27 精霊馬でギャロップを

1 名前:27 精霊馬でギャロップを 投稿日:2006/08/20(日) 23:49
27 精霊馬でギャロップを
2 名前:27 精霊馬でギャロップを 投稿日:2006/08/20(日) 23:49
「カメ、カメ」

名前を呼ばれたのは、名古屋を出発して1時間ぐらい。窓から富士山が見えていたので多分静岡辺りだと思う。
マネージャーが携帯を持って席を立ったのは覚えているけど、うとうとしていたのか後の記憶は途切れ途切れだ。

地方でのロケの帰り。
一緒に行っていた吉澤さんと藤本さんはガッタスのイベントがあるというので一足先に帰っていて、私はガラガラの新幹線にマネージャーと二人で乗っていた。
…はずなのに、なぜか私の隣にはガキさんがちょこんと座っていて、私の腕を掴んでいる。

「カメ。起きな、カメ」
「あれ? ガキさん?」

ガキさんは絶叫CMのロケ中のはずだ。寝ぼけた頭でそのことを尋ねると、ガキさんは申し訳なさそうな顔で電光ニュースを指差した。
政治の人がどうこうとか、株がどうしたとかの後に、『ジェットコースターで死亡事故、アイドルが犠牲に』というオレンジの文字がさーっと流れてゆく。
私はきょとんとしたまま、ガキさんの顔と電光ニュースと腕を掴むガキさんの冷たい手を順番に見比べた。
背筋が一気にぞわっと寒くなる。
3 名前:27 精霊馬でギャロップを 投稿日:2006/08/20(日) 23:50
「ガキさん死んでる!? ガキさん死んでる!?」

ガキさんはそう、と軽く頷いてみせる。冷たくて重い手は私の右腕を捕らえたままだ。
彼女は怯える私をしばらくの間困ったように眺めていたけど、いきなり「ちょっと、ここ離れよう」と座席から腰を浮かせた。

連れて行く気だ。
私は慌てて座席の手すりを掴むと、見下ろすガキさんの顔を睨んだ。よくよく見ると、ガキさんの頭には白い三角巾が巻いてある。なんともわかりやすい。

「いや、ここ危ないんだって」

ガキさんの手が今度はあからさまに私の腕を引っ張る。
危ないのはどっちだよ。私は負けないように腕をこわばらせる。

「ガキさん、ガキさん。何気にえりの手引っ張ってる…」
「引っ張んないと、あんた、ついて来ないでしょ!」

やっぱり。私は半泣きになった。

「お化けは触んないって言ったじゃん! うそつきうそつき! えり、死ぬのはいやー!」
「カメ! カメ! いいから話を聞いて! …聞けって、もう!」
4 名前:27 精霊馬でギャロップを 投稿日:2006/08/20(日) 23:51
大声をあげてじたばた暴れる私の腕を、ガキさんが力まかせに思いっきり引っ張る。
パニックで力の抜けた隙をつかれたせいで、私の身体は座席からふわりと浮いて反対側の窓までごろごろと転がった。

床にうつ伏せた身体をゆっくり起こして、目の前に立ちはだかるガキさんを見上げる。が、あまりのショックに口がきけない。
まだ腕を掴まれているのに気づいて振りほどこうとした瞬間、背後でガシャーンとものすごい音がした。
慌てて振り返ると、私が座っていた席がガラスまみれになっている。

「たぶん、石かなにかだよ」

ガキさんの声に目を上げると、彼女はそれ見たことか、みたいな顔をしていて私の身体をそっと引っ張り上げた。
5 名前:27 精霊馬でギャロップを 投稿日:2006/08/20(日) 23:51
「心配事がひとつ」

ガキさんが私の目の前に指を一本突き出す。新幹線がギリギリと音を立てながらゆっくりとスピードを落としている。

「私のせいでモーニング娘。がなくなっちゃうんじゃないかってこと」

私は一瞬首をかしげる。けど、すぐに気づく。

「ああ…死んじゃったらやっぱまずい、よね」
「でしょ? 死んだ後、悩んでたらなんかカメまでピンチっぽいって知ってさー。慌てて飛んできたわけよ」
「はあ」

まだ頭がぼんやりしていて、気の抜けた返事しか出来ない。そうこうしているうちに新幹線は完全に停まった。


マネージャーと車掌さんが車両に転がり込んできて、通路で立ちすくむ私の無事を確認する。
とりあえずこの後警察にいろいろ聞かれるらしい。記者とかにばれないうちに私はマネージャーに手を引かれて新幹線を降りることになった。

駅員専用の休憩室みたいなところで警察を待っていると、「実は」とマネージャーが涙を浮かべてガキさんの事故のことを伝えた。
その言葉で、お礼を言い忘れたことを思い出して辺りを探したけど、ガキさんはもうどこにも見えなくなってしまっていた。
6 名前:27 精霊馬でギャロップを 投稿日:2006/08/20(日) 23:52


警察から解放されて東京に着いた頃には、メンバーはもう全員お通夜に揃っていた。
愛ちゃんはしなびちゃうんじゃないかってくらい泣き通しで、藤本さんはそっぽを向いたまま絶対に誰とも目を合わせようとしない。
小春ちゃんは吉澤さんの陰でずっとしょんぼりしていたし、安倍さんはガキさんとの思い出話を語っては、みんなを余計に悲しませていた。
私はといえば、さゆとれいなと手を繋いだまま、棺に入ったガキさんを黙って見下ろしていた。
たくさんの花と娘。のトレーディングカードに埋もれたガキさんの顔はなんだかちょっと幸せそうに見える。

ほんのついさっきまで一緒だったのにもう会えなくなるのかと思うと黙っているのが辛くなって、私は新幹線での出来事を隣の二人に話し始めた。
口にすればするほど突拍子もない話だなと思ったけど、二人とも「ガキさんだしね」とすぐに信じてくれた。
話しているうちにやっぱりだんだん悲しくなってきて、雰囲気を察したのか二人が「また会えるよ、お盆とかにさ」と私を慰めてくれたけど、
その声が震えていたのでなんか余計に胸が詰まった。
7 名前:27 精霊馬でギャロップを 投稿日:2006/08/20(日) 23:52
私を慰めてくれた二人の言葉は、その後見事に的中する。
お盆の頃のコンサート、安倍さんが歌うその後ろで、例の三角巾を頭に巻いたガキさんがめちゃくちゃ楽しそうに踊っている姿を会場の全員が目撃したのだ。

ガキさんはいつも娘。を見ていてくれる。なくしちゃダメだ。
そんな言葉が合言葉のように広まり、感動を呼び、先行き不安だったモーニング娘。は存続。ガキさんの心配は結局杞憂になった。
私もガキさんの姿を見ながら、嬉しさやら悲しさやらいろんな気持ちがない交ぜになって、ステージの隅でみんなと一緒に感極まって大泣きした。


大泣きしたのにそれ以降、ガキさんは「おっはよー」とかなんとか言いながら、用もないのにしょっちゅう楽屋に現れる。
8 名前:27 精霊馬でギャロップを 投稿日:2006/08/20(日) 23:52

9 名前:27 精霊馬でギャロップを 投稿日:2006/08/20(日) 23:52

10 名前:27 精霊馬でギャロップを 投稿日:2006/08/20(日) 23:53


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