1 依離吏夢
- 1 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2010/08/21(土) 00:10
- 1 依離吏夢
- 2 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2010/08/21(土) 00:10
- 親友の亀井の病状が悪化したのは暑い夏のある日のこと。
全身の皮膚が爛れとてもではないが正視できない状態だった。
それでも亀井は気丈に振る舞い道重は普段と同じように接した。
道重が入院した亀井を見舞いに病院に通う日々が続く。
「絵里、調子はどうなの?」
「うんまあ。でもぼちぼち良くなりそう」
「ほんとに?」
「だからあんま心配しないで」
でも実際は亀井の病気はそう簡単に直るものではないことを道重は知っていた。
亀井が逆に自分のことを気遣っていることに気づき道重は涙した。
なんでこんなにいい子がこんな目に。
そう思ったが過去は変えられないし未来は過去が抉り出して作った溝を滔々と
流れるだけであった。
- 3 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2010/08/21(土) 00:10
- 道重には、もう一人友達がいた。
田中れいなという名前の少女は友達ではあったけれど、亀井と比べられるような
存在ではなかった。田中が石川になろうが飯田になろうが、どうでもいい存在。
けれども、田中はそうは思っていないようだった。
「絵里、今とげんしとう?」
「本人は大丈夫って言ってたけど」
「そげんこつなか。あの病気はもう治らん。かわいそうっちゃけど」
「……」
田中の言葉にはいつも慈悲がなく、それが道重を酷く苛立たせた。
許されるなら田中の口に煮え滾る銑鉄を注ぎ込み黙らせたかった。
田中はそんな道重の悪意にはまるで気がついていないようだった。
それがさらに心の闇を増幅させることになる。
- 4 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2010/08/21(土) 00:11
- 季節は秋になり、そして冬になった。
亀井は日に日に衰えていった。最早空元気を出す余裕もなかった。
道重はそんな亀井の心が折れないよう、さまざまな言葉をかけた。
けれどもそんなものは池に投げ込む小石のようだった。
そんなある日のこと。
「ねえさゆ」
「絵里、なに?」
「れいなって、肌、綺麗だよね」
「そうだね……」
「絵里も、れいなみたいな肌だったらよかったのに」
そう言っている絵里の表情は、恍惚としていた。
彼女は本気でれいなの肌になりたがっている。
道重は激しい直感でそう感じていた。
と、同時に彼女の願いを何とかして叶えたいとも考えた。
心は、ひとつだった。
- 5 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2010/08/21(土) 00:11
- 言葉巧みに田中を人気のない路地裏に誘い出す。
そして、音も立てずに田中の柔らかな首に麻紐を巻きつけた。
両手に力を込め、指が千切れるくらいに引張った。
背中で空気の流れる音が聞こえる。生臭い。不快だった。
その音を止めたくて、一心不乱に腕の力を引き絞る。
獣の鼓動は一瞬激しくなり、そして永遠に動かなくなった。
ただの肉の塊となったれいなを引きずり歩きながら、道重はこれ
からのことを考えた。
これを下処理して綺麗な皮にするには手間がかかる。作業するため
の場所も必要だ。でも、良い成果を得るための手間なら、いくら費
しても構わない。
道重を照らす月は赤く怪しく瞬いていた。
- 6 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2010/08/21(土) 00:12
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- 7 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2010/08/21(土) 00:12
- 嫌な夢だった。
でも今は現実。自分の身を覆う感覚でそれが理解できる。
いつものように皮膚から痛みとも痒みともつかない嫌な感覚が溢れてくる。
何とか薬で抑えて見た目だけは綺麗にしているが、それもいつまでもつか。
病室の友人は同じ病気で苦しんでいる。
一方で自分はまだぎりぎり普通の暮らしができる。
二人を分かつ溝は深かったけれど、それでも彼女には彼女の気持ちを理解
することができた。
枕元の携帯をみる。
もう一人の友人からのメールが届いていた。すぐに来て欲しい。一体何が
あったのかはわからないけれど、行かなければならないと思った。
今の彼女を支えられるのは自分しかいない。そのうち自分も同じような身体
になるかもしれないけれど、せめて自由に動けるうちは。
- 8 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2010/08/21(土) 00:12
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- 9 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2010/08/21(土) 00:12
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- 10 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2010/08/21(土) 00:12
- 終
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