13 怪談を造ろう

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:20
13 怪談を造ろう
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:20

「……どこに?」

れいなが返すと、絵里とさゆみは大きく溜息を吐いた。
携帯のアプリで起動していたレトロなゲームが、
レトロな電子音と共に操作機体の墜落を告げる。

「れーな、また話聞いてなかったでしょ?」
「…えっと、階段を作るんでしょ? どこに作るの?」

夜の十時を過ぎるのに蝉の声が喧しい。都会の明るさが原因か。
塾から少し離れたコンビニの駐車場。
それぞれ迎えの車を待ちながら、恒例となった他愛ない雑談の最中だった。

「そっちのカイダンじゃないってばぁ。怖い話とかの方」
「え。ああ、怪談ね」

中学三年。
来年に受験を控えたある夏のこと。
進学塾の特進クラスに通う3人は、目前に控えた夏合宿の存在をひどく嘆いていた。
特進の合宿期間は10日間。
山奥の、携帯の電波さえ満足に届かない古びたホテルに缶詰――子供の人権を無視した監禁だと3人は漏らす――にされ、
日がな1日を勉強に費やすという生徒に取っては地獄のような夏の行事だ。
れいなとさゆみは去年も参加した。
二度とゴメンだと親にも抗議したのだが、「これに参加した生徒とそうでない生徒では毎年合格率に大きな差が出る」という塾側の言を理由に却下された。
どうしてか実際ほとんどの生徒が参加する。
来ない生徒は単にヤル気がない生徒というだけなのだが。

塾の規模が全国に展開しているため実力ある講師が代表して教鞭を振るうのだが、
彼らも自分の校舎のランキングが気になる為、他校舎の生徒に核心を教えるのは渋るのが普通だ。
学力的にもたいした恩恵があるとは思えなかった。
得られるとすれば「あれだけ辛い思いをした」という精神的な支えがせいぜい。
あとは「あれだけ払ったのだから」という親の安心か。
どこか詐欺的なカルト宗教じみている。
合宿の授業中は何のキャラ付けのつもりか『必勝』ハチマキを巻くことが強制される為、
じみているどころかそのままカルト宗教なのかもしれない。
受験時には会場前にたむろして「絶対合格するぞー!」とか全員で叫ばされるし。
少なくともかかる経費と夏休みの浪費に釣り合う対価が得られる行事でないのは確かだった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:21
「で、怪談がどうかしたの?」
「怪談を造るの。怖い怪談。それで合宿は途中で中止になるの」

さゆみはいつも言葉が足りない。
3人の中で一番頭が回るのだが。
目配せで絵里に補足を求める。

「だからぁ、こわーい怪談つくるでしょ? 今度行くホテルにまつわるヤツ。
 みんなにそれを広めて、ついでに本当に怪現象とか起こしたりして、上手くしたら―――」
「中止になるの」

引き継いで再びさゆみが言い切る。
塾側も商売だ。
まさか本当に中止にできる望みは薄いだろうが、
怪談を自分達で造るという手段には興味が湧いた。

「面白そう。具体的にはどうすんの?」

問いかけたのと同時に見覚えのある車が駐車場に現れる。
絵里の迎えが来たので、続きは携帯で相談することになった。


  *  *  *


絵里はれいなやさゆみよりひとつ年上だった。
一年ほど病気をして受験が出来なかったらしく、今は二人と同じ学年。
本来の同級生に置いて行かれる焦燥などとは無縁で、
受験生とは思えない緊張感の無さでよく笑う。
少し神経質なれいなにとっては羨ましい能天気さだった。

緊張感があるのか無いのかすらよく理解できないのがさゆみだ。
種類はあるが常に黒いワンピースを着ている。
奇怪な言動のせいもあって学校ではひねりもなく『魔女』などとあだ名されていた。
特進クラスが目標にしている私立受験で必要なのは英国数の三教科だが、
さゆみは不要な理科も得意で、医者の血筋がそうさせるのか薬品を用いた実験や解剖の時には目を輝かせている。
オカルトや犯罪、殺人などと言った一部の十代がよく憧れる分野にも詳しい。
人間は首を斬り落とされても数秒間意識は残ったままだとか、
大麻が含むTHCは人体に及ぼす効果が複雑すぎて他のクスリと違い解明されてないなんて知識が
どこで役立つのかとれいなは甚だ疑問だったが、今回は彼女のオカルト知識が日の目を見たと言える。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:21
「ねぇねぇ、聞いた?」

絵里が意味ありげに声を潜めて問いかけると、
前の席にいた女の子たちは「なにがなにが?」と好奇心に目を光らせた。
合宿所へ向かう観光バスの車内。
3人の計画は実行に移った。

「殺人鬼の話」
「殺人鬼?」

1980年代、ある夏の話だ。
脱獄した一人の死刑囚が、長野県の某村に逃げ込んだ。
通算で20人を惨殺した殺人鬼の名前は藤本美貴。
容姿を餌に被害者を誘い手にした刃物で首を刈る、薬を盛って昏睡させた隙に…などの方法で10数人を殺害し、しかもその肉を口にしたと言う。
県警に追われ村の山奥にあった当時最新のリゾートホテルに立て篭もった彼女は、
発狂して更に8人の従業員の女性たちを惨殺。
戦慄した警官の発砲によりその場で命を落とした。
それでそのホテルというのが―――、

「毎年合宿で使ってる、いま向かってるホテルなんだって」
「えぇえ、うそでしょ〜……。」
「待って。話はここから」

問題が起こったのは事件から13年後の夏、
事件後も学生の合宿や温泉客を中心に何とか経営を続けていた同ホテルでのこと。
一人の客が、ドンドンドンッと部屋の扉が叩かれる音で深夜に目を覚ました。
その客は眠いので最初は無視しようとしたが、あまりにしつこいので不審に思って起き上がった。
ドンドンドンッ。
念のため覗き穴を覗く。
誰もいない。

ドンドンドンッ。
音は続く。
覗き穴の範囲に届かない小さな子供が叩いているのだろうか。
ドアチェーンはかけたまま、客は鍵をゆっくり回した。
ガンッ!!!!!

「チェーンが千切れそうな勢いでドアが引かれて、隙間からは刃物を持った血みどろの女の眼が―――!」
「や、やだやだ! ちょっともう、やめてよそういうの!」
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:21
「しかもその客、何日か後に近くの山で遭難して行方不明になったんだって」
「…うっそぉ。さ、流石にそれはなくない? ていうかホントにいたの殺人鬼なんて」
「嘘じゃないの」

絵里の隣にいたさゆみが乗り出して、
PCサイトの閲覧に向いたブラウザ入り携帯の液晶を女の子たちに見せた。
世界中のサイコキラーに関して考察しているサイトだった。
黒い背景に赤い文字で『藤本美貴』の名が示され、さきほど絵里が語ったのと同じ内容が記述されていた。
人肉食(カニバリズム)についても書かれ、彼女は特に肝臓を好んだなどとも説明されている。
更にさゆみは検索サイトに繋いで『藤本美貴 殺人』をキーワードに検索をかけた。
何種類ものサイトがヒットし、表示されたサイトの記述の一部からそれらが全て同じ藤本美貴に関して論じているのだと判る。
藤本美貴の脱獄方法などを考察したサイトもいくつかあった。
サイトに示されたホテル名は、間違いなくいま自分達が向かっているそれだった。
さゆみはヒットしたサイトから一つを選び、特に13年後の怪談について詳しいものを表示した。

「被害者が出たのはその13年後の事件だけだけど、怪現象自体は毎年のようにあったの」

視えない手に突き落とされた客。
後で聞くと誰も見た覚えがないという消えた従業員。
蛇口から流れる赤い水。
夜中に響くチェーンソーの駆動音。
チェーンソーの音はさゆみ自身、去年の合宿で聞いたものだった。
神妙な面持ちでさゆみがひとつひとつ説明していくと、
女の子たちの表情に戦慄や不安が宿る。

絵里とさゆみの後ろの席で、れいなは笑いを噛み殺すのに苦心していた。
もちろんこれらの話は全てデタラメ、3人による創作だ。
"藤本美貴"なんて猟奇殺人の死刑囚は存在しないし、
そもそも一度収監された死刑囚が脱獄すること自体が物理的に可能かどうかも怪しい。
見せたサイトも全てがさゆみの手によるダミーサイト。
もともとあったサイコキラーに関するサイトの内容をコピーして"藤本美貴"の記述を付け加えただけの
代物を数十種類、アドレスを変えてコピーし膨大な数に仕立て上げたに過ぎない。
内半分にはそれらしい呪いめいた画像を表示するウィルスを仕込んだりもした。
悪戯もここまで来ると職人芸だと、れいなは少しさゆみを見直し、同時に呆れてもいた。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:22
「一番大事なのはここからなんだけどね…」

絵里がまた声を潜める。
女の子たちが唾を飲み身を乗り出した。
気づけば周囲の席のコたちはみな、全部で十人近くが話に耳を傾けていた。

「今年って、例の13年後の事件から更に13年後に当たるらしいんだよね」

ざわめきが起こる。

「本当かどうか判らないけど、今の話を知ったら呪われるんだって。
 例の客が行方不明になったのも、藤本美貴について知った翌日らしいよ」

ざわめきに悲鳴と不平、抗議が混ざった。
れいなは内心ほくそ笑む。
この不安こそ、怪談を広める為に付け入る大きな隙だ。

「だいじょぶ。今の話をまだ知らない二人以上に、三日以内に教えれば助かるって」
「えぇ? まんまチェンメじゃん」

その通り。
呪いの手紙、チェーンメール、例のホラー映画のビデオとシステムは同じだ。
チェーンメールの呪い効果が実際に顕現すると考える者は稀だろう。
しかしそれらは確実に浸透する。
「ありえないけど、もしも本物だったら嫌だ」という小さな不安。
更にメールを転送するだけという不安を解消するのにかかる労働量の軽さ。
それが彼らの増殖を手助けする。
駄目押しにさゆみが、人間のネットワークはただ情報の伝達の為だけにあるのではない、
知識を共有することで知識からもたらされる害をネットのように緩和吸収する機能もあるのだと説明した。
理屈っぽいのが多いこの塾の男子にはこういった論理が効果的だろう。

「あともうひとつ。それでも運悪く亡霊が夜中に尋ねて来ちゃう場合。
 そういう時は部屋のドアの表に『13』って書いた紙を貼っておけば
 扉を叩かれることはあっても中にまでは入ってこれないんだって」

これは計画上のちょっとした伏線だった。
なぜ『13』かについては、藤本美貴が死恐怖症(タナトフォビア)で、
絞首台の13階段を恐れそれが脱獄の動機になったことに由来すると、これもさゆみがもっともらしく説明を加えた。

話が終わるとみな一斉に他の席へ移動して同じ話を伝えている。
中には話す相手がいなくて運転手や引率の先生の方へ行く者もいた。
図った通り既に山奥に差し掛かっており、携帯の電波は不安定だ。
メールや電話での呪い解消は難しくなってきた。
バスの乗員人数からして全員が解消する事は不可能だ。
現地に着けば、たちまちホテル中、他のバスや他県から来る生徒たちにもこの怪談は広まるだろう。
全て計画通りだと想った。この時は、まだ。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:23


  *  *  *


合宿2日目。
計画は見事に進行していた。
既に貸しきられたホテル中ほとんどの生徒が怪談を知っている。
授業中に"藤本美貴"について記述されたノートの切れ端が回ってくることもあった。
ここでは知らないという人間が見つからない為か、
休み時間に一台しかない公衆電話の前に列ができる事態まで起こった。

「石川センセー」

3人は計画をもうひとつ進めることにした。
れいな達の校舎の講師、石川梨華だ。
生真面目で美人だが少し空回りすることが多く、よく生徒のからかいに遭っている。
就職一年目で特に教え方が上手いわけでもないため合宿中授業を持つことはないが、
生徒の誘導やテストの採点といった雑用の為に同行して来ていた。
更に重要なのは、彼女がれいな達の部屋があるフロアの見回り担当である点だ。
3人は彼女に例の怪談を教え、(彼女はまだ知らなかったらしい)更に「夜中に出歩くと殺される」と仄めかした。
生真面目な彼女は定時の見回りを放棄することはないだろうが、
これで少々の物音でわざわざ様子を見に出てくることはないだろう。聞こえなかったフリをすればいいのだ。
ついでに講師の間にも怪談を広めてくれるかもしれない。

深夜。
3人は音を潜めて部屋の外に出た。
二人部屋なのでさゆみは別のコと同室だったのだが、
3人で寝たいと言うとそのコは快く送り出してくれた。
殺人鬼よりさゆみと二人きりの方が不気味で嫌だったらしい。

フロアを眺め回し、れいなと絵里は顔を見合わせて笑った。
どの扉にも『13』と書かれた紙が貼られている。
さゆみは当然、といった顔でどこか満足げにそれを見回した。

そして3人は作業を開始する。
足音を発てないように廊下を駆け抜け、扉を叩いて回る。
中には意を決したような表情で外に出てくるコもいたが、
廊下の角に隠れてやり過ごすと怒りと不安を混ぜた表情で戻って行った。
自分達のフロアが終わると、見張りを立てながら他の階でも同じ事をする。
男女それぞれ3フロアずつ回り、この日は眠りにつくことにした。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:23
3日目。
食堂は叩かれた扉の話題でいっぱいだった。
初日に蛇口から赤い水が出た部屋の話もあった。(本当だとしても老朽化が原因の赤錆か何かだろうが)
チェーンソーの音を聞いたという者もいる。
「夢か幻聴だよ」とれいなは心中嘲笑っていた。
これではもう構造や老朽化が原因の物音さえ怪現象に早変わりするだろう。
れいな達の造った怪談について話すみんなの表情は怯えを含んではいたが、どこか楽しそうでもあった。

夜。
さゆみが今夜は昨夜の作業をする必要はないと言った。
理由はすぐに明らかになる。
3人の部屋の扉が叩かれたのだ。
誰かが3人の計画に便乗してきた。
受験と、現在の環境のストレス解消に、この悪戯はちょうど良い娯楽なのだろう。
あるいは恐怖心を紛らわす為に、自らが恐怖を与える側に回ろうという心理が原因かもしれない。
いずれにしろ"藤本美貴"の怪談は他人の行動に影響を与えるまでになった。
れいなは密かな達成感を感じていた。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:23
4日目。
一人の女子生徒が体調を崩して帰宅することになったと耳にした。
噂では例の呪い解消を達成できず、パニックを起こして過呼吸になったのだという。
奇しくも呪いの効果が実現してしまった。
れいなは少し罪悪感を感じていた。
けれどなぜ彼女は家族に電話で怪談を教える手段を取らなかったのだろう。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:24
5日目。
公衆電話の電話線が切られていると耳にした。
明らかに悪意ある誰かの仕業だった。
それも間違いなく怪談の呪いについて知っている誰か。
怪談は自分達の手を離れて大きな存在になっている。
食堂の空気が重い。
れいなは自らの生み出した存在に微かな脅威を覚えた。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:24
6日目。
絵里が死んだ。
階段で心臓の発作を起こし、悪い角度で頭を打って救急車で運ばれたが、そのまま。
視えない手。
廊下の角で、石川先生が普段以上に甲高い声で年配の講師に詰め寄っているのを見かけた。
「辞表」とか「もういや」だとか言っていた気がした。
食堂には怪談への恐怖とストレスが飽和している。
れいな達の部屋の扉だけ『13』が貼られていなかったと話している声を聞いた。
当然だ。
自分達が造った虚構の殺人鬼にどうして怯えなければならないのか。
夜。れいなは"藤本美貴"に喰い殺される夢を見た。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:24
7日目。
部屋の扉を叩く音で目が覚めた。
見回すと、隣に寝ていたさゆみがいない。
「れいなちゃん、開けて」
扉の外から声がする。
さゆみだ。鍵をどこかに落として来たのだろうか。
鍵をゆっくりと回す。
ドアノブを引く。
顔に霧状の液体がかかり声なき悲鳴を上げた。
息が止まる。
喉が痛い。
声が出ない。
チェーンソーの駆動音を聞いた。
かわしたというよりは足を滑らせただけだった。
回転する錆びた刃が頭の上を掠めて行った。

「よけちゃダメなの」

尻餅をつき顔を上げるとさゆみがいた。
足元で植物に水をあげる時に使うような霧吹きがころころと転がっている。
嗅ぎ覚えのない薬品の臭いがした。
さゆみが両手をぎこちなく振り上げる。
手の中で小型のチェーンソーが澱んだガスを吐き出している。
さゆみが両手を重力に任せ振り落とす。
咄嗟に扉をさゆみに向けて押し付けた。
ガリガリと音がして『13』と書かれた紙が千切れ飛ぶ。
汗が吹き出る。
視界が揺れる。
廊下から夏の濃い空気が入ってきて頭の辺りを包み込む。
溺れそうな頭を夢中で回転させた。考えろ。考えろ。考えろ。
「れいなちゃん」さゆみは扉を押してくる。
力では負けている。
フッと力を抜くとさゆみが部屋に斃れこんできた。
ブチブチブチ、と鈍い音がした。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:25
音の正体を確認する余裕はない。
れいなは廊下へつんのめるように躍り出た。
転び、一瞬を這い、立ち上がって駆け出す。
脚が熱かった。
さゆみが倒れて来た時に掠めたのか見たことも無い量の血がふくらはぎから溢れ出ている。
扉の開いた部屋を横目で確認しながら、れいなは他の部屋の扉を叩いた。
助けて。助けて。殺される。
声は出ない。吸い込んだ薬の効果で喉が焼けている。
扉を叩く。誰も出てこない。
れいな達の部屋の扉が動いた。
次の部屋の扉を叩く。
貼られていた紙を引き千切る。
誰も出てこない。
ゆらりと、人影がれいな達の部屋から姿を現した。
黒衣には赤い斑。
斃れた時に回転する刃に押し付けられたのだろう、
さゆみの前頭部の髪は剃り上げられ、赤い肉が剥き出しになっている。
脚を引き摺って逃げる。惑う。
扉を叩く。誰も出てこない。
当然だ。みな怪談に怯えている。
心臓が耳に在る。
神経が断線する。時間の感覚を見失う。
血管に冷水が紛れ込んでいる。
お腹が痛い。頭が割れる。気持ち悪い。
脚元から判断力が零れ落ちていく。
さゆみが、さゆみの形をした赤色の殺人鬼がゆっくりと近づいてくる。
黒色の魔女。赤色の殺人鬼。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:25

「最初からこうすればよかったの」

フロアの一番端に追い詰められた。
こちら側には階段がない。
石川先生の部屋の前だった。

「絵里は無駄死にさせてしまったの。せっかく薬をすり替えたり手の込んだことしたのに」

扉を叩く。ヒステリックな金切り声が返って来ただけだった。
殺人鬼が近づいてくる。
ふらふらゆらゆら、殺人鬼が近づいてくる。
爛々とした赤い瞳の死刑囚。
脱獄しようと近づいてくる。
"藤本美貴"が目の前に立つ。
『魔女』の中身は"藤本美貴"だ。

「けどこれで」

造った怪談が赤いものを振り上げた。

「中止になるの」

廊下に倒れ血だまりを作る自身の胴体を見つめながら、
人間は首を斬り落とされても数秒間意識は残ったままだというのは本当なんだとれいなは想った。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:26
从VvV)
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:26
从VvV)
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/18(金) 20:26
从+VvV)< 長 い 。

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