10 いしよしまむらんでぶー
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:08
- 10 いしよしまむらんでぶー
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:09
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『それじゃあ13時に』
そう言って切れた昨日の電話。
最近仕事が忙しくてなかなか会えなかったあなたからの誘い。
そう、今日は久しぶりのデート。
昨晩その事実を噛み締めながら、いろんな服を引っ張り出した。
脚は出した方がいいかな、とかいろいろ考えてたらいつの間にか夜も深くなっていて、慌てて布団に入ったくらい楽しみにしてた。
なかなか寝れなかったもん。
現在待ち合わせの駅前。
髪型は自然に。
お化粧もいい感じ。
あなたが心配するといけないから、脚は出さない方向で。
2人っきりになった時に出せば……なんて、きゃっ!
彼女が来る前にもう一度、鏡を出して確認する。
大丈夫、グロスもばっちり。
「ごめん、待った?」
鏡を見ていると、待ちわびていた人の声が右から聞こえてきた。
もう、遅いじゃない。
「ごめんじゃないわよ、本当に――」
振り返ったあたしの視界に飛び込んできたもの。
ジャケットにジーパンという極めてラフな服装のよっすぃ〜。
え、ちょっとちょっと、久しぶりのデートなんだよ?
もう少し気合い入れてくれたっていいじゃない。
……なんてことは言えなくて。
シンプルな服装はあなたのかっこよさを際立てていて、それ以上何も足すものはないってくらい、素敵。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:10
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「梨華ちゃん?どした?」
「ううん、何でもない」
「あたしに見惚れちゃった?」
「そんなんじゃないよ」
「そう?やけに瞳に熱が籠っていたように感じたけど」
「あたしが何を見ててもいいでしょ」
絶対わかっててやってる。
だって顔がにやけてるから。
あー、そうよそうよ、見惚れてたわよ!
それで満足ならいいでしょ!
「さてと、じゃあ行きますか」
そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、手をとって歩き出す。
もう、バレたら大変なのに。
「よっすぃ〜」
小さく名前を呼んで握られた手を振り解いてみると、「あぁそっか」なんて小さく頷いて隣を歩き出した。
一応ね、ほら、芸能人じゃない。
今のあたし達はプライベートだけど、向こうはそうは思わないから。
気付かれたら大変だし、まだこの関係は内緒だから。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:10
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「ね、どこ行くの?」
「今日はね、梨華ちゃんにぜひ埼玉のいいところを知ってもらいたくて」
駅から暫く歩いていくと、前の方にベージュの建物と赤の文字が見えてきた。
んと……し、ま、む、ら?
しまむら?
あの洋服屋さんの?
「久しぶりだなー、しまむら」
よっすぃ〜の言葉から、嘘じゃないってことを知る。
しまむらに行くの?
久しぶりのデートなのに?
まだ外は明るいよ?
ほら、普通なら他にもたくさん行く場所あるじゃない。
埼玉ってよくわかんないけど、なんか他にも行くところあるよね?
「さ、入るよ梨華ちゃん」
言いたいことはたくさんあった。
けれど、嬉しそうに店内に入っていくあなたの姿を見たら言えなかった。
そ、そうよ!
よっすぃ〜はあたしと一緒に買い物がしたいのかもしれない。
ほしいものがたまたまここにしかないのかもしれない。
買い物が終わればどっかに行くのかもしれない。
あたしは恋人に続いて、2つの自動ドアを抜けていった。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:10
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店内は思っていたよりも明るくて、グレーの石みたいな床が照明を反射していた。
結構広い。
だからなのか、気付いてしまうこともある。
人が少ない。
平日の真っ昼間。
小さな子ども連れのお母さんや、おばさん達がちらほらといる。
だけど圧倒的に人が少ない。
なんか、変な緊張感が漂っているみたい。
それに飲み込まれそうになって、あたしはよっすぃ〜の鞄を掴んだ。
「な、何がほしいの?」
「んー、ほしいものは特にないんだ」
「へ?」
「ただ梨華ちゃんを、埼玉が誇るしまむらに連れてきたかっただけだから」
「じゃあ、このあとどっかに行くとか……」
「全然考えてなかった。梨華ちゃん知らないっしょ?しまむらって結構時間使うんだよ」
あたしは軽く目眩がした。
いい歳した大人2人、それも成熟した女性2人が、デートしようって来る場所じゃない気がする。
店内BGMがそれを物語ってるよね。
「ファッションセンター、しーまーむーらー♪」って、やっぱり違うよ!
「まぁそうがっかりしないでよ。絶対楽しくなるから」
目の前の恋人は楽しそうに私の手を取って、店内奥へと進んでいった。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:11
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「まずは寝具売り場からね」
しまむらって洋服だけじゃないんだ。
布団、枕、シーツに、あれは抱き枕。
意外と充実してるんだなー……って、よっすぃ〜?
「ほら、こうするとなんか楽しくない?」
毛布と毛布の間にどんどん手を入れて遊んでる。
売り物なんだから遊んじゃダメだよ。
「梨華ちゃんもやったら?」
「売り物だよ」
「じゃあ触ってみるだけ。それだったらいいでしょ?」
「……触ってみるだけね」
よっすぃ〜が触っている毛布に触ってみる。
…………気持ちいい。
この肌触りは、包まれたくなる。
「ほらね」
最初は何のことを言ってるのかわからなかったけど、毛布と毛布の間にいつの間にか滑り込んでいた自分の手を見て納得した。
これは知ってたらやりたくなる。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:11
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「次は抱き枕。何か買ってあげようか?」
「いいの?」
「あたしだと思って」
「じゃあ毎日叩かなきゃ」
「そんなことされちゃうの!?」
「嘘。毎日ぎゅってする」
その言葉を聞いたと思われる彼女の進む歩が止まった。
かと思えば、そのままくるりと回転して来た方向へと戻っていく。
あれ?抱き枕見るんじゃないの?
「やっぱり買わない」
「なんでよー」
「ずるいじゃん、抱き枕だけ梨華ちゃんに抱きしめてもらって」
「焼きもち?」
「そうだよ。あー、かっこわりーなあたし」
「でもそれがいいよ」
「よーし、今からかっけーとこ見せちゃうもんね」
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:12
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また手を繋がれる。
さっきからずっと思ってたんだけど、あたし達、内緒なんだよ?
なのに堂々と手なんか繋いで、バレたら大変だよ?
「はいここ」
連れて来られたのは小さなゲームコーナーみたいなところだった。
そして得意気に胸を張るよっすぃ〜の目の前にあるもの。
じゃんけんゲームだ。
「これで勝ってみせる!見ててよ」
意気揚々とお金を投入すると、《じゃーんけーん》という掛け声と共に電光ランプがいろんな形に光りだす。
《ぽんっ!ズコッ》
あ、負けた。
「も、もう1回!」
再びお金を投入するよっすぃ〜。
《じゃーんけーん、ぽんっ!ズコッ》
《じゃーんけーん、ぽんっ!ズコッ》
《じゃーんけーん、ぽんっ!ズコッ》
《じゃーんけーん》
「あたしもやっていい?」
「……いいよ」
5回目のお金を投入した時は、さすがに見てられなくなって声を掛けちゃった。
最初は楽しげにしゃがんでいた背中が、哀愁を帯びてきちゃったから。
女の子の背中じゃなかったんだもん。
光っているランプ。
正直、見ててもよくわかんないから適当にボタンを押した。
《ぽんっ!フィーバー!》
いきなりルーレットが回り始めて、2のところが光ってコインが2枚落ちてきた。
よっすぃ〜と顔を見合わせる。
勝っちゃった!
「すげー!梨華ちゃんすげー!よーし、次こそあたしも」
「もうやめとこうよ。これあげるから。ね?」
「……やっぱりかっこわりー」
肩を落としているよっすぃ〜にコインを1枚おすそ分け。
これは今日の記念にとっておこうっと。
ただのコインなのに、何だかちょっとだけ光り輝いて見えるそのコイン。
あなたとお揃いの今日の記念。
書いてあるグーのマークを見るたびに今日のことを思い出せたらいいな。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:12
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「じゃあ服でも見るかー」
「うん、そうだね」
なんだろう。
こんなところデートで来る場所じゃない!って最初は思ってた。
だけど、だんだんと楽しくなってきてる自分がいる。
「ね、こっち見たい」
「いいよ」
「服選んであげようか」
「梨華ちゃんのセンスかぁ」
「何よ、文句あんの?」
「大アリだね」
気が付いた時には、自分の方からよっすぃ〜の手をとっていた。
あぁ、私ったらどうしたんだろう。
人前なのに。
少し仲がいいくらいで済まされるんじゃないかって思う様になってしまった。
恐るべし、しまむら。
「これかわいー。お揃いで買っちゃおうか?」
「パーカーね、いいよ」
「ひとみちゃん何色にする?あたしはやっぱりピンクかな」
「あのさ、梨華ちゃん気付いてる?」
「何が?」
「ひとみちゃんって呼んでるけど」
「嘘」
「ほんと」
2人っきりじゃないと呼んでくれないのにね。
悪戯っぽく耳元で言葉を紡ぐと、水色のパーカーを手に取ってどっかに行ってしまった。
何よ、もう。
あなたが連れてきたんじゃない。
あなたが先に手なんか繋いで堂々としてるからじゃない。
あたしはそれを真似しただけ。
淡いピンクのパーカーを手にして、よっすぃ〜が消えていった方へ歩を進めた。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:12
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「じゃーん、どう?」
試着室辿りついたあたしは、ちょうど出てきた彼女と出くわした。
水色のパーカーを着て腰に片手をあててモデルポーズとってる。
ちょっと笑っちゃった。
「変?」
「そのポーズがね」
「そっか、ならこっちはオッケーだ。梨華ちゃんも着てみてよ」
「うん」
決して広くはないけれど大きな鏡によって十分なスペースと感じる試着室。
着替えていると隣のドアが開く音がした。
よっすぃ〜、もう着替え終わったんだ。
早く着て見せないと。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:13
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「梨華ちゃん」
「なぁに?今まだ着替えてるから待って」
「楽しい?」
扉越しに聞こえてくる声。
鏡に映る扉から少し飛び出たあなたの頭。
「デートが?」
「うん。強引に連れてきちゃったけど、どうかなって。今1人になって考えた」
「今更だね」
「今更だけど」
「楽しいよ」
「ほんと!?」
鏡越しにあなたと目が合う。
ん?目が合う?
あたしはまだ着替えている途中で、鏡の中の彼女と目が合って、だけどここは試着室の中で……
「見ないでよ!」
「ごめんごめん、つい」
私の声に慌てて頭を引っ込めるあなた。
背伸びなんかして、それじゃ覗きと一緒じゃない。
その後すぐに試着したものを見せると、似合ってるって言ってくれた。
じゃあこれにしーようっと。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:13
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時刻はすでに18時に近付いていた頃、あたし達はしまむらを後にしていた。
遅くなってくるにつれて、学生のお客さんが多くなってきたから。
今日はお揃いのパーカーと、あと足元のあったかグッズを買ってみた。
かわいいんだよ、モコモコの靴下。
「結局あんま買わなかったね」
「だから下着見ようって言ったのに」
「ダメだよ!いや、決して悪いってわけじゃないけど、梨華ちゃんの胸をあいつらに預けるのかと思うと……!」
「そんなに熱弁しなくても」
「するよ!だって持ち上げる力とかなんかきっと違うじゃん」
「そんなの試してみないとわからないよ?」
「いーや、試さなくてもあたしにはわかるね。とにかく、せっかく綺麗な胸なんだからしっかりしたものをつけないと」
「そんなもんなのかなぁ?」
「そうなの。みんなが許してもあたしは許さない」
帰りの電車を待つ間、彼女は小さな声で、だけどはっきりと聞こえる声で下着について語り出す。
店内で見ようって言った時も手引っ張られて「ダメ」の一点張りだったもんね。
そこまで私のことを考えてくれてるのは嬉しいけど、そのこだわりはよくわかんない。
でもやっぱり嬉しいから喜んでおこうっと。
「今日はありがとね」
本当にあたしに言ってるのかって聞きたくなるくらいにまっすぐ前を向いたまま話し出す彼女。
その横顔、もう何回も見ているはずなのに。
真面目に言われてときめかないはずがなかった。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:13
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「梨華ちゃんと堂々と手を繋いだりして買い物できたらいいなって思ってて」
「なかなかできないもんね」
「あんまデートとかで行くような場所じゃないってことはわかってんだけどさ」
「楽しかったよ。久しぶりにデートって感じで」
「ならよかった」
少し申し訳なさそうにこっちを窺うのは、きっとこのプランに自信がなかったから。
バカね。
楽しくなかったらとっくに言ってる。
他の所に行こうって。
試着室に通い詰めてファッションショーとかしたりもしない。
こうしてあなたと今、電車を待ちながら帰りたくないなんて思ったりしない。
「久しぶりに会ったのにこんなんだから、怒ってたらどうしようって」
「最初はえー?ここー?って思ったけど」
「やっぱり」
「でも本当に、楽しかった」
アナウンスが鳴り響いた。
電車がもうすぐホームに滑り込んでくる。
これに乗ってしまえば、あとは帰るだけ。
もうちょっと、まだ一緒にいたい。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:14
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「あーあ。抱き枕買ってもらえなかったのが残念だったなー」
「あれはごめんって」
「じゃあその代わりに、抱き枕になりに来て?」
「それなら喜んで。なんならいろいろオプションもつけとく?」
「例えばどんな?」
「抱き枕に逆に包み込まれるってどーよ。抱かれ枕」
そういえば、渡したコインってパーの絵が描いてあったな。
それってあたしが包み込まれるってことを表してたのかもしれない、なーんて。
1人でその時の偶然を思い出して笑うと、不思議そうにあたしを見てる。
ひとみちゃんには教えてあげないよーだ。
「いいよ。抱かれ枕お持ち帰りで」
「お客さん、見る目あるねー」
電車がやって来た。
あたし達のデートは、もう少しだけ続くみたい。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 08:14
- おわり
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