08  2010年問題

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/12(日) 00:00
08  2010年問題
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/12(日) 00:01

その日はレッスンで遅くなった。
ドアを開けたらあたしがいた。

「どうもこんばんは、ムラタメグミです。はじめまして」
「…こんばんは、村田めぐみです。はじめまして」
自分と同じ顔をもつ人とあいさつを交わすことになろうとは。
あと1年で21世紀を迎えようという世紀末感あふれるこの年にふさわしいかもしれないと思ったけど、考えてみるとそうでもなかった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/12(日) 00:01
「ええと、とりあえずお座りになられますか、お茶でも入れますので」
「あらありがとう、おかまいなく」
アップフロントの寮がそんなにセキュリティ悪いとは思わないのだけれど、この人はどこから入ったんだろう。とりあえず危ない人には見えない…たぶん。そんなことを考えながらやかんを火にかける。
「自分だからね」
え?とふりむくと、見覚えのある鍵をぶらぶらさせてる自分と同じ顔の人。
私の鍵は…ポケットに入れたままなのを確認する。
「ほんとは寮から出るときに返さなけりゃいけないんだけど、忘れてたのが役に立ったってわけ。安心したまえ村田めぐみ君、君は将来、ここより少しきれいなマンションに住むことが出来る。」
「はいぃ?」
「何を隠そう、私は、10年後の未来から来ました。」
えっへん。そんな表情で、鍵をどっかの御老公の印籠のように出して立つ、もう一人の私。
ぴー。
やかんが鳴った。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/12(日) 00:02
「で、どういうご用件でしょう。」
お茶をおいしそうにすする未来の自分と称する人に向かって、なんとも当たり前の質問をしてみる。
「あれ?もうちょっと疑ってみようよ!ほんとに未来から来たんですかとか、未来はどうなってますかとかさあ!」
なんだか理不尽な怒り方をされた気がする。
「あー…そう突然いわれても…」
突然の来訪者のリクエストにこたえようと思ったが、咄嗟にそういう受け答えが出来そうにはない。
…しかたなく手元にあったリモコンでぴ、とテレビをつける。
『…森総理の内閣支持率はついに…』
「あ、政治はどうなってます。」
「選挙で自民党が負けて民主党になったよ」
「ああー、そうなりそうですね、この分だと。」
「まあ、誤解があるようだけど、うん、まあ、そんな感じ」
「相変わらず不景気ですか?」
「まあだいたい」
「モーニング娘。さんは?」
「メンバーが入れ替わったけどまだやってるよ。」
「そんなに世の中変わりませんねえ。」
「そうでもないけど、…そうかな。あ、平家さんは引退したよ」
「あー、本人には言わないほうがいいですね…。なんか、こうしておいたらいいことってあります?」
「そうねえ、でもこうなったからこうなったってこと、ないよ、そんなに。あ、安倍さんにはノートに人の詩を写すくせはやめたほうがいいって言っておいたほうがいいかな」
「はあ?」
「やっぱりいいや、忘れて」
5 名前:sage 投稿日:2010/12/12(日) 00:04
ん、と無言で差し出された湯呑みにお代わりをいれるべく、私はたちあがった。
なんかだんだん外が明るくなってきている気がする。まだ夜のはずなんだけど。
「これも未来人のしわざなのかの?」
もちろん冗談だ。
それにしてもなんか自分に対しての敬語が使いにくくて年寄りみたいになってしまう。
「ん?」
振り向いた未来の私は、窓の外を見上げて、あちゃーと声をあげた。
「どうしました?」
「いや、私が来た理由とお伝えする用件なんだけれども。」
「はあ」
「2010年の大晦日に、なんか未来人が攻めてくるんだよね」
「ほほう」
「あんまり驚かないね」
「あなたも未来から来たようですので?」
「まあそうだわな」
「それから?」
「どうもその人たちは自分たちの住む世界をよくするために過去の地球を変える必要があって、そのための支配を行うとか言ってるわけだ」
「困ったもんですね」

そう言ってる間にも窓の外、空の光は大きくなる。なんか変な音もしてきた。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/12(日) 00:06
「自分たちの時代を良くしろってのよねえ、でもさ、向こうのほうが技術が上だから勝てないわけ。で、現代人―2010年のね、現代人が、未来人の中の良識派に働きかけて、更に過去の地球に人を送り込んで、2010年の侵略に備えるように警告させるっていうまわりくどいことを考えたわけ」
「めんどくさいですが、わからないでもないです。で、なんであなた―私?が選ばれたんですかね」
「時間がないのでWikipediaに名前がある生きてる人がそれなりに社会的影響力のある人ってので選ばれて、Twitterの文章とかから、それほど野心がなくて、自分の過去を変えたりしそうにない人ってので選ばれた」
「なんですか、そのうぃきとかついったあというのは」
「そうか…まだないのか。この部屋、パソコンないもんね」

まあでもそういうの教えてる暇もないか、とムラタさんは窓の外の光をまた見上げた。
「あれたぶん未来人の強硬派だから、問答無用で私を狙ってくると思う。あんたが間違えられるといけないから私はそろそろ行くよ。なんとか逃げてみる」
「でも…」
「年上の判断に従いなさいな。」

ベランダの反対側の玄関に向かって歩き出した未来の私は、振り返るとにやりと笑った。自分では気づきにくいが、私は笑うと少しえくぼができる。
年上の彼女の落ち着いた表情をそれが少し幼く見せて、とても魅力的だった。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/12(日) 00:07
「言い忘れてたけどね。メロン記念日は、あと10年、メンバーが仲良いことが評判のグループとして、そこそこ売れて、CDもそれなりに出して、ファンに愛されて、解散する。だから頑張りなよ」
ますます大きくなる音と光。
じゃあね、と外に出て行った彼女の足音が遠くなると共に、光と音も移動していき、やがて消えた。
彼女が捕まったのか、何かの理由で相手側が捜索を打ち切ったのか、それは私には分からなかった。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/12(日) 00:08
今、思い出してこれを書いているのだけれど、あれは何だったのか今でもわからない。
メンバーに話しても夢でも見たのかといわれるのがオチだと思って黙ってたけれども、結局彼女の言っていたことは2010年になってみると、おおよそあたっている。

だから大晦日にはやっぱり未来人が攻めてくるのかなあと思うんだけど…まあそのときはそのときだ。
まあ、そんな感じで。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/12(日) 00:10
    おしまい。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/12(日) 00:10
窓の
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/12(日) 00:10
外に
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/12(日) 00:10
光が

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