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05 スペースパニック
- 1 名前:05 スペースぱにっく 投稿日:2003年03月10日(月)00時49分37秒
スペースパニック
- 2 名前:05 スペースぱにっく 投稿日:2003年03月10日(月)00時50分49秒
- ――1――
6人を乗せた緊急用シャトルは、次第に地球へ近づいてゆく。
モニター画面に映る地球は、何度見ても美しく輝いていた。
そんな光景とは裏腹に、船内の5人は誰もが緊張している。
さすがに、この状態であったら、緊張するのはムリもないだろう。
なにしろ、4人乗りのシャトルに6人も乗っているのだから。
『軌道が1度だけ外れとるわ。修正せえ』
管制官の中澤が、シャトルの修正プログラムを電送してきた。
そのプログラムをシャトルのシステムに読みこませたのは、
誰よりも機器に詳しい、通信担当軍曹の紺野である。
彼女はモニター画面が更新すると、その旨を中澤に伝えた。
シャトルは軌道を修正するため、自動的に少しだけ燃料を使う。
正常な軌道に戻ったシャトルは、順調に地球へと接近していった。
「11分後に大気圏へ突入! 」
- 3 名前:05 スペースぱにっく 投稿日:2003年03月10日(月)00時51分26秒
- 観測担当曹長である吉澤の報告を受けた隊長の安倍大尉は、
自分専用のモニターで、着陸予定ポイントを拡大した。
定員オーバーであるため、最短距離で着地する場合、
この軌道からゆくとグリーンランドのツンドラ地帯である。
安倍は着陸予定ポイントを、あらためて中澤に報告した。
「着陸予定地点はN74W23±半径2キロだべさ」
『うん、予定通りやな』
すでにデンマーク海軍とアメリカ海兵隊が、シャトルの救出に向かっていた。
着陸地点が極寒の地であるため、早急に救出してもらわないと命にかかわる。
張りつめていた空気は去り、全てが順調に推移しているので、
下士官たちは安心して雑談を始めた。
「隊長、酸素が予想以上に減ってる」
医療担当軍曹の加護が、酸素消費量のモニターを見て報告した。
酸素が消費されたのは、全員が緊張していたせいだと思われる。
それでも予備のボンベがあるので、まったく問題はなかった。
- 4 名前:05 スペースぱにっく 投稿日:2003年03月10日(月)00時51分58秒
- ――2――
2033年、地球と月の中間に位置する静止衛星:さくらM。
昨年、日本が打ち上げた世界最高レベルの観測衛星である。
『さくらM』では、気象観測や隕石の軌道を調査していたが、
最大の目的は、テロ国家や組織の監視であった。
アメリカやフランス、イギリスのスパイ衛星を統括し、
旧NATO諸国が極秘に情報を共有していたのである。
「なっち、これを見てよ」
安倍の部屋へ書類を持ってきたのは、副官の矢口中尉だった。
古い時代の人工衛星とは違い、筒状の船体を回転させているため、
遠心力によって重力が生まれ、地上と同じ感覚で動くことができる。
矢口はファイルケースから、一枚の書類を出して安倍に見せた。
「デジタル波のコードが変だべさ」
通信に使用されるデジタル波は、一定の解析コードで保護されている。
さらに、何重もの複雑なセキュリティによって守られているのだが、
テロ国家や組織は、何とかして傍受しようと躍起になっていたのだった。
- 5 名前:05 スペースぱにっく 投稿日:2003年03月10日(月)00時52分22秒
- 「このコードを使うと、別のコードでも開く可能性があるの」
「まさか、ウイルスの侵入だべか? 」
『さくらM』で最も警戒していたのは、システムへ送りこまれるウイルスだった。
外部からの侵入は不可能だったが、船内の端末からは送りこむことができる。
しかし、そのうちの99パーセントは、自動的に発見、駆除が可能だった。
矢口は安倍のベッドに腰かけ、唯一の不安である新型ウイルスの件を話す。
「ひょっとしたら『カオリン』の新種・亜種かもしれないよ」
テロ組織が開発した『カオリン』というウイルスは、
感染すると進化しながらランダムに交信を始めてしまう。
ごく初期の場合であれば隔離も可能だったが、
数時間もすると宿主を見つけて寄生するのだ。
最終的にはシステムを破壊してしまう恐ろしいウイルスである。
- 6 名前:05 スペースぱにっく 投稿日:2003年03月10日(月)00時52分49秒
- 「もしそうなら一大事だべさ。矢口はコンピューターをチェックして」
「うん―――ただ、ちょっと―――」
矢口は言いにくそうに目を伏せた。
それだけで安倍は、彼女が何を言いたいのかを察する。
矢口とは、もう5年のつきあいになるのだ。
「信じたくないけどね。部下にスパイがいるなんて」
外部からの侵入が不可能な以上、この衛星内のだれかが操作した可能性が高い。
こればかりはやりたくなかったが、安倍は部下の経歴を再チェックすることにした。
- 7 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)00時54分04秒
- ――3――
衛星内の食堂では、吉澤が賭けポーカーをやっていた。
加護や紺野をカモにし、すでに1ヶ月分の給料を稼いでいる。
盛りあがる食堂に非常ベルが鳴り響いたのは、吉澤がコールした時だった。
「マジかよ。こんな時に」
『全員持ち場につけ! 緊急事態だよ! 』
矢口の緊張した声が響き渡った。
これまでに何度か緊急事態通報があった。
しかし、今回ほど緊張した雰囲気ではない。
だれもが、今回は深刻な状態であるのを察知した。
「矢口、何があったべさ」
安倍が司令室にやってくると、矢口は泣きそうな顔で報告する。
それはだれもが、寝耳に水の話であった。
- 8 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)00時54分36秒
- 「緊急用シャトルが発射されたの」
安倍がメンバーを見ると、通信補助担当伍長の新垣がいない。
新垣は矢口がかわいがっていた若い下士官である。
それを知った安倍は、納得したように何度もうなずいた。
「なにこれ! イオン還元装置が動いてない! 」
加護はモニターを見ながら絶叫した。
船内の空気は、二酸化炭素を分解して酸素を作っている。
それでも足りない分を、ボンベで補っていたのだ。
「なっち、『カオリン』の亜種が全体に広がってる」
矢口は絶望的な状況を報告した。
しかも、地球との連絡がとれなくなっている。
安倍は目を閉じて腕を組み、どうすべきかを考えた。
やはり新垣が、テロ組織のスパイだったのである。
安倍が部下の経歴を調べていると、新垣のデータだけが書き換えられた。
- 9 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)00時55分03秒
- 「矢口、話があるべさ。吉澤、高橋、任せたよ」
安倍は吉澤と宇宙航海士曹長の高橋に任せ、矢口を連れて自室へと移動した。
こういった緊急事態に関して、担当下士官は特別な訓練を受けている。
安倍や矢口が余計な口出しをするより、彼女たちに任せたほうが賢明だろう。
いつもより変な音で、安倍の部屋のドアが開いた。
すでに『カオリン』はシステムの破壊を始めていたのだ。
「矢口、脱出するしかないべさ」
「いや、ここは救助隊の到着を―――そうだった」
セオリーとしては救助隊の到着を待つのだが、地球ではロケットの打ち上げができない。
なぜなら、テロ組織が破壊活動を行い、有人ロケットが2機も爆発炎上していたのだ。
各国は徹底したチェックを開始し、ロケット発射のメドがたつのは、ほぼ1ヵ月後である。
それは救助隊のロケットも例外ではなく、将校にだけ通達されたことであった。
- 10 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)00時55分30秒
- 「新垣がシャトルを使ったから、残りは1機しかないべさ」
1機のシャトルは4人乗りで、最大積載量が300キロである。
これを超えると軌道が安定せず、最悪は大気圏突入と同時に爆発してしまう。
全員が素っ裸で乗ったとしても、300キロは軽く超えてしまっていた。
「誰かが残らないといけないのか―――」
「このまま『カオリン』が暴れると、最悪は『さくらM』が自爆するっしょ」
『さくらM』には、軌道が外れて地球に墜落した場合を想定して、
自爆装置が装備されていたのである。
すぐに爆発することはないが、タイマーが起動すれば一時間だった。
「矢口、救助隊の件は秘密だよ」
誰かが残らなくてはいけないのだ。
水や食糧こそ十二分にあるが、問題は酸素であった。
- 11 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)00時55分53秒
- ――4――
安倍と矢口が司令室へもどると、さらに深刻な事態となっていた。
『カオリン』の増殖こそくいとめたが、それを修復することができない。
そして、酸素の量が、あと2日分であると判明したのだった。
「しかたない。脱出するべさ」
安倍は苦渋の決断をすることになる。
誰かを『さくらM』に残らせない限り、緊急用シャトルは失速してしまうのだ。
航海士である高橋は外せないし、通信担当の紺野もシャトルには必要である。
着陸地点の観測には吉澤が欠かせなかったし、万が一に備えて加護も欲しい。
そうなると、メンバーから外されるのは、化学研究技官伍長の道重だけだった。
「道重、悪いけど残って欲しいべさ」
- 12 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)00時56分18秒
- 一人だけであれば、2週間ほどの酸素が残っている。
その間に救助隊に来てもらえばいいので、
道重は快く安倍の要請を受け入れた。
ところが、全員がシャトルの前で緊急脱出の準備をしていると、
矢口が道重の脱出装備を持ってやってくる。
「お前は脱出しろ。オイラが残る」
矢口は『さくらM』に残ることにしたのだった。
やはり、部下を見殺しにすることなど、矢口にはできなかったのだろう。
矢口はそれだけ言うと、司令室へ行ってしまった。
「や―――矢口! 」
安倍は驚いて矢口の後を追った。
そして、司令室に入ったところで追いつき、
どういったつもりなのか問い詰めた。
これだけ長いつきあいであるから、
安倍は矢口を死なせたくないのである。
- 13 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)00時56分42秒
- 「もう決めたの。行って。なっち! 」
「そんな! 」
矢口は何とか動いているモニター画面に、
部下たちの顔写真を映しだして自分のシートに座った。
きれいに6分割された画面を眺め、矢口は小さな声で話しはじめる。
「オイラだって死にたくないよ。でも、あの子たちには将来があるじゃん」
「なっちも残る! 」
「それはだめ! ―――なっちは指揮官として、あの子たちを地球に連れて帰る義務があるのよ」
「矢口! 」
安倍は矢口を抱きしめて泣いた。
仕事のパートナーであり親友でもある矢口が、
自らみんなの犠牲になるのだ。
- 14 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)00時57分08秒
- 「なっち、もう時間がないよ」
最短距離でグリーンランドの雪原に着陸するには、
あと5分以内に出発しなくてはならない。
矢口は自分の認識票を外すと、安倍の胸ポケットに入れた。
「仇は―――仇は討ってやるべさ! 」
矢口が笑顔でうなずくと、安倍は涙を拭い、胸を張って司令室を出て行こうとした。
だが、ドアの前で立ち止まり、彼女は背中を向けたまま、大声で矢口に言った。
「今までありがとう! 」
安倍が出て行くと、司令室には矢口だけが残された。
- 15 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)00時57分42秒
- ――5――
安倍は後方のカメラを選択し、自分専用のモニターに『さくらM』を映しだした。
すでに『さくらM』は、拡大しないと見えないほど小さくなっている。
その鉄の棺桶の中に、親友の矢口が残っているのだ。
「全員に伝えることがあるべさ」
狭いシャトルの中であるから、安倍の声は全員に届いた。
専用の椅子に座っているのは、安倍・吉澤・高橋・加護の4人。
荷物固定用のベルトで体を安定させているのが、紺野と道重だった。
安倍の沈んだ声に、他の5人は何ごとだろうと注目する。
「これは将校にしか伝えられていなかったんだけど、
救助隊のロケットは1ヶ月しないと発射されないんだべさ! 」
「そ―――それじゃ! 」
全員が口々に「矢口さん」と言いながら、悲しそうに目を閉じた。
やがて、衝撃が怒りに変わり、最初に文句を言ったのが吉澤だった。
- 16 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)00時58分25秒
- 「なんで最初から言わねえんだよ! あんた、道重を残そうとしたじゃねえか! 」
吉澤が加護が紺野が道重が、安倍を非難するように見つめた。
だが、宇宙航海士の高橋だけは安倍を擁護する。
それは、高橋も航海士として、決断すべき場合があるからだ。
「吉澤さん、隊長は悩んだと思いますよ。道重を残すことを」
安倍は何も言わず、唇を震わせながら、
遠ざかって行く『さくらM』を見ていた。
誰もが安倍と矢口が親友であると知っている。
吉澤も安易にあんなことを言ったが、
ほんとうは安倍が残りたかったのだと思った。
「す―――すいません隊長」
安倍は責任者として部下を地球に帰還させ、上司に報告する義務があるのだ。
よく考えれば、吉澤としても、そのくらいのことは分かっている。
だが、吉澤はやり場のない怒りにまかせて、安倍を非難してしまった。
- 17 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)00時59分03秒
- 「吉澤、いいんだよ。私は道重を殺そうと―――」
「矢口中尉に敬礼! 」
高橋は安倍の言うことを、まるで打ち消すように言った。
全員が無言で、矢口の勇気と愛情に敬礼をした。
『どした? そろそろ大気圏突入やで』
中澤の声で我にかえったメンバーたちは、最も危険な瞬間に備えることにした。
大気圏への侵入は、その空気摩擦で船体表面が高温になり、とても危険である。
さらに、侵入角度をまちがえると、空気抵抗によって船体が潰れてしまうのだ。
「大気圏に入りました! 」
高橋はシャトルの角度を微調整しながら、重力とのバランスをとっている。
その横では吉澤が船体の表面温度をチェックしていた。
加護は船内の酸素量を確認していたが、とんでもないことに気づく。
- 18 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)01時00分21秒
- 「た―――隊長。酸素、なくなっちゃった」
そして、今度は高橋が叫び声を上げる。
「重い! 船体が重くて角度が取れない! 」
全員が慎重に重量をチェックしているから、決して300キロにはならないはずだ。
安倍の計算で行けば287キロであり、制限重量よりも13キロ軽いはずである。
たしかに10キロも超過すれば、デリケートなシャトルに影響も出るだろう。
安倍は急いで重量の測定を行ってみた。
「約9パーセント重量超過だべさ! 」
「ハァハァハァ―――息苦しい―――」
全員が酸欠による息苦しさを感じていた。
やはり、4人乗りのシャトルに6人も乗るのがムリだったのか?
- 19 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)01時01分27秒
- 「高橋! 船体がもたない! なんとかしろー! 」
吉澤はシャトルの船体が、耐久温度を超えたことを告げる。
このまま行けば、数秒でシャトルは爆発してしまう。
高橋は必死で操作するが、シャトルの角度は向上しなかった。
「通信装置が故障しました! 」
紺野は通信装置が壊れたことを報告した。
恐らく、船体の熱にやられたのだろう。
「落下傘を開け! 」
この状態で落下傘を開いたところで、数秒しかもたずに燃えてしまう。
だが、その数秒でシャトルの角度を変えられる可能性があった。
予備の落下傘もあるので、着地には影響がない。
すると、今度は加護が悲鳴を上げる。
- 20 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)01時02分01秒
- 「船内の酸素量、あと2分で50パーセントを切る! 」
ここは思案のしどころだった。
シャトルが爆発するか、窒息するかである。
安倍は迷わず落下傘を指示した。
爆発したら全員即死であるが、
高度が下がればエアロックを開けることができる。
「開傘! 」
落下傘が開くと、激しい衝撃があり、何かが床を転がった。
それは荷物のひとつのようだったが、だれも気にしていない。
「船体が安定しました! 」
高橋が嬉しそうに言うと、モニターの表面温度も徐々に下がって行った。
あとは酸欠との闘いである。高度が1万メートルになったら、エアロックを開けられる。
- 21 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)01時02分39秒
- だれもが苦しくて汗をかきながら、必死に耐えていた。
すると、床を転がっていた荷物が自分で動き出す。
そして、中から手が出てきて、エアロックのスイッチを押した。
まだ高度は3万メートルであるから、エアロックを開くのは自殺行為だ。
「高橋! き―――急降下するべさ! 」
「りょ―――諒解」
高橋は急降下を始めたが、エアロックが開き、
すごい勢いで船内の空気が吐きだされて行く。
エアロックを開いた『荷物』は、そのまま外へ吐きだされそうになる。
それを安倍が手を伸ばして掴み、外へ吐きだされるのを阻止した。
そして、全員が激しい気圧の変化に耐えていた。
「耳が―――耳が痛え!」
「高度3千メートル! 開傘します! 」
- 22 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)01時03分18秒
- 高橋は眼下に広がる砂漠に着地するつもりのようだ。
ようやく大気の供給を受け、全員が深く深呼吸をする。
酸欠で思考停止寸前だった脳が活性化し、
だれもが助かったと実感していた。
「ここは、アリゾナの砂漠じゃねえか! 」
吉澤が叫ぶのと『荷物』から顔がでてくるのが同時だった。
安倍はその顔を見ると、嬉しさのあまり泣きだしてしまう。
それは『さくらM』に残っているはずの矢口だったからだ。
「矢口! 」
「はー! 苦しかったー! 」
安倍は矢口を抱きしめ、しばらく何も指示することができなかった。
- 23 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)01時03分57秒
- ――6――
「だってさー、オイラだって死ぬのは怖いもん」
矢口は額にできたコブを撫でながら、唇を尖らせている。
シャトルは砂漠に着陸したが、衝撃で矢口が飛ばされ、
操縦していた高橋の後頭部と激突したのだった。
「冗談じゃねえよ。みんな死ぬとこだったんだぞ」
「そうだべさ! なっちはほんとうに悲しかったんだからね! 」
「どうりで酸素の減りが早いはずだよ! 」
全員が矢口をにらむが、やがて笑顔になり、みんなが肩を叩き合って喜んだ。
4人用のシャトルに7人も乗ってきたのだから、全員の生還が奇跡である。
安倍は携帯電話で中澤に連絡すると、ユニフォームを脱いで涼をとった。
「だけど、いつの間に乗ってたんですか? 」
紺野はユニフォームを脱ぎ、ティーシャツ姿になっている。
それはムリもないだろう。ここは灼熱の砂漠なのだ。
ツンドラ地帯に着陸の予定が、砂漠になってしまった。
- 24 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)01時04分30秒
- 「みんなバタバタしてたから、気がつかなかったみたいね」
司令室から安倍がでて行くと、矢口は急に恐ろしくなってしまった。
でも、かっこよく『自分が残る』と言ってしまった以上、
『やっぱりやめた』とは言えなかったのである。
そこで小柄な彼女は大型のダッフルバッグに入り、
いも虫のように動いてシャトルに潜り込んだのだった。
「しかし暑いなー、ペプシでも飲みたいですね」
加護は額の汗を拭きながら、笑顔の安倍に言った。
予定のグリーンランドから数千キロも離れているため、
救助隊がくるまで、あと1時間はかかるだろう。
「しょうがないな。それじゃ、ペプシを7人分だべか? 」
安倍は再び携帯電話を取りだし、マクドナルドデリバリーセンターにアクセスする。
マクドナルドデリバリーセンターは、地球上ならどこでも20分以内に配達していた。
- 25 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)01時05分56秒
- 「いいよ。今回はオイラがおごるから」
矢口が言うと、みんな大騒ぎになり、
『ビッグマック』とか『ポテト』という声が飛び交った。
こうして全員が救出されたのは、砂漠に着陸して2時間後だった。
『カオリン』を感染させた張本人の新垣は、シャトルの操作を誤り、
オホーツク海で武装したロシアの底引き網漁船に拿捕され、
インターポールを通じて日本政府に引き渡されていた。
そして、全ての調査が終わってしばらくしたとき、全員が集まる機会があった。
銀座の寿司屋に集合したメンバーたちは、当時の思い出話に花を咲かせている。
そんなとき、吉澤が以前から気になっていたことを安倍に尋ねた。
「隊長、どうしてあのとき、全員に相談してくれなかったんですか?」
- 26 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)01時06分49秒
- 吉澤が質問すると、全員が安倍に注目した。
恐らく、みんな疑問に思っていたのだろう。
いくら将校だけの秘密だったとはいえ、
あのときは、そんなことを考えている状態ではなかった。
「あのときに話したら、全員が残るって言ったっしょ? 」
安倍はみんなの性格を熟知していた。
そんな仲間だからこそ、安倍は苦渋の選択をしなければならなかったのだ。
「隊長、あたしが残ることになった場合は、話してくれましたか? 」
道重が不安そうなかおで安倍に尋ねる。
すると安倍は苦笑しながら彼女の頭を撫でた。
「あ―――あたりまえっしょ! 」
―――END―――
- 27 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)01時07分39秒
- ス
- 28 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)01時08分29秒
- マ
- 29 名前:05 スペースパニック 投稿日:2003年03月10日(月)01時09分18秒
- ソ
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