06 なちゅ姫の物語
- 1 名前:06 なちゅ姫の物語 投稿日:2008/10/17(金) 01:43
- 06 なちゅ姫の物語
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:43
- 夜の駅。すっかり暗い中、急いで家へ戻ろうとする途中の
少女が足を止めた。
コンコースに立つふたりのストリートミュージシャン。
メロディに乗せて歌ってるその姿を見て、少女は
動けなくなった。
格好、良かった。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:44
- バレー部のキャプテン・清水佐紀は目を丸くする。
それから2回ほどぱちぱちと瞬きして。
「えっ?」
「バレー部辞めようと思うんだ」
「いや聞こえなかったわけじゃないけど。えっ?」
そうそう。インターハイ予選へ向けて、来週から
朝練開始だから。一緒のお昼ご飯中にそう切り出したら
寝耳に水。チームのエース・夏焼雅はさらりと
「みやバレー部辞めようと思うんだよね」と答えた。
「みや何で?転校じゃないよね?ガリ勉になるの?」
雅はたははと笑う。窓から射す陽の光が、もともと色の
薄い雅の髪を一層茶色く見せていた。
そんな髪をかきあげる仕種を見て佐紀は改めて思う。
みやは美人だなぁ。
「バンドをやろうと思うんだよね」
「えっ?」
「いやだからバンドを」
「いや聞こえなかったわけじゃなくて。えっ?」
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:45
- 『ガールズバンドを組もう!素人大歓迎。
ゼロから一緒に始めましょう。
当方Vo.希望。その他全パート募集中』
大きくカラフルに目を引く文字、手書きのイラスト、
切り取りできる連絡先。
手作りのメンバー募集のポスターを見て雅は
なかなか良いじゃん、とにっこりする。
出来立てのそれをくるくるっと丸めて雅は出かける
準備をする。お気に入りの帽子にお気に入りのブーツ、
アクセサリーをいっぱいつけた格好に着替えると
勢い良く、外への扉を開いた。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:45
- 翌日。清水佐紀はまた目を丸くする。
「えっ?」
「いやだから公民館に」
「いや聞こえなかったわけじゃなくて。えっ?」
その後のロック活動を聞きながら、一緒にお昼を
食べていた雅と佐紀。佐紀は途中何度もサンドイッチを
口に運ぶ手を止めていた。破天荒すぎる。
「普通楽器屋さんとかライブハウスに貼るんじゃないの?」
「それですごい上手な人とか来ちゃったら困るじゃん」
「困るんだ」
「公民館だったらそんな上手じゃない人が来てくれそうじゃん?
土日に趣味でエレクトーン弾いてるおばさんとか」
「おばさんとか来ちゃうのはいいんだ」
ちょっと照れたように笑う雅を見ながら佐紀は
改めて思う。みやってこんな派手な外見なのに
中身は本当に地味だよなぁ。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:46
- またいつものように佐紀と雅は一緒にお昼を食べている。
「みや、連絡あった?」
「ない」
「貼って3日だっけ?やっぱり公民館がまずかったのかもね」
雅は箸を咥えたまま「ん〜」と首をひねった。
放課後、部活へと向かう佐紀を見送った雅はなんとはなしに
公民館へ向かってみる。
連絡先のひとつくらい散切ってもってかれたりしてるのかな?
あっ。
公民館の入り口で雅は足を止める。あのポスターをひとりの
女性が見つめているのが目に入った。
ぱっと見て40歳くらいだろうか。背中までの髪、上品そうな
ブラウンのカーディガンにロングのベージュのスカート。
黒のバッグを肩からかけている。
あの人はどんな楽器をするんだろう?ピアノかな?
声、かけたほうが良いかな?
柱の影に移動して覗き見していた雅が動きだそうか迷って
いると、その女性が連絡先をひとつ、びりっと散切り取った。
雅は、これは待っていれば携帯に連絡が入るってこと
だよね、と動きを止めた。
こんなことを企てておきながら雅は割と人見知りするほうだった。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:46
- 雅の連絡先を手にした女性が家に帰る。真っ暗な家の中から
静かに響くメロディ。誰か居ると思えない暗さなのに誰か居る。
女性はそれを気にする様子もなく明かりをつけて言う。
「ただいま」
返事は無く、メロディは続いてる。女性は言葉を続ける。
「お母さん公民館寄ってきたの。そこでゼロからバンドを
始めようってチラシがあったから連絡先持って来ちゃった。
愛理にどうかな?って思って」
そこでやっとメロディが、コルネットの音色が止まる。
愛理と呼ばれた少女は唇から楽器を離すと、母親の置いた
小さな紙をじいっと見つめていた。
雅という古風な名前と、携帯の番号と、黒猫の絵の描かれた紙を。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:46
- 鈴木愛理は音楽が好きだった。才能も持っていた。
そして誰にも負けない優しさ、思いやりの心を持っていた。
音楽を愛し才能を見せた愛理に対して、両親は音楽学校への
進学を勧める。小学校から通うことが当たり前のそこへ
トップクラスの成績で編入してきた愛理に向けられたのは
親愛ではなく、嫉妬だった。
みんなと仲良くオーケストラを、ひとつの曲を完成させたい。
そう思う愛理の気持ちはことごとく裏切られる。
鉛筆が折られ、楽譜が切り裂かれ、上履きにゴミが入れられる。
失くしたコルネットがぐにゃりと曲げられて姿で発見された
翌日から、愛理は学校に行くのをやめた。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:46
- お母さんが音楽学校に行くことを勧めた自分を責めている
ことは、愛理にも伝わってくる。だからこそ、家でひとり
楽器を吹いている愛理のために、こうやってまた音楽との
出会いのきっかけを持ってくるのを邪険にできない。
でも、と愛理は悲しそうに眉根を寄せる。わたしまだ
誰かと一緒に音楽をする勇気が出ないよ。
愛理は紙から目をそらす。
コルネットを口にあてがうと、静かにゆっくりと演奏を
再開した。
お母さん、弱虫な娘でごめんなさい。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:47
- 翌日。また席をくっつけて佐紀と雅がお昼を食べている。
「みや、連絡あった」
「ない」
でもね、と雅は昨日見た光景を話し出す。40歳くらいという
雅の言葉に佐紀は眉をひそめた。
「なんかバンド組んでもすぐ音楽性の不一致で別れそう」
「失礼な」と雅はぷくっと頬を膨らます。
「伝説の『おけいさんと何とか』みたいに大活躍だもん」
「1曲しか出してないし。
って言うか伝説なら名前全部覚えてなよ」
さてその日の夕方。バレー部が終わっての帰り道、佐紀は
公民館に寄ることにした。雅にバレー部に戻ってきて
欲しい気持ちは当然あるけれど、せっかく頑張ろうとして
いるんだから成功して欲しい。
とりあえずメンバーが集まらなくちゃ始まらない。
佐紀はこっそりポスターをコピーして、楽器店にでも
貼ってみようと思っていた。
「あれ?」
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:47
- ひとりの少女がポスターを見上げていた。
佐紀と変わらない背丈の後姿に、佐紀は小学生かな?と思った。
自分を棚に上げて。
ピンクのシャツにピンクのスカートというでたらめな格好で、
よく見ると握ったこぶしの小指だけが立っている!
その子はじっとその用紙を見つめていたかと思うと
連絡先を1枚びりっと破って去っていった。
その走り去る後姿もくねくねしていて、
隠れて見ていた佐紀はうぅ〜んと首をひねる。
公民館に貼っていても効果はあるみたいだけどさぁ、と
佐紀はとりあえずおせっかいはやめておくことにした。
でもなぁ。
あぁ言うぶりっ子タイプがやってきても、
みやとは絶対気が合わないような気がするんだけどなぁ。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:47
- 全身ピンクの少女・嗣永桃子は佐紀と変わらない背丈で
ありながら意外にも(?)佐紀と同学年であった。
なぜ桃子は、雅の連絡先を破って持っていったのか?
桃子の家はいわゆる貧乏だった。おもちゃを買って
もらえずに過ごした子供時代は、歌を歌って、草笛を
吹いて遊んでいた。
TVゲームが全盛の時代に、何も持っていなかった桃子は
次第にひとりで遊ぶことが多くなった。
学校が終わって家に戻るなり、桃子はまた飛び出していく。
公園でひとり歌を歌ったり小指を立てて草笛を吹いたり。
そして夕暮れになると帰って来る。
「お帰り。楽しかったかい?」
「うん!楽しかったよ」
たとえ実際はどうであっても、桃子はいつも、笑顔で
母親にそう答えていた。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:48
- やがて桃子も進学。クラスメイトが友達と遊んでる放課後は、
アルバイトで家計の手伝いをした。
雨でも、雪でも、歌を口ずさみステップを踏み出来るだけ
仕事を楽しみながら。
ひとりでも楽しかった桃子は少しずつ貯めたお小遣いで、
楽器をかった。憧れのギター。
まったく弾けなかった。教本を買うお金もない。
教えてくれる友達もいない。でも悩みながら学んだ。
最初から出来るより楽しいことでしょう?
やがて「かえるのうた」が弾けるようになって、
孤独を意識したことなかった桃子が初めて、
誰かと音楽をしてみたいと思った。
自分が人とずれているのは知っている。だから同じように
ずれたこの紙に、公民館なんかでメンバーを募集する
この雅という古風な名前の子に、シンパシーを感じた。
だから破った。連絡先を手に取った。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:48
- そしてお昼。雅と佐紀はいつものように
向かい合ってお弁当を食べている。
「みや、お父さんの入れ歯見っかった?」
「まだ。おかげでお父さん大変でさぁ」
「え?本当になくしてるの?」
ほおばってたおにぎりを飲み込むと雅は、おかゆしか
食べられない状態のお父さんのことをひとしきり語った。
「それはそうとメンバー募集のほうは?連絡あった?」
「まだ」
しょんぼりうなだれる雅を見て、佐紀が「あのね」と切り出す。
「何の話?アイスの量、増えんの?」
「違ーう。って言うかそこみやのパートじゃないし。あのね」
とまた話し始めた途端、チャイムが鳴った。
お昼の休憩時間が終わった。入れ歯をなくした
お父さんの話があまりに白熱しすぎたせい。
そして放課後すぐ部活に行った佐紀。
結局あの全身ピンクの少女のことは伝えられずじまいだった。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:49
- 景色がオレンジに染まる夕暮れ。
鈴木愛理はひとり、公民館へ来ていた。
水色のスカート、白のセーターから指だけを覗かせて
大きな白のキャスケットをかぶったまま
メンバー募集のポスターをそっと見上げている。
愛理は『なぜ?』を確かめに来ていた。
お母さんがこれを選んだ理由を。
でも、見たらすぐ解った。このポスターから感じる
シグナル。私のためと思えるところがたくさんある。
掲示板の端にひっそり貼られた場違いなそれ。
ゼロから、全パート希望、という言葉。
後から入った音楽学校に馴染めなかった私のために、
お母さんは真っ白からスタートできる場所を
見つけてくれたんだ。
でも。
でももう無理、と愛理は思った。ポスターの下部、
連絡先がふたつ、切り取られていた。
ひとつは愛理の手の中。もうひとつは他の誰か。
きっとその誰かは夏焼さんに連絡して
ふたりで仲良くバンドを始めてるだろう。
そしてもうそこに私の入る余地なんてない。
私なんて必要じゃない。居なくていい。
ぽん、と肩を叩かれた。
「あのぉ、夏焼雅さんですかぁ?」
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:50
- 「あ、いえ、違います」
「そうなんですかぁ」
言いながら振り返った先には、にこにこして
くねくねした全身ピンクの少女。
愛理がその子を見て先ず思ったのは
小学生かな?ってことだった。
「桃ね、昨日これをひとつ散切って
持って帰ったんだけどぉ」
この子がもうひとり!
愛理はそれを知ってついじっくり桃と言った少女を見てしまう。
釣り目がちな顔。ショートカット。
夕陽に染められた笑顔。立っている小指。
「ポケットに穴が開いてたせいで
落としちゃったみたいでぇ」
そう言いながら桃子はもう一枚破った。
貧乏ゆえの服の綻びだとは口に出さない。出せない。
愛理の心臓はどきどきと激しく動き始めていた。
この子は紙を失くした。私を夏焼さんと間違った。
まだ連絡を取ってないんだ。私と並んでるんだ。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:51
- おかあさん、私に、勇気を、勇気をっ!
「あっ。あのっ」
声が震える。かすれる。愛理はぎゅっとこぶしを
つくる。頑張れ私、相手は自分より子供じゃないか!
「わっ、わたしも」
言葉になかなかならない。
でも愛理の想いは桃子に伝わっていた。
耳まで赤くして必死な顔で、言葉を紡ごうとしている
目の前の少女。何よりこんな変な誘いに目を留めた
仲間じゃないか!桃子の手はもう動き出していた。
「ねぇ。一緒にこれに連絡してみない?」
愛理の言い終える前に、その手をきゅっ、と桃子がつかむ。
ふわりと、包み込むように。
暗闇から伸ばした鈴木愛理の手は、嗣永桃子の手で
光へと引き上げられた。愛理はぶんぶんと頷いていた。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:51
- 陽も落ちて街灯だけが照らす帰り道。ふたり並んで。
「あーわかるー。やっぱりハグアグだよねー」
「私ハグ受けとか考えられなくて」
「ねぇ。でもなんかアグハグって勢力強いよね」
「もっとハグ攻めに増えて欲しいです私」
「桃もモテハグ本もっと読みたい!
でさ、あのこないだ壁で出てた大手さんがさ予告でさ」
「書いてましたねぇ!次回はハグアグで参加しますって!」
「桃その日は朝から並ぶって今から決めてるから」
「私、いつも通販なんだけど私も買いに行こうかな」
学校の違い、年齢の違い、育ちの違い、貧富の違い。
いろいろな違いを飛び越えて、
カップリングがぴったり一緒というそれだけで、
まるで6年半前に一緒のオーディションに受かった
同期かのように、もうふたりは仲良く打ち解けていた。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:52
- そしてまたお昼が訪れる。
佐紀と雅は向かい合い、おにぎりを口に運んでる。
「ねぇ、連絡あった?」
「あった!」
「あったの!マジで?」
「お父さんの入れ歯!まさか洗面所にあるとは思わなかった」
「いや一番ありそうな場所だよねむしろ?」
「お父さんもこれで大好きな雑炊が食べられるって大喜びでさ」
「あんまりお粥と変わらなくない?」
佐紀は神妙な顔つきで箸を置く。ふぅと息をひとつ。
「あのね、みや。私さ、バレー部のキャプテンじゃん」
「うん」
「でさぁ、みやから退部届け受け取ったじゃない?」
「うん」
「でも実は部にはさ、休部として届け出てるんだよね。
だからもしバンドの連絡がないのなら戻って来ることもできるよ」
「あ、連絡あったよ。そう言えば」
けろっと言う雅。これくらいで怒ってたら雅の友達は
やってられない。どんな感じ?と先を促す佐紀。
「なんかおっとりした声の子と、ぶりぶりした声の子」
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:52
- 土曜日。あの角を曲がった先、クラスのみんなが噂してる
カフェに愛理と桃子は居た。
愛理はドーナッツとカフェラッテ、チョコミントアイスを頼んだ。
一方桃子はお冷に砂糖をむりくり溶かして飲んでいた。
「桃ちゃんそれでいいの?」
「うん。桃はジュースとか飽きちゃったから」
「あたし今日お小遣いもらったばかりだから奢ったげようか?」
「え、いいよ悪いもん。桃、パフェが食べたいけどガマンする」
「すみません店員さん。パフェひとつお願いします」
まだ見ぬ古風な名前の持ち主『夏焼雅』を待つふたり。
ついついカフェの扉が開き、ちりんちりんと鈴の音が響くたび
そちらを見てしまう。
「おじさんだったね」
「今度はギャルだ」
「あ、あのおばあちゃん。雅おばあちゃんって感じ!」
「でも席に座っちゃったね」
「ねぇ桃ちゃん」
「あのおじさんはさすがに違うよねぇ」
「桃ちゃんってば」
「なぁによぉ」
「さっきのギャルの人がこっち向かって来るんだけど」
愛理の見ている先に桃子も視線を向ける。確かに。
黒のホットパンツに膝上までの網のソックス。
赤いスカーフにタンクトップはきらきらと光をはね返す感じで、
ブレスレットはじゃらじゃら。極めつけは真っ茶色の髪と
ピンクのサングラス。そんな子がこちらに向かって来る。
絶対無理。正直無理。このテーブルの前を通り過ぎますように。
そんな愛理の願いとはうらはらにぴたりとテーブルの前で
止まった彼女はサングラスを頭の上に持ち上げる。
「こんにちは。あの、夏焼雅です。鈴木さんと嗣永さんですか?」
ぺこりと頭を下げる仕種は、名前のように古風だった。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:53
- 意外だ、と愛理は思った。そしてすぐ、いやだからこそ
公民館でメンバー募集をするのかな?と思った。
「あっ、あのっ。私、夏焼雅といいます。
実は、えっと、楽器は、あの、全然できないんですよ」
あからさまに派手な外見の雅が、今回の主催者のはずが、
耳まで真っ赤にして、さっきからやけに言葉がつっかえている。
世界は思ったより、優しいものなのかも。
愛理はくすっと笑う。きっと私達、上手くやっていけるわ。
桃子は、元々スタートさせるつもりだった。
要は『楽しければいいと思うんですけど』なのだ。
楽しくなければ?
どうしたら楽しくなるか考えればいい。
そして桃も。
桃子がちらり、と愛理を見る。にこにこしていた。
愛理同様、この照れ屋の雅ちゃんが気に入ったんです。
パフェをひとくち、ぱくっと食べながら。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:58
- 窓の外は快晴。でも射す光は秋の涼しさを感じさせた。
面倒な月曜日も、お昼まで来てしまえばあと半分。
元気も出ようというもの。
「それでみや、ご感想は?」
「さすが!街で一番キュートな看板娘がいるだけある」
「お店の感想はいいから」
机を並べてお昼を食す佐紀と雅は、いつものように
非建設的な会話を繰り返していた。
「ふたりともいい子だったよ」
「上手くやっていけそう?」
雅は頬を紅くする。力強く「うんっ!」と頷いた。
その様子を見て佐紀もまた笑顔になる。
あの場違いな手作りポスターが、笑顔の連鎖を
生んでいく。
「あ、でもアグハグとかハグアグとか言ってて
それだけよく解らなかった」
「HANGRY×ANGRYのことじゃないの?」
「そうなんだけどなんかね、ふたりが言うには
どっちが先に来るかで全然違うらしい」
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:59
- 「それはそれとしてふたりの楽器は?何担当?」
「愛理ちゃんがコルネットで、桃子ちゃんがギター」
「バンドっぽくないね」
「早速3人で演奏したんだよ。
かえるの歌。息ぴったりんこだったんだから」
「普通かえるの歌ってそうそう失敗しないよね」
「でも。でもでもっ」
雅はにっこり。手に持ってるおにぎりを握りつぶしそうな
勢いで言う。メロディを重ねること。それが、とても。
「楽しーのさ!」
でも、まぁ、それが一番だよね。佐紀は卵焼きを
ぱくっと口の中へ放り込む。
みや抜きでのインターハイ予選はきついけど、
私も頑張らなきゃ。キャプテンとしてさ。
佐紀は窓の外、体育館に視線を移す。屋根の照り返しが
ちょっとだけ眩しくて、微笑むように目を細めた。
「えっ、キャプテンが主役みたいなんですけど?」
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 01:59
- コルネットを大事そうに抱え、愛理は扉を開く。
「行ってきます」
コンクールに出るわけじゃない、音楽試験を受けるためでもない。
ただ友達と演奏に出かける。それだけなのに。
笑顔で出かける愛理の後姿に母親は涙を流してしまう。
ギターを抱えて桃子が飛び出していく。
「行ってきまぁす!」
我慢ばかりさせてきた。珍しく欲しいと思ったらしい楽器さえ
相談もなく自分でお金を揃えて買ってしまった。
もう見えなくなりそうな背中に桃子の母親が語りかける。
いってらっしゃい。楽しんでおいでね。
駅前でふたりが待っていると、ちょっと遅れてもうひとりが
手を振りながら駆けてくる。
ギャルっぽい衣装の雅、お嬢様っぽい衣装の愛理、
シンプルでまったくの普段着の桃子。
見事にばらばらの3人は、楽器とマイクを準備すると
駅へと歩く人たちに向かって歌い始めた。
何人かが足を止める。それは上手だからと言うよりも
笑顔で楽しそうだから。いつ来たのか、佐紀が小さく手拍子を
始めると、それが少しずつ周りへと広まっていく。
見ていたひとりがなんて言うグループなのかな?と
立ててあるスケッチブックを覗いた。ふぅん。
Buono!って言うのか。
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 02:00
- 川´・_・リ
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 02:00
- 川;´・_・リ
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/17(金) 02:00
- 川*´・_・リ
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