11 忘却の彼方
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:45
- 11 忘却の彼方
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:47
- 「人間って忘却する葦なんだっけ?」
酔っ払ったひとみはわけのわからない事を言う。
「それなに?」
「外国の人が言ったなんかことわざみたいなやつ?」
「わかんないよお」
「そっかー」
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:47
- すでに結構飲んでいる。
がいつもは全然変わらないひとみが酔った風な姿を見せるのはめずらしかった。
本当ならここで色々聞きたいところだが、ひとみは聞くと閉じてしまう。
短いとは言えない付き合いで分かっていた。
昔ならいざ知らず、仲が良いとも言えない付き合いをしている今ならなおさら。
だから笑って、酒を勧めた。
「もっと飲みなよー」
杯を受けたひとみは黙って飲んでいる。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:48
- 沈黙が少し辛い。
でも何をしゃべっていいか分からない。
昔はそんなこともなかった。
皆ではしゃいでわいわいやって。
苦しいこともあったけど楽しいこともずいぶんあった。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:49
- もうすでに仕事を辞めている仲間の事を思い出した時にはすでに口が動いていた。
「あいぼんがさー。」
「あいぼんかあ。懐かしいね。梨華ちゃん連絡取ってるの?」
「いや、連絡取るって言うか、そうじゃないんだけど」
「うん」
「あいぼんには言いすぎちゃって、あれから音信不通なの」
「うん?」
「なんか柴ちゃんがさー。2chであいぼんらしい書き込み見たって」
「へー」
うまく会話を続けることが出来ない。
また少し沈黙が続いた。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:49
- 気付くとひとみの飲むペースが速くなっている。
大丈夫か聞こうか迷っているとグラスを見ていたひとみがこっちを向いた。
「あいぼんの事なんか、忘れてた」
「うん。あ。でもあたしもあんまり思い出さないかも」
「そう。忘れてても大丈夫なの。あいぼんは」
「え?」
「生きてるからね」
…なんて言ったらいいのか良く分からない。それ以前に内容がわからない。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:50
- 「あいぼんは死なないよ?大丈夫だよ?」
少し的をはずしているかなとも思ったけれど、何を言ったらいいのか分からなかった。
ひとみは苦笑いのような、でも柔らかく笑った。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:50
- 「去年はさー。忙しかった」
「うん」
「卒業とか、その後の出演ラッシュとか」
「かなり忙しかったね」
「うん」
ひとみはグラスを見つめる。
少しの沈黙。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:51
-
「弟がさー。亡くなったんだよね。うち」
「あ」
動揺した自分を見てひとみがまた苦笑いした。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:52
- 今度の笑いは少し暗かった。
「いいよいいよ。気にしないで」
「ごめん」
「弟とは仲が良かったけど、仕事で何年もそんなには会ってなくてさ」
「うん」
「亡くなってからも仕事が忙しくて悲しむ暇もなかった」
「うん」
「最初はまだどこかに生きてるような気がしてたんだけど」
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:54
- 「それもどんどん薄れていくんだ」
「どこかで生きてるような感じも、弟と遊んだことや思い出も」
「忘れちゃうんだよ。弟との色々なこと」
「…それが今は怖い」
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:54
- 「悲しむ暇がないのは楽だったから、心のどこかでは歓迎さえしてた」
「でも今は」
ひとみは指でグラスをなぞる
「何でもっと悲しんでおかなかったんだろうと後悔してる」
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:55
- 「あいぼんの事忘れててさ。さっき」
「うん」
「でも、忘れてていいんだとすごくほっとしたんだ」
「薄情な奴だよね。色々な意味で」
そう言って少し笑った。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:56
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- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:56
- 色々なことを言いたかった。
よっしー薄情なんかじゃないとか
いきなりの舞台ですごかったとか
みんなに慕われてるのは伊達じゃないとか
どんなに頑張ってたか知ってるとか。
でも自分の中から出てきた言葉はふさわしくないように思えて、
何も言えなかった。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:57
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- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:57
- 「梨華ちゃんが泣くことないじゃない」
しばらくして気付いたひとみに涙をぬぐわれる。
「よっしーが泣かないからじゃない」
「そっか」
そういってひとみは笑った。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:58
- 自分は頑張っている。
ひとみも頑張っている。
出来ればこの先、彼女の行く末により多くの幸せがありますように。
そう思ってさらに泣いた。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:58
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- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:58
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- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 23:58
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