23 桜が散る頃に
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:01
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23 桜が散る頃に
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:02
- あれは蒸し暑い夏の日の数ヶ月前、春先の事だった。
私はとある小中一貫教育の学校に赴任した。
転勤に至る理由はいくつかあるのだが
残念ながら今回の話には関係ないのであえて説明はしない。
私は無駄な事は言いたくないのだ。
初出勤のその日に私の歓迎パーティがあった。
私のような転勤組や新人を含めて大体20人ほどの先生たちが
駅前の居酒屋に集合したのだが、酒が飲めればなんでもいいのか
みんな私の歓迎そっちのけでビールやら焼酎を飲んでいる。
そんな先生方の前で私は氏名、年齢、担当科目、家族構成、
趣味などを1分ほどに簡潔にまとめて自己紹介した。
誰も聞いていなかった。
自己紹介を終えて席に戻ると、隣に座っていた女の先生、
年の頃は30前後、嫁に行きそびれた感でいっぱいの中澤という先生が
ビール瓶片手に飲んだくれて私に喋りかけてきた。
最初はそれなりにまともな事を喋っていたのだが
学校について色々聞いている内に急にひそひそ話になった。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:02
- 「先生はまだ知りはらへんでしょうけど・・・実はこの学校出ますんや」
「出るって甲子園でっか?そりゃめでたいでんな」
「ちゃいまんがな。アレですわ。オバケが出ますんや」
「オバケって言うと松坂みたいな怪物選手でっか?」
「アホか。あんた野球から離れなはれ。幽霊ですわ。生徒の」
その生徒の名前は個人情報保護法の都合で教えて貰えなかったが
1年ほど前に女の子が学校行事中に死んでしまったらしい。
死ぬ前は毒にも薬にもならない大人しい生徒だったのに
死んでから学校で時々、奇妙な出来事を起こすようになったらしい。
もしも生きていたら卒業式の後でお礼参りをするタイプやったかも。
ほら見てください。私にもこんな嫌がらせしますんや。
ここ1年で急に小皺が増えましてなあ。と中澤先生はため息を吐いた。
私は適当に相槌を打ちながら半信半疑で聞いた。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:03
- 私がその奇妙な出来事に出くわしたのは
新学期が始まってわずか1週間だった。
理科準備室からビーカーやらリトマス試験紙が無くなっていたのだ。
私はどうせ生徒がいたずらで盗んだのだろうと思った。
前の学校でもいたずらで備品を盗む生徒は居た。よくある事だ。
科学を愛し科学と共に死のうと考えている私には
オバケだとか幽霊だとかは人間の愚かな妄想に過ぎなかった。
だがこの備品窃盗事件は序章に過ぎなかった。
それからだった。本当に奇妙な出来事が起こり始めたのは。
「きゃあああああああ」
昼休み、クラシックが流れる校舎に悲鳴が響いた。
私は普段は面倒な事には関わらない事にしているが
その悲鳴が女生徒のものだったので慌ててその声を辿った。
声は女子トイレの中から発せられていて
こんな日の高いうちにおっさんが女子トイレに入るのは
なんだか躊躇したし、不覚にも興奮したが
立場上仕方ないので女子トイレの中に入った。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:03
- 中には女生徒が二人居た。
ひとりは夏焼雅、かわいいので新学期早々チェックしておいた。
もうひとりは雅ちゃんから佐紀ちゃんと呼ばれている
まるで小学生のような体格の女の子だ。
「どうしたんだ?」
「あの・・・・トイレの中に・・・・」
私は雅ちゃんの指差す個室を覗いた。真っ赤だった。
血だろうか?恐らく血だ。血に違いない。
吐き気がした。便器が血まみれになっていた。
「な、なんだこれは?」
「佐紀ちゃんがトイレに入ったらこんな事に」
「あ、あの・・・・先生いいんです。雅ちゃんちょっと・・・・・」
佐紀ちゃんが顔を真っ赤にして雅ちゃんに何か囁いている。
私は当然のように聞き耳を立てた。
「だから来たんだって」
「やっぱりオバケでしょ?やっぱりあの子、私たちの事恨んで・・・・・」
「じゃなくて私にもアレが来たって」
「アレって?やっぱりあの子でしょ?違うの?」
「違うって。女の子のアレが・・・・」
佐紀ちゃんが何を言っているのかわからなかったが
私はとりあえず深呼吸してみた。女子トイレに匂いがした。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:04
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またある日の事だった。今日は午後の授業が無いので
私は体育館あたりをブラブラしていた。
すると運よくというか何と言うか、小学生が体育館を使うようだった。
小学生が群れを成して体育館に吸い込まれて行く。
私はその時出会ったのだ。誰に?とびきりの美少女に。
その子は小学生とは思えないほど発育が良かったが
小等部の体操服を着ているから小学生に違いない。
私はゼッケンで名前を確認しようとその子の背中に回り込んだ。
「馬鹿」と張り紙されていた。名前か?いや多分違う。
どうやらこの子はいじめられているようだ。
前に張ってあればと思うと少し残念だったが
私はその子を呼び止めて軽く背中とか肩を触りながら
背中の張り紙を剥がした。背中のゼッケンを確認する。
どうやらその子は「菅谷」という名前らしかった。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:06
- 「いじめられているみたいだな、菅谷」
私がそう言うと菅谷たんは驚いたような困ったような顔をした。
「どうしてうちの名前を・・・・・」
背中に書いてあると言うとますます驚いていた。
どうして驚いているのかよくわからなかったが、
菅谷たんに張り紙を見せた。
「知らなかった。馬なんとかって書いて、すがやって読むんですね」
私はそうだと答えた。
「じゃあ、これは何て読むんですか?」
菅谷たんは肩越しに自分の背中を指差した。
「それもすがやと読むんだよ」
菅谷たんは呆然とした顔で私を見ていた
「梨沙子。なにやってんの?」
声でわかった。雅ちゃんだ。どうやら遠巻きに見ていたようだ。
危なかった。菅谷たんに変な事しないでよかった。
「すいません先生。この子馬鹿なんで」
「馬鹿じゃないもん。漢字テストで百点とったもん」
「じゃあ見せてよ。無いんでしょ?」
菅谷たんは何か反論した。何を言っているのかわからなかった。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:06
- 雅ちゃんは私の手から張り紙を受け取るとビリビリと破った。
「また張り紙。やっぱりあの子の呪いかな?」
「うちはのろくないもん」
雅ちゃんは菅谷たんを無視して私に話をし始めた。
「あの子が死んでから変な事ばっかり起こるんですよ。
あの日、私がお風呂に入ってる時も・・・・」
お風呂。私は雅ちゃんの話に真剣に耳を傾けた。
「お風呂に入って身体を洗っている時でした。
なぜか誰かに見られてる気がしたんです。
視線っていうかそういうのを感じたんです。
振り返るのは怖かったから鏡で後ろを見たんです。じゃあ・・・・
一緒にお風呂に入ろうって梨沙子が抱きついてきたんです!」
菅谷たんが恥ずかしそうに雅ちゃんの顎の動きを止めようとしたけど
雅ちゃんは話を更に続けた。
「この子本当に甘えん坊なんですけど、最近ひとりでお風呂に入るって
言ってたんです。でもオバケが怖いからひとりで入るの嫌だって。
もう中学生になるんですよ、それなのに」
「みや言っちゃ駄目だって」
ふたりは私の前でエッチじゃない意味で揉み合いになった。
それを見ながら私はオバケになりたいと思った。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:07
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中間テストが終わって、私は理科準備室で採点をしていた。
他の先生はもう作業を終えたのか家でやっているのか
もう学校には居なかった。
学校というのは冷静に見ると非常に無機質な建物で
静まり返った校舎は妙な威圧感がある。
ホルマリン漬け、人体模型、硫酸銅水溶液の深い蒼。
なんだか本当にオバケが出そうな雰囲気がするので
私は早く終えて録画しておいたアニメを見ようと急いで採点した。
採点を終えて準備室の外に出ると日が落ちてほの暗かった。
嫌な感じの空気だ。足早に廊下を歩いていると
私を引き止めるようにうふふふと気味の悪い声がした。
振り返ってはいけない。そう思ったがかわいい女の子の声なので
声のほうを見ると階段で女の子が座り込んでいた。
目を逸らそうとしたが出来ない。パンツが見えていたからだ。
白だった。まるで幽霊の白装束を思わせる純白だった。
私の心臓はまるで全力で走った後のように高鳴った。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:08
- 「き、君。こんなところで何をしているんだ?」
「先生、寂しいんですぅ」
女の子は甘えたような甘い声を出した。
これが死んだ生徒?オバケなのだろうか?
「おい、君がオバケなのか」
「オバケ?違いますよぅ。桃子って呼んでください」
桃子と名乗った女の子はすっと立ち上がると
私のほうに歩いてきた。どうやら足はあるみたいだ。
落ち着け。私は深呼吸した。
「桃子ちゃん。おうちに帰らないの?」
「帰る家がないんです。先生助けてください・・・・」
私の腕に擦り寄ってくる。触れられている感触がある。
「な、何が望みなんだ」
「じゃあ・・・・・ももと一緒にデートしてくれませんか。
何か美味しいものを食べたいです。そうですねぇ・・・・
すかいらーくで食事とかどうですか?」
桃子は恥ずかしそうに言った。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:08
- 私はこの子を不憫に思った。
死んでこの世の未練がすかいらーく程度なんて。
すかいらーくなら私の薄給でもなんとかなる。
私は行こう、いくらでも食べていいぞと言った。
桃子は嬉しそうだった。
次の日、学校に行くと他の先生方の視線が冷たかった。
挨拶もしてくれなかた。ひそひそ話が聞こえる。
なんだか居心地が悪いので職員室を出ると
中澤先生が追いかけてきて私に話しかけた。
「先生、昨日何してはりました?
朝から保護者の方から電話があったんです。
おたくの学校の先生が昨日の夜、生徒とご飯食べてホテルに消えたって」
私は言葉を失った。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:09
- 確かに桃子とご飯を食べたがそれだけだ。
ホテルになんか行ってない。手を握ってきたから握り返しただけだ。
帰り道、成仏しなさいと2万円渡してそれで終わったはずだ。
いやそんな事より、そもそも私は理科の地味な先生だ。
この学校の先生だと知っているとは何者だ?学校マニアか?
「あれ?先生ちゃうんですか?とにかくこれ以上変な噂が出たら
色々問題になりますから気をつけてくださいね」
頭が混乱していた。桃子は幽霊だったのだろうか?
誰かが見ていたのだから実体があったのだろうか?
「先生、おはよーございます。うふふふふ」
背筋が凍った。桃子だった。成仏しなかったのか。
「先生またご馳走してくださいね。待ってますよ。
おごってくれなかったら・・・・うふふふふ」
桃子はそう言うと去っていった。
私はもしかしたら何か恐ろしいものに取り付かれたのかも知れない。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:09
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- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:09
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- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 23:09
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