12 ライフ・イズ・ビューティフル

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:16
12 ライフ・イズ・ビューティフル
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:16
絵里、ジュンジュン、リンリンの卒業コンサート。
自分の前はさゆでジュンジュンやリンリンには笑いを誘う毒舌トークだったけど、
さすがに同期である絵里のときは泣き崩れていた。
本人達が公に口に出していることもあって、2人がとても仲が良いのはメンバーならず
ファンの方達も知っている。


泣きながらコメントを言った後、2人は抱き合うとかなり長い間抱擁していた。
それからマイクを外して何やら喋っていたけど、それは当然舞台上にいる私達にも何を
言っているのかは分からない。
たださゆは絵里の言葉に何度も何度も頷いていた。
その光景を少し離れた所から見ている自分、そのときふとこれが私とあの2人との距離感
なのかもしれないと思った。



仲間だ同期だと2人は言ってくれるけど、自分と距離があるのは間違いなくて、いつだって
私は遠くから見つめているだけだった。
いつから3人がこんな関係になってしまったのかは分からない。
でも少なくとも出会ってすぐの頃はこんな風じゃなかった。
絵里と仲が良いのはむしろ自分の方で、でも気がついたら絵里はさゆの隣にいるのが
当たり前になっていた。
そして2人は私から離れていった。


3 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:18
不意に胸が押し潰されるように締め付けられて泣きたくなった、でも泣くのはまだ早いと
自分に言い聞かせる。
私は胸の辺りを強く握りしめると気持ちの波が収まるのを待つ。
「・・・・・・もうあの頃には戻れと?」
軽く溜め息を吐き出して気持ちを落ち着けると、気が緩んだせいか思わず口からそんな
言葉がこぼれ出た。
でも私のこの呟きはマイクにも入っていないし、ファンの人やメンバー達にも聞こえて
いない。



はずだった、なのに「戻ることはできるで」とどこかで聞いたことがあるようなおじさんの
声が返ってきた。
近くにいるファンの人の誰かが叫んだにしてはすぐ耳元で聞こえてきて、私は驚きながらも
不自然じゃない程度に辺りを見回す。



「ここや、ここ!ちゃんと目ん玉2つあるんやから使わなあかんで、ねぇちゃん」
再び声がして私は顔を正面に戻すと、身長が大体15cmくらいの黒いタキシードを着た
人間が目の前にいた。
背中にはトンボみたいな透明な羽が生えていて、顔はなぜか村上ショージさんそっくり
だった。


4 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:21
「えっ?・・・・・・」
なんでここにショージさんがおると?っていうかめっちゃ小っこいし!という言葉を
全部飲み込んで、私は呆然と目の前にいる小さなおじさんを見つめるしかなかった。



「どうも、こんばんにゃ。JK、JCとかが大好きな可愛い妖精さんやで。あっ、
喋らんでもええで。心の中で喋ってくれれば聞こえるちゅう便利な力を持っとるんでな」
とてもじゃないけど妖精に見えないおじさんは勝手に1人でペラペラ喋りだす。
とりあえず可愛くはないなと思っていると、「心の中の声は聞こえるって言うたやろ、
可愛くないとか言うなや」と怒られた。



「おっちゃんはなぁ、ずっとねぇちゃんのこと見てたんやで・・・・・・ん?ストーカやて?
違うわ!アホ!まぁええ、とにかくねぇちゃんがあんまりにも可哀想な子やから、本当は
あかんのやけどな、今回特別に願いを叶えてやろ思おうて出てきたわけよ」
小さいおじさんはちょっと偉そうに胸を張って言い切った。
おじさんの登場で既に十分すぎるほど驚いているのに、突然願いを叶えるなんて言われても
全然頭が回らなかった。



「願い事なんてもう決まっとるやろ?さっき言ってたやん、あの頃に戻りたいって。過去に
戻って亀ちゃんと重ちゃんの2人と仲良くなりたいんやろ?なら、そうすればええやん。
ちょっと大変やけどおじさん頑張るよ!」
おじさんは私が何も答えてないのに勝手に話を進めていく、そして肩を回したり軽く
ストレッチを始める。
確かにさっきあの頃に戻りたいとは言った、でもいきなりあの頃に戻れますよと言われて、
そうですかなんて納得はできない。


5 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:22
「そんなごちゃごちゃ考えんでもええやん。過去に戻ってやり直す、単純明快やろ?
それじゃちょっと目が回るかもしれんけど、いくでー」
おじさんは私がまだ納得してないのに、鼻を軽く掴むと何やら怪しげな呪文を唱え始める。



「パラリル パラリル ドリリンパ ティアラン ティアナン マリリンパ あの子を過去に
飛ばしておくれ!」
呪文はとても可愛いのにおじさんが残念だなぁと思っていると、おじさんの顔つきが急に
真剣なものになる。


「ドゥーーーーーン!!」
とおじさんは鼻を掴んでいた手を言葉と同時に前に突き出す。
その瞬間私は立ち眩みがしたように足元が少しふらつき、それから段々と意識が遠く
なっていく。
最後に聞いたのは、「ほな、頑張ってなー」というおじさんの無責任な声だった。





6 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:22
目を覚ますとまだ頭が少しぼんやりしていて、まるで乗り物酔いでもしたかのような
感じだった。
そんなとき誰かがこっちの方に走って近寄ってくる音がして、軽く頭を振って目を擦ると
目の前に心配そうな顔つきのさゆがいた。



「ん?さゆ?・・・・・・」
「れいな、大丈夫?ちょっと顔色悪いよ?」
「・・・・・・さゆ?若っ!っうかマジ子どもやん!」
「ふえっ?れいな?本当にどうしちゃったの?」
「えっ?あー、いや、れなのことは気にせんでええよ。今ちょっと頭変やったやろ?」
「うん。おかしくなったと思った」
「あぁ、そう」


さゆの毒舌は昔から普通にあったことを思い出して苦笑した、でもとりあえずはそれ以上
追及されなくて良かった。
私の目の前にいるさゆはかなり若い、と言うと今のさゆに怒られそうだけどそれでも10代
なのは間違いない。
多分衣装から見て乙女の2ndシングルの頃だから、ちょうど6年前の2004年の3月頃
だと思う。
この頃は娘に入ってから一年経ったくらいで、まだ普通にさゆやえりとも仲が良かった。



7 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:23
それにしても本当に過去へ戻ってきたんなぁと今更ながら思う。
改めて辺りを見回してみると、飯田さんも石川さんも藤本さんもまこっちゃんも
のんちゃんも普通にいる。
この頃は目が回るほど忙しかったけど、でも毎日がとても充実していてすごく楽しかった。
そして中でもおとめ組は居心地が良くて本当に大好きだった。
その楽屋に今自分はもう一度いるんだと思うと、ふと胸に熱いものが込み上げてきて自然と
涙が頬を伝って流れていく。



「あぁぁぁぁ!重さんが田中ちゃんを泣かしてる!」
「泣かした、泣かした、重さんが泣かした」
「えっ?何?何があったの?」
「れいな、どうしたの?なんでいきなり泣いてるの?」
「どうせカツアゲとかしたんじゃないの?重さんもなかなかやるねぇ」
「そんなことしてません!」


さゆ以外のおとめ組のメンバーも私の周りに集って色々心配してくれる。
まぁ半分は完全に面白がってるだけだったけど、それも含めておとめ組らしくて私は
泣きながら笑った。
それから私は少し落ち着きたいからと言って、とりあえず楽屋を抜け出して1人になれる
所を探した。
でも別に場所なんてどこでも良くて、たまたま近くにトイレがあったので入ることにした。


8 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:24
化粧台のところへ行くと鏡に写る自分の顔は当然ながら幼い。
髪もまだ真っ黒で化粧もファンデーションに軽く口紅を塗った程度。
これがあの頃の自分で、でも今の自分の姿でもあって、やっぱりまだ見慣れないせいか
変な感じだった。
私は何気なく鏡の自分に向かって手を伸ばしてそっと触れる、鏡越しの私は馬鹿みたいに
不安そうな顔をしていた。




「・・・・・・れいな?」
突然名前を呼ばれたので一瞬驚いたけど、その聞き慣れた声に私はゆっくりと振り向くと
トイレの入り口にさゆが立っていた。



「さゆ、どうしたと?」
「えっ?トイレだよ」
「あぁ、それもそやね。変なこと聞いてごめん」
「それは別にいいんだけどさ、れいなこそどうしたの?」
「えっ?いや、まぁ、れなもトイレ」
「あっ、そうだよね」


私とさゆは顔を見合わせると軽く笑った。
それから少しだけ喋ったけどやっぱりさゆは幼くて、私はちょっとお姉ちゃんになった
ような気分で接した。
でも途中「何かいつもと感じが違うね」とさゆに言われて少し動揺してしまったけど、
あの頃の話し方なんて今更できるはずもない。
まぁその辺は適当に誤魔化しながら話をするしかなかった。


9 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:26
そんなとき突然携帯の着メロが鳴り響く。
私は持ってきていないから当然さゆのもので、さゆは少し慌ててズボンや上着のポケットを
叩いて探しだす。
そしてようやく見つけ出すとさゆは急いで電話に出る。
着メロは今のやつに比べたらまるで単音みたいな感じで、そういえば前はこんな感じ
だったんだなぁと懐かしく思った。
さゆの電話の相手は誰か分からないけれど、どうやら年上か偉い人なのかずっと慣れない
敬語で頑張って話している。




電話が終わると「飯田さんからだった」と私に教えてくれた。
どうやら全然私が楽屋に戻ってこないから、さゆなら何か知ってるかもしれないと電話を
かけてきたらしい。
確かにさゆとちょっと話し込んでしまったので、楽屋を出てからもう20分くらい
経っているのかもしれない。
さっき泣いていた私がなかなか戻って来ないとなれば心配にするよなぁ、と他人事の
ように思いながらとりあえず楽屋に戻ることにした。




「さゆ、楽屋行こうか?」
「うん。でもその前にトイレ行ってもいい?ちょっと漏れそう・・・・・・」
「そんなん先に言わんと!漏らしそうになるまで我慢せんで早よう行っとき」
「ふふっ、やっとれいならしくなったね」
「へっ?」
「分かんないけど、今のすごくれいならしかった」


さゆは歯を見せて笑うとそのままトイレの方へ行ってしまう。
れいならしいということはあの頃と同じという事で、つまりは言い方が幼いってことで、
素直に喜べないことなのに何だかちょっと嬉しかった。
それからさゆがトイレを済ますのを待っていたら、手を洗っている途中でいきなり水を
掬って飲もうとしていたから慌てて止めた。
「あっ、間違えた」なんて普通に言っていたけど、そういえばこの頃のさゆはかなりの
天然だったのを思い出して先行きが不安になった。



10 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:28
それから3日後、娘全員が揃って収録する番組があってようやく絵里と会うことができた。
その日は集合時間よりちょっと早く楽屋に行って待っていると、ただ絵里に会うだけなのに
妙に緊張してきてそんな自分に苦笑した。
でも楽屋のドアが開くたびに期待すると違う人で、やぐっちゃんとかぽんちゃんとかあいぼん
とか懐かしい顔ぶれが次々と登場する
それはそれで懐かしくて嬉しかったけど私が今一番会いたい人じゃない。



そしていい加減期待するにも飽きた頃にようやく絵里が現れた。
さゆと同じで若いっていうかその顔はまだあどけなく、髪は今より少し短くて肩につく
くらいの長さで、黒髪をそのまま普通に下ろしている。
私が馬鹿みたいに絵里を見つめていると、視線に気づいたのかこちらに顔を向けてふにゃっと
目を細めて笑う。


その笑顔は今の絵里と何一つ変わっていない。
でもここにいるのは6年前の絵里で、自分が卒業することなんて遠い先の話だと思っている
頃の絵里で、そう思うと突然胸がきつく締め付けられる。
それから目頭が急に熱くなったかと思うと堪えきれず涙が頬を伝っていく。


11 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:30
私がいきなり泣き出したので、この間のさゆのように絵里は少し慌てた様子でこっちに
近づいてくる。
「れいな、どうしたの?」と心配そうな顔つきで覗き込まれた瞬間、卒業式のときの
絵里と重なって見えてますます私の涙は止まらなくなる。
私は絵里に抱きつくとしがみつくように服を掴んで、子どものように泣きじゃくった。



絵里はちょっと戸惑った顔をしていたけど、私が泣き止むまでずっと頭を撫でてくれた。
さゆもいつの間にかすぐ隣にいて色々と言葉を掛けてくれる。
そのときふと絵里の卒業式に泣いたらこんな風になるのかなぁと思った。
でも答えは簡単で今の私のままだったらきっとならない、私達は3人ではなくいつからか
2人と1人になってしまったから。



そんなことを考えていると少し感情の波が収まってきて、それなのに締め付けられる
胸の痛みは治まらない。
最近は慣れてきてそれほどでもないけど、さゆと絵里が2人きりでの思い出話を話すたび
いつだって私の胸には小さい痛みが走る。
でも私がこの過去の世界で2人と仲良くなれば、未来の私が胸の痛みを抱えることが
なくなる。
まだ関係が確定しないこの時代で頑張ろう、そう改めて心に誓うと私は軽く深呼吸を
してから涙を拭った。



心配してくれる絵里とさゆ、それと他のメンバーにホームシックになったと言ってちょっと
強引だけどどうにか誤魔化した。
どこまでそれを信じてくれるかは怪しいけれど、精神的なことだと思ってくれたのか特に
異論を唱える人はいなかった。



12 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:31
その後のテレビの収録は何事もなく無事に終わった。
そして楽屋で帰り支度をしているとさゆとえりが私のところにやってくる。
さっきのことをまだ心配しているのかなと思っていると、さゆに肩を叩かれた絵里が
頬を掻きながら口を開いた。



「れいなさぁ、この後ちょっと時間ある?」
「うん。別に何もなかよ」
「だったらさ、その遊びに行くっていうか、3人でパーっと騒いじゃわない?」
「えっ?・・・・・・うん、全然よかよ。遊びに行こう!」
「それじゃ決まりだね。場所はどうする?渋谷とか?」
「うん、それでいいんじゃない。れいなはどこか行きたいところとかある?」
「れいなはどこでもええよ、さゆと絵里が行きたいところで」



その後さゆと絵里はちょっと話して、結局遊ぶ場所は渋谷ということになった。
私は適当にメイク道具をバッグに詰め込むと、急いで身支度を終わらせて2人と一緒に
楽屋を出た。
3人で遊んだことは何回かあるけど、大体が成り行きみたいな形でこうやってちゃんと
誘われたことは殆どない。
だからただ単純に嬉しくて、本当に場所なんてどこだって良かった。



それから3人で普通に電車に乗って、渋谷に着くまでの間たわいない話で盛り上がっていた。
入って一年くらいの私達はそれほど有名でもないだろうし、きっと傍から見たらその辺の
女子高校生と変わらないと思う。
今現在だったらこの頃に比べたら少しは有名になったし、それに何より3人で電車に
乗って出掛けるなんてDVDの撮影でもない限りありえなかった。


13 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:31
今思えばもっと人に弱さを見せれば良かったんだと思う。
この頃の私は弱いところを人に見せるのは格好悪いことだと思っていて、どんなに辛くても
人前では絶対泣かないと決めていた。
だからいつも家に着くまで我慢して、母親の顔を見た瞬間に抱きついて泣くということが
何度かあった。


ましてやまだ入って一年くらいだからかなり気を張っていた時期で、同期であるさゆや
絵里にも完全に心を開いていなかった。
人に弱さを見せないから勝手に強い人だと思われて、そのイメージを壊さないために
余計に無理して、さらに強くてクールだって思われるという悪循環だった。
れいなは強い子だから大丈夫だと、きっとさゆや絵里だけでなく他のメンバーにも
そう思われていたはずだ。



でも本当は結構限界のところで戦っていた。
辞めたいと思ったことは何度もあるし、死にたいと思ったことすらある。
そんなとき誰が心許せる人がいれば良かったけど、それも母親くらいしかいなくて、
私はいつも能天気に笑っているさゆと絵里が羨ましかった。
でも過去に戻ってきたのなら全て変えられる、新しい自分になってちゃんと心を開けば
きっと2人と仲良くなれると思った。


14 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:32
「あ、あの・・・・・・いきなり泣いたりして、れいな格好悪かったやろ?」
「ふぇっ?全然そんなことないよ!まぁ最初はちょっと驚いたけどね。絵里、なんかした
かなぁとか考えちゃったもん」
「確かに!絵里がれいなを泣かせたのかと思った」
「逆はあっても、それはありません」
「ちょ!それ言い過ぎやろ。れいなはそこまで極悪人やなかよ」
「へへっ、ごめんごめん。でも正直言うと嬉しかった。れいなもちゃんと泣けるんだなぁ
っていうか・・・・・・うん、まぁ、そういう感じ」
「絵里、それ全然話まとまってないよ。つまりれいなの弱い部分が見れて良かった、
みたいなこと?」
「あっ、それそれ!それが言いたかったの」



私は弱いところを見せたらがっかりされると思っていた。
でもちょっとだけ勇気を出して聞いたら2人は普通に笑っていて、その様子に嬉しさと
同時に安心してまた泣きそうになる。
でも今泣いたら今度こそ本気で心配されそうだから、私はさり気なく目元を拭うと2人に
混ざって一緒になって笑った。




それから3人で話をしているとすぐに渋谷に着いてしまった。
私達は駅から出るとまずはプリクラでも撮ろうかということになって、この辺から近い
ゲーセンを探すことにした。
でもこの頃の私は全然だろうけど、今の私は渋谷には行き慣れているので普通に2人を
ゲーセンに案内するとかなり驚かれた。


まぁその辺は「テレビで見た」とか上手く言って、いざプリクラを撮ろうと機械のところへ
行ったら機種があまりに古くて笑ってしまった。
そういえば6年前なんて写真も全然綺麗じゃないし、照明とか殆どないやつばかりだった
気がする。
でも1人で笑っている私をさゆと絵里が不思議そうに見てくるので、「今めっちゃブサイクな
プリクラがあったとよ」とか言って適当に誤魔化した。


15 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:33
それからとりあえずこの時代の最新だという機種で撮った。
出来上がりはやっぱりいまいちだったけど、3人で騒ぎながらプリクラを撮れたのが
楽しくて、出来上がりなんてどうでもよかった。
プリクラを上手く3等分すると2人はすぐにプリ帳に張っていたけど、私は何だか
貼り付けるのが勿体なくてお財布の中にしまった。



その後はカラオケ行ってご飯という流れに何となく決まったんだけど、道を歩いていると
不意に絵里が「可愛い!」と叫んでどこかに走っていく。
さゆと私はその後を追うと、ショーウィンドーにへばりつくようにして絵里が店の中を
見つめていた。



どうやらアクセサリーや雑貨を置いてあるお店らしくて、絵里の横から覗いて見ると
私の趣味ではないけど確かに可愛らしかった。
好みの系統が近いさゆは絵里と一緒になって中を覗いている。
ガキだなぁと思っていると絵里が勢いよくこちらを振り向くので、一瞬心を読まれた
のかと思ってちょっと動揺してしまった。



すると絵里は少し言い難そうな様子で口を開けたり閉じたりしだす。
その様子で私は何を言いたいか悟って、「ちょっとだけなら入ってもよかよ?」と言うと
絵里は嬉しそうに笑って中に入っていく。
続いてさゆも入ろうとしたけど、突然立ち止まって私の方に振り向くと「今日のれいな、
なんだかお姉さんみたいだね」と平然とした顔つきで言った。



16 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:34
ただの天然に見せかけて、さゆはこの頃から意外と冷静に人を観察しているところがある。
見た目が当時のままだからまさか6年後の田中れいなだと気づいてないとは思うけど、
その変な勘の鋭さには驚かされる。



でもここは変に誤魔化すよりは自分から言った方が怪しまれないだろうと思って、
「あ、当たり前やろ!れいな大人やもん」
「ふーん、そうだね」
せっかく人が色々考えて答えたのに、さゆは大して興味のない様子で普通に店の中に
入って行く。
その行為に苛ついて少し乱暴に店のドアを開けると私も後に続いた。



「はぁ?!もうちょいリアクションしてよ!」
「はいはい、騒がないの。お店の人に迷惑がかかるでしょ?」
「くっ・・・・・・このクソガキが」
「うん?何か言った?」
「いいえ、何も言ってませーん」


どうやら私は完全にさゆにからわれているらしい。
さゆは面白いおもちゃでも見つけた子どものように笑っていて、私は深いため息を
吐き出すと少しだけ項垂れる。
でも15歳といえば今のハローだとスマイレージ辺りで、そう考えるとこの悪ガキ具合も
納得できなくもなかった。


17 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:35
「ねぇ2人ともちょっと来て!すっごい可愛いんだけど!」
興奮気味の絵里の声に私とさゆは思わず顔を見合わせると、少しだけ苦笑してから絵里の
ところに向かう。


「見てよ、これ!すっごい可愛くない?」
「あっ、確かに可愛いかも」
「絶対いいよねぇ。でもちょっと高くてさ」
「あー、結構良い値段してるね」
「もうちょっと安かったら買っちゃうんだけどなぁ」


絵里とさゆはアクセサリー売り場のところで何やら悩んでいる様子だった。
売り場には宝石をあしらった色とりどりのピアスやネックレスなどが飾られている。
私は軽く値札を見てみると大体どれも5千円前後で、この年の子なら確かに買うには
ちょっと考えてしまう値段だった。



「もしよければ少しおまけしましょうか?」
その声に私達は一斉に顔を向けると、お店のお姉さんが人懐っこい笑顔を浮かべて
立っていた。




18 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:35
お姉さんが言うには、3人が1つずつ買ってくれたら物にもよるけど2千円にまけて
くれるとのことだった。
そこまで言われたらもう買うしかないって感じで、私達は真剣にアクセサリーを選び
始めた。



こういうとき意外とさゆは選ぶのが早くて、一番先にピンク色の宝石が散りばめられた
可愛らしいブレスレットに決めた。
私は趣味が違うお店なのでちょっと迷ったけど、格好良い感じの青い宝石がついた指輪が
あったのでそれにした。
そして絵里は本当に優柔不断でずっと悩み続けている。



もうキリがなさそうだったので、私は「これでええやん」と近くにあったオレンジ色の宝石が
ついているピアスを絵里に押し付けるように渡した。
なぜオレンジかと言うと、ピンクと青ときたらオレンジかなと思っただけで深い意味は
特にない。
でも適当に手に取った割には、少し大人ぽっいデザインのピアスは絵里に似合っている
と思う。



私は「それ絵里に絶対似合うとよ」と勧めると、さゆは内心飽きていたのかは分からないけど
同意してくれて一緒になって勧めてくれた。
すると押しに負けたのか洗脳されたのかは分からないけれど、絵里はこのオレンジ色の
ピアスに決めた。


19 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:36
「なんか良い買い物したって感じだね」
「でもこれからどうすると?れいな、殆どお財布にお金残ってないんやけど」
「私も今のでお金なくなっちゃった。帰りの電車賃あるかなぁ」
「ちょ!それくらい持ってないとダメやろうが!」
「ふふっ、冗談だよ。さすがに電車賃くらいは残してあるって」
「はぁ・・・・・・今日はさゆにからかわれてばっかやん」
「ごめんね、れいな。でもれいなからかうの楽しいんだもん」
「もうっ、人で遊ばんといて。本当さゆは性格悪かね」
「えー、そんなにはさゆみ性格悪くないよ?」
「そんなことよりさ、これからどうするの?お金ないならマックとか入る?」


まだ話し足りない気はしているけど、私は携帯をポケットから出して時間を見るともう
7時になろうとしていた。
どうやらかなりの時間をあの店で過ごしてしまったらしい。
これからマックとかに入って話していたら、きっと家に着く頃には12時ぐらいになってしまう。



「今日はもう帰らんと?もう結構良い時間やけん、これからまた話し込んだら家に帰るの
遅くなるやろ?」
本当は私だって2人と話したかったけど、まだ未成年の私達が遅くまで街をうろうろする
のは色々まずいと思ったのでそう提案した。


20 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:38
するとさゆと絵里は声を揃えて「そんなこと言うなんて意外」と言葉を返してきた。
この中だと一番不良そうだからオールナイトとか言うかと思った、なんて普通の顔して
言ってくる絵里の頭を軽く叩いて今回は帰ることにした。



さゆと絵里は途中まで同じ路線なので一緒に帰ることになり、私は2人と別れて1人で
電車に乗った。
こんなときいつもの私なら寂しい気持ちになりそうだけど、今日はいっぱい遊んだからか
不思議と心が満たされていた。
不意にさっきまでのことを思い出すと口元が自然とにやけてきて、でもそんな顔を人に
見られるのは恥ずかしいから口元を手で隠した。


それから私はお財布を取り出すとさっき撮ったプリクラをもう一度眺める。
アイドルらしい可愛いポーズもあれば、馬鹿みたいなポーズで撮ってみたり、変顔して
撮ってみたりした。
こんなプリクラを未来の私は持っていない、でも今の私は実際にプリクラを撮って
ちゃんと持っている。


この世界の私は独りじゃない、もっと仲良くなればいつもみたいに少し遠くからさゆと
絵里を眺めているだけじゃなくなる。
これからはいつだって3人一緒に話して、一緒に笑って、一緒に遊んで、普通に友達らしく
いられるようになる。
そうすれば胸が痛むことなんてなくなって、寂しさだって感じることもなくなる。
そのときの私はそう信じて疑わなかった。


21 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:40
それから私は積極的にさゆや絵里と絡むようにした。
最初は遊びに誘うのもちょっと勇気がいったけど、何度か誘ううちに慣れてきて今は普通に
遊びに行くようになった。
でも予定が合わなくてさゆと2人だけのときもあれば、絵里と2人だけのときもあって、3人で遊ぶことより2人きりのほうが多かった。



でも2人との友情が深まるなら方法なんてどうでもよかった。
私はたださゆとえりと仲良くなれればそれでいい、1人でなければもう何でもよかった。
一匹狼だとかたまに評されるけど、1人でいてもただ虚しいだけで良いことなんて
何もない。
だからこの世界の生活は心が充たされていてすごく楽しかった。



今の私はそんなにしないけど、メールも2人と頻繁にするようになったし楽屋でも
3人で話すことが多くなった。
それに話しかけられなくても自分の方から2人に話しかけられるようになった。
いつも話しかけられるのを待っていた私からすれば大きな進歩で、なんで最初から
こうしなかったんだろうと思った。


この過去の世界に来てからほぼ2ヶ月が経つと、私はさゆと絵里と普通に話してメールの
やり取りもして、遊びにも行くようになっていた。
3人は完全に友達になったと思っていたのに、私達の友情はあっけないほど簡単に
崩れ去った。


22 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:41
今日は2人と遊ぶ約束をしていないので、1人身支度を済まして楽屋を出ると少し
遠くにさゆと絵里の姿が見えた。
私は小走りで近寄って声を掛けようとしたとき、「今日はどこ行く?」という絵里の声が
聞こえて、私は思わずその場で立ち止まった。



その一言はとても衝撃的で私の頭を一瞬で真っ白にさせた。
絵里の言葉から2人はこれから遊びに行こうとしていて、でも私は何も言われていない。
私はもう訳が分からなかった。
普通に話もしてメールもして遊びにも行く、私達3人は友達だったはずなのに私を抜きに
して遊びにいこうとしている。



舞い上がっていたのは自分だけで、やっぱり友達じゃなくて、結局2人とは距離が遠い
ままで、ただ見ているだけしかできないのかな。
色んな考えが一気に頭に浮かんで絡み合ってぐちゃぐちゃになる。
本当は今にも叫びたかったけど声が出なくて、ただ感情が溢れ出して止まらなくなり
涙が頬を伝ってこぼれていく。



「えっ?れいな!?」
ふと後ろに振り返ったさゆが驚きの声を上げると絵里も一緒に振り返る。
ぼやけてその様子は殆ど見えなかったけど、雰囲気的に何だか戸惑っているようだった。


23 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:42
それから2人は走って近づいてきてくれた、そして慰めるように私の頭を撫でようと
したけどその手を乱暴に振り払う。
同情なんかで気安く触れてほしくなかった、でも心のどこかでは触れてほしいと少し
だけ思った。
私はもう頭が完全に混乱していてその場にしゃがみ込むと、手で顔を覆うと声を殺して
泣いた。




さゆと絵里は何やら話していたけど私には聞き取れなくて、少ししてから引っ張られる
ように強引に立たせられた。
それから気がつくと狭めの楽屋に移動していて私は椅子に座っていた。
目元を拭うと心配そうな顔つきで私を見つめる絵里とさゆがいた、2人の方を見ると
さゆがおもむろに手を伸ばして私に触れようとする。


すると考える前に体が反射的に手を避けていて、避けられたさゆは悲しそうな顔をしてから
静かに顔を俯ける。
その後しばらく気まずい沈黙が続いて、このままずっと続くのかと思っていると絵里が
軽く膝を曲げて私と目線を合わせると静かに口を開いた。


24 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:44
「れいな、落ち着いた?」
「えっ?あっ、うん」
「そっか。なら良かった。れいなが急に泣き出すから驚いちゃったよ」
「うん」
「えっと、その・・・・・・何かあった?それとも私達が何かした?」



絵里の言葉はとても優しげで、まるで小さい子に話しかけるように微笑みながら穏やかな
口調だった。
さゆは少しだけ顔を上げると何とも言えない表情で私のことを見つめてくる。
心は落ち着きを取り戻したけど、本当のことを聞くのが怖くて私は絵里の質問に
何も返せなかった。



「言えないなら無理しなくていいよ?誰だって言えないことくらいあるだろうしさ」
「うん」
「でももし悩んでるんだったらいつでも相談して?私達友達でしょ?」
「・・・・・・とも、だち。絵里達は、本当にれいなの友達なん?」
「えっ?友達に決まってるじゃん。今更どうしたの?」
「そんなお世辞みたいな嘘言わんでええよ。心の底では思っとらんクセに」
「ちょ、ちょっとどうしたの、れいな」
「れいな達は友達なんかじゃなか!さゆと絵里だけっちゃろ、友達なんは!」



突然立ち上がって声を荒げたせいか2人は驚いた顔をして私の方を見る。
すると何だか急に気持ちが冷めて虚しくなった、私は軽く溜め息を吐き出すと1人で
騒いでいる自分が阿呆らしく思えて椅子に座り直す。
その後誰も喋りだす事はなくて、かなり長い時間部屋は重苦しい雰囲気に包まれていた。



25 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:45
私が2人とどんなに仲良くしたって無駄なことだった。
さゆと絵里の間に入る事なんて初めから無理なことで、なのに勝手に盛り上がって頑張って
話しかけたり遊んだりしていた。
そしてそれで友達になれたと思っていた。
でも2人が私に付き合ってくれたのはきっと社交辞令みたいなもので、それなのに
喜んでいた私は本気で馬鹿みたいだった。



「れいなとは単に仕事上の付き合いなんやろ?もう嘘つかんといて、虚しいだけやし」
「ちょっとれいな!・・・・・・」
「それ本気で言っちょるの?」


絵里が何か反論しようとしたけど、途中でさゆが言葉をかぶせてきたので最後まで
聞くことはできなかった。
さゆは珍しく山口弁で話すと真顔で私のことを見つめてくる。
その顔は少し怒っているようにも見えて、そんなさゆの顔を見るのは初めてだった。



「はぁ?そんなん本気に決まっとろうが!」
「なんでそう思うん?」
「さゆもえりも2人だけで一緒におりたいんやろ?やかられいなは邪魔者っちゃん」
「れいなはぶちアホや。そんなん自分も絵里も思うとらんね!」
「そげん口ではどうとでも言えると」
「そやったらどう言えばええの?本当に思うとらんのやけぇ、そう言うしかないじゃろ」


山口弁と福岡弁は少し似ているから違う方言で話しても何となく意味が分かる。
さゆは意外に頑固らしくて全く引かず、自分も負けん気が強い人なので一歩も引かなかった。
私とさゆの言い合いは止まらなくて、勢いで手が出そうになったところで絵里が私達の
間に強引に割り込んできた。



26 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:46
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!いや本当に待って!2人とも方言丸出しで、何言っている
のか亀井さん全く分かりません」
と絵里もさゆと同様に真顔だったけれど、言っている事はくだらないことだった。


でも絵里が間に入ったことによってちょっと冷静になれた。
つい頭に血が上って思うままに言ってしまったことを反省する、そして横目でさゆの方を
盗み見ると気まずそうな顔をしていた。
それから私達はちゃんと目を合わせると、特に言葉交わさなかったけれど軽く苦笑する。
すると絵里が突然手を叩いて、「とりあえず座って話そうよ」と言って部屋から椅子を
かき集める。



「さてと、とりあえずれいなの気持ちをちゃんと教えて?何に怒ってるのか、何を考えて
いるのか私には全然分からないからさ」
「・・・・・・やから、絵里とさゆが2人だけで出かけるって知って、やっぱ3人じゃ
一緒にいれんのかなぁとか、今までもれいなに隠れて2人で遊んどったのかなとか思って。
そう思ったらなんか急に、絵里とさゆのことが信じられんくなって、友達なんて言うとる
けど、そんなんはただ口先だけで、本当はれいなと遊びたくないんかなぁとか思ったと」


私が思い切って自分の気持ちを告白すると、絵里とさゆは一瞬顔を見合わせてから
突然笑い出した。
ちゃんと気持ちを教えて言うから言ったのに何だよ、と内心不貞腐れていると2人は
声を揃えて「れいな可愛いー!!」と言ってきた。


27 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:48
「それってさゆと絵里が2人だけで遊ぶって聞いて、ヤキモチ妬いちゃったってことでしょ?」
「もうっ!れいなめっちゃくちゃ可愛いんだけど!」
「いや、そげんことやなくて・・・・・・」
「れいなって寂しがり屋さんなんだ。でも何か意外だね、れいなって1人でも全然平気な
タイプかと思ってた」
「あぁ、私もそうだと思ってた。でもそのギャップがいいよね。萌え萌え」
「絵里はただ萌えって言いたいだけでしょ?」
「うん、そうだよ」


さゆと絵里は完全に勘違いして楽しげに会話している。
全然気持ちを分かってもらってなくて、それなのに楽しそうな2人に少し苛々して
私は立ち上がると椅子を突き飛ばすように倒す。
するとその大きな音に絵里とさゆは勢い良く私の方を振り返って見る。



「違うって言うとるやん!こうやって今は3人やけど、でもいつの間にか絵里とさゆは
れいなから離れてって、1人ぼっちになって、2人でいるのが当たり前になって、どんなに
寂しくても遠くから見てることしかできなくて、でも寂しいなんて言えんかった!3人で
いたいって思ってももういれなくて、一緒にいたいって言えなくて、近づきたいのに傍に
行くことができなくて・・・・・・いつかそうなるんやろ?」


気持ちと一緒に言葉が溢れて止まらなくなる。
でも一気に喋ったからか少し息が上がって荒い息を吐き出していると、絵里が静かに
立ち上がりさゆの手を取って入り口近くまで行く。
さゆは絵里のその行為の意味が分からないらしく、ちょっと戸惑った様子で手を引かれる
ままに後についていく。


28 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:51
手を繋いだ2人と、1人でその場に立ちつくす私という形になる。
これは2010年現在の私達の関係性を表す形で、結局何をやってもこの形は変えられない
のかなと思った。
絵里は私の方に振り向くとあの人懐っこいふにゃとした笑みを浮かべる。



「これでも私達は友達でしょ!」
と少し距離があるので絵里は口元に手を当てると少し叫ぶようにそう言った。


突然のことに訳が分からなくて顔を顰めると、絵里はさゆから離れて私の隣までやってきて
さゆの方を見ながら「こうなっても私は友達」と言った。
それから今度は絵里が楽屋の奥の方に行くと、3人の形は少しいびつだけど三角になる。
私は絵里が何を言いたいのか全く分からない。
でもふとさゆの方を見ると、口元を手で押さえて何やら考え込んでいるようだった。



「この形でも私達は友達なんだよ、れいな。仮にここから離れて別の楽屋に行っても友達
だし、テレビ局を出ても友達ってことなんだけど・・・・・・意味分かるかな?」
「いや全然」
「あー、やっぱり?説明下手でごめんね」
「つまり、絵里は友達は距離じゃないってことが言いたいの?」
「そう!それが言いたかったの!さすがさゆ、もう絶対天才の生まれ変わりだよ!」
「はぁ?何それ」
「いや、あの、こっちはまだ全然意味が分からんちゃけど?」



2人だけで勝手に納得されても私は未だに何も分からないままだった。
するとさゆは手で絵里に言うように促したけど、絵里は手を左右に振って拒否、
さゆは小さな溜め息を吐き出してからゆっくり口を開いた。


29 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:54
「つまり絵里はね、友達っていつも傍にいるものじゃないってことが言いたかったんだよ」
「へっ?」
「ずっと一緒にくっ付いてるだけのも友達の一つの形かもしれないけど、離れていても
気持ちがちゃんと繋がっていれば十分友達でしょ?」
「そういうこと。れいな、私もさゆもれいなことはすごい大事に思ってるよ。もちろん
友達だし同期だし、本当にかけがえのない人だと思ってる」



私はさゆと絵里を交互に見ると、2人ともとても優しい顔をしてこちらを見つめている。
そのとき私の方が間違っていたのかもしれないと思った。
私が必死で手を伸ばしても2人はこっちを見てくれないとずっと思っていたけど、本当は
逆で2人は優しい眼差しでこっちを見ていたのに自ら目を逸らしていた。
ちゃんと2人の顔を見てなかったのは私の方だった。


それに絵里やさゆの言う通り、私は友達という意味を2人との距離でしか考えていなかった。
2人と離れるのが怖くて一緒に居ればそれでいいと思っていた、だから本当に大切な
心の絆を忘れていた。
どんな3人が離れていても、例え2人と1人に見えても心の絆は変わらない。
こんな簡単なことが私は分かっていなくて、しかもそれを6つも年下の子に教えられる
なんて本当に馬鹿だなぁと思った。


30 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:55
そうと分かったら私がここにいる必要はもうない。
私はさゆと絵里に「少しだけ1人にさせてもらってもええかな?」と言うと、2人は
ちょっと心配そうだったけど最後は頷いてくれた。
それでも部屋を出て行く直前にどこか不安げな顔つきで私の方を見てくる、その様子が
年相応に幼く思えて密かに笑った。




それから出て行こうと背中を向ける2人に向かって私は大きな声で叫んだ。
「絵里とさゆが同期で良かった!本当にありがとう!」
叫び終わるとすごく恥ずかしくなったけど、2人が嬉しそうに笑っていたから言って
良かったと思った。





絵里とさゆが出て行って私1人になるとまずは大きく深呼吸する。
それから心の中で変な妖精のおじさん出てきてくださいと祈るように呟く。
すぐには何の変化もなかったけど、私は何度も何度も諦めずに繰り返し呟いていると、
「しつこいなぁ、ねぇちゃんは!」という声が聞こえてきた。



するといつの間にか目の前にあのタキシードを着た妖精のショージさんがいる。
すぐに「村上ショージちゃうわ」と言われたけれど、そんなことは置いておいて私は
妖精のおじさんにあるお願いした。
最初のうちには1人1回っていう規則だからと渋っていたけど、可愛くおねだりしたら
特別に最後に1回願いを叶えてくれることになった。



31 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:56
「・・・いな・・・・れいな!」
突然名前を呼ばれて私は我に返ると声のするほうを見る。
するといつの間にかすぐ隣にさゆがいて、私の手を握りながら何度も名前を呼んでいた。



どうやら無事に現在の2010年に戻ってきたらしい。
軽く辺りを見回すとたくさんのお客さんに囲まれていて、色とりどりのペンライトが
星のように輝いて少し眩しかった。
私の周りには愛ちゃんもガキさんも愛佳も、そしてさゆもいる。
反対側を見ると卒業用の綺麗なドレスに身を包んだジュンジュンとリンリンと、2人より
一歩だけ前に出て絵里が立っている。



さゆはウサギのように赤い目をして心配そうに私のことを見つめていて、こんなときに
不謹慎だけどちょっと可愛いと思った。
たださすがに可愛いなんてこの場で言うほど空気を読めない人ではないから、軽く笑い
ながらさゆの頭を撫でて「もう大丈夫やから」と言った。


それからしっかりと前を向くと、絵里も心配そうな顔つきで私のことを見ている。
同期揃ってそんな顔しなくていいのにと思ったけど、同期だからこそするのかもしれない
と思った。
でも不意に私はあることに気づいて、思わず声を出しそうになり慌てて口元を押さえた。


32 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:58
絵里は耳にピアスをしていた。
それはどこかで見覚えのある、少し大人ぽっいオレンジ色の宝石をあしらったピアスだった。
さゆの方を見るとピンクを基調としたの可愛らしいブレスレットをしていて、私の右手の
人差し指にも青い宝石がシックで格好良い指輪をしている。



そういえば意識を失う直前におじさんが「大したもんやないけ、おっちゃんからの餞や。
受け取っとき」と言っていたことを思い出す。
憎いことしてくれるなぁと思って、軽く深呼吸してから唇を噛み締めて泣きそうになる
のを何とか堪える。
それから私は指輪をした右手を強く握ると一歩ずつ前に出て、ゆっくりと絵里のところまで
歩いていく。



目の前まで来ると絵里は優しい瞳で私のことを見ていた。
軽く振り返ってさゆの方を見ると、同じように優しい目をしてこちらを見つめている。
ふと胸に熱く込み上げてくるものがあったけど、私はいっぱい泣いてきたからこれ以上
泣く必要はないと自分に言い聞かせる。



そして少し手が震えるから両手でマイクをしっかり持つと軽く息を吐き出してから、
「絵里、卒業おめでとう!」
と私は歯を見せて笑いながら、誰の耳にも聞こえるようにはっきりと言った。




33 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:58

34 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:58

35 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:59

36 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 12:59


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