16 永夜
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/28(水) 23:50
- 16 永夜
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/28(水) 23:58
- 神社に参拝だなんて久し振りだ。
確かニ礼二拍手一礼ってあったよね。
あれ。お賽銭の方が先だったっけ?
礼法は曖昧だけど、勘を頼りにまずは軽くお辞儀を済ませる。
私は今、保田さんと聖ちゃんと夜の初詣に来ている。
どうしてこうなったかと言えば、保田さんの話がきっかけだった。
どういう流れでその話題になったのかは忘れた。
ただ、保田さんが小さい頃、兄弟が欲しくて近くの神社に毎日のようにお参りして。
その願いが叶い弟ができた話を聞いた聖ちゃんがいたく感動したようなのだ。
それから聖ちゃんが是非その神社にお参りに行ってみたいと言い出して今に至る。
マリみて好きでクリスチャンに憧れている聖ちゃんも、初詣となるとそんなものはもはや頭の隅に追いやったようだ。
どうやら神社にこだわりがある方らしい。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:00
- 電車やバスを乗り継いでやって来たのは森に囲まれた小さな神社。
地元では由緒ある神社らしい。
確かに、空気も静謐でパワースポットって感じがする。
早速お賽銭を入れようと小銭を取り出した時だった。
保田さんの大きな声が境内に響き渡る。
「いっいちまんえん!!?」
「え!ウソぉ!?」
まさかのユキチさんに私と保田さんは顔面蒼白になる。
私なんて五百円出してフンパツしたつもりだったのに。
「みっ聖ちゃん?その、ね?お金は大事にしないと」
「そうだよ、神様だってお賽銭の額で優先順位決めたりしないと思うんだけど」
「いえ、でもお願い事たくさんあり過ぎるんで、ちょっと頑張らないと。
うふふ、行ってらっしゃい」
「あー!」
私達の助言も虚しく、聖ちゃんは余裕の笑みで賽銭箱の上に一万円札を掲げ、何の迷いも無く手を離してしまった。
勿体ない。
そのままヒラヒラと賽銭箱に吸い込まれていく万札。
グッバイユキチさん。
聞けばそれは親戚からもらったお年玉らしい。
うーん。
何が何でも絶対叶えてもらいたい願いなんだろうなぁ。
神様、なるべく聖ちゃんの願いを叶えてあげて下さい。
私はお賽銭五百円のまま変えないけど。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:03
- 聖ちゃんはそのまま両手を合わせ、ブツブツと熱心にお祈りし始めた。
わざわざ口に出して言わなくても。
でも微笑ましいな。
どれほど切実な願いなのかとつい気になって、悪いとは思いつつ耳を傾けてしまう。
「11期メンバーで小4くらいの可愛い女の子が入って来ますように。つんくさんがいい曲いっぱい書けますように。
今後ハロプロが発展しますように」
あーなるほど。
確かにそれは神頼みするしかないかもしれない。
「えーとえーと、そんでもってみーよお姉さまとごにょごにょ…」
おおっ私?
最後はよく聞き取れなかったけど、私にできる事があれば、今後なるべくその願いを叶えてあげようと思った。
私も小銭を投げ入れ、礼と拍手をして一心に祈る。
今年も保田さんと一緒にいられますように。
聖ちゃんと保田さんの願いが叶いますように。
充実した日々を過ごせますように。
皆が健康で幸せでいられますように。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:05
- 祈願を終えて目を開けても、聖ちゃんの声は未だ続いていた。
まだやってるよ。長いなぁ…って
!!??
ち ょ っ と ま て
聖ちゃん、や、保田さんに拝んでる!?
にわかに信じ難い、というか意味の分からない光景に一瞬固まった。
保田さんの方へと目を向けると、苦笑いしながら私に視線を返して来た。
聖ちゃんはそんな私達の様子には気付かないまま、祈願を続ける。
「道重さんに群がる輩を一掃できますように」
こっ、怖っ。
とりあえず聞かなかった事にした方がいいよね。
極力聖ちゃんを怒らせない方がいい。
いや、怒らせちゃいけない。
そう強く感じた。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:08
- 「ふぅ」
やがて聖ちゃんは気が済んだのか小さく息を吐いた。
その表情はどこか清々しい。
「もういいの?」
「はい、願望を吐き出したらすっきりしました。色々溜め込んでたんで」
まだ若いのに、聖ちゃん疲れてるのかなぁ。
そんな風に思っていると、保田さんがもっともな質問を聖ちゃんに投げかけた。
「どうして私の方に向かってお願いしてたの?」
「だってご利益ありそうじゃないですか。保田さんには保田大明神が宿っているんですよね?」
どこ情報だそれは。
「そ…それは、うん、そうなのかも」
保田さんも否定するわけにはいかないと思っているのか相槌を打っている。
神様の目の前で他の神様(ここでは保田大明神)にも頼るってどうかと思うけど、あえて言わないでおく。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:10
- 全員目的を果たし三人揃って参道を下りようとしていた時だった。
「あっ!甘酒無料サービスですって!」
突然、聖ちゃんは急な参道を一気に駆け下りて行った。
「待って!走ったら危ないって」
制止の声も聞こえていないのか、聖ちゃんはそのまま甘酒コーナーへ一目散。
「しょうがないなぁ」
そう言いつつ、私達はそのまま慎重にゆっくりと参道を下る。
元旦とはいえ、夜ともなると人通りは少ない。
昼間は参拝客で溢れ返っていたんだろう。
でも今は随分静かだ。
辺りを覆う森も、優しく包んでくれてるみたいで安心する。
有名な神社だと夜も賑やかだろうけど、元々この土地って辺鄙な場所にあるし…
ってそれ言ったら保田さん怒るかな。
私にとってはちょうどいいんだけど。
だって、今なら誰も見ていない。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:12
- 「保田さん」
私はちょいちょいと保田さんのマフラーをつまんで自分の方へと引き寄せた。
そしてその林檎のようなほっぺにキスをする。
「!!?」
保田さんの顔が火照りでより赤くなる。
相変わらず、不意打ちに弱い。
神聖な場所だけど、これくらいなら、ここの神様だって大目に見てくれるはず。多分。
「聖ちゃんに見られたらどうすんのよ」
「見てないですよ、甘酒に気を取られてますから。
ふふ。お色気担当って言われててもやっぱりこういうところは年相応にお子様ですよね」
先に参道を下りた聖ちゃんを見ると、ちょうど神社の有志の方に紙コップ入りの甘酒を手渡してもらってるところだった。
私はそのまま保田さんのかじかんだ手を取る。
「ちょっ、こんな転びやすい場所で手繋いだら危ないよ」
「大丈夫ですって、ちょっとの間だけですよ」
こんなの東京じゃ堂々とできないですし、と付け加えると、保田さんは素直に握り返してくれる。
なんだか新鮮だな、こういうの。
くすぐったく思いながら、参道を下り終える束の間、私は保田さんと手を繋いで歩いた。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:17
- 「おねーさま方ー!」
聖ちゃんは石垣に座り、ぶんぶんとこちらに向かって手を振っている。
その横には湯気の立ちのぼる甘酒入り紙コップが三つ。
三人分もらってくれて、私達が来るまで口をつけず待っていてくれたようだ。
「甘酒でカンパイしましょ」
私達は頷いて紙コップを受け取り、聖ちゃんが座る石垣に並んで腰かけた。
「改めまして、新年あけましておめでとうございます」
そして紙コップのふちを合わせる。
そのまま何も考えずどろっとした甘酒を流し込むと、むせそうになった。
「甘ッ!」
「そりゃ甘酒だし」
聖ちゃんと保田さんは私とは対照的に、おいしそうにコクコク飲んでいる。
甘さと熱さがじんわり胃に染み渡る。
やたら甘いけど、確かに体があったまるわ、これ。
保田さんと、かわいこちゃんと一緒に静かな夜の神社で甘酒飲むって、情緒的でいいよね。
こんな風に穏やかに新年を迎えられるなんて思ってなかった。
なんか、ずっとまったりこうしていたい。
だけど現実的な問題、バスの時間もあるわけで。
ここはバスの本数も少ないらしい。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:18
- 「そろそろ帰ろっか」
甘酒で暖をとり、人心地つくと私達は立ち上がった。
「もうすぐ最終バスが来ると思うから、私見て来る」
保田さんは一足先に近くのバス停へ時刻表を確認しに向かう。
「みーよお姉さまっ」
聖ちゃんは好都合だとばかりに、すかさず私と腕を組んだ。
「さっきの…みーよお姉さまの発言なんですけど」
「え?何?」
私聖ちゃんに何か言ったかな。
「…甘酒に気を取られてる私はお子様だって」
「?!」
ゲッ!聞こえてた?
「そ、そんなの言ったっけ」
「とぼけちゃイヤです。みーよお姉さまが保田さんにチュッてしてた時ですよ」
そんなバカな。聖ちゃん頭の後ろに目があるの?
ていうかどんだけ地獄耳なんだろう。
別に悪い意味で言ったんじゃないのになぁ。
「いや、あああのね!誤解しないでね。
普段聖ちゃんは中学生と思えないくらい大人の色気醸し出してるから、無邪気な面が見られてホッとしたって意味合いで言ったんだよ?」
「うふふ、そうだったんですか」
聖ちゃんは笑顔で頷いてくれてるけど、目は笑っていない。
なんだか黒い禍々しいオーラを感じるような気がするんですけど。
聖ちゃん…やっぱり怖いよ。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:33
- 「みーよお姉さま、今年は私も高校生なんです。
だから、みーよお姉さまの心が休まる時がないくらい、誘惑しまくりますね」
しっとりした艶声で囁く聖ちゃんは、末恐ろしくなるほど色っぽい。
頬に何か触れた。
それが聖ちゃんの唇だと理解した時には、既に聖ちゃんは保田さんを追って駆け出していた。
今年はまた色々ありそうだなぁ。
だけど保田さんと聖ちゃんと一緒なら、きっと楽しい。
一年に一度の初詣は終わってしまったけど、東京までの帰り道も、三人で楽しみを見つけよう。
私達を見守る冬の夜は深く、澄み渡っていた。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:36
-
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:36
- お
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:36
- し
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:36
- ま
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 00:36
- い
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