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02 秘3TWOボん。

1 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時18分57秒
『秘3TWOボん。』
2 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時19分31秒
「きっかけっていうのはね、
ちょっとした偶然プラス、つまらない作為だってことさ」 (掌の中の小鳥・加納朋子)
3 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時20分22秒
────

「かわもちく〜ん!」

安倍かわもちはその言葉にびくりと身体を震わせた。
それはもうびくりと。
身体に微電流が走った感じとでも表現しておこう。
寒い冬は静電気もつらいですしね。

「かわもちく〜ん!」

返事がなかったせいか、そのだみ声は今一度かわもちの名を呼んだ。
その声は先程の比べると大きくかわもちの耳に入り、つまりその声の主が近づいてきている事を表していた。
かわもちの身体に激しい吹雪が吹きつけたかのような悪寒が走る。
悪寒が走ったり微電流が走ったりかわもちくんの中の人も忙しいですね。
いや、中の人なんていませんか、そうですか。

「か〜わ〜も〜ち〜く〜ん!」
「なんでちゅか!」

猫撫でだみ声はいっそうかわもちに近づいてきた。
食われる。
瞬時に判断したかわもちは邪を払うようにあらん限りの大声を張り上げた。
閑静な住宅街で、朝っぱらから賑やかな事である。
4 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時21分15秒
「なんでかわもちくん怒ってるんでちゅか?」
近づいてきただみ声の主──保田ケメ子は心底不思議そうに首を傾げた。
小さくない身体に不釣合いな赤いランドセルは窮屈そうに背中に納まっており、
短いスカートは膝小僧を半分ほど露出されている。
わいせつ物陳列罪でも経歴詐称でもしょっぴけそうだ。
かわもちは思ったが口になどできるわけがない。

「そんな何度も呼ばなくてもわかるでちゅよ」

蟻さんやダンゴ虫さんだって大事にする博愛主義者かわもちくんは持ち前の笑顔で難事を切り抜ける。
テレビの前の大きなお兄ちゃんが年甲斐もなく胸を高鳴らせるような笑顔だ。
そりゃあ某狼で「かわもちくんのナニをチュパ(以下省略」なんてことで盛り上がるってもんですよ。
私はそんなことで盛り上がったりしませんがね、ええ。

「そうでちゅね、ケメ子失敗、えへ」

両手で頬を挟みこみ右足なんぞ折りまげて太ももを強調するケメ子。
殺らねば殺られる。
無意識のうちにかわもちは拳を握り、力を一点に集中させていた。
5 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時22分39秒
「そうだ、かわもち君に聞きたいことがあったんだ」
今から自分のしでかそうとしている悪事に先んじて胸の中で十字を切っていたかわもちをよそにケメ子が言った。
「ちょっとこの本読んでみて欲しいんだけどね」
そういいながらがさごそと鞄を漁り、取り出したのは一冊の本だった。
中学校の社会の教科書位の大きさで、表にはでかでかと「秘・32」とプリントされている。
姉の影響か小学生にしては比較的本を好むかわもちには一目でぴんと来た。
いわゆるノベルスとかソフトカバーとか言う類のものだ。
表紙が中央で二色に分かれており、どちらかと言うと講談社よりカッパワンと言う感じなのだが、
どれだけの人に理解していただけるのかは定かではないし、たいした問題でもない。
ただの知識のひけらかしである。
嫌ですね、こういう大人。
6 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時23分22秒
「この本がどうしたんでちゅか?」

ケメ子が本を読むなどとは思えない。
かわもちはケメ子からその本を受け取り、しげしげと眺めながら聞いた。

「おばあちゃんがケメ子にくれたの。
この本に書いてある謎が解けるかのアヒャ、とか言って」
アヒャ、と表情を作ったケメ子をもろに見てしまい、激しい心臓の痛みに襲われながら、かわもちはどうにか言葉を返した。
「謎?」
「そう、この本…小説らしいんだけど、この本に隠された秘密とタイトルの正しい読みを考えろだって」

ケメ子の話を聞き終え、改めてかわもちは本に視線を戻した。
タイトルの正しい読み、と言われても、「秘・32」(ひ・さんじゅうに)以外に読み方があるというのだろうか。
中身を読めばそれが分かるのかもしれない。

「バスが来るまでの間にちょっと読んでみまちゅか」
「そうだね」
かわもちとケメ子はベンチに腰を下ろし、本を開いた。
7 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時24分18秒
「秘・32」 著者 弥 大輔(や だいすけ)
第一話 『導かれし娘。を読んだ娘。』

あなたの声が聞こえる。
その声で、あの頃の想い出が甦ってくるの。
──ねぇ、あたしの声、あなたに届いていますか?

「リストラぁ?」

矢口真里はその風体に似合った素っ頓狂な声を上げた。
冬の冷たい空気を引き裂くような高音のそれは、広くはない部屋に響き渡った。

「ごめん、矢口」

矢口の冷たい視線を一身に受ける張本人──保田圭は、脚のがたついたちゃぶ台に額を擦りつけた。
そうまでされては矢口も強くはいえない。
一つため息をつき、意を決して保田に問いかけた。
「えらく急な話だったんだね?」
「今日突然言われたんだよ」

『あなたは世界を知りすぎている。
一度あなたの知らない世界へも足を運んでおいた方がいいでしょう』

保田が呟いた言葉が、肩たたきの代わりだったらしい。
矢口もよく知る柔和な女部長の言葉とはとても思えなかったが、事実から目をそむける事は許されそうになかった。
8 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時25分21秒
「知らない世界ってどこだよって感じだよな」
保田が顔を上げないまま呟いた。
外には冷たい冬の雨が降り、黄ばんだ窓ガラスに打ち付けている。
矢口は保田にかける言葉を見つけるかのように、あちらこちらに視線を飛ばした。
手首に視線を向けたときに目に入った、錆一つない銀の腕時計が、いつも以上に虚しく光り輝いているように見えた。

「アタシに建築以外のどんな才能があるってんだ…」
絞り出す声で保田が言った。
矢口はすぐに言葉を返す事が出来なかった。
沈黙は同意と同義であると気付いていたにも関わらずだ。
9 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時25分53秒
『何やってんだ、そこは青のカテゴリーだろ、青く塗れ!』

保田は一級の建築技師だった。
女性ながらにその腕前は高く評価され、大きな建物の設計を任されことも一度や二度ではない。
完璧主義者の彼女は現地に足を向けることを惜しまず、そうして完成させてきた建物は人々を虜にさせてきていた。
だからこそ矢口は信じられなかったのだ。
その筋では間違いなくトップクラスの腕を持つ保田が、首を切られるなどとは。
そしてその話を聞いた途端、何より先に家計の事を思ってしまった自分に腹が立っていた。

「すべては彼女の気分次第。
やんなっちゃうね」
怒りを露わに保田は吐き捨てた。
その声は、女部長の作為的な首切りだと悲痛に訴えていた。
10 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時26分24秒
「ただいまぁ」

二人の間と佇んでいた部屋に漂っていた重苦しい空気を、弾んだ声が一掃した。
「ああ、お帰り、加護ちゃん」

矢口に迎えられた加護亜依は、重たい空気を感じ取ったようだった。
言葉少なに奥の部屋へと消えようとした。

「…ああ、そういえば、今日は加護とCDショップに行くんだったわね」
今日はクリスマスだった。
クリスマスプレゼントにCDが欲しいと、加護はかなり前から言っていたのだ。
「そやで、おばちゃん乗っけてってや」
保田の呟きに似た言葉にも、加護は耳ざとく反応した。
矢口たちに苦笑が浮かぶ。
けれど、明るい雰囲気は大歓迎だった。
「おばちゃん言うな、おばちゃん」
保田は視線を窓のほうへと向けた。
矢口もそれにあわせてみると、降り続いていたダイヤモンドレインは止み、
雲の切れ間のほんの僅か、切なく青い空のページが顔を覗かせていた。
11 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時27分16秒
────────────────

矢口、保田、加護。
三人の関係は奇妙極まりないものだった。
まず、矢口と保田は恋人同士である。

二人の出会いは夏だった。
葉月の風が汗ばんだ身体を心地よく洗い流し、ひまわりの丘に咲き乱れた太陽が揺れる、そんな日だった。

矢口の勤めていた喫茶店「CUBE」に保田がやってきたのは、全くの偶然だった。
出勤の少ないアルバイトだった矢口が丁度その日は働いていたのも、全くの偶然だった。

けれど、矢口が保田にコーヒーをこぼしてしまった事は偶然ではない、つまらない作為だった。
矢口がお詫びと言ってクリーニング代と共に差し出してクッキーを一口食べ、
「おいしいクッキーですね」と大酒のみで辛党の保田が笑ったのも、つまらない作為だった。

二人が同性しか愛せない体質だったのも、ちょっとした偶然だった。

ちょっとした偶然とつまらない作為が引き起こした出会いは、いとも簡単に必然へと変わった。
小説のように、二人が恋に落ちるまで、そう時間はかからなかった。
12 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時28分27秒
そして加護には、両親がいなかった。

二人が恋に落ちて一月と経たないある日。
保田は唐突に、孤児院へ行こうと切り出した。
「タンポポの家」と保田が口にしたその名は矢口には馴染みのないものだったが、
どうやら保田が設計したものであるらしく、完成後もちょくちょくと足を運んでいるらしい。
そんな保田の心遣いは設計に無知で孤児院にもなんら関係のない矢口の心をほんのりと温めた。
「そこにさ、私に懐いてくる子がいるのよ」
保田は母親のような笑顔でそういった。

二人が訪れた「タンポポの家」は比較的大きな孤児院だった。
保田はやはり顔馴染みらしく、先生と思しき人に見咎められると、すぐに会釈が返ってきた。
「加護ちゃんいますか?」
「ええ、自分の部屋にいると思います」
保田は短い会話を済ませると矢口を手招きし、二人で孤児院へと入った。
13 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時29分15秒
大きなわりに人気の少ない孤児院の中を数分歩くと、保田が立ち止まり、目の前の扉を指差した。

「お父さん、お母さん兼カテキョ募集中」

不思議な張り紙が貼ってある。
矢口が首を傾げると、保田は小さく微笑んで扉をノックした。
「おばちゃんだよ、約束守りに来た」
その言葉で、朧ながら矢口にも保田の意図が見えた気がした。

数秒後、向こう側からドアが開いた。
おだんごあたまをした黒目がちの女の子が不思議そうにこちらを見つめている。
背後ではテレビが聞き覚えのある唄を唄っていたが、矢口にはすぐにその唄のタイトルが思い出せなかった。

「きてくれたんや」
「そう、まぁ、お母さんとお母さんになっちゃったけどね」
「かまわへんよ、大した問題やないし。
ただ、カテキョは大丈夫なん?」
「それはアタシも矢口も大丈夫よ、あ、こっちが矢口ね」

突然話を振られ、矢口は慌てて頭を下げる。
「あ、矢口真里です、よろしくね」
「加護亜依です。
えと…よろしくお願いします、お母さん」
14 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時29分39秒
お母さん。
その言葉は衝撃だった。
保田に目を向けると、少し心配そうな視線をこちらに向けている。
その瞳にうつる私はどう見えているだろう、そう思うと矢口は少しおかしくなった。
初めから素直に言ってくれればいいのだ。

「ウチおいでね、加護ちゃん」
二人に見せ付けるように笑顔で矢口は言った。
途端に二人の相好が崩れる。
矢口も笑顔を浮かべ、同時に加護の見ていたアニメが『エスパー真希』であり、
主題歌が『終わらない唄』であることを思い出していた。
15 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時30分19秒
────────────────

保田と加護が家を出てしまい、矢口は手持ち無沙汰になってしまった。
仕方がなくテレビをつけると、キダムとか言うサーカスの番組をやっている。
暇つぶしには丁度いい、矢口は紅茶を淹れ、友人から貰い受けていたザッハトルテ、
友人曰く『メッテルニヒのトルテ』をつまんだ。
なかなかに優雅な午後じゃないか、矢口は満足げに頷き、テレビの中の空中ブランコに目を移した。
収入やらなんやらの現実を考えないでいられる瞬間、矢口にはそれがとても尊く感じられた。

電話が鳴ったのは、それから数十分後の事だった。
キダムの番組は既に終わり、静寂の波に身を任せうつらうつらとしていた矢口には、
電話のベルは学生時分に苦しんだ冬の朝の目覚ましに似ていた。
けれど、後五分後五分と電話に向かって言うわけにもいかない。
矢口はしぶしぶと起き上がり電話に出た。

「もしもし…は?」

風雲は急を告げた。
午後のやさしい風景は、途端に嵐に巻き込まれ吹き飛んでいってしまった。
16 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時31分12秒
「圭ちゃん、加護ちゃん!」

矢口の家の電話がなってから、丁度三十分が過ぎようとしていた。
矢口はタクシーを走らせ、都内の某病院へと来ていた。

『私、警察のものです。
今から十分ほど前、保田圭さんと加護亜依さんの乗った乗用車が事故を起こしまして、病院に収容されています。
加護さんが妙な事を口走っている事もありまして、すぐに病院にお越しいただけるでしょうか?』

三十分前、電話口の向こうの相手は緊迫した声でそういった。
矢口は慌てふためき、取るものもとりあえず駆けつけたわけである。
矢口は来る看護婦来る看護婦に声をかけた。
「あの、圭ちゃんと加護ちゃんの様子は…」
看護婦は皆一様に堅く口を閉ざした。
しかしそれは頑なさと共に、どこか怯えのようなものを含んでいるようにも見える。
矢口は頭の片隅に違和感を覚えながら、今度は医者につかみかかろうとしたその時だった。

「矢口真里さん、ですね」
柔らかな声に呼ばれて振り返るとそこには一人の婦警が立っていた。
彼女は声の調子を変えず続けた。
「お二人と、お会いしていただきます」
17 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時32分10秒
「実は、とても信じられないような事が起きているんです」
飯田と名乗ったその婦警は、矢口より頭二つほど高い身長にあったハスキーな声で言った。
低い声ではあるが、電話口で喋った相手とは違うようだった。
「私たちには何がなんだか…」
そういわれても、当然矢口には何の事だか分かるはずもない。
それより、二人の容態はどうなっているのか、矢口にはそれが何よりの気がかりだった。
それを訊ねると、看護婦達と同様、飯田も歯切れが悪そうに
「お会いしていただければ分かります。
私たちの疑問も、お会いしていただければ分かっていただけると思います」
そう答えるにとどまった。

それからしばらく歩くと、不意に飯田が足を止めた。
「こちらに、保田圭さんがおられます」
そういって、目の前の扉を右手で示す。
矢口は気分を落ち着かせるため、一つつばを飲み込んだ。
血のあじがした。
18 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時32分46秒
「ですが、お会いしていただくわけには参りません」
ところが、飯田はそんな事を言い出した。

「な…なんでですか?
何であわせてもらえないんです?」
矢口は虚を突かれ、一瞬たじろいだものの、すぐに反発した。
馬鹿なことを言うな。
大事な恋人に合わせないとはどういうことだ。
咄嗟に浮かんで消えた言葉を口にする前に、飯田が冷たく言い放った。
「ココにおられる保田圭さんは、既に保田圭さんだった物だからです」

何?
圭ちゃんだったもの?

矢口は飯田の言葉を反芻し、飯田の顔を見返した。
その顔は明らかに苦痛に歪んでおり、
ブラックジョークじゃないかなどと言うナンセンスな期待を裏切るには十分だった。
警察にしては乱暴な物言いだという事に気付く余裕は、矢口には既になかった。
19 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時33分19秒
「では次は加護亜依さんですね」
打ちひしがれる矢口を気にも留めず、飯田はそそくさと歩みを進めだした。
ショックを引きずりながら、いや、現実とも虚構とも区別のつかないものを背負いながら、
矢口はただ、壊れたマリオネットのように飯田に引きずられていった。

「加護さんはこちらです」
保田の部屋から二十メートルほど離れたところで飯田は立ち止まり矢口に視線を向けたが、
矢口は呆けて明後日の方を見ていた。
構わず喋り続ける。
「奇妙なことになっているのは加護さんです。
では入りますよ、加護さん、失礼します」

最初に矢口の目に飛び込んできたのは加護の背中だったが、
見た瞬間、矢口は身体を薄ら寒さが通り抜けるのを感じずにはいられなかった。
マネキン。
そう、まるで作り物のマネキン人形のようなうそ臭い背中がそこにはあったのだ。

「加護ちゃん…無事だったの?」
恐怖に操られたか、ばらばらになっていた思考回路にしてはまともな言葉が口をついて出てきた。
けれどその思考回路は、その一秒後にばらばらから粉々へと悪い方向へ転がってしまう事になる。

「矢口…」

振り向いた加護はそう呟いた。
20 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時34分10秒
矢口が呆然と立ち尽くす間に、飯田は加護に近づき持っていた紙を取り上げた。
「これで限界ですか?」
「はい…」
加護は無念そうに顔を歪める。
飯田は小さく声を出しながら何かを数え始めた。
「十三、十四、十五…十五の思い出か…」
確認が済むと、飯田は手に持っていた紙を矢口に差し出した。
「ご確認下さい」
異世界に放り込まれたかのように見るもの聞くものが分からないことで、矢口の精神は疲労していた。
何も考えられないまま、飯田から紙を受け取り目を向ける。
と、そこには矢口を現実に引き戻す呪文が書いてあった。
「!これ…」
「十五個項目がありますね、すべてご確認下さい」
飯田は機械的に言う。
矢口はその態度に反感を覚えながらも、すべてを丁寧に確認し、そして確信した。

「間違いありません」
「じゃあこれは確かに…」
飯田の言葉を、矢口は首を振り下ろす事で遮り、同時に嬉々として肯定した。

「これは、私と圭ちゃんの思い出です」
21 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時34分48秒
実は矢口は気付いていなかった、いや、忘れていたのだ。
不可思議な事ばかりで蓄積された精神の疲労が原因と決め付けてしまってもいいだろう。
この部屋にいるのは誰か、矢口と飯田と、もう一人は誰かと言うことに。

「…確かにそれは、保田さんとの思い出なんですね?」
「そうです」

矢口は力強く首を振り、そしてその瞬間に気付いた。
時分の視界の端に映った顔を見たからだった。

「その思い出を、加護さんは知ってはいませんね?」

病室に響いたのは飯田の声だけだった。
矢口は凍りついたように固まってしまい、返事を返す事は出来なかった。

「…どうやら間違いないようですね」
飯田は長い髪をかき揚げ、大きくため息をつき言った。

「加護さんは、いや、加護さんの体の中には…
保田さんの魂が入っているようですね」

十二月二十五日、聖誕祭。
サンタクロースは矢口に、とんでもないプレゼントを贈りつけていったようだった。
22 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時35分26秒
────────────────

「あー、バスが来た!」
「はいい?」

かわもちが素っ頓狂な声を上げると、ケメ子が不思議そうにその顔を覗きこんできた。
近いよ、近いよ!
心の中で悪態をつきながら、かわもちはようやくココがバス停であった事を思い出した。
「一生懸命本読んでたもんね、かわもちくん」
ケメ子が尊敬の念を視線にこめ飛ばしてくる。
それはかわもちにとって、幾分心地の良いものであった。
「続きは学校でね、とりあえずバスに乗ろう」
「そうでちゅね」
六分の一ほどページを進めた本をランドセルに放り込み、二人は仲良く手を繋いでバスへと乗り込んだ。
23 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時36分00秒
(…でも、漢字が難しくてほとんど読めなかったなんて、ケメ子ちゃんには絶対秘密でちゅね…)
24 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時36分17秒
25 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時36分42秒
(巻末袋とじ1ページ前、読者への挑戦状)

(前略)

私、弥大輔は各話ごとに30を超える謎、秘密を仕掛けさせていただきました。
読者方諸氏には是非、すべての謎、秘密を暴いていただきたいものです。

(中略)

最後に現れる真実はあなたの予想しえたものかどうか。
私は、誰にも予想しえない答えだと自負しております。
それでは、御健闘をお祈りしております。

(後略)
26 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時36分56秒
おしまい
27 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時37分12秒
28 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時37分34秒
29 名前:02 秘3TWOボん。 投稿日:2003年03月10日(月)00時37分54秒

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