11 yenom si emit
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:09
- 11 yenom si emit
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:10
-
「えーそうなんですか?キャハハハハ」
「何でですかー」
今日もありきたりなリアクションを連発し、仕事を終える。
働けども働けども豊かにならず、か。ちくしょう。
少しだけしわの増えた顔を歪ませ、空に向かって悪態をつく。だか
らと言って空から札束が降ってくるわけもなく。
この決してもう若くはない小さなアラサー、かつては国民的アイド
ルの一員だった。
ところが自らの招いた男癖の悪さでグループを脱退、彼女のヲタた
ちはあらかた離れてしまい、比例するようにグッズの収入は減って
いった。テレビにコンスタントに出ているとは言え、それで得る金
など熱心なヲタが注ぎ込む10分の1にも満たない。
「くそ、おいらもあのまま娘。に残ってれば……高橋や新垣が9年
いるんだから、最後のオリメンだったおいらも残れたかもしれないのに」
いくら誇大な妄想を描いても、終わってしまったことを嘆くのは無
意味だ。
わかっているけれど、矢口は嘆くのをやめられなかった。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:11
- とぼとぼと小さな背中を丸めて歩く矢口の目に、あるものが飛び込む。
雑居ビルの2階にあるぎらぎらしい桃色のネオン看板が、目をひい
たのだ。看板には、「無担保無利息 ピーチッチローン」とくねく
ねした文字で書かれていた。
「無担保無利息だぁ? はっ、アホくさ」
吐き捨てるように言ってから、矢口は足を止めた。
無担保無利息。このご時勢にそんなおいしい話があるわけない。法
律も厳しくなったと聞く。
どうせ闇金か何かが、おいしいことを言って無知な若者たちを地獄
に引きずり落とすやり方に違いない。それでも矢口はそのまま歩き
出すことが出来なかった。財布の中には、福沢諭吉が2人しかいな
い。かつての栄光のせいですっかり浪費癖のついた矢口にとって、
これはあまりにも心細い金額だった。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:12
- 「話のネタ、話のネタだから」
そう自分に言い訳をしながら、矢口はビルの玄関をくぐる。何の話
のネタにするつもりか、自分で言っててよくわからなかった。事務
所を飛び出す際の暴露本のネタなのかもしれない。とにかく、細長
い急勾配の階段を上った先に、それはあった。
「お金にお困りの方、お気軽にどうぞ(はぁと 」
ドアにはそんな文言が書かれていた。なぜだろう、文字を見るだけ
で背筋が寒い。矢口はここの店主が何となくメンバー全員あての差
し入れを無断で持ち帰るような意地汚い人間だと想像した。
からんからん。
ドアを開けると、上部に取り付けられた鈴が鳴いた。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:13
- 「いらっしゃいませぇ。ウフフフフ」
矢口の想像は当たっていた。と言うより、矢口の良く知る人物に、
受付嬢はそっくりだった。
「ちょっと、桃子ちゃん!?」
「違いますよぉー。ももの名前は、桃川桃子ですよ? ウフフ」
確かに制服の胸の部分に取り付けられている名札には、桃川と書か
れている。
よくよく考えれば、事務所の人間が未成年をこんな場所で働かせる
わけがない。
「えーと、おいら看板を見て来たんですけど」
テーブルの前に座った矢口が、早速切り出す。
そう、目的は別にお金を借りることじゃない。このインチキ商売の
からくりを暴いてやるのだ。この店の存在をマスコミにリークすれ
ば、一転して矢口は正義の人として大きく取り上げられるかもしれ
ない。そこから社会派キャスター→選挙に出馬→なんたら大臣、と
国政に打って出るのも夢ではない。我が闘争とまではいかなくとも、
レンホーレベルまではいけるかもしれない。矢口は抜け目のない、
嫌な女だった。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:14
- 「そうですねえ。お仕事もぱっとしないし、だいぶお困りのようで
すねえ」
しわしわの笑顔を作りながら、桃川が答える。
矢口の決して寛容とは言えない狭い心が、大きく跳ねた。
だめだだめだ、ここで怒りに任せてブチ切れたら、ここに来た意味
がない。
「で、おいら借りられるんですか?」
「先の未来もそう明るくないっぽいことですし、いいでしょう」
いちいち癇に障る女だ。
頭の先から出てるような声も相まって、矢口の苛立ちは早くもピー
クに達しようとしていた。
「ただですね。無担保無利息とは言いましたが、その代わりいただ
くものがあるんですよ?」
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:14
- そら来た。矢口は内心ほくそ笑んだ。
きっと世間様には言えない後ろめたいことをしているに違いない。
スクープだ、スキャンダルだ。かつてスキャンダルによって酷い目
に遭った矢口は世界中の不正と言う不正を憎んでいた。もちろん、
このまま吹けば飛ぶようなひな壇タレントで終わるつもりは毛頭ない。
のし上がってやる。
しかし矢口の思惑は見事に外れてしまう。
「時は金なり、という言葉を知ってますか?」
「は?」
「神奈川随一の進学校出身の矢口さんなら知ってますよね?」
藪から棒に何を、と訝った矢口だが、このまま答えずにいれば『さ
すが四国には六つの県があると答えた人ですね、ププゥ〜』みたい
な反応をされるのは明らかだった。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:15
- 「あれだ、時間は貴重だから大事にしろってことじゃないですか」
「ブッブー、はずれですぅ。時間はお金に換算できる、そういう意
味です。つまり、頭の悪い高卒の矢口さんにわかりやすく話すと、
当店では矢口さんの時間をお金に換えることができるんですね」
思惑が外れたどころかアレだ。ただの頭のおかしい女だ。
矢口は目の前ののっぺりとした顔の女を心から軽蔑した。時間がお
金になるって何?意味わかんねーよ、だったらおいらがモー娘。で
大人気だった頃の時間は数億円か?はっ、バカらしい。矢口はその
腐った根性宜しく、ありとあらゆる言葉で桃川を心の中で罵倒した。
「アイドルの地位よりも男とのアヘアヘを選んだ矢口さんにもっと
わかりやすく言うと、今から矢口さんを3年老けさせる代わりに、
3年分の時間を換算したお金をお貸し出しいたします」
「キャハハハハハ、バーカ!! やれるもんならやってみろよ!!!」
ったく何の冗談だよ、腹が立つのを通り越して笑えてくるっての!!
決めた、これは人志松本のすべらない話のネタにしよう。それとも
ヘキサゴンで紳助に貴理子ばりのいじりをしてもらうか。んな店あ
るわけないやろー、また作り話か。みたいな。抜け目のない矢口は
この状況をとことん利用してやろうと考えていた。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:16
- ところが桃川桃子は話の続きをするわけでもなく、突然席を立ち、
奥の部屋へと消えていった。次に桃川が姿を現したのは重そうなジ
ュラルミンケースとともにだった。
わけもわからずその様子を見ていた矢口だったが、ケースが開けら
れるや否や思わず息を呑んだ。
ケースの中は、一万円の束によってギチギチに埋められていた。
矢口は2、3回瞬きをし、それから束の一つをつかみ出して一枚一
枚めくり始めた。
「……全部本物だ」
「矢口さんの3年間、占めて3億円になりますぅ」
マジかよ…まだ狐につままれているような心持だった矢口だが、あ
る重要なことに気がつく。
目の前の女はおいらの3年を交換した。つまりそれって、おいらが
3年おばさんになってるってことか。な、なんてこった!鏡、鏡は!!
突然慌てふためき、バッグの中をごそごそ探る。取り出した鏡を覗
き見ると何てことはない、いつもの小さなビッチがそこにはいた。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:17
- 「よかった……変わってない」
「そりゃそうですよ、3年間なんてその程度ですから。ももが3年
経ってもかわいいのと一緒ですよ」
矢口は桃川のたわ言を無視し、鏡を見て、それからケースの中の札
束を見た。
夢じゃない。これはおいらの3年間、おいらの金だ。好きなだけ使
っていいんだ。
「イヤッホーイ!!!」
「よかったですね。一応、契約書だけは書いてくださいね」
矢口は喜びのあまり、内容も見ずにサインだけ書き、ほくほく顔で
店を飛び出していった。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:18
-
★
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:18
-
1ヶ月後。
矢口は自らの身に降りかかった事実を認められずにいた。
矢口は3億円で、あらゆる限りの贅沢をした。叙々苑、叙々苑、ホ
スト、叙々苑。気前よくホストに札束を投げて寄越したこともあっ
たし、六本木のとあるビルを一晩貸しきって「おいらはオリメンだ
ぞ」「おいらは60までUFAから2億もらえるんだ」などという
海老蔵ごっこもやってみた。当然のことながら、あっという間に手
持ちの金はなくなっていった。
「裕ちゃんだってあんなに若いんだ。おいらだってあと3歳くらい
……」
年齢に換算すれば33歳。何の問題もない。矢口は迷わずピーッチ
チローンに駆け込んだ。
結果、1ヶ月後には矢口は57歳になっていた。
肌の張りは失われ、顔のあちこちにしみが出来ていた。髪は半分白
髪になっていた。日ごろの不摂生が祟り体は醜く太り、歯などは3
、4本を残してすべて抜け落ちてしまっていた。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:19
- どうしてこんなことに……
確かに3年は人を老化させるには短い時間なのかもしれない。しか
しこれが6年、9年と経つとどうだろうか。さらに、3年前の自分
を基準とするものだから、まだ大丈夫、まだ大丈夫と言っているう
ちにあっという間に老婆になってしまったのだ。裕ちゃんよりは大
丈夫、相田翔子さんよりは大丈夫と言っているうちに最終的に兵藤
ゆきさんよりは大丈夫となってしまったのが敗因かもしれない。
すぐさま矢口はピーチッチローンに殴り込む。
街行く人はあの砒素カレーおばさんが脱獄したのかと騒然となった
が、桃川は最初にあった時のようにニコニコしながら受付に座っていた。
「おいお前、おいらの時間を返せ!!!!」
「そんなこと言われても困りますよぉ、ウフフフ」
薄々はわかっていたが、予測していたかのようなやりとり。
矢口の目の前が暗くなる、サントワマミー。こうして金欲に取り付
かれた哀れな女は、人生はもう終わっている状態に陥った。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:20
-
お
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:20
-
わ
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:20
-
らず
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:21
-
「時間、返してあげましょうか?」
「へ?」
「だから、時間を返してあげましょうかって言ってるんですよぉ」
てっきり世にも奇妙なせえるすまんな話になるかと思っていた。し
かし、小説よりも現実は世知辛くないようだった。
「ただし、借りたお金は返してもらいますよ?」
「返す、返すから! 返したらおいらに時間を返してくれよお!!」
失った30年を代償にして得た90億円はとっくに使い果たしてい
た。しかし、金さえ払えば若さを、失った時間を取り戻せるのだ。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:22
- それから矢口は馬車馬のように働いた。
やぐちまりこという名前で熟女AVにも出た。二代目ガキ使のおば
ちゃんとしてバラエティで荒稼ぎした。さらにチビフケール症候群
という病名をでっちあげて24時間テレビで多額の募金をアレした。
こうして矢口は何とか、浪費した90億円を稼いだのだった。
肉体の酷使によって、矢口の体はぼろぼろだった。最初の日は楽に
登っていたピーチッチローンの階段も、息を切らせながらではない
と登れなくなっていた。しかし、そんな日々も、今日で終わる。
「おいこら、90億もって来たぞおるぁ!!!」
「まいどありー」
いつものうそ臭いスマイルで桃川が全額を受け取る。奥の部屋でな
にやらごそごそやった後、手ぶらで受付に戻ってきた。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:23
- 「はい、これで矢口さんの失われた30年は戻ってきました。徐々
に若返るはずですよ?」
「マジで? やったぁ!!」
黒ひげ人形のように椅子から飛び上がると、矢口は老いた体とはと
ても思えないような足取りで店を後にした。
「またのご利用、お待ちしておりますぅ」
「二度と来るか、ばーか!!」
悪態をつきドアを乱暴に閉めた矢口を見送りながら、桃川が付け加
える。
「もう一度来店できたら、の話ですけど」
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:24
-
借金を返した矢口の足取りは軽い。
心なしか足取りも軽くなってきたような気がする。
腰痛や通風、リウマチもなんのその。
矢口は自分の体に若さが、時間が戻って来ているのを実感していた。
しかし案外簡単に解決したな。あの短足の世話になるのは癪だが、
少額なら問題あるまい。これからもちょくちょく利用してやろうか。
矢口はまったく懲りていなかった。
矢口の足は繁華街へ。その頃にはすっかり矢口は元の若さを取り戻
していた。
ババアになってからゲテモノしか食ってなかったからなあ。今日は
生きのいいイケメンでも捕まえるか。頭の中は、あんなことやこん
なことでいっぱいだった。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:24
- はて。いつまで経っても繁華街の中心にたどり着かない。
目の前には自分より背の高い連中が、悠々と歩いている。
くそっ、でくの坊がのんびり歩いてんじゃねえよ。
しかし矢口の苛立ちとは裏腹に人ごみとの距離は遠のくばかり。
あれ。おいら、なんだか……
周りの人々の背はどんどん高くなり、矢口はへたり込むようにして
崩れ落ちた。
たてない。なんで。ままぁ。あばばば。
服はだぼだぼなのを通り越して矢口の体を覆い隠すほどになってい
た。そして、矢口の意識は、途絶えた。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:25
-
一方、こちらはピーチッチローン。
矢口がろくに見もせずにサインした契約書を見て桃川が呟く。
「説明書きをよく読んでれば、こんなことにはならなかったのにね
え。ウフフ」
桃川が無造作に丸めて捨てた契約書の約款には、こう書いてあった。
当ローンにて扱う時間と金額のレートは変動することがございます
ので、借り入れ・返済の際には充分ご注意ください。
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:25
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- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:25
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- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:26
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- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:26
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- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:26
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- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/13(月) 16:27
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