20 5分18秒
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 23:30
- 20 5分18秒
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 23:32
- 佐紀が事務所を出て駅に向かおうとすると、先に出たはずの桃子が玄関にいて
声をかけてきた。
珍しいなと思いながら佐紀は桃子のところへ向かう。
仕事終わりに佐紀は桃子と話すことはあまりない。
でもそれは仲が悪いからとか、そんな野暮なことではない。
桃子は仕事が終わる真っ先にあの子のところへ向かうからだ。
そして言葉少なに会話するとすぐに帰ってしまう。
だから桃子と会話をしたいと思っても、単にその機会がなかった。
桃子の傍まで行くとその顔はいつになく真剣だった。
佐紀は咄嗟に仕事のことだと思った。
でもそう思うのと同時に、少し残念に感じてしまう自分がいる。
結局彼女とは仕事上での関係でしかない、そう思うと佐紀の胸がチクリと痛む。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 23:34
-
「佐紀ちゃんはさ・・・お風呂入ったらどこから洗う?」
―はぁ?何それ?と佐紀は露骨に顔を顰めた。
わざわざ近寄ったのに、桃子から出た言葉はあまりにくだらない質問だった。
「何それ。本気で聞いてる?」
「うん、それなりに」
「ってことは本気じゃないってこと?」
「まぁ、そうなるかな。いやとっても興味深い議題ではあるけどね」
佐紀は桃子の真意が読めず、顔を顰めたまま小さく溜め息を吐き出す。
でもそんな佐紀を見て桃子は楽しそうに笑う。
それから桃子は一旦佐紀から視線を外すと、先に出て行った他のメンバー達の方を見る。
「まぁこれだけ距離が空けばいけるでしょ」
桃子は軽く顎を撫でると独り言のようにそう呟く。
やはり佐紀には桃子が何を考えているのか見当もつかなかった。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 23:36
- 「それじゃそろそろ桃達も行こっか?」
桃子は再び佐紀の方に顔を戻すと体を横に並べる。
そしてその手を取ると普通に歩き出す。
―えっ?ちょっとなんで!?と佐紀は桃子の行動に動揺する。
桃子が手を握ってくるなんて、全く予想もしていなかった。
いや、そうなったらいいと思っていた。
そんな想像というか妄想ならば、今まで数えきれないくらいしてきた。
でもそれは絶対に叶うはずのないことで、妄想の範囲を出ることがないは佐紀自身が
1番分かっていた。
だからこそ佐紀は素直に喜べなかった。
本来ならば、飛び跳ねて喜びたいくらいの出来事なのだと思う。
でもこんなところをあの子に見られたらと思うと、心配や不安が佐紀の心を占領する。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 23:38
- 「・・・・・・なんで、こんなこと」
「ん?したいと思ったから」
「ちょっと!適当過ぎでしょ!もし見られたらどうするの?」
「そんときはそんときだよ。まぁ手を繋いでるくらいどうでも言い訳できるし」
口喧嘩のような言葉が2人の間を飛び交う。
でも依然として手は繋がれたままだった。
桃子のしていることはひどく強引で、でもその強引さが佐紀は嫌ではなかった。
「・・・バカ」
無意識のうちにそんな言葉が口から飛び出る。
すると桃子はうふふと甲高い声で笑う。
さり気なく顔を横に向けると、桃子はやっぱり楽しそうに笑っていた。
今あの子は10mくらい先を梨沙子と一緒にいる。
その後を他のメンバーが固まって歩いていた。
だから後ろを振り返らない限り、佐紀達が手を繋いでいることはあの子には分からない。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 23:40
- 「どこまでこのままでいるつもりなの?」
「とりあえず駅までかな」
桃子は悩むことなく平然と答える。
そのことにまた佐紀の胸がチクリと痛む。
「そう」
と佐紀は抑揚を抑えた声で答えた。
感情が顔に出ていなければいいなと思った。
「あっ、肉まんだって。もうそんな季節なんだねぇ」
桃が突然佐紀の手を軽く引っ張る。
そして反対の手でコンビニの前に立てられたのぼりを指差す。
「あー、デイリーヤマザキのベルギーチョコまんが食べたくなってきた」
「デイリーヤマザキって・・・佐紀ちゃん、なかなかマニアックだね」
「そう?一応そこが家から一番近いコンビニなんだけど」
「そうなんだ。マイナー扱いしてごめんね?」
いつでもできるような他愛もない話。
でも桃子とそんな会話ができるだけで嬉しかった。
そしてできることならば、ずっとこうやって桃子と話していたかった。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 23:42
-
けれど佐紀に与えられた時間は、あと5分くらいしかない。
事務所から最寄りの駅まではゆっくり行っても10分で着く。
ただもう半分ほどきているので、単純に考えてあと5分程度しかない。
でも逆にその5分間は桃子とデートできる。
そう思うと口元が緩む。
そして佐紀は桃子のことが好きなんだと、改めて自覚する。
「桃!」
そんなとき突然聞こえてくるあの子の声。
一瞬で離れる手、離れる体。
それと一緒に心さえも離れてしまった気がした。
でも元々桃子の心は佐紀の元にはない。
いつだって、今だって、あの子のものだった。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 23:43
- 「・・・・・・行ってきなよ」
―何だよ、もう!と佐紀は顔を俯けて軽く唇を噛みしめる。
でもこうなることは分かっていた。
だけど本当なら2人のデートはあと5分あるはずだった。
なのにたった一言で0分になった。
「・・・ごめん」
申し訳なさそうに桃子が目を伏せる。
そんな顔を佐紀は見たくなかった。
「いいよ、もう。仕方ないじゃん」
「本当にごめん」
ふと桃子と目が合う。
すると桃子はどことなく悲しそうに笑った。
その瞬間、心臓を直接握られたみたいに胸が痛んだ。
そして切なさと虚しさが佐紀に襲いかかってくる、だから身を守るためにまた顔を俯けた。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 23:46
- 桃子があの子の元に向かって走っていく音が聞こえてくる。
佐紀はそっと顔を上げると、その小さな後ろ姿が視界に入って思わず目を細めた。
何だかそのまま果てしなく遠くへ行ってしまうような気がした。
でも佐紀にとって桃子はいつだって遠い存在だった。
すぐ傍に居てもその心は遠くにある。
引き寄せることも、近づくことも、どちらにも佐紀にはできない。
「・・・・・・バカみたい」
佐紀の口から無意識のうちに溜め息がこぼれる。
それから何となく顔を横に向けた。
すると店のショーウインドーに反射した佐紀の顔が映る。
その顔は今にも泣きそうな顔をしていた。
「本当に、バカみたいじゃん。あたし」
ショーウインドーの中にいるマネキンは作り笑いを浮かべている。
何だかバカにされているみたいだった。
でもそれを真似て佐紀も笑ってみた。
ショーウインドーに映る佐紀の微笑みはひどくブサイクだった。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 23:46
- 時間は
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 23:46
- 止まって
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 23:47
- くれませんでした
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