06 Fantasyが始まらない
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:53
- 06 Fantasyが始まらない
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:54
- 今日は、待ちに待った舞踏会の日。
ドレスよし。靴よし。アクセサリーもよし。
「今日こそ、王子様のハートをゲットしちゃうぞ!」
大きな鏡に向かって、さゆみ姫は気合いを入れました。
「さゆみさま!さゆみさま!ご出発の時間までもうすぐでございますよ!」
「えー!」
バタバタと部屋に入ってきたばあやに、急いで髪形を整えてもらいます。
「うん、今日も可愛い!」
もう一度、鏡の前で自分自身を確認したさゆみ姫。
ド派手なドレスとアクセサリーで身を包み、
ニッコリ笑顔の練習もして、準備も完璧。
きっと王子様もイチコロです。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:54
- 「さゆみさま!玄関にカボチャの馬車が到着しておりますよ!」
「え?カボチャの馬車?」
普通の馬車でいいんだけどな・・・と思いながら、
さゆみ姫は玄関まで辿り着きました。
そこには、ばあやの言った通り、カボチャの馬車があったのです。
「舞踏会といえばカボチャの馬車でございますわよ!
さあ、参りましょうさゆみさま!」
「え、ええ・・・」
これ、本物のカボチャ?ちょっと生臭いんだけど・・・と思いながら、
さゆみ姫はばあやと共に乗り込みました。
「な、なんだかカボチャがヌルヌルするんだけど・・・」
「さあ、舞踏会の会場まで出発!」
ばあやの威勢の良い号令で、カボチャの馬車がゆっくりと走りだしました。
しかし、次第にお馬さんの走る速さが速くなっていきました。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:55
- 「すっ、すっごい揺れる・・・」
何もしなくても、さゆみ姫の体が勝手に動き始めます。しかも上下に。
SEXYでごめんね・・・と思いながら、時折カボチャの壁にぶつかりながら、
今からの舞踏会のことを考え、胸を躍らせていました。
舞踏会。華やかな舞台。
もちろん、憧れの王子様もやってきます。
・・・さゆみ姫。
・・・なあに、愛ちゃん王子?
・・・ぼくと、けけけけ、けっ、
・・・けっ?
結婚!!!?いやだ、さゆみ姫ったら。
まだ会話もしたこともない王子様と、頭の中ではもう、
結婚の約束をしようとしています。
妄想は自由なものですが、とてもおそろしいものでもあります。
気がついたときには、さゆみ姫の頭の中では3人も子供が生まれておりました。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:55
- 「ハイ!着きましたよ!」
さゆみ姫の妄想がいったん終わると、ちょうどよく馬車が停まりました。
「さあさゆみ姫、いざ舞踏会へ!」
「ゴー!」
力強く拳を突き上げながら、さゆみ姫は馬車から降りました。
目の前には大きなお城。着飾った人々たちがいると思いきや・・・
「えー!?」
そこには、古い建物。強そうな男たちであふれかえっていました。
いったいどういうことなのでしょう。
「ちょっとあなた!ここ、武道会の会場じゃない!わたくしたちが
行きたいのは舞踏会よ、舞踏会!」
ばあやが、こんなところに連れてきた騎手に向かって怒鳴っていました。
辺りを見渡したさゆみ姫は、その建物の前に”第拾壱回武道会”の看板を見つけます。
そういうことか・・・さゆみ姫は納得します。
”舞踏会”を”武道会”と聞き間違えてしまったのです。
だいたい、こんな派手な格好で武道会に参加する人間がいるでしょうか。
いや、いません。ドレス姿じゃ、戦えるわけもありません。
でも、このかかとの高い靴さえ脱げば戦えるかもしれないわ・・・
さゆみ姫は考えました。そして、頭の中で強そうな男たちに立ち向かっていく
勇ましい自分の姿を想像してみました。
「早くお城まで連れていきなさい!」
「ばあや、待って」
「さゆみさま?」
「さゆみ、戦う」
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:55
- 靴を脱いで、裸足になったさゆみ姫は両手の拳を握りしめました。
大きく深呼吸して、精神を統一します。
「さゆみさま、がんばって」ばあやも片隅で応援しています。
「両者、前へ」
審判に呼ばれて、さゆみ姫は対戦相手と向かい合います。
相手は、なぜか女の子でした。しかもさゆみ姫と同じ年頃です。
でも、さゆみ姫とは違い、服装はきちんと戦うための格好をしていました。
「そんなカッコで、ちゃんと動けるんですか?」
「もちろん」
自信満々のさゆみ姫。相手の女の子はニヤリと笑いました。
「はじめ!」
2人の力は互角でした。さゆみ姫は、敵の髪の毛を引っ張って、
引っ張って、引っ張りまくって、降参するのを待ちました。
しかし、なかなか降参の言葉が出てきません。
しぶとい奴・・・さゆみ姫は鬼の形相で敵の頭を床に叩きつけました。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:56
- 「スキあり!」
「あっ!」
彼女の頭を床に押し付けていると、なんとドレスの裾を引きちぎられて
しまいました。ビリビリビリ!さゆみ姫の大切なドレスが、
無残にも膝から下が破れて落ちていってしまいました。
「もー!やだー!」
「へっ、へっ、へっ」
奪い取ったドレスの裾を握りしめ、女の子が不敵な笑みを浮かべています。
「そっちの方が、もっと可愛いと思いますよ」
「えっ?」
さゆみ姫は、自分自身を見てみます。
破られたドレスは、ちょうど裾の長さが膝の少し上になっていました。
「ミニスカート!」
その時、審判が「勝負あり!」と叫びました。
そう、さゆみ姫は戦いに勝利したのです。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:56
- 「あなた、名前は・・・」
さゆみ姫は彼女に尋ねます。
彼女は「サキチー」と一言つぶやき、去って行ってしまいました。
「サキチー、ありがとう」
さゆみ姫は目を細めながらその背中を見送りました。
すっかり清々しい気持ちになっていました。
「ばあや!カボチャの馬車を正面にまわして!」
さて、さゆみ姫の本来の目的は、武道会に出場することではありません。
舞踏会に行って、王子様とダンスをして、そして・・・
それ以上は言えない、とばかりに含み笑いをするさゆみ姫。
「大変ですさゆみさま!か、カボチャの馬車が!」
外に出てみると、なんと、男たちが馬車を取り囲み、
カボチャをむさぼり食べていました。
なんて野蛮な人間たちなのでしょう。
いや、こんなの人間ではない、ただの動物です。
さゆみ姫はそいつらを軽蔑するようににらみました。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:56
- 「さゆみさま、どうしましょう・・・これでは舞踏会に行けませんわ」
そうだ。お城まではまだまだ遠い。
このままでは、舞踏会に行くことはできません。
それは困る。すごく困る。さゆみ姫は考えました。
さっきまで乗っていたカボチャは、男たちに食べられて影も形もありません。
きっと、ここに魔法使いがいれば、馬車を元に戻してくれるのに。
元の形どころか、もっと良い馬車にしてくれるのに。
「おやおや、お困りのようですね」
とつぜん声をかけられて、さゆみ姫は振りかえりました。
そこには、一人の女の子がいました。
魔法使いらしくもない、髪が長くて茶髪の女の子でした。
ただ、とてつもなく背の高い、巨人のような人間でした。
「何かあったのですか?」
「ええ、ちょっと、カボチャの馬車を食べられてしまって・・・」
「それは大変。元に戻してさしあげましょう」
「え、どうやって?」
さゆみは思わず質問しました。
その大きな女の子は、答えました。
「魔法ですけど」
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:57
- まさかこんなに都合良く魔法使いと出会えるなんて!
よく見ると、彼女の腕は、まるで魔法のステッキのように長く、
彼女の脚も、まるで魔法のステッキのようでした。
いったいどうやって魔法をかけてくれるのでしょう。
「それでは、魔法をかけますよ」
「待って。カボチャの馬車じゃなくて、普通の馬車に変えてほしいの」
「お安いご用です」
大きな女の子が、なにか不思議な呪文を唱えると、
ポンッという大きな音とともに、新品の馬車が現れました。
「すごい!ありがとう!」
「どういたしまして。30モベキマスになります」
「お金とるの?!聞いてない!」
さゆみ姫は驚いてばあやを呼びますが、なぜかばあやが見当たりません。
「ばあや?どこに行ったの?」
「たぶん、その馬車の馬になったと思います」
「えー?困るー!」
「30モベキマスください」
「・・・」
実はさきほどの戦いで、アクセサリーは壊れていました。
苦い顔して、さゆみ姫は唯一お金になりそうな綺麗な靴を大きな女の子に差し出しました。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:57
- 「サイズ、合わないと思うけど」
「まいどあり」
裸足のさゆみ姫は馬車に乗りました。
背の高い女の子に見送られながら、馬車が軽快に走りだします。
さゆみ姫は今度は間違いが起こらないように、
何度も、「舞踏会だよ、お城だよ」と騎手に言い聞かせました。
よくよく考えると、さゆみ姫はボロボロです。
ドレスも引きちぎられ、アクセサリーはぶっ壊れ、
さらには靴まで奪われて、ぜんぜんお姫様に見えません。
こんな姿で舞踏会に行ったって、王子様の目にとまるはずもありません。
さゆみ姫は、急に気分が落ち込んできました。
憧れの舞踏会、憧れの王子様がどんどん遠ざかっていきます。
結婚が・・・3人の子供が・・・
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:57
- 「さゆみさま、さゆみさま、お城に着きましたよ」
体が勝手に動き始めて、さゆみ姫は目を覚ましました。
そして、目を見開いて驚きます。
なんと、巨人魔法使いのせいで馬になったはずのばあやが目の前にいたのです。
「どうして?」
「なにをおっしゃってるのです!さあ、舞踏会へ参りましょう!」
ハッとしたさゆみ姫は、ここがカボチャの中だということに気付きます。
足元を見ると、きちんと自分の靴をはいていました。
あれは全部、夢だったのかしら・・・。
夢。そうだ、ぜんぶ馬鹿げた妄想だったのよ!
ひとりで納得したさゆみ姫は馬車を降ります。
「あれー・・・」
目の前には、見たことのある建物がありました。
「ちょっとあなた!ここは武道会の会場じゃない!」
ばあやはとても怒っていました。
ふと馬車を振り返ると、すでに男たちにカボチャを食べられ始めていました。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:57
- どれも先ほど見た光景でした。
もしかすると、これも夢?それとも現実?
さゆみ姫はあくびをひとつして、辺りを見回しました。
すると、向こうの方で、背の高い茶髪の女の子を見つけました。
「あのー、さゆみ、困ってまーす」
今度こそ、さゆみ姫は無事に舞踏会に辿りつけるのでしょうか。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:57
-
おしまい
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:58
-
ファンタジーはもう始まっている!
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:58
-
いや、始まっていない
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:58
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- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:58
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- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/04(日) 23:58
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