだかとか葬式や通夜の日取りとか、だいじなこと
はひとつも書いてなかった。
「…誰? さゆみ?」
 不機嫌そうなれいなの声で、彼女の携帯に電話したことを理解する。無意識の
うちに指が動いていたらしい。
 あたしは、
「どうしよう絵里ちゃんが死んじゃった!」
 なんて、兎を死なせてしまった飼育係みたいなことを、涙声で言うのが精一杯
だった。
7 名前:06 あぶりだし 投稿日:2003年03月15日(土)17時05分05秒
 絵里の死亡通知は、れいなのところにも届いていた。れいなは、絵里が死んだ
ことは誰にも喋らないように、と言って電話を切った。
 絵里が死んだというのに次の日も普通にレッスンがあった。
 あたしたちの一人が死んでも、日常生活は変わらない。
 サクラ組は大変なのかもしれないが、乙女組は普段のまま。絵里のことなんて、
誰も話題にしなかった。
「あんた目、すごい真っ赤」
 非常階段の下のほうに座ったれいなが、あたしのほうを振り仰いで言った。
「だって…、れいなは哀しくないの…? 絵里、死んだんだよ? なのに…」
 れいなは、あたしに背を向けた。それから少し背中を丸める。カチカチと石が
なって、細い煙が立ち上った。あたしはれいなが煙草に火をつける瞬間を見たこ
とがない。それを他人に見られるのは、霊柩車に親指を見せるのと同じぐらい不
吉なことだと、れいなは信じているみたいだった。
「そういえば、今週来てた? いつもの」
 れいなは身体を横に向けて壁に背を預けた。だるそうに煙草をふかす。器用に
作られたドーナツ型のもやが非常階段を昇る。煙を吐くれいなの唇は、藤本さん
にキスを迫る松浦さんに似て、微妙にセクシーだ。
8 名前:06 あぶりだし 投稿日:2003年03月15日(土)17時06分54秒
「見付かる前にやめたら…? 喉に悪…」
 れいなを見ているのが気まずくなって、微妙に視線をずらして、思ったことと
は逆のことを言った。れいなは苛々したように髪をかきあげた。
「来てたの? 来てないの?」
「来てた…。れいなは…?」
「来てた。わけわかんない」
 れいなは立てた人差し指と中指の間に4通の封筒を、ババ抜きでもするかのよ
うに扇状に開いて見せた。サクラ色の封筒。リターンアドレスは亀井絵里。消印
はいつも火曜日。毎週木曜に、れいなとあたしに届く定期便だった。
「封…、切ってない…」
「だって何も書いてないじゃん。見たって仕方なくない?」
「見てよ…。なんか書いてあるかもしれない…」
「さゆみのには書いてあった?」
 あたしはポケットに突っ込んだままだったサクラ色の封筒を取り出した。よれ
よれになっている。指で乱暴に破ったところから紙をひっぱりだした。
「いつもと同じ…」
 まっしろな紙が一枚。
9 名前:06 あぶりだし 投稿日:2003年03月15日(土)17時08分07秒
「持ち歩いてるんだ?」
「うん…、だってなんか不思議で…」
 亀井絵里はイマドキのコには珍しく筆まめだった。初夏から彼女のいるサクラ
組と別れて乙女組で活動しているあたしたちに、毎週1通ずつ手紙をくれる。趣
味のいい便箋に、サクラ色の封筒で、簡単に今日あったことを書いてくれた。
 絵里は、あたしが高橋さんのファンだって知ってるから、内容はだいたい高橋
さんのことだった。たまに、高橋さんがひとこと書き添えてくれることもあって、
毎週なんとなく楽しみにしていた。
 その手紙が、一ヶ月ちょっと前から、白紙になった。
 れいなと二人で何のイタズラなのか謎かけなのか首をひねって、本人に電話を
かけて直接聞いてみたことがある。
『ふたりで考えてみて?』
 笑いを含んだ声で、絵里は言った。
 その頃には滅多になくなっていたんだけど、仕事の加減で絵里と一緒になった
ときには、思いつく限りの答えを言ってみた。絵里はどれも笑って首を振った。
彼女からなんとか引き出せたヒントは、白紙は本当は白紙ではなくて、ちゃんと
メッセージが書き込まれている、ということだった。
10 名前:06 あぶりだし 投稿日:2003年03月15日(土)17時09分19秒
「ねぇ、絵里ってどんなコだった?」
 非常階段のずっと上のほうを見上げながら、れいなが唐突に言った。
「ええっと…、あたしよりも歌がうまくて…」
「踊りもうまくて。あたしのほうがうまいけど」
「面倒見そんなよくなかったよね…」
「なかった。あたし、さゆみと喋ってたら置いてかれたことあったもん」
「絵里だけ一人で先に衣装合わせしてた…」
「なんだったんだろうね。衣装もみんな違ったしさー」
「でも、ちょっと寂しがり屋だった…」
「そうだっけ?」
「毎週手紙くれるし…。あたし2回に1回しか返事しなかったな…」
「あたし返事出したことないし」
「れいな、最低…」
「面倒っちいじゃん。メールならいいけど、文通て」
「けっこー面白かった…。楽しみだった…」
「ふぅん。あのコ才能あったのかな」
「なんの…?」
「文章とか。ショウセツカとか向いてんじゃないの?」
11 名前:06 あぶりだし 投稿日:2003年03月15日(土)17時10分18秒
 投げやりに言ったれいなは、ハッとした顔になった。それから、持ち歩いてい
たソーイングセットのなかから小さなハサミを取り出して、器用そうな手つきで
封を切った。
 白紙。   白紙。     白紙。
 全部あたしと同じ、趣味の良い便箋だった。
 そして、今週の火曜日の消印の、最後の封筒から出てきたのは、真ん中に絵里
の字で『了』と書いてある白い紙だった。
「これ、あんたのにもあった?」
「なかった…」
 れいなは、険しい顔で考え込んだ。しばらく、ものすごい勢いで煙草をふかし
てから、いきなり壁を蹴った。
「あーッ、わっからん。ムカツク」
「れいなはわかってるって気がした…、ハガキのこととか…」
 ああ、あれ、とれいなは笑った。
「ニセモノじゃん? ばっかみたい」
「え…」
「あたしウソ見抜くのトクイなんだよね」
12 名前:06 あぶりだし 投稿日:2003年03月15日(土)17時11分30秒
 トランプでもしそうな手つきで、れいなはハガキをひらりと回転させた。ポケッ
トに入っていたんなら、あたしのさっきの封筒のようにヨレてるはずなのに、ピ
シッとしてる。
 れいなはハガキがあたしに見えやすいように手を伸ばした。
「灰色んとこギザギザ。自分で、色ペンで塗ってるっぽい。インクかすれてんの
はプリンターで自分で打ち出したから」
「え…」
「今日のレッスンで誰からも何もないのも変。飯田さんもマネージャーも夏先生
もフツー連絡いくでしょ」
「ええ…っ?」
「モチューケツレイって、年賀状の季節の前に届くよね。11月とか12月」
「じゃあ…、これって…」
「そ。絵里の手作り」
「…なんでそーゆーことすんの?」
「だからわけわかんない。ムカツク」
 れいなは、持っていた白紙に煙草の火を近付けた。煙草の火はすぐに紙に移っ
て燃え広がる。炎の中で紙は身を捩じらせて、茶色く黒く変色する。茶色く……
13 名前:06 あぶりだし 投稿日:2003年03月15日(土)17時12分32秒
「ああー…っ! 火! 火消してっ!」
「いいじゃん燃やしちゃえば」
「違ッ! 字ッ! 字がッ!」
「え? わっ、あぶなッ」
 あたしはれいなから手紙を奪うと、紙を叩くようにして火を消した。飛ばされ
た炎のかけらは鉄製の階段に落ちて、燃え尽きる。
「ほら…、これ…、字…」
 あたしはれいなに見えるように、紙のなかにぼんやりと浮きあがった薄茶色の
文字を指差した。
「わけわかんない」
 れいなは脱力したように、笑ってから、煙草を携帯用の灰皿にしまって立ちあ
がった。それから衣装の裾を直して、腰まわりの上着のだぶつきをチェックして、
髪を乱暴に梳いた。それから、
「あげる」
 と言って絵里の手紙をあたしに押し付けた。燃えかけのやつと、燃えてないや
つ。
「読みたかったら読んで。いらなかったら、さゆみが捨てて」
14 名前:06 あぶりだし 投稿日:2003年03月15日(土)17時14分22秒
「気にならないの? 絵里の手紙…」
 れいなは軽く肩をすくめた。
「普通に書くことさえ出来ない手紙なんてさ。読むの怖いよ」
「でも…」
「しかも最後が自分の死亡通知って。怖すぎ」
 これは遊び。絵里が始めて、絵里が強制終了した一方的な暗号遊び。
「あたしのに『了』があって、あんたのになかったから、これ多分二つで一つだ
よ。両方読んだら意味わかるよ、きっと。あたしは気付かなかったことにするか
ら、あぶりだしもそのハガキも」
 それが、れいなのゲーム終了の意思表示だった。

 ……あたしは?

 あたしはこの手紙をどうしよう?
15 名前:06 あぶりだし 投稿日:2003年03月15日(土)17時15分15秒
16 名前:06 あぶりだし 投稿日:2003年03月15日(土)17時15分57秒
17 名前:06 あぶりだし 投稿日:2003年03月15日(土)17時16分57秒
失礼
18 名前:06 -1 投稿日:2003年04月02日(水)01時12分38秒
『ね、いまのもういちど言って』
「はァ?」
『もういちど言ってよ』
「せからし。言わん」
『(笑い声)九州弁いいよね、なんか』
「そがん話ばしに電話したんじゃなかとよ。なんね、あのハガキは」
『ハガキ?』
「死亡通知。絵里の」
『あぁ…、届いたんだ』
「いたずらにしたって、ひどかよ。さゆ泣いちょったよ」
『(笑い声)さゆ、泣いたんだ?』
「なんね。これも関係あるんね? わけわからんあん手紙に」
『読めた?』
「読めん。いーっちょんわからん」
『読んでよ。読めたらまた電話して』
「そがん…」
『九州弁いいよね、なんかほのぼのするっていうか』
19 名前:06 -1 投稿日:2003年04月02日(水)01時13分48秒

20 名前:06 -1 投稿日:2003年04月02日(水)01時14分47秒


21 名前:06 -1 投稿日:2003年04月02日(水)01時15分22秒





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