14 夢オチまでの素敵な時間

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 15:18
14 夢オチまでの素敵な時間
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 15:19
窓に露。外は冬。ここ数日で一気に寒くなった街。
窓から見る夜はいつもと同じなのに、気温が下がると景色まで寒そうに見えるから不思議だ。

つ、つ、つ、と窓を伝い落ちていく露。
寒くなればなるほど、部屋の暖房は調節が難しくなる。
はっきり言ってこの部屋は暑い。とてもイブの夜だなんて思えないくらいに温かで。
あたしはすっかり眠くなる。眠いのはなぜ?
答は簡単。今日のあたしにはもう何もやることが残ってないから。

あたしは自室のこたつに足をつっこんで、うとうととまどろむ。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 15:19
誰とも約束していない。誰とも連絡を取っていない。
それでもなんとなく眠りにつきたくないのがイブの夜。誰が決めたんでしょうかまったく。

あたしは気持ちだけではなく口もさびしくなってきたので、
大してお腹もへっていないのにドライフルーツの入っている新しい袋を開けた。

これってケーキとか焼くときに乗せればぴったりなんだけど・・・・・。
あたしは細切れのドライフルーツをそのまま口につっこむ。これで十分。
甘くて美味しい私の切り札。切り札ってこういうときに使う言葉だよね?

「おや、千聖さんが変なもの食べていますことよ」
「え!?」
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 15:19
全く人の気配のないところから届いた低い声。心臓に悪いって。
寝転がったまま振り返るとそこには一人の紳士。いやそれとも淑女?

愛理はビシッとしたスーツにキリッとしたネクタイを締めていた。
はっきり言って決まってる。一部の隙もないって感じ。ジャ写の撮影のときより凛々しくて神々しい。
表情も完全に撮影仕様じゃん! それってオフ日に友達に向ける顔じゃないと思うんですけど。

それはいいけどうちの親、友達をそっと家に上げるクセはいい加減やめてほしい。
心臓に悪いんだって。特に今日みたいな日は。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 15:19
とにかく驚いた。完全に不意討ちじゃん。言葉が上手く出てこないよ。
ファンの人が握手会とかで直に愛理に会ったらこんなリアクションになるんでしょうか。

あのね。一応あたしは愛理さんのお友達なんですよ。本当だよ。
今だって別に緊張してるわけじゃないんだ。本当だよ。

「愛理じゃん。なにしてんの……ねえ」
「何って今日はイヴですよ?」

どことなく口調もよそよそしい。発音が完全に「eve」だよ。演技してるのかな。これはヤバイね。
あたしは素の愛理も好きだけど、演技してる愛理も好きだから。
マジでヤバイ。そんな目で見るな。超ド級にヤバイ。クリスマスイブ級にヤバイですよこれは。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 15:19
愛理は形の良いパンツのポケットに両手を突っ込む。
ジャケットが軽くはだけて白いシャツと濃紺のネクタイがすすっと擦れる。すっごい高そうな生地。

「愛理んちじゃイブはそんな格好するの?」
愛理んちだったら不思議じゃない。不自然じゃないかもしれない。
みんなでタキシードにイブニングドレス着て、七面鳥とか丸ごと焼いててもおかしくない。
丸太の形したケーキとかあったりして。本物の丸太くらい大きかったりして。

「愛理んちってお父さんやお母さんもみんなそんな格好してそう」
さすがに丸太のケーキのことは言わなかった。あたしはドライフルーツの袋を体の下に隠す。

愛理は短くまとめた髪をかきあげてにっこりと笑う。そんな顔で笑うなバカ。
だから心臓に悪いんだって。特に今日みたいな日は。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 15:20
愛理は素の表情で笑う。やっぱりさっきまでのは演技だったのか! こいつめ! 何が狙いだ!
「あはははは。そうかも」
「本当に!?」
「案外うちのお父さんも、こうやってお母さんのことを誘ったかもね」
「え?」

愛理は丁寧に腰を折り曲げてお辞儀する。
まるでお屋敷の老執事のように片手をあたしの方へと差し出す。
愛理の掌が上を向く。

あたしがやったら完全に「なにかちょうだい」のポーズだ。
でも愛理がやったら全然そんな風には見えない。これは反則だね。クリスマスイブ級にヤバイ。
こんな愛理に育てた親の顔が見たいです。何回も見たことありますけど。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 15:20
あたしが身動きできずにじっとしてると、愛理はさらに深くあたしの方へと手を伸ばす。
目が笑ってるし、口が笑ってるし、肩も微かに笑っている。全身これ笑顔だわ。
演技の鎧の下にチラチラと見える愛理の心。絶対わざと見せてる。

愛理の罠はいつもあけすけだ。
あたしがやったら罠にならないけど、愛理がやったらすんごい高度な罠になる。
これも反則だね。どうやって育ったらこんな子に育つんだろう。憎たらしいですこの人。

でもあたしは愛理を憎めない。誰も彼女を憎めない。
だからあたしはきっとその手を振り払えない。

「さあ、お姫様。イブの夜ですよ」

どれだけ愛理の台詞が臭くても。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 15:20
「さあ、お姫様。今宵はわたくしと一緒に」

あたしはそれ以上臭い台詞が思いつかなかったので、無言のまま愛理の伸ばした手に手を重ねる。
今までずっと愛理の持っている全てが羨ましかったけど、
この瞬間、あたしは愛理の持っている全てが自分のものになったような錯覚を覚える。

それでもやっぱり羨ましくてちょっと妬けるぞ鈴木愛理。
このキザ! 女たらし! スケベ! ひきょう者!

でも高貴なお方にはからきし弱いあたし。
言いたいことも言えないままに卑怯な王子様に連連れ去られてしまい、
とびきり心臓に悪いに決まっているイベントの待つ、イブの夜に吸い込まれていくのでした。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 15:21
 
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 15:21
 
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 15:21
 
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 15:21
End

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