06 青を抜けて

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/21(土) 18:22
06 青を抜けて
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/21(土) 18:27
屋上から見上げる空は夕暮れのオレンジに侵食されつつもなお青く。
時折頬をなでる風は気持ちがよかった。

「絵里、準備はいい?」
「うん。さゆは?」
「ちょっと緊張してるかも」

背中越しから聞こえる声は、いつもの声。
でも、お互いの体を通してるからその分温もりがあった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/21(土) 18:30
亀井絵里が両手を広げる。
裏側に立つ道重さゆみの両手も、自然に広がる。

お互いの手を、紐で括り付けていた。
けれどどちらかが腕を上げたのではなく、きっと一緒に上げたのだろう。
二人は文字通り、表裏一体になっていた。

両手を広げたことで、より頭上の大空が近く感じられた。
透き通るような青が、目に染みる。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/21(土) 18:34
背中側の道重が、ふと地面を見る。
自分の足元からまっすぐに伸びる影は、十字架の形に似ていた。

「絵里、十字架」
「なにそれ」
「影の形。かわいいの」
「絵里からは見えないよ」

絵里は口ではそう言ったけれど、脳裏にはすでに斜めに延びた影
がイメージされていた。

絵里の目は、さゆみの目。
さゆみの耳は、絵里の耳。

二人は永遠に、互いを共有する。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/21(土) 18:36
「じゃあそろそろ」
「うん」

お互いの心臓の鼓動が、加速する。
坂道を転がるように、それはもう止まらなかった。
背中越しに波打つ鼓動を感じ取りながら二人は。

大空へと身を投げ出した。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/21(土) 18:36

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