インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板

０１　光

1 名前：０１　光 投稿日：2003年03月10日(月)00時08分01秒

　光

2 名前：０１　光 投稿日：2003年03月10日(月)00時08分54秒

終わった。
長い長い一日が終わりを告げた。

埼玉での公演を終えた瞬間、モーニング娘。の保田圭としての時間が終幕を迎えた。

控え室で乾杯をして、花束を抱えきれないほど貰い、いっぱい泣いて、いっぱい泣かせて、
それから、スタッフの人も含めて思い出話などに花を咲かせていた。

「圭ちゃん、ちょっといい？」

一通りメンバーと言葉を交わし、達成感のようなものに包まれていた保田に矢口は声を掛けた。

「ん、いーよ。」

保田が手にしていた紙コップを長机に置き、自分の方を見たのを確認して、矢口は控え室を出る。
その後に保田も続く。

矢口は静かな廊下を黙々と歩いて行く。
その足取りから目的地の存在は感じられない。
たぶん、「どこか」ではなく二人で話せる場所を求めて歩いているのだろう。

3 名前：０１　光 投稿日：2003年03月10日(月)00時09分37秒

間もなくして、とある部屋の前で矢口の足が止まる。
少し開いてる扉のノブに手を掛け、中を確認する。
保田の方を振り返る事なく、その中へと矢口は消えて行き、その部屋に電気が灯る。
それを見て保田も部屋の中へと歩みを進める。

―が、それとほぼ同時に部屋の灯りが落とされた。

「矢口…？」
「…見て、圭ちゃん。
　今日めちゃくちゃ月キレイだよ。」

暗がりでは矢口の仕草は確認出来るはずないのだが、矢口が指し示す指先と
保田の視線とが同じタイミングで窓の外てと向けられた。

「あ、ほんとだね。
　…きれー…。」

黄色い、限りなく色鉛筆で描く月の色に近い今日の月。

4 名前：０１　光 投稿日：2003年03月10日(月)00時11分03秒

「…まるでさ、圭ちゃんの門出を祝福してるみたいじゃない？
　君の未来は明るいぞーって。」
「何言ってるのよ。矢口らしくない発言して。」
「だって、そう思ったんだからしょうがないじゃんか…。」

矢口は窓へ近付き、振り返った。
保田の目に、月の明かりに照らされた矢口の姿が、はっきりと、とは言えないが、
けれど、確かに映った。

「何かさ、こんな些細な事ももうこれからは経験出来なくなるんだね…。
　当たり前だった事が当たり前じゃなくなるっていうのはこれが初めてって訳じゃないけど、
　…やっぱ、寂しーよ…。」
「…矢口。」
「もっともっともっと、いっぱい一緒にいたかったのに、もっと楽しい思い出いっぱい作りたかったのにさぁ…。
　圭ちゃん、卒業しちゃったよぉ…。」

月の光が矢口の頬を伝うしずくを輝かせる。

5 名前：０１　光 投稿日：2003年03月10日(月)00時12分34秒

「…。
　月、この月を二人占めにしょっか？」

その涙を拭う訳でもなく、保田はそう言う。

「ぅ…っ…。」
「私、今日の事は一生忘れないよ。
　コンサートの事もだけど、こうやって矢口と二人ですごいキレイな月を見た事を。」
「けーちゃ…。」
「この思い出を誰にも言わない。
　ずっと私の心の中だけで大切にする。
　だから矢口も今日の事、誰にも言っちゃダメだからね。」

月がキレイで、二人でその月を見て、ただ、それだけ。
ただ、それだけの事。
だけど、

「二人だけの秘密だよ。
　今日、こんなに月がキレイだったって事。
　それを一緒に見た事。」
「…ん…。」

暫くの間、矢口の涙は留まる事を知らず溢れ続けていた。
保田はただ、そんな矢口の髪を撫でてあげていた。

6 名前：０１　光 投稿日：2003年03月10日(月)00時13分15秒

どれくらいか時間が流れて、矢口は顔を上げた。

「…大丈夫？」
「うん…。」
「戻ろっか。みんな探してるかもしれないし。」
「そーだね。」

自然と保田のてのひらが矢口の手を引いて、二人は明るい廊下へと出る。

「…。」

数歩歩いたところで矢口の足がそれを止めた。

「矢口？」

矢口は大きく息を吸う。
小さな体にいっぱい空気を吸い込む。
まるで、せめて心だけでも膨らめ、と願うかのように。

7 名前：０１　光 投稿日：2003年03月10日(月)00時14分03秒

「圭ちゃん。
　卒業おめでとーっ。」

まだ赤い目をしているというのに、その顔で微笑む。
廊下の上をその声だけが走り抜けていくような錯覚がした。

「サンキュー、矢口。」

そんな矢口の姿に、保田も同じテンションで応える。

しめっぽいのは自分たちらしくない。
そんな矢口の想いが保田にも伝わったから。

8 名前：０１　光 投稿日：2003年03月10日(月)00時14分45秒

これが今生の別れって訳じゃない。
ささやかではあるが、二人だけの秘密も出来た。
だから、ちょっぴり泣いてしまったけれど心から言えた、おめでとうと。

こうして、本当にモーニング娘。の保田圭の幕は閉じられた。

　
　完

9 名前：０１　光 投稿日：2003年03月10日(月)00時15分22秒

Y

10 名前：０１　光 投稿日：2003年03月10日(月)00時16分02秒

Y

11 名前：０１　光 投稿日：2003年03月10日(月)00時16分37秒

Y