08 おきざりはぁと

1 名前:08 おきざりはぁと 投稿日:2010/08/22(日) 03:22
08 おきざりはぁと
2 名前:08 おきざりはぁと 投稿日:2010/08/22(日) 03:35
「おはよう、市井ちゃん」
「またこの夢か」市井ちゃんは頭をかきむしる。ぼりぼりとわざとらしい音がする。「もうセラピーとか行ったほうがいいのかな。一ヶ月ぶっ続けで同じ夢はさすがに異常」
「市井ちゃんの深層心理があたしを求めてるんだよ」
「うるせえな」
私から顔を背けて市井ちゃんは立ち上がる。歩き出すその背中を追いかけながら細長い廊下を歩く。わざとらしい足音がコツンコツン。二人だけの足音をうっとりと聞く私。とつぜん市井ちゃんが首だけ振り返って言う。
「そもそも誰なんだよお前」
3 名前:08 おきざりはぁと 投稿日:2010/08/22(日) 03:41
「あたしは」少し驚きながら私は名前を口にする。まさか私を忘れてるとは。昔は毎日だって。
「は?」
市井ちゃんはいぶかしげな顔をする。とぼけてるようにも見えない。「いやお前、え?お前ってそんな感じだったっけ」
失礼な話だ。私の本質は何一つ変わっちゃいないのだ。夢の中にいたって。現実だって。
「よく覚えてないや。まあ、夢の中だからな」
市井ちゃんはそう言うと強引に納得した。いつものように。
4 名前:08 おきざりはぁと 投稿日:2010/08/22(日) 03:46
「で、この後どうなんだっけ」
夏の終わりのような顔をして市井ちゃんは呟く。
「どうもなんないよ。二人でダラダラして終わり。この夢は」
私は燃え尽きた花火のような返事をする。
「そんなのが夢なのか」
「そんなのが夢なんだよ」
5 名前:08 おきざりはぁと 投稿日:2010/08/22(日) 03:52
「くそ」
そうはき捨てる市井ちゃんの手元には燭台がある。蝋燭の光が大して暗くもない廊下を照らしている。頭にはケープのようなものがかかっていて非常にまずい兆候だ。
「市井ちゃん目ぇ覚まそうとしてない?」
「いや別に」
私は焦る。目を覚ましたらそこで終わるからだ。何がってそれは。
「とりあえずコレ持ってて」
「懐中電灯なんか何に」
「いいから」
私は強引に市井ちゃんの腕をつかみ燭台を取り上げる。
6 名前:08 おきざりはぁと 投稿日:2010/08/22(日) 03:58
仕方なく手にした懐中電灯を振り回しながら市井ちゃんはぼやく。
「大体せっかくの夢なのにダラダラしたまま終われるかよ」
これ以上つまんなかったら目、覚ますから。そんな感じの末っ子のような顔になる。
「こう言うのはどうかな」私はありがちな爆弾を取り出した。「青か赤どっちか。間違った方切ったら超爆発」
「やるやる。そういうの超得意だよ。つーか所詮夢だし死なないだろ」
「死ぬよ」
「うそ」
市井ちゃんはがくぜんとする。漫画のように目つきがブッ飛ぶ。私は笑いをこらえる。
7 名前:08 おきざりはぁと 投稿日:2010/08/22(日) 04:02
「マジレスするともう23人殺してる。市井ちゃんが最後の一人」
「なんだよそれ、先言えよ」
どんどん調子に乗っていく私。さすがの市井ちゃんも頭を抱える。「せめて正解切ったらプレゼントとかさ」
「もうやるって言ったからアウト」
「そんなあ」
赤のコードと青のコード。ニッパー片手に市井ちゃんは震える。
「黄色のコードはダミーだから」
可哀想なのでちょっとしたヒントを出してあげる。
「そんなコードねえぞどこにも」
けれど誰もそれに気づかない。私はがっかりする。爆発してしまえとさえ思う。
8 名前:08 おきざりはぁと 投稿日:2010/08/22(日) 04:18
もちろん爆発などするはずはない。プチンと言う音がして爆弾はゆっくりと消えていく。
「あーすっげードキドキした」市井ちゃんは胸に手を押さえて楽しそうだ。しかしすぐに妙な顔つきになる。「でも、なんであたし目覚まさないんだろ。こんなに興奮してんのに」
再びまずい傾向だ。私は少し考える。
「実は市井ちゃんはもう死んでいてここは天国」
「ウソつけよ。あれ?ていうか今あたしってどんなだっけ?」
そんなこと言えるわけがない。そもそも良く知らないなんてことも含めて、言えるわけが。
「なんかトリマーになりたい!とか言ってた気がする。あとシンガーソング…なんだっけ?あれからどうなった?」
9 名前:08 おきざりはぁと 投稿日:2010/08/22(日) 04:23
どうしてこうなった?
「うーん、ちょっと目覚ましてみるわ。軽く殴ってくんない?ココんとこ」
なんだか苛立ちをさそう目つきで市井ちゃんは自分の可愛いほっぺたを指差す。私はそれを無視して警告のように指を立てる。
「もしこれが市井ちゃんの夢なら目、覚ませばハッピーエンドだけど、もしこれがあたしの夢なら、さめたら市井ちゃん消えちゃうんだよ、永久に」
「いいから早く」
大事なことを言ったのに市井ちゃんは聞いていない。いつもそうだ。この人は。でも私とこの人に「いつも」なんてあったっけ?
「軽くていいぞ」
10 名前:08 おきざりはぁと 投稿日:2010/08/22(日) 04:31
これ以上1秒も引き伸ばせないみたい。そんな風な温度がある。仕方ないので私は10トンと書かれたハンマーを夢ならではの強力で持ち上げる。
「お前それは」
「さよなら」
次の瞬間響き渡る音と同時にすでに誰もどこにもいない。永久みたいに思えた時間は実際のところ思ったほど経っていないようだ。ほんのわずか揺れている空気の中蝋燭の光すらない暗闇で分厚い本を枕がわりにするひとりの女が眠りから覚めた。アなんだ?
11 名前:08 おきざりはぁと 投稿日:2010/08/22(日) 04:31
 
12 名前:08 おきざりはぁと 投稿日:2010/08/22(日) 04:31
 
13 名前:08 おきざりはぁと 投稿日:2010/08/22(日) 04:31
 

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