24 夏のカイダン
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:20
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24 夏のカイダン
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:20
- まぁ、夏だし。
気持ちは分かるんだけど、ねぇ・・・・・・嘘。全然わからない。
こいつらの思考回路は、時々、理解できなくなる。
いや。一つだけわかること。
この二人が絡むと、大抵、ロクなことがない。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:21
- 「なにしてんの。こんなところで」
そんなもの、見れば一目瞭然なんだけど。
無視するのも失礼だと思って、取りあえず尋ねてみる。
「怪談たいかーい。うへへ。ガキさんもやるぅ?」
「あ、ガキ。ちゃんと買ってきてくれた?」
こいつらは・・・もう。
あたしは、なにが楽しいのか知らないがニコニコと笑みを
浮かべるクラスメイトと、人が手にしていたスーパーの袋を
がさごそと漁る幼馴染を交互に見比べ「はぁ」と溜息をついた。
午後六時。夏真っ盛りとはいえ、いかんせん田舎道。
ついでにここは山に囲まれて、他よりも日暮れが早い。
つまり、あたりは真っ暗で。
足元を見るのさえ、結構危うかったりもする。
それなのに、こいつらは。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:21
- 「あのさ、二人とも。夏祭りは、もう終わったよ?」
それとなく、遠まわしに言ってみる。
「え、知ってるよ?」
「どうしたガキー。暑さでおかしくなったか?」
けらけらと笑う二人。
ダメだ。こいつらにカーブは通用しないらしい。
ならばいざ、直球勝負。
「なんで、階段で怪談なんか・・・」
自分で口に出してから、ふと思う。
まさか。いくらコイツらでも・・・いや、むしろ、この二人
だからこそ、やりかねない。
「・・・怪談だから階段?え、ってかシャレ?」
「ガキさーん。言ってることわかんなーい」
「カイダン、カイダンって連発しすぎやし」
パシられた上に、笑われた。
この二人は、あたしを一体なんだと思っているのだろう。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:22
- 始まりは、一本の電話だった。
少し早めの夕飯も食べ終わり、部屋でくつろいでい時だった。
床に放りっぱなしだった携帯が激しくバイブを鳴らし始める。
誰だろう、珍しい・・・。
そう思いながらディスプレイを見たあたしの背中に走ったの
は、汗じゃなくて、悪寒。こう、ものすっごい嫌な予感。
「・・・もしもし」
それでも、一応は電話に出てやるのだから、なんてあたしは
慈悲深いのだろうと思う。そんなあたしの気持ちを知ってか
知らずか、挨拶もなしに電話の向こうの彼女は、早口であたしに
実に身勝手に買い物を言いつけた。
『ガキ?あのさ、コンビニでポテチ・・・あ、コンソメな・・・と
お茶、なんか適当に買ってきてくれん?
もちろんお金はあとでちゃんと返すから。暇なんよー。今』
どこにいるのかと尋ねて見れば『神社』と実にあっけらかんと
した返事。呆然としているあたしに「じゃぁ待ってるでー」と
言い残して、電話は切れた。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:22
- なんなんだよもう・・・なんて思いながらも、仕方ないなぁと
あたしは財布と携帯を掴んで外へ出る。
お母さんには友達の家に行くと言っておいた。
鍵がさしっぱなしの自転車のスタンドを上げてサドルに
またがり、目的地は近所のスーパー。
頼まれたものをかごに放り込むその手つきは、少なくとも
穏やかではなかったと思う。代金を払って、はやり多分やや
乱暴なんだろう勢いで袋に商品を詰め込んで、次に向かうは
よく夏祭りをする神社。入り口にいないので、自転車を置いて
階段を登ってきてみた。
それで今の、この状態。
ちなみに二人がいたのは、階段の中腹。
なんで一番下にいないのかとか、逆にどうして一番上に
行かないのかなんてことは、考えない。これが二人だから。
だから、どうしてそもそもこの二人で怪談大会を始めたのか
なんていう問いは、あえて聞かないでおく。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:23
- 「大体、なんであたしなの!田中っちとかシゲさんとか
まこっちゃんとか紺ちゃんとか・・・いっぱいいるでしょ!」
「あー・・・田中ちゃんとシゲは留守電で、麻琴は留学中やろ?
あさ美ちゃんは勉強するからって携帯途中で切られたんよ」
勉強熱心だよねぇ・・・と感心したように頷く愛ちゃんと、その
隣で「うんうん」と相槌を打っているカメ。
「っていうかカメ。あんたも受験生でしょーに!」
「ガキさんもだよ?」
なんだか突っ込む気も起きなくなって、あたしはそのまま
石段にしゃがみこむ。「なんか怖い話してよぉ」とせがむ
二人を、最初は無視していたけれど、あまりにもしつこいので
あたしは愛ちゃんの手の中からお茶のペットボトルを奪って
口をつけてから「あー。わかった。参加してあげる」と言った。
「ホント!?」
目を輝かせる二人。どうやら、二人で話しているのも退屈だと
いうのは、本当だったらしい。あたしはわざと声のトーンを
落とし、ゆっくりとした口調で口を開いた。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:23
- 「かごめかごめ。知ってるでしょ?」
「うん。知ってる」
「小さいときとか、よくみんなでやったなぁ」
うん、それでね・・・と続けようとしたとき、カメがパンっと
手を叩き「わかったぁ!」と声を上げた。
「それはこの神社だ、って言おうとしたでしょ」
「・・・え?はは、そんなわけないじゃん!」
図星だ。だてにクラスメイトをやっているわけじゃない。
いや、よく意味がわからないけど。
「なんだガキ。つまらんなぁ」
「いや、だから違うって」
「じゃあどんなの?続けてよ」
二人の期待するような表情を見ながら、あたしの頭の中には
「ヤバイ」の一言。怪談話なんて、元々そんなに知らないし。
「っていうかさ、ここって飯田先生の実家だっけ」
とりあえず、話題を変えることを試みてみる。
飯田先生はあたしたち三人とも知っているし、今の話題を
そらすだけの十分な話題を、日々提供してくれている。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:24
- 「そういえばそうだ。バレたら怒られんじゃない?」
「つーかいるんか?あのヒト」
意外なほどに、二人はこの話題に乗ってきた。
怪談は・・・もういいのだろうか。いや、きっともういいのだ。
彼女たちは、そういう子たちなのだ。
飯田先生や、彼女と仲のいい安倍先生の笑い話で
しばらくの間、盛り上がる。それが不意に途切れたのは
上の方から聞こえてきた、小さな音のせいだった。
かつーん。
―――――よんだーん
「え?」
ポテチを咥えたカメが、呆然とした顔であたしを見る。
あたしがわけがわからず愛ちゃんの方を見ると、愛ちゃんは
ひきつった表情で、階段の上を見上げていた。
「ちょっと、どうしたの。二人とも?」
なんだかあまりにも普通じゃないその様子に、少し怖く
なって声をかけてみる。すると、答えてくれたのは愛ちゃんで。
「さっき、ガキが来る前に話しとった怪談があるんやけど・・・」
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:24
- 昔々。小さな女の子がこの神社で遊んでいたらしい。
彼女は引っ込み思案な子で、なかなか友達ができず、いつも
この神社の石段で遊んでいた。彼女がよくやっていたのは
石蹴りで、それはたわいもない、段の一番上から石を蹴り
次に石の落ちたところからもう一度その石を蹴り・・・結局
何回で石が下まで届くかを数える遊び。
その日も、女の子は石蹴りをして遊んでいた。
いつものように石を蹴ったとき、履き方が悪かったのか
靴が片方、石と一緒に飛んでいってしまった。女の子は靴を
取りに行こうと、けんけんをしながら階段を下りる。
買ってもらったばかりの靴下を汚すのが嫌だったのだ。
けんけんけんけん・・・女の子は、順調に階段を下りていく。
階段には一箇所だけ、どういうわけか幅の狭い段があった。
しかし、時刻はもう夕方近くで、足元は見えづらい。
女の子はそこで足を滑らし、階段を転がり落ちてしまった。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:25
- 「女の子は、打ち所が悪くてそのまま亡くなったんやって」
「けど、その子は今でも石蹴り遊びをしてるらしいよ・・・」
愛ちゃんとカメは声を潜めてそうしめくくった。
あたしは思わず、自分の座っている石段を確認する。
「ちなみに、その例の石段はここより少し上の方だよ」
「た、確かめたの?」
「嘘だと思ってたんやけどね・・・」
なんてことだ。ってことは、これはまさか。
二人がどっきりを仕掛けていない限り、ここにはあたしたち
以外は誰もいないはず。それに、どっきりなんかじゃないのは
彼女たちの表情を見ていればわかる。
ほら、やっぱり。
二人が絡むとロクなことがない。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:25
- こん、かつーん・・・
―――――さんだーん
だんだん、声が近づいてきている気がする。
かん、かつーん・・・
―――――ごだーん
「ちょっと・・・これは・・・」
あたしたちは顔を見合わせ、一目散に逃げた。
それこそ落ちるんじゃないかって勢いで階段を駆け下りて
止めてあった自転車にまたがって走る。
後ろの方からカメと愛ちゃんの非難めいた声が聞こえたけど
ごめん、と呟いて、聞こえなかったことにした。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:27
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- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:27
- かん、かん・・・と人気のない階段に、二人分の靴音が響く。
やがてその音が止まった場所にはポテチの袋とペットボトルの
お茶が二本、放置されたままになっていた。
それを拾い上げながら、一人の女性が口を開く。
「ちょっとカオリ。よかったの?あの子ら怖がらせちゃって」
「えー?最初にやれって言ったの、なっちじゃん」
まぁそうだけどねー・・・と笑って、なつみはもう一度、足元に
あった石ころを、ぽーんと遠くの方に蹴飛ばした。
「だって、話が聞こえてきちゃったんだし?」
早く帰れっていう警告っしょ、と特に悪びれる様子もない。
「このあたりも、田舎とはいえ、平成の日本だしね」
「・・・ほら、もうひとつー」
「いやぁ・・・直接怒るより、よっぽど効果あると思うよ」
コン、からんからーん、と微かに石の転がる音が耳に届く。
「さんだーん」
小さくそう呟いて、二人はにっこりと顔を見合わせた。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:27
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- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:27
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- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:27
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