15 リズム
- 1 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:29
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15 リズム
- 2 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:29
- ふと、目が覚めた。
自分がどこにいるのか、何をしているのかわからないのはほんの一瞬で、すぐに、目の前にいる二人の視線に気づいてあたしは照れ笑いをした。
一人は優しい目で、もう一人はこらえた笑いを隠しもせず、揃ってあたしを見つめている。
三人で冗談を言い合っていたのは、まだ都心の風景を窓の外に見ていた頃。
あたしだけが疲れてるってこともないはずなのに、聴き慣れた二人の会話を子守唄にあたしは、いつの間にか眠っていたのだった。
- 3 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:30
- 「よく寝てた」
「ん、電車ん中ってさ、ホント眠たくなるよね。なんない?」
「やっぱこの音だよね、カタンカタンってのが」
線路の継ぎ目を通り過ぎるたびに車輪は、心地良いリズムをたててあたしを眠りの世界に誘う。
ほらまた、何だか気持ち良くなってきた…。
「だめだあ梨華ちゃん、よっちゃん全然寝る気まんまんだもん」
「まあいいじゃない、寝かせといてあげれば」
その言葉に安心してあたしは、ひとつ大きく息を吐き、再び眠る体勢につく。
- 4 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:30
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…………
- 5 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:30
- フットサルの練習の後、今すぐ海を見に行きたいと言ったののの言葉に、たまたまその後の予定もなく何となくノリで付き合ったのがあたしと梨華ちゃんだった。
「海ってどこのさ」と訊くあたしに、平気な顔で「日本海」と答えたのの。
何故日本海なのか、東京湾になくて日本海にあるのが何なのかがあたしにはわからなかったから、梨華ちゃんに「日本海だってさ」と伝えてのけぞられた理由もよくわからなかった。
「ちょっとのの、ホントに日本海なの」
「うん、いいじゃんかっこいいじゃん」
さっきまでノリノリだった梨華ちゃんの表情が真剣になっていたから、日本海を見に行くってのは少しだけやっかいなんだとあたしにもわかった。
「ねえ、日本海見に行くのってどれくらいかかんの?時間」
「わかんない」
「もーののはー、全然わかってないで言ってるんでしょー」
いつもみたく梨華ちゃんにあきれらながらも、嬉しそうなのの。
「でも調べてはあるんだ」とバッグの中からごそごそと何やら紙を取り出したのには驚いた。
- 6 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:30
- 「何それ」
「よくわかんないけどじこくしょう?時刻表?パソコンからとった」
ちょっと見せてと梨華ちゃんがののの手からそれを奪い取ったすきにあたしは、何しっかり準備なんてしてんのとののの肩を乱暴に抱き寄せた。
へへへと笑うののもあたしの腰に手を回す。
細かいことは梨華ちゃんにまかせておけば良いのだ。
へへへ、へへへとバカみたいに二人で揺れていたら、梨華ちゃんが案外明るい表情で顔をあげた。
「うん、これ、この電車には乗れないけどどれくらいかかるかはわかった。何か行けそうだよたぶん」
マジで、やった、でかした、とあたし達二人はお互いでお互いを讃え合い、梨華ちゃんはせわしなく携帯を操作して、何やら電車の時間を調べ始めた。
- 7 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:31
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…………
- 8 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:31
- ごおお、と大きな音をたて、窓の外は闇に包まれる。
うとうととしていたあたしは、トンネルに入ったということにはかろうじて気づいたけれど、音が大きくなったことを除けば、あたしの睡眠をジャマするものは何もない。
梨華ちゃんは、白いイヤホンを両耳につっこんだまま、雑誌を読みふけっている。
その隣に座るののはぼんやりと、窓の外を眺めていた。
正確に言うなら窓の外には濃いグレーの壁が連続して流れていくだけであり、ののが外を見ているのかどうかはわからなかった。
再び眠りにつきかけたあたしは、ののが何を見ているのかに気づく。
- 9 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:31
- ののは、窓に映った自分の顔を見ていた。
いつもみたく変顔を確認するために見ている訳でもなく、髪型チェックをしている訳でもなくただ、自分の顔を見つめている。
肘掛に立てた腕で自分の顎を支え、軽く握られた手によって口元は隠されており、何の色もなくただ何かを「見ている」だけの顔だ、とあたしは思った。
それは随分と長い時間続いていたので、今あたし達が通り抜けているトンネルの長さも、自然と知ることが出来た。
自分の手元に集中していた梨華ちゃんが静かに顔をあげ、あたしを見た。
あたしはただ、梨華ちゃんの顔を見つめ返した。
あたし達三人が三人とも今、何の意識もなくただ何かを「見ている」だけの空間であり、さっきまでつながっていた線が三つの点になってしまったみたいだ、そう思った瞬間。
- 10 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:32
- きぃぃん、と突き抜けるような音とともに、あたしはまぶしさに目を細める。
真っ白な光に圧倒されかけた一瞬。
うわあというののの声。
見てみてとのののほうに身体を寄せる梨華ちゃんの声に、ただ一人逆光の中にいるあたしは片目だけ開けて窓の外に視線を向けた。
トンネルに入る前とはまったく違う光景に、あたしもああと声をあげる。
そこにはおだやかな、海があった。
ハワイで見たような明るくて濃い海とは違う、静かで薄い色をした海が、そこにあった。
- 11 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:32
- あたし達の中の誰も、それ以上言葉を交わさずにいた。
三人、窓際に身体を寄せて、揺れるリズムに身をまかせ、地平線の果てまで続く海をじっと、見つめていた。
梨華ちゃんの顎はののの肩に乗り、ののの足はあたしの左足を挟んでいる。
あたしは自分の頬にかかった前髪に軽く手を触れ、そのままそっと、耳にかけた。
- 12 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:32
- 乱反射する水面はただただ静かに、あたし達を運ぶ電車を追いかけている。
カタン、カタン、という規則的な音に誘われてあたしは再び、瞳を閉じた。
- 13 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:33
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- 14 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:33
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- 15 名前:15 リズム 投稿日:2007/03/31(土) 00:34
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