17 ピンチヒッター

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 11:37
17 ピンチヒッター
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 11:43



「残念ながら、今回は該当者なしということで」

寺田の非情な決断が、VTRで流れる。
モーニング娘。9期オーディションは結局のところ、合格者を1人
も出すことなく終了してしまった。

もちろんこれに怒ったのは、新メンバーの誕生を楽しみにしていた
ヲタたちだった。「鞘師ちゃんに謝れ」「カカなしでは生きていけ
ない。責任とれ」等等、非難轟々であったが、寺田は一度下した決
断を覆すわけにはいかなかった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 11:52
ポンコツプロデューサーはそれでよかった。
しかし、会社としてはそうも言っていられない。会社の不手際は
即ヲタ離れに繋がることを、身を持って知っていたからだ。ヲタ
のクレームを引き受ける電話番の保田さんや石川さんにも限界が
訪れていた。

「こうなっては仕方がない……」

モーニング娘。のマネージャーである菊川は、あるひとつの賭けに
出た。ヲタたちをフレッシュレモンの虜にしないためには、こちら
もそれなりの犠牲を払わなければならない。

シークレットライブ。

これまでにグッズに大金を注ぎ込んだ金づる、いや上客のファンク
ラブ会員を対象に、メンバーがとっておきの曲を歌うライブを開催
するというものだった。ライフライン(by平野綾)さえ確保でき
れば、会社が倒産することはない。

シークレットライブの情報は一部のファンクラブ会員だけに通知さ
れ、そして情報が漏れることなくライブの当日を迎えた。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 11:52






5 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 11:58
最悪だった。
当日は記録的豪雨に見舞われ、ヲタたちは何とかしてライブ会場に
到着したものの、明らかに不機嫌な空気がそこにはあった。
さらに間の悪いことに、娘。メンバーの乗るバスが高架下のトンネ
ルで水没してしまったという一報が菊川のもとに届いた。
幸い大事には至らなかったが、交通手段のないメンバーたちは徒歩
で会場に向かうことになってしまった。

「はぁ? 会場に着くまで2時間半だって!? それまでどう時間
をつなぐんだよ、まったく……」

菊川は状況を報告するスタッフに八つ当たりしたが、会場のヲタに
知れたらそれ以上の怒りが押し寄せるのは明らかだった。暴動に発
展するかもしれない。それだけならいい。いつかの飯田さんのバス
ツアーのように悲惨なイベントとして後世まで語り継がれることに
なるかもしれない。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 12:02
ヲタ激減。
売り上げ激減。
会社倒産。
一家離散。
菊川の脳裏にはもはや悪いビジョンしか映っていなかった。
そうだ、今からすぐ駆けつけることのできる人に声をかけよう。
菊川はライブ会場から最も近い場所に住む人間に連絡を取ること
にした。

現モーニング娘。に引けを取らないパフォーマンス能力。
最高のヴォーカル能力。
誰よりも娘。の楽曲をこよなく愛している。

菊川の選択に、間違いはなかった。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 12:08
「で、何で俺やねん」

久々のオフ、自宅でお米を炊いてそのふっくら具合を鑑賞し悦に
入っていた寺田は、その至福の時間を邪魔されたことで不機嫌に
なっていた。

「会場のヲタたちの不満を解消するには、つんくさんしかいない
んです!!」

確かにモーニング娘。の楽曲の作詞・作曲を行なっているわけだか
ら、どの楽曲にも対応し歌うことができる。ダンスパフォーマンス
にしても、ある程度はこなすことができるだろう。

「まあ、しゃあないか。時間まで繋げばええんやろ。わかった。こ
の寺田光男に任せとけ」
「ありがとうございます! じゃあ時間がないんで、さっそくこの
衣装に着替えてください」

菊川が、紙袋から見慣れた衣装を取り出した。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 12:13
「おいこら」
「はい?」
「こんなん、着られるわけないやろ」

菊川が差し出したのは、チェックのスカートと、白の長袖シャツ。
「モーニングコーヒー」の衣装だった。

「最初の曲がモーニングコーヒーなんです!」
「だからって何で俺が」
「ヲタの期待を裏切らないでください! メンバーが5人になった
今、この曲とこの衣装じゃないと、ヲタは納得いかないんです!!」

菊川の情熱が、寺田の心を打った。
そう、いわばこのライブは新生モーニング娘。のスタート地点。
あの衣装でなければ、愛の種の5人に申し訳ない…

「わかった。着るわ」
「ありがとうございます!!」

衣装を手に、寺田は楽屋に消えていった。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 12:14






10 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 12:18


寺田はやり切った。
スカートから伸びる足はすね毛でボーボー、まるで場末のオカマ
バーの様相を呈していたが、そこは渋いヴォーカルで何とかカバ
ーした。これがシークレットライブで本当によかった。寺田は神
に心から感謝した。

満足した表情で舞台袖に戻る寺田。
そうだ、俺はモーニング娘。の親や。何でも歌ったる。愛娘のピ
ンチは親が助けたらな、あかん。ある種の決意が芽生えていた。

「菊川、早よ次の衣装用意せえ」
「はいっ! ではこれを……」
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 12:25
「おい菊川」
「はい?」
「これはさすがにあかんやろ。無理やでこんなん」

菊川が差し出したのは、「ミニモニ。じゃんけんぴょん!」の衣装
だった。すっかり色あせたミニモちゃんのバッジが余計に哀愁を誘う。

「菊川。俺が今年いくつになったか知ってるか?」
「えっ、さあ……」
「42やで、42。42のおっさんがそのカッコでじゃんけんぴょ
ーんて。あかんやろ。おいしい牛乳飲むのだぴょーんって。犯罪や
ろ、もはや」

自分で作詞したにも関わらず、寺田はじゃんけんぴょん!の歌詞を
全否定しはじめた。若気の至りってこういうことなのかと寺田は自
ら納得するのだった。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 12:30
「つんくさん」
「何や」
「つんくさんはヲタの期待を裏切るんですか?」
「そんなん言われたって、あかんもんはあかん」
「UFA、つぶれますよ?」

寺田の時が止まった。
確かにここでヲタの期待を大きく裏切ることをしてしまえば、大量
のヲタ離れを招くことになるかもしれない。そうなっては堀内や五
木では巨大になってしまった組織を支えるのは不可能だ。

「……今回限りやで?」
「ありがとうございます!!」

何でこんなことに。寺田の足取りは重かった。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 12:31






14 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 12:37


寺田はやり切った。
歌いながら、何でおれこんな歌詞書いたんやろう、という後悔の
念がよぎったが、それでも歌い、踊った。42の中年が踊るじゃ
んけんぴょんはおぞましいものだったが、それでも寺田は最後ま
で踊り切った。

「ははは、どや! 寺田光男、ここにありやで!!」

半分やけくそ気味に、叫ぶ寺田。しかしそんな寺田にも、たった
ひとつだけ疑問があった。

「そう言えば観客も大盛り上がりやったな。普通ならドン引きやろ
うに、そんなに俺のパフォーマンスがよかったんかな」
「そうですね。それに、無料で配ったドリンクに一服盛ってますか
らね。不思議パウダーを」

菊川がさらっと危険な発言をした。しかしつんくにはもはやそんな
発言を問いただす気にはなれなかった。目の前には、眩暈がする光
景が広がっていたからだ。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 12:46
茶色い全身タイツに、耳のついた衣装。
金髪のヅラと、けばけばしいボディコン衣装。
おっさんには似合いそうにない、オレンジのサッカー着。
どれもが、寺田がピコーンで思いついた衣装たちだった。そしてやは
りと言うか何と言うか、一番目に付いた衣装がそこにはあった。

「菊川。なんやねんこれは」
「なんやねんって、バニーガールの衣装じゃないですか」
「お前ええ加減にせえよ」
「安心してください。ちゃんとバニーの耳も用意してますから」
「そういうことちゃうねん。こんな衣装、あるわけないやろ」
「忘れたんですか? 『愛すクリームとmyプリン』を」

寺田の頭に甦る、記憶。
美勇伝もいまいちぱっとせんからなー。せや、バニー。バニーが
ええんとちゃう? ヲタのちんちんから欲し汁出まくりやで?
寺田ははじめて、己の愚かさを呪った。そして天国にいる岡田に
謝った。死んでないけど。
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 12:52
「でもさすがにこれは無理やって。俺の経歴に傷がつくわ」
「そうですか。こんなものまで用意したんですけどね」

菊川がスタッフに合図すると、奥のほうからDVDつきテレビが
運ばれてきた。スイッチが点くと、そこには。

「パパー、シークレットライブがんばってね」
「ぱぱー、がんばってー」
「がんばれー」

寺田の嫁と、双子が画面の外の寺田に向かって手を振っていた。

「お前いつの間にこんなん」
「先ほどご自宅に連絡させてもらいました。パパの一世一代の晴れ
舞台だって」
「卑怯やぞ!」
「何とでも言ってください。私は会社のためなら社畜にでもなりま
すから」

寺田にもう言葉はなかった。両脇に恥ずかしい衣装を抱え、楽屋へ
と消えていった。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 12:53






18 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 13:00



翌朝。
スポーツ新聞の見出しには、バニーガール姿で横チンをはみ出させ
ながら踊り狂う寺田の姿が。つんく、ご乱心という文字とともに写
されていた。

寺田はわいせつ物陳列罪の罪に問われ、プロデューサーも解任。
後釜は複数のアーティストの持ちまわり制になった。

そう、これは最初から菊川が、いや会社が仕組んだ罠だったのだ。
すでに鼻歌程度の曲しか作れなくなった寺田は、会社にとっては
要らない存在だった。しかしあからさまに切る理由もみつからな
い。そこに来て9期メンバー全員不採用。会長の怒りは頂点に達
していた。

これから娘。の人気が盛り返すかどうかはわからない。
しかし、これ以上下がることはないだろう。
菊川の目には、明るい未来が見えていた。
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 13:00
 
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 13:00
 
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 13:00
 
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 13:00
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 13:00
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 13:00

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