12 かいだんを恐れないで
- 1 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:34
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12 かいだんを恐れないで
- 2 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:35
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地方でのコンサートを終えたその夜、ホテルの部屋が同じになった亀井絵里と新垣里沙は他愛のない話をして過ごしていた。
「…それでね、男の子が振り向いたら、さっきまでは何もなかった壁に人の顔みたいな染みができてたんだって!ね、がきさん怖いでしょ!」
「…いやあ、同じ話でも亀が話すと怖さが半減するんだよね。」
亀井が新垣に怖い話をしているようだが、新垣はまるで怖がっていなかった。
自身の表情や話し方に相手を怖がらせる要素がこれっぽっちもないことに、唇をツンと尖らせている亀井は気付いていない。
- 3 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:35
- 「じゃあ、今度はがきさんが絵里に何か聞かせてよ。」
唇を尖らせたまま、亀井が反撃する。そんなこと言うなら、がきさんはもっと怖い話ができるんだよね、とでも言いたそうな様子だ。
予想外の反撃に一瞬戸惑った新垣だが、しばし腕組みをして考え込んだ後、静かに話し始めた。
- 4 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:36
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――――――
あるところに、1つの長い長い階段がありました。
その階段を最初、5人の女の子が上っていました。全員が足並みを揃えて上ります。
やがて、3人の女の子が加わりました。やっぱり全員が足並みを揃えて、階段を上っていきます。
ところがしばらくすると、今度は1人の女の子が突然いなくなってしまったのです。全員で辺りを探しても見つかりません。訳のわからない恐怖と悲しみに包まれながらも、残った女の子たちは再び階段を上り始めました。
- 5 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:37
- 「ねえ、がきさん。」
一息ついたところで亀井が割り込んできた。
「どしたの、亀」
「…ごめん、つまんない。」
亀井には聞こえるはずもないが、新垣には確かにグサッという音が聞こえた。
中に人間が入ったお化けでさえもあれほど怖がる亀に、普段はつまらない寒いとバカにしている亀に、「つまんない」なんて言われた。この世の終わりではないか。
「ま、まだ続きがあるんだから聞いてよね!」
とてつもないショックを胸の中に無理矢理押し込んで、新垣は再び話し始めた。
亀井は爪をいじったりしていたが。
- 6 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:37
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――――――
ある時は新しい女の子が加わり、またある時は突然女の子がいなくなってしまいました。新しい女の子が加わったときは笑顔で迎え入れ、みんなで一緒に階段を上りました。誰かがいなくなってしまったときは涙を流して悲しみ、それでも階段を上り続けなければいけませんでした。
どうして突然人が消えてしまうのか、どんな順番で消えてしまうのか、消えてしまった子はどうなるのか。女の子たちは全くわかりません。次はいったい誰が消えてしまうのかと、みんなビクビクしていました。
- 7 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:38
- ここまで話して、新垣は亀井のほうをちらりと見た。
怖がっているわけでもなく、つまらなそうにしているわけでもなく……寝息を立てていた。
妙に可愛らしい寝顔が逆に憎たらしい、と新垣は思った。
ぺちっ
小気味いい音が響き、亀井が目を開ける。
一瞬目を見合わせて、状況を理解した亀井は彼女独特の笑い声をあげた。
- 8 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:38
- 「亀、アンタどこまで聞いてた?」
「だいじょぶだいじょぶ、ちゃんと聞いてたから」
「だいじょぶだいじょぶ、じゃないでしょもー……」
屈託のない笑顔の亀井に、新垣は大きなため息をつく。
- 9 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:39
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――――――
さて、女の子は増えたり減ったりを繰り返し、ついには最初に階段を上り始めた5人の女の子が全員いなくなるまでになりました。それでも、すでに5人を大幅に越えている大勢の女の子たちは、みんなで階段を上り続けます。
その時、どこからか人の泣き叫ぶ声が聞こえてきました。女の子たちは驚いて身を寄せ合います。
- 10 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:39
- ようやく、亀井が身を乗り出して新垣の話を聞き始めた。優越感に似たものを味
わいながら、新垣は続ける。
- 11 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:39
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――――――
泣き叫ぶ声は、女の人のものでした。それも1人ではなく、大勢いそうです。
言いしれぬ恐怖に女の子たちは震えました。
- 12 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:40
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ごくり、と亀井が唾を飲み込む音が新垣にも聞こえた。
- 13 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:40
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――――――
耳を澄ましてみると、泣き叫ぶ声に混じって何か言う声が聞こえてきます。
『モドリタイ』『クルシイ』
そう、それは階段を上る途中で消えていってしまった女の子たちの声でした。
階段にいる側の女の子たちは、泣き叫ぶ声に向かって話しかけました。しかし返事はなく、『モドリタイ』『クルシイ』と独り言のように繰り返したり泣き叫んだりするだけでした。
その時、女の子の1人がアッと叫びました。
なんと、2人の女の子が消えてしまっていたのです。
残った女の子たちはいよいよパニックになりました。
- 14 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:41
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もう一度、新垣が亀井をちらりと見る。2人の目が合った。普段は笑ってばかりいる亀井の真剣な眼差しに、新垣は少しだけドキドキする。
- 15 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:41
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――――――
しかしその時、泣き叫ぶ声とは別の声が聞こえてきました。『みんな!』と。
たった今いなくなってしまった、2人の女の子の声です。
不思議なことに、泣き叫ぶ声が聞こえなくなりました。
2人の声は言いました。
自分たちは階段から消えてしまったけれど、死んだのではない、一生懸命に生きているのだと。
階段から消えてしまうことは、決して恐ろしい、悲しいことではないんだと。
そして、階段から消えても、階段を上り続けるみんなのことをずっと見守っているよ、と。
- 16 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:42
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女の子たちは今も階段を上り続けています。苦しいこと、辛いこともあるけれど、女の子たちは負けません。
だって……見守ってくれる仲間、支え合う仲間がたくさんいるのだから。
- 17 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:42
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- 18 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:43
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「……というお話でしたっ。」
一仕事終えて満足げな新垣とは対照的に、亀井は頭上にハテナマークが飛び交っている。
「女の子が増えたり減ったりしたのはどうして?消えた女の子は結局どこにいたの?そもそもこれって怖い話なの?いい話なの?」
「かーめぇ……アンタってやつは…」
ガックリとうなだれながら、新垣は密かに安心もしていた。理解されなかったのは残念だが、もし理解されたら冷やかされていたかもしれない。
- 19 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:43
- 「さっ、亀もう寝よっか!」
卒業した同期の顔が浮かんで、寂しさが押し寄せる。それを振り払うように明るい声で新垣が言った。
「…がきさん、一緒のベッドで寝ない?」
「うええええええええええ!?」
新垣が絶叫し、亀井は耳をふさぐ。
「あ、がきさんもしかして絵里に襲われると思った?」
「ばっ…そそそそそんなわけないでしょーが!」
顔がほんのり赤い新垣を見て、亀井がニヤニヤ笑う。
「襲わないから、一緒のベッドで寝ちゃだめ?」
「ど、どうしてもって言うんなら…しょうがないなあー」
- 20 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:44
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怖さ半減とは言え、怖い話を聞いた後。ちょっと寂しい気持ちになった後。
そんな時は、人肌が恋しくなるのだ。
- 21 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:44
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- 22 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:44
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- 23 名前:12 かいだんを恐れないで 投稿日:2006/08/17(木) 22:44
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おわり
- 24 名前:名無読者さん 投稿日:2006/08/22(火) 17:05
- スレ乱立やめれ!
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