02 1時間

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/25(土) 02:26
02 1時間
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/25(土) 02:26
四十分の通学路の間、約三十分を崖のようなこの道を漕ぐことになる。ガードレールを突き抜けてしまえば、三十メートルくらい転落した挙句、海へとダイブ。幼い頃は近寄らないように言われていた場所を、風と共に走り抜ける。大人になったような気分、もうそんな心配をしてくれないんだという切ない気持ちを織り交ぜながら、足に力を込める。

顔を上げたのは、車道を挟んだ向こう側から自転車が走ってくる気配がしたからだった。
ちょうど斜めに鏡を入れたように、私とその人は、すれ違う瞬間にお互いの顔をうかがい見るような仕草をする。それは特別なことではなくて、狭いこの町では制服姿だったら知り合いの可能性が高かったりするからで。

そう、まさにその予感が当たった。背中からの太陽を受け、怪訝な顔をしているその女の子は、絶対に私の知っている人だった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/25(土) 02:27
知ってて当たり前。
すれ違ったのは、私自身だったなのだから。
1時間前の私が見たのは、今の私。その顔は明らかに希望に輝いていた。今の私とは大違いだ。
振り返ると、一生懸命坂道を漕いでいる私自身の姿が見える。そんなにがんばらなくていいんだよ。どうせ1時間後には目を真っ赤に腫らして泣いて坂道を降りることになるんだからさ。こういう風にね。
そう言いながら自転車のミラーに向かって笑いかけた私は、果てしなく不細工だった。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/25(土) 02:27
あの時の私は何も知らなかった。
まさか絵里とさゆみが、私を裏切って私をハブる計画に乗っていたことを。
朝の教室。私が入ってくるまでに、机にマジックで「死ね」と言う文字をびっしり書き込んだり、引き出しの中に生ごみを詰め込んだり、そうやって教室の為政者に媚を売ってたことを。
メールで3人だけの秘密だった恥ずかしいことをクラスのみんなに回していたことも。
みんなみんな、彼女は知らない。知らないって、幸せなことだ。
坂を物凄い勢いで飛ばす自転車。風が気持ちいい。何もかも、後ろを流れていく風みたいに、吹き飛んでしまえばいいのに。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/25(土) 02:28


そう、知らないって、幸せなことだ。
坂を下る彼女が見たのは、彼女から見て一時間後の私。
坂を軽快に降りてゆく彼女の顔は、とても輝いている。今の私とは大違いだ。
今抱えてる悲しみなんて、すぐに忘れてしまう。それよりも、気をつけて。車は急に止まれないから。
坂を登る自転車の後ろから、ぼたぼたと赤い染みをつけてゆく。自転車のミラーは、割れていた。
みんなみんな、彼女は知らない。知らないって、幸せなことだ。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/25(土) 02:28
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/25(土) 02:28
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8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/25(土) 02:28
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