05 姉妹祭り
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 07:23
- 05 姉妹祭り
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 07:26
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夏といえば祭りだ、一歩そこに踏み入れると日常からまるっきり切り出されたような風景が広がる。イカ焼きに匂いが辺りを包んだと思えば、遠くから聞こえる盆踊りの音色、すれ違う人たちは色とりどりの浴衣に身を包み、その手にはりんご飴や小さな金魚が入った袋など、バラエティにとんでいる。
誰もが友人や恋人、家族といった大切な人と祭りに訪れている。
けれど私には…
隣には誰もいないし、何を買おうにもお金がなかった。ただ祭りを見てみたかった私は浴衣すら身に着けないまま、夜の祭りに繰り出していた。隣に誰もいないのは仕方がない、引っ込み思案の私には友達なんていないし、両親は数年前に離婚し今、祭りに繰り出せているのも仕事で母が家にいなかったからなのである。
しかしそんなことは関係ない、なぜなら私はおおいに祭りを楽しんでいるから、今だってお面屋の前を陣取り色とりどりのお面とにらめっこ、屋台のおじさんだって嫌な顔一つしていない。
隣に誰かいて欲しいなんて…
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 07:27
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「ねぇ」
よし、今度はひょっとこと睨めっこだ。
「ねぇってば!」
二度呼ばれて私は初めて振り返った、まさか自分がとは考えていなかったが振り返った先にいる人物は明らかに私を見ていた。その人物は真っ赤な生地に大きな朝顔を咲かせた浴衣を着た私よりいくつか年下くらいに見える少女だった。
「私?」
自らを指す。それに対し少女はコクンと頷くとニッコリと笑い口を開いた。
「一人なの?」
「…そうだけど」
「私も一人なんだぁ、梨華姉ちゃんとはぐれちったの」
だから何だというのだ、私は姉とはぐれたという少女を怪訝そうな目つきで見つめ追っ払おうとする、しかし少女はよっぽど鈍感なのか、そんな私に向かって気にせず笑顔を向け続ける。
「一緒に回ろうよ!」
「はぁ!?」
一体なんだというのだ、どうして私があんたなんかと回らなければいけない、気楽な独りがいいんだ、と言おうとしたが…。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 07:28
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「いいわよ」
相手は子供だ、少しだけ面倒を見てやることにした。それから少女と私は色んな屋台を見て回った。ぐるぐるかき回される割り箸にくっつく綿菓子、真っ赤な中に時たま黒い色が見える金魚すくい、でもお金を持っていない私たちは見るだけですませた、それでも少女はキャッキャッとはしゃいでいたし、私も満更じゃなかった。
ドォオオオオオオオン
そんな中、近くの河原で大きな花火があがった、それを見た少女が笑顔で駆けていく。
「ちょっと待ってよ、走るとあぶない…」
そう言って少女を掴もうとした私の手がスウと空をきった。あれ?間違いなく掴んだつもりだったんだけど…気のせいだよね、そんなささいなことはすぐ忘れ私は少女を追った。
花火が一望できるいいポイントを見つけ少女と一緒にこしかける、目の前では何百発もの花火が夜空をきれいに輝かせていた。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 07:29
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「お姉さん名前なんていうの?」
花火から目を逸らさないまま少女が唐突に質問をしてきた。
「美貴よ、あんたは?」
「辻希美です、ののと呼んで下さい」
少女がニッコリと笑った、私もニッコリと笑った、そんな話しをしながらしばらく花火を見続けた、ふと隣を見ると少女の姿が消えていた。私は急いで少女を探そうと立ち上がるが、その時、前にいた数人の女の子グループの会話が耳に入ってきた。
「ねぇ知ってる?ここら辺って出るんだって」
「ええ!出るってなにが?」
「少女の霊だよ、昔ね今日みたいな祭りの日に二人だけで来てた姉妹がいたらしいの、その時、妹が姉とはぐれて探してる途中にこの川に落ちて死んだんだって、その子は幽霊になった今でもお姉さんを探しているらしいよ」
「ちょっと止めてよ怖いじゃん、そんな怪談話よそうよ」
「でも悲しい話でね、そのお姉さんも次の年にすぐ少女を追うように交通事故で死んだんだって」
「もう!やめようってばあ」
話しを聞き終えた私はすぐに走り出していた、心の中で感じた疑念をどうしても拭うことができないでいた、私の考えが正しければ、あの時、少女を掴もうとした時に感じた違和感は…。
ドォオオオオオオオン
夜空には最後の花火が盛大な音と共に闇の中へと消えていった。
「…美貴ちゃん」
少女の声に私は足を止め声の方向に振り返った。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 07:31
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そこには少し色黒だが優しそうな女の人と手をつないだ少女が手を振っている姿があった。
なんだ勘違いか、あの子が幽霊な訳ないよね…
どうやら花火観戦の途中に姉を見つけ、そのまま追っていったらしい。私は自分の勘違いに恥ずかしくなりながらも少女につられこっちを見ているお姉さんに頭を下げた…しかしお姉さんは怪訝な表情をするだけで私と目を合わせず少女と一緒に歩いていく。
なんだよあれ、感じわる…
ふと視界が揺らいだ…すでに手のひらほどになった笑顔の姉妹を見て頭に何かが響いた。
(美貴、はやくいくべさ…)
私の脳に急激な勢いで記憶の波が押し寄せた。
そうだあの日、私は帰りの遅い母を待てず姉に頼んで祭りに出かけたんだ、お姉ちゃんっ子だった私には友達なんていなかった、私の無理な頼みにいつも天使のような笑顔で聞いてくれたなち姉。そして祭り場所であまりの人の多さに私たちははぐれた、迷った私は川縁を歩いてきれいなお花を見つけた、その花をプレゼントしたらなち姉が喜ぶと思って取りにいった私は足を滑らし、前の日雨で水かさの増した川に落ちた…。
そうだったんだ、幽霊はあの子じゃなくて…
…美貴…
すべてを理解した時、突然に私の頭上からやさしいなち姉の声が響いた。私がそこに視線を向けると、なち姉がまるで太陽のような笑顔で私に手を差し伸べていた。
私はなち姉の手に自らの手を重た。
温かい光が私たちを包んだ…。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 07:32
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「ねぇ、その美貴さんってどんな人だったの」
「うーんとね、とっても優しくて太陽みたいな…ああ!そういえば梨華姉ちゃんとはぐれてたからお腹ペッタンコなのです」
「もう、のんは本当に食いしん坊だなあ、じゃあ屋台二種類だけね」
梨華の言葉に希美が遠慮がちに指を三本立てる。
「もう今回だけだからね!」
「梨華姉ちゃん大好き!」
じゃれあう二人のそばにはきれいな花が二輪、寄り添うように咲いていた。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 07:33
- 了
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