09 She is the sky
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:37
- 09 She is the sky
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:38
- 「もう、藤本さんも何とか言ってくださいよ」
「は?」
「だーかーらー、石川さんですよ」
「あぁ……」
続けて出る「石川さん」という単語に少し諦めの言葉を覚える。
どーせ、また今日のハロモニの収録のことだ。
梨華ちゃんが一人だけ美味しいものをこれ見よがしに食べる行為が気に食わないって話。
誰もが思っているけれども、もう今更と思っている話。
だけど、亀井ちゃんはそれについて毎回文句を言い続ける。
この前はガキさんだったし、その更に前はよっちゃんだったっけ?
今日は私の番ってわけだ。
助けを求めて周りを見回しても誰もが遠巻きに見ているだけ。
よっちゃんに至っては楽屋の中にすらいなかった。
ため息をこらえて適当に相槌を打つ私に、次々と文句を言い続ける亀井ちゃん。
どうやら、差し出されたスプーンに食いつこうとしたら、すっと避けられたのが気に食わなかったらしい。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:38
- 「あーあ、絶対石川さんは、腹黒いから肌も黒いんだって」
深いため息とともに亀井ちゃんはそう言って言葉を切った。
腹黒い、か。
そういえばそんな時期もあったっけ?
ふっと思い返す。
あれはまだ私がカントリー娘。に助っ人として歌番組に出ていた頃だった。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:38
- ◇
「絶対梨華ちゃんは、腹黒いから肌も黒いんだって」
半分冗談半分本気。
私はそう言い放った。
よっちゃんは私に任せて、とカントリーの仕事でバラバラになったときは、必ず携帯にメールを入れてくるんだ。
私の気持ちを感づいててそんなことをする辺り、マジ最悪。
「違いますよ藤本さん」
携帯を見つめていた私の視界に入ってきた真ん丸顔。
その真面目な顔に、私は思わず携帯を横において向き直った。
「何が違うの?」
「石川さんの肌が黒いのは腹黒いからってことです」
「あ……それ?」
「はい」
ゆっくりと頷くこんこん。
「ただの冗談だから」と言う私の言葉を遮るように、彼女は一気に話し始めた。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:39
- 「いいですか、藤本さん。色が見えるって現象はですね、その物自体に色がついているわけじゃないんですよ。
光なんです。ほら、こうして私たちを照らす太陽の光。これが、色の正体なんですよ。
例えば、サツマイモは紫です。これは紫以外の光が全てサツマイモに吸収されていて、
紫色の光だけがサツマイモに反射して私たちの目にはサツマイモは紫色しているように見えているんです。
つまり、色っていうのは光の反射ということです。
だから、石川さんの肌が黒いのも、私たちに比べて石川さんの体は多くの光を吸収しているので、反射してくる光が少ないんです。
別に石川さんがキモくて態度でかくて寒くて腹黒いからって、石川さんの肌が黒いわけではないんですよ」
なんか増えてる気がしたけれども……まぁいいや。
「いや、だから冗談で言ったに決まって…」
「こんこんすごーい。要するに、サツマイモが紫だから梨華ちゃんは腹黒いんだね」
私の言葉を更に遮るように拍手とともに声をあげたのはまいちゃん。
まったくこれぽっちも合っていない「要するに」なんだけど。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:39
- 「違います。石川さんの肌が黒いのは……」
「あ、そっか。だからよっちゃんは心が真っ白だからサツマイモが紫なんだ」
更に手を叩いて一人で納得するまいちゃん。
彼女の独自の世界の物理法則が世に公開されるのはまだ数年先の話なのだけれども。
私は世間よりも先にこの時、その事実を悟った。
そして、こんこんも悟ったのか、遮られた説明を再度続けることはしなかった。
「そっか、サツマイモが紫だから空が青いんだ。だから、空が青いから梨華ちゃんは腹黒い。それはもう仕方ないよね、どうしようもないもん。空を美白するわけにもいかないしね」
しばらく考え込んだ後の言葉。
どうやらそれがまいちゃんなりの最終結論となったようだ。
こんこんは隣でもごもごと、空が青いのは、光の散乱がどーたらこーたらと言い始めているが私は聞かないようにした。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:39
- 「空が青いから梨華ちゃんは腹黒い」
なぜかそのフレーズが妙に頭にすっと入ってきて。
イライラしていた自分の怒りがすぅっと消えていったから。
それからというもの、梨華ちゃんに対して怒りを覚える時は、おまじないのようにその言葉を繰り返す自分がいた。
「空が青いから」と。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:39
- ◇
「きっと、石川さんはさゆの可愛さに嫉妬してると思うの」
後ろから声がした。
いつもの口調ではなく、少しの怒気が混じっていたのは、さゆも同じことをされたかららしい。
「そっか、石川さんは絵里の可愛さに嫉妬してるんだね」
「違うの。さゆが一番可愛いの」
「絵里の方がかわいい」
そうして始まった言い合いを避けるように、私は楽屋から出て行った。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:40
- 「あ、みきてぃ、どこかいくの?」
廊下に出た私にかけられた声。
「ううん、ちょっと避難。よっちゃんさんも今は入らないほうがいいかもね」
それだけ告げると、ふっとよっちゃんの手の中の携帯に気づいた。
そっか、まいちゃんか。
そうなのだ。
結局、よっちゃんが選んだのは梨華ちゃんでもなく私でもなかった。
話がちゃんと通じているのって心配に思うときもあるけれども。
こればっかりはもうどうしようもないことだった。
「また亀井ちゃんね。仕方ないなぁ」
私の忠告の意味を理解し、よっちゃんは部屋の中へと入っていく。
その背中に私は呟いた。
「空が青いから」と。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:40
- FIN
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:40
- 黒
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:40
- 白
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:40
- 青
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