25 the little piece of lies
- 1 名前:the little piece of lies 投稿日:2006/08/20(日) 23:32
- 25 the little piece of lies
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:33
- 幼い頃からよく通る地元の夜道を歩いていた。
今は夏休み。そして土曜日。
普段は人通りが少ないその道も、今夜は違った姿をみせていた。
大勢の人が同じ方向へ向かって歩いている。
その人ごみの中を、紺野あさ美は少し俯き加減に歩いていた。
「あ、ほら見て、あさ美ちゃん。夜店、見えてきたよ」
そういって隣を歩いていた人物は、人ごみの中で賑わいをみせているたこ焼きやの方を指差した。
「ほんとだ」
とだけ呟いて、紺野はまた目線を下に落とした。
「もーう、さっきからどうしたの?なんか気分でも悪いの?」
そういって覗き込んできた後藤真希の顔をちらっとだけ見て、紺野はまた少し俯き、今度は自分の服装を見て、周りを見た。
「だって、ほら、私だけ、こんな普通の服…」
「は?服?なに、まだ気にしてたの〜?その話。あさ美ちゃんだけじゃないっていってんじゃん。ほら、ゴトーの服だって、普段着だし」
「真希ちゃんはいいんだよ。気にしてないから」
「えー、何だよそれー」
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:33
- 後藤とこうして二人で出かけるのは久しぶりだった。
多分、子供の頃以来だろう。
そう思えるほど、後藤とこうして向き合って歩いて、喋るのは久しかった。
「最近どう?元気してる?今度の地元のお祭り、一緒に行かない?」
そんなメールが突然きたのはほんの数日前。
紺野は少し複雑な気持ちで、しかし選択肢は他にないと感じ、誘いを受け入れた。
「祭りといえば浴衣じゃないの?」
そんな母の言葉を思い出す。
最後の最後まで迷った事だった。
だが、後藤はきっと普段着で来るだろうと思い、自分だけ浴衣を着ていき変に気合を入れすぎてると思われるのではないか、
自分なんかの浴衣姿が果たして見てられるものなのだろうか、変ではないだろうか、
などと考え、悩みに悩んだ結果、時間もなくなり普段着で家を出たのだった。
案の定、後藤は普段着だった。
安心したのはつかの間で、道に人が増え、次第に目的地が近づくにつれ、浴衣姿の同年代の姿が多くなった。
浴衣姿の子が周りに増えると、今度は逆に自分の地味な格好が目立ってるように感じ、また引け目も感じ、後悔も入り交えて紺野は機嫌を損ねていた。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:33
- 「でさぁ、あさ美ちゃんは学校とかどうなの?」
「うん、まぁ普通だよ。ちょっと受験で忙しいけど。真希ちゃんは?」
「うん、こっちも普通。受験かー、もうそんな年かー。あ、焼きソバだ。焼きソバ食べよー」
そういいながら二人で焼きソバを買うために待ってる行列の最後尾についた。
「花火って何時からだっけ?」
「んー、何時だろ。もうすぐじゃない?」
そんなこんなを言ってるうちに、夜の空にヒューっと音をたてながら大きな花火が舞い上がった。
その火の粉がみせる光で、後藤と紺野の顔が一瞬だけ白く明るくなる。
周りからは歓声が聞こえ、夜のその小さな街は一層活気づく。
「わー、はじまったね〜。焼きソバ買って、早くどっかいい場所探さないと」
そういって大衆と同じように顔を上げる後藤を、紺野はやっとはっきりと見ることができた。
後藤が中学校を卒業してから、二人が顔を合わせることは少なくなった。
紺野が中学校に入った時は、後藤は中三でまだ同じ中学に通っていて、家が近いため登校する時に顔を合わせることもしばしばあった。
しかし紺野が中二にあがった頃には、後藤は高校にあがり、二人をつなぐ接点も、幼馴染という名目だけになった。
紺野は後藤との縁が薄れていくのに焦りを感じていた。
後藤にはずっと昔から、伝えたいことがあった。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:34
- それから暫く二人で適当な場所に腰掛けて花火を見ていた。
広大な夜空に美しく散るその余興は、思ったより長く、小一時間ほど続いた。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:34
- 「あ、これ、フィナーレじゃない?」
「ん?」
後藤に言われて見上げると、確かにフィナーレというには相応しいほどの、豪華で盛大な花火が上がっていた。
周りからも感嘆の声が漏れる。
暫く長い間その花火が上がった後、空はまた暗い夜の空に姿を変え、一年に一度の小さな地元の祭りは幕を閉じようとしていた。
同時に、その場に居座っていた周りの人々も、来た道を戻るようにして同じ方向へ歩き出す。
後藤と紺野も自然にそれにならう。
「でさー、その先生がさー」
後藤は相変わらず普段と変わらない話をしている。
紺野は若干焦っていた。
このまま人ごみに紛れて帰り道を辿っていけばいずれは家についてしまう。
家についてしまったら終わりだろう。
そこで普通に手を振って別れて、また次に会える機会がくるまで待たなければならない。
それではせっかく今日の祭りにきた意味がなくなってしまう。
なんとか話を切り出さなければいけない。
しかし紺野は、中々その切り口を探せないでいた。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:34
- 「あ、ねぇ、そういやさ、この神社。ここで昔よく、あさ美ちゃんと一緒に遊んだよねぇ」
歩いていたら唐突に後藤が顔を横に向けた。
そこには、確かに昔よく一緒に遊んだ神社の階段が見えた。
長く高い階段は、森の闇に包まれて頂上が見えなくなっており、どこか遠いところへ繋がっているような気がした。
昔はよく、ここをのぼって、上の境内でかくれんぼをしたりして遊んでいた。
「ねぇねぇ、ちょっと久しぶりにいってみない?まだ時間も早いしさ」
突然の誘いに、紺野は一瞬息を呑んでから、目を大きく開いて頷いた。
話しをするきっかけをつくる、大きなチャンスだ。
その切り口は、後藤の方が出してくれた。
人ごみから抜け、二人は長い階段をのぼり始めた。
昔、辛いと感じたその長さも、やはり変わらず紺野の体にのしかかる。
頂上につく頃にはだいぶ息が切れていた。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:35
- 神社は少しの明かりだけに包まれていた。
ぼんやりと浮かび上がっているその様に、少し気味悪く思いながらも、紺野は昔の事を思い出していた。
後藤と、よくここで遊んだ。
あの時の記憶、あの時の気持ちが蘇る。
あの時の気持ちを、忘れてはいけない。
言うなら、今しかないだろう。
紺野は後藤を見た。
後藤も、階段に腰を下ろし、何も言わないまま光が瞬く夜景を眺めている。
何か物思いにふけっている様子だ。
後藤も、何かを思い出しているのだろうか。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:35
- 「あ、あの、真希ちゃん」
「思い出すね、あさ美ちゃん」
紺野が意を決して発したその言葉は、後藤によって遮られた。
紺野は意表をつかれたように自分の次の言葉をのみこんだ。
「ここでこうしてると、思い出すね。いろいろ。あれ以来、来てなかったからかな。なんかいろいろ、懐かしいよ」
「真希ちゃん、あの…私…」
「覚えてる?この階段。この階段で、ゴトーが――」
「ごめんなさい!!」
紺野の声が、広い境内に響き渡った。
下から、お参りにきたのか、階段をのぼってきていたカップルが驚いたように紺野を見る。
紺野はそんな事はお構いなしに、真希の元へ駆け寄り、頭をたれた。
「ごめん!真希ちゃん…私、私…あの時、あの時のあれ…あれは、全部」
「嘘だったんでしょ?」
後藤が首をこちらに向けた。
なぜだか穏やかな顔をしているように見える。
「ヨーヨー、失くしたなんて嘘。階段上ってる途中になくしたって。どっかいったって。横の森のどっかにあるはずだって。
そんなの全部、嘘だったんでしょ?」
紺野は、目を見開いたまま後藤を凝視した。
穏やかな表情をしているが、目がどこか寂しげであり、落胆しているようにも見える。
ばれていた。
自分が何年間もいえなかった嘘は、全部ばれていた。
「ごめん、真希ちゃん、本当にごめん…。そっか…気付いたんだ…。そりゃ、大きくなって考えたら分かるよね、子供の嘘だもんね」
「いや」
後藤が息を吐いた。
「あの時も嘘って分かってたよ。全部」
「え…」
「祭りの帰りに、神社寄ったよね。階段をのぼってる途中に、突然あさ美ちゃんがヨーヨーを失くしたとか言って。
あっちの森の中にあるとかいって、その辺の真っ暗な階段の横指さしてさ。
そんなの、子供でも分かったよ。そんな階段からそれた森の中に、あさ美ちゃんがヨーヨー落とすはずないってさ。
一応、これでも二歳は年上なんだよ?あの時はそれが本当か嘘かくらい、分かる年だったよ」
「じゃぁ、どうして…」
「嘘って分かってたのに行ったのかって?」
後藤は笑顔になっていった。
「あの時のゴトーの性格も、分かるでしょ?」
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:35
- 紺野は、昔からずっと幼馴染の後藤に憧れを抱いていた。
二つ歳が違うとはいえ、そんな事は紺野にとってどうでもいいことで、常に一緒にいて、周りから褒められ、
紺野ができないことでもなんでもできる後藤を羨ましく思っていた。
紺野は後藤に憧れていて、だからこそ後藤が好きだった。
だが同時に、あの時は自覚すらしていなかったが、同じくらい後藤に嫉妬心を抱き、一度でいいから後藤に勝ってみたいという闘争心も、常日頃抱いていたように思う。
そんな小学校一年生の夏休みのある日。
今日と同じように祭りを、紺野の親、そして後藤の親も一緒にみんなで見に行った日だった。
二人は毎年恒例のヨーヨー釣りをした。
そして案の定、それもお決まりのように紺野は一つも取れず、後藤は簡単に何個も釣り上げていった。
紺野が必死にずっと狙っていたそのヨーヨーも、後藤が取った。
そして後藤はそれを紺野にくれた。
嬉しかった反面、なんだか悔しかった。
祭りの帰りに、神社へ行くことになった。
階段をのぼっている途中、後藤はいつもの調子で紺野に話をしていた。
沢山とったヨーヨーや他の景品などを紺野に見せびらかし、自慢話をしていた。
それが紺野を挑発していたのか、素自慢をしていたのか、今になっては分からない。
だが小学生になった紺野は、自分がもう少し成長したと思っていたため、そんな後藤の自慢話は羨ましい気持ちを通り越し、激しい悔しさへと変わっていた。
「何でも出来る、自分は何でも出来るよ」
それを含んだ言葉を何度も繰り返す彼女に、紺野は少し悪さをしたくなった。
ヨーヨーを、階段でのぼってくる途中に落としたという嘘を言ったのだ。
取りに行こうとしたが、階段から少し外れた木々の中へ入ったため、自分は恐くて取りにいけない、と。
真希ちゃんは何でも出来るから、真希ちゃんなら取れるはずだ、と。
あれはとても気に入ったヨーヨーで、見つけてほしいという事を伝えた。
後藤は紺野の嘘にまんまとはまり、階段を少しおりたところで、横の木々の中を覗いた。
紺野はどきどきしながらその姿を見つめていた。
自分の嘘に後藤がひっかかっている。
自分はやっと後藤に勝てたのだ。
そう思った時、後藤がもう一歩足を踏み出した。
その途端だった。
前日に雨が降っていて土が緩くなっていたせいか、後藤は足を滑らした。
そのまま、ふもとまで転がらなかったのは不幸中の幸いだったが、長い階段の途中にある広いコンクリートでできた空間の上に転がり落ちた。
後藤の頭からは血が出ていた。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:35
- 「なんで、なんで嘘って分かってたのに?」
紺野は、左の額にある後藤の縫い傷に目をやった。
長い年月が経つのにこの傷が消えていないという事は、きっとそれは一生残るものだろうと紺野は予想していた。
その傷を見るたびに、心が痛む。
「だからほら、ゴトーの性格。あさ美ちゃんの前ではさ、いつでもかっこよく完璧な人間でいたかったんだよ。負けず嫌いだったしね。
あ、それは今もだけど。とにかくさ、あさ美ちゃんには負けたくなかった。というか、常にゴトーが一番でいたかったんだよ、あさ美ちゃんの前では。
だから、あさ美ちゃんがあの嘘を言ってきた時、あの時も一泡吹かせてやろうって思ったんだよ」
紺野は虚をつかれたような顔をした。
意外な言葉だった。
紺野の前でいつも完璧だと思っていた後藤の言葉とは思えなかった。
昔の後藤のあの完璧ぶりは、後藤が意識して頑張って、無理をして紺野にみせていたという事なのだろうか。
憧れだった後藤も、後藤なりの悩みがあったということなのだろうか。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:36
- 「あさ美ちゃんが、ヨーヨーを賽銭入れの後ろに隠したの、知ってたんだ。何すんのかなって見てたら、あんな嘘言い出すからさ。
あぁなんだ、ゴトーを騙したいんだな、って思って、その手にはのるかって思って。
そん時にちゃんと言っとけばよかったのにね。
探しに行くふりして、絶対あるはずないのに、あるはずない所から私が持ってきて見せようって思って。
賽銭入れのとこに隠したヨーヨーを服の中に入れて、わざと騙されたふりして、あそこに行ったんだよ。
で、そこで、見つけた〜っていって、あさ美ちゃんにヨーヨー見せてさ、驚かせたかった。
あさ美ちゃん、どんな顔するのかな、悔しがるかな、って。そんな事ばっかり考えてた」
紺野は唖然とした表情で後藤を見つめていた。
自分が何年間も隠してきたと思っていた嘘はその時にばれていて、尚且つ後藤も嘘をついていた。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:36
- 「だから、あれはゴトーが悪いんだよ?あさ美ちゃんが謝る事ないよ。それにもう、昔の話しだし」
そこまで言って、後藤は再び前を向いた。
景色を見ているのかと思うと、俯き加減に階段の中くらいを見つめていた。
昔の事を思い出しているのだろうか。
「まぁ昔の事、っていっても、そう簡単に割り切れないか。ゴトーも、いつあさ美ちゃんにこの話いうかってずっと迷ってて、
いつの間にか、こんなに月日が経っちゃったしさ。本当は退院した後、すぐにでも言いたかったんだけど、ゴトーもまだガキだったから、
どっかで、あさ美ちゃんがあんな嘘つくからだ、みたいな感じで、あさ美ちゃんのせいにしててさ。本当、馬鹿だったよ」
後藤が苦笑した。
彼女の口から自分が馬鹿だった、なんていう謙遜した言葉が出るなんて、昔の紺野には想像も出来なかっただろう。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:36
- 「なんだ…そうだったんだ」
「うん、そうだったんだよ」
紺野は後藤の言うとおり、馬鹿だなと思った。
お互い、お互いの嘘に苛まれて、苛まれ続けて、それを打ち明ける機会を伺いながら、何年も経ってしまった。
ちょっとよく考えれば、きっとたいしたことでもないのに。
ちょっとどっちかがきっかけをつくっていれば、きっともっと普通に、すぐに誤解は解けていたのに。
そのちょっとが出来なかった、お互いに。
案外、自分と後藤は似てるのかもしれないな、と思った。
負けず嫌いで、自分から折れるのは嫌で、意地っ張りで、だからガキっぽくて。
後藤がまだ笑っていたので、紺野もつられて笑ってみた。
本当、馬鹿だったよねーうちら、なんていいながら。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:37
- 一通り笑った後、後藤はふぅーっと一つため息をついて、紺野を見た。
「まぁその、そんなこんなでさ。また昔みたいに、ゴトーと友達やってくれる?」
ストレートな言葉に、紺野は少し照れながら、しかし大きく頷いた。
「うん…。また、前みたいに、遊ぼうね」
「この階段で?」
言った後、二人はまた大きく笑った。
昔、あれだけ大きく感じたこの階段も、今ではなんだか小さく見えた。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:37
- 完
- 17 名前:25 the little piece of lies 投稿日:2006/08/20(日) 23:37
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- 18 名前:25 the little piece of lies 投稿日:2006/08/20(日) 23:38
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- 19 名前:25 the little piece of lies 投稿日:2006/08/20(日) 23:38
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