15 ゲーム

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 21:55
15 ゲーム
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 21:55

「ねぇ」
軽く肩をたたく。
「ちょっと、いいところなのに」
不機嫌そうに睨みつける。
「何、それ!」
「だめ」
二人の追いかけっこが始まる。

「もう、さゆ・・・
 初めてクリアできるはずだったのに」
「ごめん、えり。
 でも、逃げなくてもいいじゃん」
「だって、絶対邪魔するに決まってるし」
「そんなことしないよ」
「わからないよ」
文句の言い合いも、たわいのない会話へと変わっていく。

3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 21:56

いろんな話題が乱れ飛ぶ。
何度か聞いた話もあった。


「そうだ!」
絵里は突然バッグの中をあさり始めた。
「何?」
不思議そうに見つめるさゆみ。

「これ一緒にやろう!」
「それ何?」
絵里が持っていたのは真っ白な箱。
何のゲームかまったく予想もつかない。

「絵里も格闘ゲームってことしかわからないんだ。
 前の仕事のときに面白いからやってごらんてもらたんだけど、
 なかなかやる機会がなくてさ」
絵里は苦笑いを浮かべて舌を出す。
その様子にさゆみは首を傾ける。

4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 21:57

「始まった」
派手な音楽の中、画面が表示される。
格闘ゲームだった。

「あまり興味ないんだけど・・・」
「一度でいいからさ」
興味のないさゆみに押し付けるようにコントローラを渡す。


「いけっ!」
「ちょっと待って、今のずるい」
「そんなのゲームだもん」
「それはないよ」
ゲームをやっていくうちに、さゆみものめりこんでいく。
大声を出しながら、ボタンを押しまくる。


しかし、何度か対戦すると飽きてしまう。


「あぁ〜、何か同じだよね」
「うん、もういいよ」
「このゲーム、他の人にあげたら」
「そうだね」
文句を言いながらも、惰性でゲームを続ける。
仕事が始まるまではかなり時間がある。

「つまんないね」
「うん」
さゆみの言葉に絵里も頷く。

5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 21:57

「これなんだろう?」
「何?」
さゆみの言葉に絵里が画面を覗き込む。

「どうしたら、こんな画面でたの?」
「しらない!適当にいじってたら、出てきた」
「ふーーん」
新たな展開に二人はゲームにのめりこむ。


「えっ・・・」
「何これっ」
二人の目が大きくなる。
画面上には、娘。のメンバーの顔が並ぶ。

「面白そうだね」
「そうだね・・・」
「誰にする?」
「えりはれいなにする」
「では、藤本さんにしよう」
「えりはえりにしないの?」
「だって、ゲームのえりが傷つくのは嫌だし・・さゆは?」
「こういうゲームは似合わないから
皆が守ってくれるお姫様とかだったらいいけど・・・
それにこのファッションって藤本さんやれいな好みでしょう」
画面に登場した人物が着てるのは、髑髏や般若系の服ばかり。
「これが似合うのは、決まってるよね」
「そうだね」
二人はいろいろ文句を言いながらもゲームをスタートさせた。

6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 21:58

般若の服に木刀を持つれいな。
髑髏の服に鎖を持つ美貴。

二人がステージ上に立つ。

「ゲームだけどリアルだね」
「二人とも似合ってるよ」
絵里とさゆみはその出来にびっくりしていた。
「でも、藤本さんは少し無理があるかな・・」
「無理というより、その世界の人そのものだよね。」
「れいなは少し軽い感じかな」
いつの間にか解説者気取り。


派手な音楽と光が二人を包む。
それがスタートだった。

先に攻撃を仕掛けたのは美貴。
鬼のような形相で鎖を振り回す。
れいなもぎりぎりで鎖をよけながら反撃する。

一進一退の攻防が続く。

「やるね、さゆ」
「一度、ゲームしたからね」
二人の熱も一気に上がっていく。

7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 21:58

れいなと美貴はボロボロになっていた。


絵里とさゆみの指先が激しく動く。
二人ともゲームにはまっていた。

「いけっ!」
「それっ」
絵里とさゆみのテンションも最高潮だった。


「けっこう、反応が本人っぽいし」
「そう! 二人の話し方とか、そっくり」
あまりのリアルさに勝ち負けを忘れる。
いろいろ操作し、その反応に一喜一憂する。


そして、ゲームは終わりを迎える。
エンドレスという言葉はない。


鎖がれいなの脳天を捕らえる。
木刀が美貴の口へと突き刺さる。

結果は両者相討ちだった。

8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 21:59

「ふぅ」
「疲れた」
二人はそのままぐったりした。
気づけば、汗をかいている。

「面白かったね」
「うん、予想と違ってた。
 藤本さんとれいなの性格よくでてたよね」
絵里は時計を見た。
仕事が始まるまでは、まだ時間がある。

「もう1回やろう」
「うん」
さゆみと絵里は再スタートさせようとゲームをいじくるが、スタートできない。
「どうして!」
どうにもならないもどかしさだけが募る。

何度やってもゲームは再スタートできなかった。
それどころか、ゲーム自体が立ち上がらなくなってしまった。

「もう!」
時計を見ると、そろそろ化粧を始めないといけないなっていた。
仕方なく、ゲームをしまう絵里。
さゆみも残念でならない。

9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 21:59

化粧を始めようしたときだった。


ドンドンドン
扉をノックする音がした。

「どうぞ」
いつものように返事をする。

そこにはマネージャの姿。
「今日の仕事は中止だ。
 明日以降のスケジュールも変わるから」
その言葉に絵里とさゆみは首をかしげる。
明らかに雰囲気が違う。

「どうしたんですか?
 いつもと態度が違いますよ」
「詳しいことはわからないが、藤本と田中に何かあったみたいで」
「えっ・・・」
「何かわかったら、連絡するから。
 今日はもうこれで終わりだ。事務所に戻るぞ」
マネージャは急いで部屋を出た。
「何だろう?」
「誰か知らないかな」
携帯を取り出し、メールをチェックするが受信メールはない。
「あとでまた聞いてみよう」
帰る準備を始めた。

まさに、そのときだった。

10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:00

バチッ
突然、大きな音と強烈な光が二人を襲う。

「きゃーーーーー」
「いやぁーーー」
二人は頭を抱えながら、その場にしゃがみこむ。
周囲は真っ暗になっていた。

「停電?」
画面からこぼれる光がお互いの顔を照らす。
弱い光だが、お互いの存在を確認するには充分だった。
「何で・・・」
「まじっ・・・」
お互いの顔を確認すると、安心したのか思わず文句が口に出る。
「さゆ、いい?」
「うん」
絵里はさゆみの手を引っ張ると入り口の方へと歩く。

「あった・・」
絵里は安堵した声でつぶやく。


カチッ、カチッ、カチッ・・・
スイッチのボタンを押してみるが、蛍光灯はつかない。
「何してるの?かわってよ」
さゆみがかわって押してみるが、状況はかわらない。

11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:00

ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ・・
ドンドンドン、ドンドンドン・・・
「誰かいませんか・・」
扉は開かなくなっていた。
「助けて!」
そして、絵里の呼びかけに応じるような気配もない。

「このままなんて嫌だよ」
「怖―――い」
画面の灯りを頼りに携帯を覗き込む。

「何でだよ!」
「さっきまで電波届いていたのに!」
怒りに満ちた声が響く。

“圏外”
その2文字に頭を抱える。
携帯を動かしても文字は変わらない。
もちろん、部屋に備え付けの電話もつながるわけがない。

12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:00

10分ほど経っただろうか。
「もう、いい加減にしてよ」
「もう充分でしょう」
変わらない状況に2人のイライラも最高潮となってきた。
同時に恐怖も増す。
必死に声を張り上げて、恐怖心を抑えるがそれも限界に近い。
たった10分が1,2時間に感じる。

「いい加減してよ」
切れた声を上げる。

ガチャガチャガチャ
ギィーーー

「えっ・・」
いきなり扉が開いた。
しかし、目の前には闇だけがひろがってた。
不思議に思いながらも、二人は部屋を出た。

13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:01

「こっちだよね」
「うん」
二人はビルの出口へと急ぐ。

カツ、カツ、カツ・・・
ザッ、ザッ、ザッ・・・
暗闇が続く。
窓からこぼれるはずの太陽の光もない。
非常灯さえ消えている。

「どうなってるの?」
「まじ、大丈夫?」
不安に肩を震わせ、腕を組んで歩いていく。
携帯の光がかすかに足元を照らす。


14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:02

カツ、カツ、カツ・・・
ザッ、ザッ、ザッ・・・
二人の足音だけが闇に消えていく。
通路はまっすぐに伸びる。
どこまで行ってもまっすぐ。
二人の足もだんだんと遅くなっていく。

「大丈夫だよね・・」
不安は大きくなる。


「痛っ」
「キャーー」
さゆみの言葉に驚く絵里。
よく見てみると足元には階段があった。

「びっくりさせないでよ」
軽くさゆみの肩をたたく。

「行く?」
「うん」
二人は腕を組んで階段を上りはじめた。


カツ、カツ、カツ・・・
ザッ、ザッ、ザッ・・・
一歩一歩確かめるように階段を上がっていく。

15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:03

「ふぅ〜」
5,6分は歩いただろうか。
出口らしきところはぜんぜん見当たらない。


「どうなってるの?」
「そんなに広いわけないのに」
口から出るのは愚痴ばかり。
何も変わらない状況に焦りが募る。


「戻ろうか?」
「う・・・うん」
不安は大きくなるばかり。

階段を下りようとした瞬間だった。
「えっ!」
「あぶない!」
絵里の腕を必死につかむさゆみ。
絵里はその場でしりもちをつく。
絵里はしばらく動けないでいた。
お互いの体が小刻みに震えていた。


「どうして!」
「何か悪いことした?」
涙声で叫ぶが返事が返ってくることはなかった。

上ってきた階段は消えていた。
恐る恐る足を伸ばして階段がないか確かめるが、足は空を切るばかり。

仕方なく上へと進む。
動きたくないのが本音だが、中途半端な場所にはいたくない。

10分ほどすると、大きな鳥居がぼんやりと見えた。

16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:03

自分たちがどこにいるかわからない。
考えたくもなかった。
考えれば、余計なことまで考えてしまう。
これ以上、怖い思いをするのはごめんだ。

絵里とさゆみは腕をしっかり組んで歩く。
足音だけがさびしく鳴っていた。


大きな鳥居をくぐると古い神社があった。
二人はその神社へと進む。
石畳が濡れてすべりやすかった。

だんだんと歩幅が小さくなる。

目の前には、木造の建物。
地震が起きたら、すぐにでも壊れそうな感じだった。


近づきたくなくても、足は進む。
誰かいないか、かすかな期待を持って。


あと10メートルで境内というところだった。

ギィーー
音を立てながら、扉が開く。

一瞬、おののく二人。
ゴクッと唾を飲み込む。

息が止まる。
顔を覆った手の隙間から、恐る恐る扉を見る。

扉から見覚えのある人物が出てきた。

17 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:04

「さゆ、えり」
そこには、れいなの姿があった。

「れいな、どうなってるの?」
「教えて」
れいなの口は動くことはなかった。


「ねぇ、れいな!」
近づこうとするが、足が動かない。
必死に動かそうとするが動かすほど足が固まっていく。
頭の中はますます混乱していく。
どこかおかしいと思いながらも、そこまでの余裕はなかった。


混乱すればするほど、思考は止まる。
しばらくれいなを見ているとあることに気づいた。

れいなの服に描かれていた般若の面。
まさしくゲームの中の衣装だった。

絵里とさゆみは顔を見合わせた。
口を動かすも、声にならない。
顔から血が引いていくのがわかる。

18 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:06

絵里とさゆみに思い当たることはひとつ。

絵里はゲームを取り出す。
説明書の最後に書かれた1文。
ゲームを始まる前にここまで読むことはなかった。


“本人同士が実際に対戦するゲームです。
 対戦する相手は十分考えてお選びください。
 なお、プレイヤーも同じ経験ができます。”


絵里には信じられなかった。
さゆみもその1文に絵里への言葉を失う。


「ごめん、れいな」
「本当にごめんなさい」
手を合わせ、頭を下げる。
それしかできなかった。


必死に何度も謝る二人。
だが、れいなの表情は変わらない。

19 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:07

「ごめんなさい」
「ごめん。本当にごめんなさい」
何百回も謝っただろうか、やっと口を開いた。

「ばりムカついた!
二人にはこの戒律を授けるけん」
冷たい声だった。

れいなは空を見上げる。
大きく深呼吸するとさらに言葉を続けた。

「今まで、楽しみにしとったから」
にやりと微笑む。
そして、その視線は絵里とさゆみに向けられる。

あまりの不気味さに背筋が凍る二人。
その姿を楽しむかのように、れいなの視線は別の場所へと向けられる。

「そうだよね」
れいなの視線の先に、美貴が現れた。

「・・・・」
絵里もさゆみも固まってしまった。



20 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:07

絵里とさゆみは呆然と見つめるしかなかった。
怖いとか懺悔とかそういう次元ではなかった。
完全に理解を超えていた。
極端な話、人形にでもなったかのようだった。

そんな中で、れいなと美貴の様子が変わる。


タラ〜
れいなの顔の中心に赤い線が描かれていく。

ポタッ、ポタッ、
美貴の口元から血が滲み出してくる。

れいなの腹部辺りが真っ赤に染まる。
美貴の体全体に赤い斑点が浮かび上がる。


21 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:08

「えりとさゆはかわいい服がよかったよね」
れいなが軽くウィンクすると、絵里とさゆみの服ががらりと変わる。


無意識のうちに次の言葉を飲み込む。
口元が引きつる。
全身の鳥肌がいっせいに立つ。

「許して」
「ごめんなさい」
許しを請うしかなかった。

「何言ってるの!
 これからが面白いんだから」
美貴が笑う。

絵里とさゆみの目の前にゲームの画像が蘇る。
面白いと思っていたものが恐怖に変わっていた。


二人の意志とは関係なく動く体。
手が勝手に伸びていく。
血塗られた木刀と鎖をそれぞれ手にする。

二人が手に持っている凶器。
それは、嫌でも忘れられないものだった。
捨てようにも捨てられない。
手が赤く彩られていく。
ガタガタと音をたてる木刀と鎖。

22 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:08

派手な音楽と光が二人を包む。
それがスタートだった。

地面から響いてくる太鼓の音。
耳の奥まで響く笛の音。
心臓の鼓動がそれらの音を掻き消すように大きくなっていく。
ガタガタと震える奥歯。
何もかもが同じだった。


自らの意志と関係なく動く体。
さゆみと絵里の距離が近づいていく。
何かに引っ張られるようにいきなり足が速く動き出す。


「ダメーー」
「ヤメテーー」
二人の言葉もむなしく響くだけ。


乾いた音と甲高い音が交差する。
そして、鈍い音がその2つの音に加わる。

「キャーーーー」
「イヤァーーー」
絶叫がさらなる効果を生み出す。


絵里とさゆみの思いは一撃ごとにかき消されていく。
一撃ごとに消える希望。
絶叫は諦めの叫びへと変わっていく。

23 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:09

そして、ゲームは終わりを迎える。
何事にもエンドレスという言葉はない。


「そろそろ・・」
「そうね」
二人は顔を見合わせる。
目の前には恐怖で震える人形。


れいなと美貴は同時にボタンを押す。

ポタッ、ポタッ

シューーーーーー
シャッーーーーー
「ギャーーーーーーーー!!」

期待したかのように血と絶叫で空間が埋まっていく。



フィナーレの音楽の代わりに、れいなと美貴の笑い声が響いていた。

24 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:09

「さて、次は誰にしようか」
「誰でもよかよ」
美貴の悪魔のささやきに目を輝かせるれいな。



両手を左右にずらしながら、唇を真っ赤に染める美貴。
真っ赤に染まった右腕を肘から指先へ舌を這わせるれいな。



れいなの手には白い箱が握られていた。


25 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:10

26 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:10

27 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 22:10


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