17 もう娘メンに恋なんてしない
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 23:16
- 17 もう娘メンに恋なんてしない
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 23:17
- 急に強い北風が吹いて私は思わず身を震わせる。
息を吐けば真っ白で、かじかんだ手は氷のように冷たい。
私はもう何度か見たか分からない、ビルの上にあるデジタル時計をもう一度見る。
約束の時間は11時。
でもデジタル時計はもうすぐ15時になろうとしていた。
えりぽんとデートの約束をしたのはいいけれど、待ちぼうけをくらうこと約3時間。
携帯にメールをしても全然返ってこないし、電話してもいつも留守電になってしまう。
私はもう何度も帰っちゃおうかなと思った。
でも今にも走ってえりぽんが来るような気がして、私は未だに待ち合わせした場所から
離れられなかった。
ただずっと同じところに立っているからかたくさんナンパされた。
ナンパされること自体は自分が可愛いってことだから悪い気はしないけど、中年のおじさんに
人妻扱いされたのがちょっと納得がいかなかった。
だけど人妻じゃありませんって言ったら、ミボー人なのって言われたので、いいえ、日本人です
って答えらおじさんはどこかに行ってしまった。
他はキャバクラで働かないとか、何とかヘルツで働かないって、髪の毛がツンツン立った
若いお兄さんに声をかけられた。
でもみんなしてお金がたくさんもらえるよって言ってくるので、お金はもう余るくらい
持ってますと言うと、なぜだかお兄さん達はそれ以上何も言わずにいなくなってしまう。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 23:17
- 本当のこと言っただけなのになぁと思いつつ、でもあぁいうチャラい感じの人は好きじゃないから、
あまり絡まれないほうが良かった。
ヘラヘラ笑って、馴れ馴れしく話しかけてきて、妙に距離が近くて、人の顔を覗き込んで
話しかけてくる。
それえりぽんじゃんと思って、私は小さく笑った。
人のことをいきなり聖って呼んできて、話すとき距離が近くて、すぐに肩とか抱いてきたり
手を握ってくる。
絶対私のタイプじゃないはずなのに、最近えりぽんのことがすごく気になっている。
こうして待っているのだって相手がえりぽんだからなんだと思う。
きっと他の子だったらこんなにも待っていない。
そんなときふと走ってくる足音が聞こえて、私は俯き気味だった顔を勢い良く上げる。
でも走ってきた人はえりぽんではなく男の人で、しかも私の横で待っていた女の人の
待ち合わせ相手だった。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 23:18
- その女の人も私ほどじゃないけれど、1時間くらい待ちぼうけをくらっていた。
女の人は遅いよと文句を言いながら男の人の肩を叩く、でもその顔はどこか嬉しそうで、
そんな様子を見ていたら少しだけ胸が締め付けられる。
それから2人は仲良さそうに手を繋いで人混みの中に消えていった。
無意識のうちに私の口から自然と溜め息が漏れる。
でも白い息はすぐに北風に流されて消えいってしまい、私はかじかんだ手を温めるように
擦り合せる。
デジタル時計はあっさり15時を過ぎてしまった。
私は上着のポケットから携帯を取り出すと、もう一度えりぽんに電話をかけてみる。
長いコールのあとカチャっと音がしたから出たかなと思ったら、やっぱり留守番電話
サービスのお姉さんの声が聞こえてきた。
このお姉さんは何も悪くないんだけど、その声に腹が立って私はピーと音がした後に
「えりぽん遅すぎ!」とだけ言って電話を切った。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 23:20
- すると突然後ろから肩を叩かれて、私は期待して振り返ったのに大きく期待外れだった。
それが余程顔に出ていたのか、目の前にいる若いお兄さん達2人組は顔を見合わせて
苦笑していた。
2人ともツンツン髪で顔の横には触角が生えている。
そして黒い薄手のダウンジャケットに中はおしゃれな感じのTシャツ、首にはちょっと
ごついシルバーのネックレスをしていた。
私に声をかけてくるお兄さん達はみんな同じような髪形と服装をしている。
とりあえず触角を生やしていいのは嗣永さんだけなんです、と内心密かに思った。
そして私は2人が話しかけてくる前に「お金ならありますから」と言った。
するとお兄さん達は露骨に顔を顰めると、2人して顔を寄せ合い何やら小声で耳打ちしながら
相談していた。
話がまとまったのか、2人のうちの1人が私の横にやって来ると「お金あるならさ、
俺達と遊びに行こうよ」と言ってきた。
私は予想外の展開に完全に思考が停止してしまい、何も言い返せなかった。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 23:21
- するともう1人が私を挟むように反対側に来ると、「どうせ、彼氏にデートをドタキャン
されたんでしょ?」と笑いながら言ってくる。
上手く思考が働かないのと半分くらい図星だったので、私はやっぱり何も言い返せなかった。
「なら、俺達と遊びに行こうよ。どうせ彼氏もどっかの女とよろしくやってるって」
「・・・そう、ですかね」
「そうそう!彼氏も楽しんでんだからさ、俺達も楽しんじゃおうよ」
「やっぱり里保ちゃんとか香音ちゃんの方がいいんですかね。それとも最近よく遊んでる
らしい石田ちゃんと中西ちゃんか・・・あっ、もしかして新垣さんと遊んでるのかも?!」
「いや、俺ら彼氏と友達じゃないからそんな事情知らねぇし。っていうかさ、あんた彼氏に
何股かけられてんの?」
ちょっと憐れむような目でお兄さん達が私のことを見てくる。
だからチャラい見た目に反して意外と優しい人達なのかなぁと思った。
でもそれはそれとして、えりぽんが今頃誰かと笑い合っているかと思うと胸が苦しくなる。
えりぽんは明るくて人懐っこいから誰とでもすぐに仲良くなれる子だし、きっと横にいるのは
私じゃなくたっていいのかもしれない。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 23:22
-
「それでどこ行くんだよ」
「えっ?カラオケ屋でいいんじゃね?」
「お前ヤル気満々だな。それじゃいつものあそこでいっか、あそこならカメラねぇし」
「おぅ、いいんじゃね」
お兄さん達2人は勝手に話を進めていた。
その話の内容が少し気になったけど何も言う気になれなくて、私はただ黙ったまま
顔を俯いていた。
すると突然お兄さんのうちの1人が私の肩を抱いてくる。
その瞬間、違うって思った。
それ同時にやっぱりえりぽんがいいって思った。
手を繋ぐのも肩を抱かれるのも、えりぽんじゃなきゃダメなんだって分かった。
だから私は肩を抱くお兄さんの手を乱暴に振り払うと、後退りして少しだけ距離を取る。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 23:22
-
「えっ?何?」
「今更行けないとか、それなくね?」
「・・・元々良いなんて一言も言ってませんけど」
2人のうち1人が舌打ちをすると私のことを睨んでくる。
正直少し怖かったけれど、ここで引いたらダメだと思って視線だけは絶対に逸らさなかった。
そのまましばらく睨み合いが続いていたけど、不意に1人が私の腕を掴もうと手を
伸ばしてくる。
咄嗟のことに反応が一瞬遅れて掴まれると思ったそのとき、どこからか「聖!」と
あの聞き慣れた声がした。
えりぽんは私のところまでやってきたかと思うと、お兄さん達と私の間に割って入る。
でも何を思ったのかえりぽんはお兄さん達をまじまじと見つめる。
「はぁ?何なんだよ、お前。いきなりやってきてこの子の友達?」、
「でも結構可愛いし、この子一緒に連れて行けばちょうど2対2じゃん」
「あー、それもそっか」
「・・・・・・うん。不合格!」
えりぽんは軽く手を叩くと1人で納得したように頷いてからにっこりと笑う。
でも私もお兄さん達2人も意味が分からなくて、多分今3人の顔にははてなマークが
浮かんでいると思う。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 23:25
-
「あんた達じゃ全然ダメっちゃん。聖と釣り合わん」
「はぁ?」
「まぁそういうことなんで、さよなら!」
えりぽんは言うが早いか突然私の手を掴んで走り出す。
私はもう訳が分からなくて、とにかくえりぽんに引っ張られるままに走った。
後ろでお兄さん達が何やら言っている声が聞こえたけど、すぐに人混みに紛れたので
よく聞こえなかった。
どこへ向かっているのか分からないけれど、えりぽんは私の手を掴んだまま繁華街を走る。
でもただ前だけを見て走るえりぽんの後ろ姿は何だか格好良かった。
そして今更だけど手を繋いでいることに気づいて、急に私の心臓の音がうるさくなる。
不意にこのままどこか遠くへ行ってしまいたいなぁと思った。
だけど明日はハロコンのリハーサルがあるから遠くへは行けない、行かれない。
そのことが少しだけ悲しかったから、私はえりぽんの手をぎこちなく握ってみる。
するとちゃんと握り返してくれて、もうそれだけで十分だって思った。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 23:26
- どれぐらい走ったのかは分からないけれど、気がつくと少し遠くに1つ先の駅が見えてきた。
元々追われていたわけじゃないけど、ここまで来れば安心だと思ったのかえりぽんは
走るのを止めた。
それからそっと手を離すと、えりぽんはターンするように私の方に振り向く。
そして遅れてごめんと言ってから勢い良く頭を下げた。
私は謝られたことよりも手が離れたことの方が気になって、思わずえりぽんの手をじーっと
見つめてしまう。
でもすぐに我に返って、とりあえず待たされたことについて文句を言うことにした。
「もうっ、本当に待たせすぎだよ!3時間だよ?3時間!」
「・・・ごめん。それについては本気で反省してるっちゃん。でも衣梨の目覚まし、
っていうか携帯なんやけど8時が18時になっとって、やけん起きたのが14時やったと!
まぁ起きたとき携帯と部屋の時計を6度見くらいしたんやけど、でもアラームが鳴るより
先に起きたんよ?偉くない!?」
目覚ましなしで起きたのは確かにすごいけど、3時間も待ち合わせに遅刻しておいて
偉いも何もない。
私は全然偉くありませんとはっきり言うと、さすがのえりぽんも肩を落として
落ち込んでいた。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 23:29
-
「でも・・・もういいよ。今回は特別に許してあげる」
「へっ?」
「一応こうやって来てくれたし・・・それに、その、ちゃんと守ってくれたし」
私は何だか照れくさくなってきて、そう言いながら顔を少しだけ俯ける。
すると聖っていつになく真剣な声で名前を呼ばれた。
だからもー、何だよと思いながらも顔を上げると、えりぽんはまっすぐこっちを見つめていた、
それも真顔で。
真顔のえりぽんはすごく綺麗で格好良くて、時折全然知らない人のように見える。
そんなえりぽんと目が合うと、また心臓がうるさくなったから私は少しだけ目線を
横に逸らした。
するとまた聖って私の名前を呼ぶから逸らせなくて、仕方なく視線を戻したのと同時ぐらいに
えりぽんが口を開いた。
「衣梨は・・・生田衣梨奈は、譜久村聖に釣り合っとるかな?」
「えっ?いや、そ、そんなの分かんないよ」
「・・・そっか」
「・・・うん」
どういう意味でえりぽんがそんなことを言ったのかは分からない。
確かなことは私がその言葉にひどく動揺していて、今日1番に心臓がうるさくなった
ということだけだ。
そしてえりぽんは優しく微笑んでいて、やっぱり私はその顔を見ていられなかったから
少しだけ顔を俯けた。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 23:30
- それから遅いけど今からデートしようってことになったけど、私の門限が18時なので
ちょっと無理だった。
でも殆ど何もしていないのにこのままお別れなんて正直かなり寂しい。
するとえりぽんが私の家まで送るよと言ってくれた。
そして横並びになるとえりぽんが自然と手を握ってくれたので、私達は今手を繋ぎながら
駅へと向かっている。
ただ手を繋いているだけなのに、さっきまで氷のように冷たかった手が嘘のように温かく感じる。
もしかしたら手袋しているときより温かいかも、と思って私は1人でふふっと笑った。
「あ、明日さ・・・リハーサル終わったらデートやり直さん?」
「えっ?」
「いや、衣梨もこんな短いデートはつまらんし」
多分ここからだと私の家までは30分もかからない。
それはえりぽんの言うようにすごく短いデートだけど、これはこれでアリな気がする。
でもやっぱりちゃんとデートしたかったから、私はえりぽんの誘いに笑顔で頷いた。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 23:30
- おわり
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