06 存在の耐えられない軽さ

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:53
06 存在の耐えられない軽さ
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:54
四十分の通学路の間、約三十分を崖のようなこの道を漕ぐことになる。ガードレールを突き抜けてしまえば、三十メートルくらい転落した挙句、海へとダイブ。幼い頃は近寄らないように言われていた場所を、風と共に走り抜ける。大人になったような気分、もうそんな心配をしてくれないんだという切ない気持ちを織り交ぜながら、足に力を込める。

顔を上げたのは、車道を挟んだ向こう側から自転車が走ってくる気配がしたからだった。
ちょうど斜めに鏡を入れたように、私とその人は、すれ違う瞬間にお互いの顔をうかがい見るような仕草をする。それは特別なことではなくて、狭いこの町では制服姿だったら知り合いの可能性が高かったりするからで。

そう、まさにその予感が当たった。背中からの太陽を受け、怪訝な顔をしているその女の子は、絶対に私の知っている人だった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:54
いや、女の子のはずがない。大体こんな体格のごつい宇梶剛士似の女の子などいるだろうか。どうやら最近異性と言う名の生命体と触れ合ってないせいか禁断症状が出たみたいだ。私は改めて、目の前の大男に呼びかける。
「おい相馬、どこ行くんだよ」
私の質問はごく当たり前のことで、これからみんな仲良く登校、緑のおばさんも見守っているよという時間にわざわざ学校とは逆方向に自転車を走らせているバカに思わず声をかけてしまう行為は誰にも責めることはできないはずだった。
でも、相馬は私の質問を一笑に付す。あまつさえ、鼻で笑いやがった。
「なっ何がおかしい。俺の質問は実にナイスグッドだったはずだ。なのに」
「お前は今日が何の日だか知らないのか?」
とっさに言われ、ぐうの音も出ない。この時間じゃまだおもいっきりテレビはやってない。ということは今日は何の日、フッフーという時代遅れのコーラスで始まるコーナーも見ることは不可能だ。悔しいがここは自らの無知をさらけ出すしかない。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:55
「し、知らないけどさ・・・・・・何の日だよ?」
すると相馬はチッチッチとカビの生えたリアクションをかましながら、得意げに、
「聞いて驚け。今日は熊井ちゃんの写真集の発売日だ」
と言い放った。
驚きで、時が十秒ほど止まった。おお、我が友人は夏の暑さで頭がやられてしまったのか。
「おまえなあ、このジーザス・クマイスト・スーパースターの俺をなめんなよ。俺はお前みたいについ最近まで飯田さんがどうのこうのとかほざいてた俄かとは違うんだ。熊井ちゃんの身長が146cmだった頃からのヲタなんだぞ、そんな俺が聖典の発売日を間違えるはずが」
「バラスト書店のおっさんが熊井ちゃんの遠い親戚で、特別なコネを使ってすでに写真集を入荷してるとしたら?」
そんな馬鹿な。週刊少年ジャンプとかのフライングとはわけが違うんだぞ。国民的長身美少女の熊井友理奈の写真集だぞ。そんな不正行為がいくらこの辺鄙な海沿いの田舎町とは言え許されるであろうか(いや許されるはずがない:反語)。
「大体ソースもないのにそんな情報、信じられるかよ。しかもあのボケジジイが、発売日より前に写真集を売るなんて気の利いたことをするはずがない」
Berryz工房の写真集を予約したはずなのに西伊豆牛蒡のカタログと聞き間違えて取り寄せられた恨みを、私は忘れていなかった。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:55
しかし相馬に一枚の写真を突きつけられ、私は言葉を失った。
それは小汚いバラスト書店の店頭に山積みのように陳列されている熊井ちゃんの写真集。
ボーナス確定だ。世の中にもし永劫回帰があるのなら、私は何時いかなる時も熊井ちゃんの写真集を買っていたい。こんなことならわざわざ電車で1時間もかかる大きな街の本屋で予約することなどなかったのに、もうバカバカ。
「わかったよ。お前が嘘を言ってないってことが。とにかくありがとう、学校なんて行ってる場合じゃないなそれは。しかし待ちに待ってた熊井ちゃんの写真集が発売日前に手に入るなんて」
「悪いがそれはない」
「え?」
予想外の言葉に目が点になる。そしてそんな私をあざ笑うように、相馬は自転車に乗って坂道を下り始めた。「写真集は俺が全部買い占めるからな」という台詞を残して。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:56
冗談じゃない。
こちとらまいまいがつんくを呼び捨てしてた時期からの熊井ヲタだ。新参なんかに出し抜かれてたまるものか。負けじと私も自転車に乗って不埒者を追いかける。私の体中の血は怒りで沸騰寸前、その熱が力を与えてくれた。あっと言う間に相馬を抜き去り、その勢いのままに坂の下のバラスト書店に突っ込んだ。我が愛車のぐさんしゃいん号は週刊女性の立て看板に激突し大破、私自身も放り投げられてそのままレディコミ誌のコーナーにもんどり打って倒れた。雪崩のように本棚から崩れ落ちる大量のレディースコミック。「奥さん、ゴーヤって試したことある?」という台詞が書いてある本を跳ね除け、まっすぐに居眠りしているジジイのもとへ走った。あちこちの関節が曲がってはいけない方向に曲がってしまった気がするけど、そんなことは気にしない。涎を垂らしこの世とあの世の狭間を渡り歩いていそうな老人の耳元で、明日の朝に声が出なくなるほどの大声で、思い切り叫んだ。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:56



入荷した熊井ちゃんの写真集、全部ください!!!!!!!!!!



8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:56






9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:57


それから家に帰るまでの記憶がまったくない。
多分、幸せ過ぎたんだろう。今の私なら、きっと丸める隊に入れる、そんなことを考えながら歩いていたような気がした。
帰途につき、部屋の鍵をロックしてから、丁寧にラッピングされた写真集の山を開放する。いよいよ日本一身長の高い中学生こと熊井友理奈ちゃんの姿が見られる。ラッピングをこわれものを扱うように解く様は、まるで新婚初夜のようだ。もちろん私は神聖にして侵すべからずの童貞であるからして、そんなものは想像上の産物でしかないことをよく知っていたけれど。
一枚、二枚、三枚。ゆっくりと、慎重に包装を解いてゆく。
四枚、五枚、六枚。まだ女神の姿は見えない。はて。なぜこんなに幾重にも包装が?
七枚、八枚、そして。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:57



11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:57



12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:58




( `.∀´)y━・~~ 九枚ちゃんよっ!!!!


13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:58


目の前にはヤスス写真集の山が。燃え尽きた。
これは全て相馬の策略だったこと、そして本屋のボケジジイが熊井ちゃんと狛犬ちゃんを聞き間違えたことを知るのは、熊井ちゃんの写真集が正式に発売されてから後のことになる。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 01:02
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 01:02
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 01:02

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